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第百三十七話 剣と剣の勝負


目の前のイワンは、物質固定の能力を封じられた状態でも一切の焦りを見せず、剣を構え直していた。


その瞳には、静かだが確固たる闘志が宿っている。


「俺の能力を封じるとは、やるじゃないか……ここからは俺の鍛え上げた剣技で勝負させてもらう」


低く響く声とともに、イワンが一歩前に踏み込む。


その動きは重厚でありながら鋭く、まるで剣そのものが生き物のように見えるほどだった。


俺は剣を構え直し、緊張で手に汗が滲むのを感じながらも構えを崩さない。


「来い、イワン!」


その言葉に応えるように、イワンが剣を振り下ろした。


金属がぶつかり合う音が廊下に響き渡る。


イワンの一撃は重く、手首に衝撃が伝わる。その力強さに、剣を受け止めた俺の足元がわずかに滑った。


「くっ……!」


連続して繰り出される斬撃に、俺は防戦一方になる。


イワンの剣技は洗練されており、一つ一つの動きに無駄がない。


その中で、俺はふと気づいた。


(魔法も、スキルも使ってない……B級にランクダウンしたからじゃない。この人は、ただ純粋な剣の技だけで挑んでいるんだ)


そのことに気づいた瞬間、俺の胸に何かが込み上げてきた。


相手が全力で剣技だけで戦いを挑んでいるのなら、俺もそれに応えるべきではないか。


(俺も……正々堂々と戦う!)


「魔法やスキルは使わない。俺も剣一本で挑む!」


その宣言に、イワンが一瞬驚きの表情を浮かべた後、静かに笑みを浮かべた。


「ほう……面白い。日本のストレンジャーにも、そんな心意気を持つ奴がいるとはな」


俺たちの剣が再びぶつかり合う。


今度は、俺も全力で剣技だけに集中する。


剣筋を見極め、足の動きを調整し、一撃一撃を的確に受け流していく。


「やるじゃないか!」


イワンが剣を振り上げ、斜めに振り下ろしてくる。


その一撃をかわしながら、俺はカウンターを繰り出す。


しかし、それもイワンの剣によって防がれる。


「うおおおおおおお!」


剣の軌跡が交差し、火花が散る。


俺たちの動きはどんどん速くなり、周囲の空気が熱を帯びていくのを感じた。


イワンの剣は力強さだけでなく、細かい技術が込められている。


その動きからは経験の積み重ねが伝わってきた。


「これが全力か、日本のストレンジャーよ!」


「まだ終わらない!」


その言葉に応えるように、俺たちの剣撃はさらに激しさを増した。


周囲では、ザハロフ将軍と側近たちが茫然とその戦いを見つめていた。


「なんという剣技だ……これが本当に人間同士の戦いなのか……」


側近の一人が呟いた。


その目には、現代兵器や戦術では到底太刀打ちできない、異次元の戦闘に対する畏怖が浮かんでいた。


ザハロフ将軍も、額に汗を滲ませながら戦いを見守っている。


「馬鹿な……我々の近代兵器でも止められないストレンジャーが、スキルも魔法も使わずにここまでの戦いを繰り広げるとは……」


将軍の声は震え、彼の自信に満ちていた表情が次第に崩れていった。


だが、白熱する戦いの中で、俺は一瞬の隙を見せてしまった。


イワンの剣が、俺の間合いに入り込んでくる。


「しまった!」


切っ先が俺の胸元を狙う。


絶体絶命の瞬間――


「うおおおおおおお!!!」


俺の中から込み上げる気合いが全身を駆け巡った。


その瞬間、俺の体は圧倒的な速度で動き出し、イワンの剣をわずかにかわした。


(えっ……!)


俺自身も驚くほどの速度で、イワンの背後に回り込むことができた。


「なに!?」


イワンが驚きの声を上げる。その隙を見逃さず、俺は剣を振り下ろした。


「はああああああっ!!」


刃がイワンの肩に直撃し、彼の体勢が崩れる。


「ぐああっ……!」


イワンが大きく後退し、片膝をついた。


その顔には明らかな苦痛が浮かんでいる。


「お前……見事だ……」


かすれた声でそう言いながら、イワンは剣を地面に突き立てて立ち上がろうとしたが、その力は残されていなかった。


「認める……日本のストレンジャーも……捨てたもんじゃねえ……」


その言葉に、俺は胸の中に小さな誇りを感じながら、剣を静かに下ろした。


「はぁはぁはぁ……」


俺のいきづかいがあたりに響く。


剣技だけで繰り広げられたこの戦いの余韻が、静かに広がっていく。


周囲で呆然と見つめていた将軍たちは、いつしか言葉を失っていた。


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