第百三十九話 イワンからの特殊スキル付与
ロシア大統領、アレクセイ・ペトロフから日本団への感謝の言葉が伝えられる。
会場はホテルの会議室。
壁には厳格な装飾が施され、大きなスクリーンに大統領の姿が映し出されている。
通信の向こう側、大統領の顔には安堵の色が浮かんでおり、画面越しに深々と頭を下げた。
「日本団の皆様……本当に感謝します。これでロシア国内の混乱は収まり、古代ダンジョンに挑むための道が開かれました」
「我々の目的は、あくまでダンジョン攻略です。これ以上の無駄な争いが起きないことを願っています」
イザナが冷静に答えると、大統領は深く頷いた。
「もちろんです。我々も全力で協力いたします。どうか、無事でいてください」
通信が切れると、全員が少し肩の力を抜いた。
「これでようやく、ダンジョンに集中できるな」
霧島が静かに言う。
全員が同意するように頷き、荷物の確認を始めた。
白石は回復ポーションを数える手を止め、ふと笑みを浮かべた。
「でも、ここまで来るの、結構大変だったよね」
「確かにな」
大刀が剣を肩に担ぎながら笑った。「それでも、ここまで来たんだから、絶対にやり遂げようぜ!」
「その意気だな」
藤堂が盾を磨きながら、静かに頷いた。
※ ※ ※
ロシアの広大な大地を越え、日本団は古代ダンジョンの所在地であるカムチャツカ半島へと向かっていた。
雪と氷に覆われたその土地は、人跡未踏のエリアも多く、荒々しい自然がそのまま残されている。
「この先にダンジョンの入口がある」
案内役となったイワンが、地図を確認しながら静かに言った。
その表情には真剣さが宿り、背筋を伸ばして歩く姿は威厳すら感じられた。
「ロシアの古代ダンジョン……どんな場所なんだろう」
俺が呟くと、イワンが歩きながら小さく笑った。
「このダンジョンの正式名称は氷の虚無(Frozen Void)だ。永久凍土の地下深くに広がる冷気のダンジョンだよ。極寒の環境で、凍てつく氷の壁が行く手を阻むんだ」
イワンが足を止め、雪に覆われた遠くの山を見つめながら続けた。
「そして、このダンジョンのボスは氷獄の白狼だ。純白の巨大な狼で、冷気を操り、周囲を凍らせながら獲物を仕留める力を持っている」
その言葉に全員が表情を引き締めた。
「アメリカやドイツのダンジョンを攻略してきたお前らなら、ある程度想像はつくだろうが、ここはそれらとはまた違う。アメリカの『死の大峡谷』が過酷な環境と強大なモンスターで試したのに対し、ドイツの『無限迷宮』は空間そのものが挑戦者を惑わせる構造だった。そして、ロシアのこのダンジョン……」
イワンが足を止め、雪に覆われた遠くの山を見つめた。
「この場所は、覚悟を試す。過酷さは桁違いだ」
「覚悟を……?」
主人公が驚いた表情で聞き返すと、イワンは深い息を吐き出した。
「ここではただの力だけじゃ生き残れない。お前らの精神力、その全てが試されると思え」
道中、周囲の風景は次第に険しくなり、足元の雪も深くなっていく。
吹き付ける風が鋭く顔を刺し、全員が防寒装備をしっかりと身につけながら進む。
「ここ、本当に人が入れる場所なのかよ」
大刀がぼやきながら足元を見つめる。
その隣で霧島が小さく笑った。
「文句言うな。こういう場所こそ、冒険って感じがするだろ?」
「冒険……ねえ」
白石が息を吐きながら呟いた。「でも、ここまで寒いと、そんな気持ちも薄れるわ」
イザナが全員に目を向けた。「さあ、もう少しだ。しっかりついてこい」
※ ※ ※
「ここだ。日本のストレンジャーたち」
イワンの先導で、日本団がダンジョンの入口に到着する。
周囲には重々しい空気が漂っていた。
岩で囲まれた巨大な門は、まるでこの世界に存在しないもののように見えた。
その周囲には、古代文字が刻まれた石柱がいくつも立ち並び、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「イワンさん。ここまでありがとうございました」
俺が案内役のイワンに感謝を述べる。
すると、イワンはふと足を止め、主人公に向き直った。
「アマギ、ちょっと時間をくれ」
「え?」
突然の言葉に驚く俺。
「俺のスキル『物質固定』……お前に授ける」
「!!」
周囲が驚きの表情を浮かべる中、俺は声を上げた。
「いいんですか? そんな大事なスキルを……」
「ああ、お前なら、ストレンジャーの次の存在になれるかもしれない。『覚醒者』にな」




