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第百四十五話 天城蓮の実力

「ならば、死を覚悟してでもあの胃壁をぶち破るしかないだろう」


大刀がその言葉に力強く頷き、手の中の大剣を一層きつく握った。


胃壁も溶解液も、正面突破以外に道はない――そんな諦めにも似た決断が、三人の間に重たい空気を生んでいる。


しかし、瞳にはまだ闘志の炎が消えていない。


「やるか……あと1分。ギリギリで勝負を賭ける」


藤堂が盾をぎりりと押し返すように構え直し、仲間たちと視線を交わした。


「せめて一矢報いて、死のうぜ」


大刀が無理に笑いながら言うと、霧島も藤堂も頷く。


胃の中を充満する酸のような液体、絶望的な状況……それでも、ほんのわずかな打開策を信じたい。


その一方で、外には仲間――俺(天城)や白石、イザナが必死でこのシャチをどうにかしようとしているはずだ。


「……行くぞ!」


三人は同時に武器を構え、まばゆい光が盾の奥からこぼれた。


溶解液がじわじわと迫り、最後の猶予を削り取っていく。


死を悟りながらも、彼らの目はまだ闘いを捨ててはいなかった。


※ ※ ※


(絶対に助け出す……!)


外の世界では、俺が断罪剣を握りしめ、決意を固めていた。


冷たい空気、シャチの不気味な動き、白石の震える声、イザナの張り詰めた横顔……すべてが俺の背を押してくれる。


(時間がない――覚悟を決めるぞ!)


剣先に力を込め、いつでも放てるように魔力を高める。


イザナと白石のサポートがあれば、あのシャチの防御をこじ開ける隙がきっと作れるはずだ。


時間は残りわずかだ。


シャチが空中を高速で舞い、分厚い氷の鎧を軋ませながら突進を繰り返すたび、ゴウン、ゴウンという衝撃が俺の鼓膜を叩く。


その巨体が壁や床をかすめるだけで、つららがガラガラと音を立てて崩れ落ち、部屋のあちこちに鋭い破片をばら撒いていた。


「これ、どうやって止めるのよ!」


白石が悲鳴混じりの声を上げる。震える彼女の瞳には恐怖と焦りがありありと見える。


その横でイザナは必死に周囲を見回しながら、次の一手を考えている様子だった。


「こんなの、倒せない……それに、大刀くんたちがもう……」


白石が消え入りそうな声で呟く。


視線はシャチに吸い込まれた三人を思い浮かべているのだろう。


「あの化け物に吸い込まれたら私たちだって……!」


白石が唇を噛む。


俺は思わず拳を握りしめた。

怖いのは同じだし、何より大切な仲間が目の前で消えていった光景は心に重くのしかかる。


けれど、諦めるわけにはいかない。


そう自分に言い聞かせるように言葉を放ってから、シャチのほうへ足を向ける。


絶望的な状況だけれど、仲間がいるからこそ踏み出せる――俺はそんな気がしていた。


「ここで諦めたら、終わりだ!」


自分を鼓舞するように声を張り上げ、シャチめがけて走り出す。


あちこちに突き立ったつららを避けつつ、足を滑らせないよう慎重に踏み込みながら、跳躍のタイミングを図る。


そして、シャチが俺の突進に呼応するように、空間歪曲スキルを発動しようとしてーー


今だ!!


「イザナさん、お願いします!」


「心得た」


イザナが両手を高く掲げ、重力魔法を発動する。


【グラビティフィールド】

効果:重力を自在に操り、対象の動きをサポートする。


みしり、と空気が軋むような感触とともに、俺の体が上へ押し上げられる。


急に視界が広がり、シャチの巨大な体がくっきりと目に飛び込んできた。


氷の鎧がきらきらと冷たく輝き、その眼光はまるで、すべてを嘲笑うかのような冷酷さを帯びている。


(なんて威圧感だ……)


一瞬、息が詰まりそうになるが、ここで怯んでは三人を救えない。


俺は思い切り剣を握り直した。


その瞬間、シャチが口を大きく開き、空間操作スキルを発動しようとしているのが見えた。


ぐにゃりと視界が歪み、嫌なめまいが襲う。


(ここだ……!)


俺は胸の奥から湧き上がる魔力に意識を集中させ、新たなスキルを呼び起こす。


最近、イワンに教わったばかりの特殊スキル――それが今なら使える気がした。


【スキル:物質固定】

種別:特殊スキル

ランク:S

効果:特定の対象を一時的にその場に固定する。


「……!!」


シャチが驚いたように身をよじるが、もう遅い。


その巨体が一瞬でピタリと空中に縫い付けられ、歪んでいた空間が元に戻る。


表面に走る氷の鎧がキシキシと嫌な音を立てているのが見える。


「はあああああああっ!」


俺は呼吸を荒らしながら、もうひとつの切り札――スキルを解放する。


【スキル:光刃剥奪ラディアントライト

効果:対象のランクを強制的に下げる特殊攻撃。


断罪剣がぎらりと白い光を帯び、その光が一瞬にしてシャチの氷鎧を貫いた。


グググ……と嫌な音とともに、S+級のオーラが一気に薄れ、奴の力が確実に衰えていくのがわかる。


対象:氷獄のシャチ

ランクダウン:S+ → S


「くっ……! たったこれだけしかランクダウンしないか!!」


これだけでは、まだ油断できない。


気を抜けばあの化け物は再び息を吹き返すかもしれないし、三人を飲み込んでいる現状も変わらない。


次だ!!


俺はドラゴンスレイヤー:エクレール・アルファを引き抜いた。


その刃は今まで多くの強敵を斬り倒してきたし、俺自身も様々な戦闘で鍛えられてきた。


息を大きく吸って、剣に全神経を注ぎ込む。


【スキル:16連撃】

効果:超高速の連撃で敵を圧倒する。


ズババババッ――!


という猛烈な斬撃音とともに、俺の剣は何度もシャチの身体を叩き斬る。


「うおおおおおおおおお!!」


16回の連撃すべてが氷鎧を砕き、肉体へ深く食い込むのを感じた。


光が弾けるように乱舞し、シャチの苦痛の咆哮が広間に木霊する。


「ガァァァ!!」


荒れ狂う冷気が一気に吹き抜けるように散り、シャチの巨体が崩壊していく。


氷のかけらがキラキラと宙を舞い……


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