第百三十六話 S級ストレンジャー、イワンの特殊スキル
目の前に立つロシアS級ストレンジャーが、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと剣を構えた。
「俺の名は、イワン・カラマーゾフ。ロシアで唯一、S級に到達したストレンジャーだ」
低く響く声に、空気が一瞬で張り詰める。その威圧感に飲み込まれそうになりながら、俺は剣を握り直した。
「俺は天城蓮。日本のA級ストレンジャーだ」
そう名乗ると、イワンは興味深げに目を細めた。
「A級か……だが、日本団のエースなら、もう少し強いかと思ってたがな」
俺は無言で相手をにらみつける。「試してみるか?」そう言いたかったが、相手の威圧に言葉が出なかった。
「さて、やるか」
イワンがゆらりと動き出す。
その動きはどこか異様で、まるで影が揺れるようだった。突然、足元の空気が重くなったように感じる。
「!!」
その瞬間、俺の体が動かなくなった。
(動けない!?)
「驚いたか? これは俺の特殊スキルだ」
「な……!?」
「物質固定。この場にある対象物を、固定する」
【スキル:物質固定】
種別:特殊スキル
ランク:S
説明:特定の範囲内に存在する全ての物体をその場に固定する能力。対象は物理的に拘束され、一定時間動けなくなる。
【効果範囲】半径10メートル
【持続時間】10秒
イワンが静かに言葉を紡ぐ。
その間にも、俺の体はまるで見えない鎖で縛られているようにピクリとも動けない。
「くそっ……!」
焦りが胸を支配する。その時、視界の端でザハロフ将軍が、にやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、前に出てくる。
「でかしたぞ、ストレンジャー!!」
嬉々とした顔でマシンガンを構えた。
「勝利は我々のものだ! 貴様はここで終わりだ!」
将軍は声高に宣言し、まるで劇場の俳優のように大げさな動きで銃口をこちらに向けた。その指がトリガーにかかり、銃身がわずかに揺れる。
(まずい……このままじゃ!)
銃声が響く直前、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
ドゴォ!!
イワンがザハロフ将軍の顔を拳で殴り飛ばしたのだ。
「はぁ!? な、何をしている!」
驚きの声を上げる将軍。
鼻血を出しながらイワンを睨む。
「手を出すな」
イワンは冷たく言い放つ。
「これはストレンジャー同士の戦いだ。お前ら非異能の軍人が口を挟む余地はない」
「し、しかし……!」
「安心しろよ、将軍。俺が負けるわけがないだろう」
イワンが自信満々に言い放つ。その言葉に俺は驚きつつも、心の奥で悔しさが芽生えた。
(負けるわけにはいかない……! 俺だって、仲間のためにここまで来たんだ!)
俺は強く思いながら、固定された体から抜け出す方法を模索する。
(まずはこの固定能力をなんとかしなければ……!)
必死に抗おうと力を込めると、わずかに手や腕が動き始めた。
(手がすこし動いた……! でも、これじゃ戦えない!)
焦りと希望が交錯する中、体の一部が少しずつ自由を取り戻しつつあるのを感じた。
(この状況でも、何かできるはずだ……!)
その時、俺の目にマジックバッグが映った。
(そうだ、あれなら……!)
俺はバッグから新たなアイテムを取り出した。
【アイテム:雷霆の破魔石】
種別:特殊アイテム ランク:S
説明:あらゆる魔法とスキル効果を無効化する一度きりの消耗品。
ギリギリどうにか動く腕で、マジックバッグからアイテムを取り出し、コロっと地面に落とす。
すると、雷霆の破魔石が青白く光り、体を縛っていた固定能力が霧散する。
「なに!?」
イワンが驚きの声を上げた。
その隙をついて、俺は剣を構え直す。
「次は俺の番だ!」
俺の剣が、イワンの武器に直撃する。
刃同士が激しくぶつかり合い、火花が散った。
だが、イワンはその衝撃にも動じることなく、一歩前に踏み込んで剣を振り下ろしてきた。
「くっ!」
俺は咄嗟に剣を盾のように構えてその攻撃を受け止めた。
重い一撃が体全体に響き、足元が軋む音が聞こえる。
「A級のくせに……なかなかやるじゃないか!」
「そっちこそ!!」
「負けん気はなかなかだな!」
イワンが剣を振り回し、再び物質固定の力を発動させようとする。
「もう一度身動きを取れなくしてやる!」
その瞬間、空気が重くなり、俺の足元が再び固定されるような感覚が襲う。
(まずい……また固定される!)
イワンが得意げに笑みを浮かべながら、じわじわと近づいてくる。
その威圧感に飲まれそうになる中、俺は剣を強く握り締めた。
「これ以上は……させない!」
剣が再び光を纏い、力強いオーラが広がる。
イワンがスキルを完全に発動させる前に、俺は渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
【スキル情報】
名称:光刃剥奪
効果:光の波動で敵を切り付けることで、敵の装備や能力をレベルダウンさせる。
「ぐっ……!」
イワンの動きが止まり、その力が弱まるのを感じた。
「なんだこれは……!?」
驚くイワン。彼の剣を握る手がわずかに震えているのが見て取れる。
「ランク……ダウンだと!? 俺の力が……S級だったはずの俺が、B級まで……!」
イワンの目に焦りと戸惑いが浮かび上がった。
「俺の……俺の力が、急激に削がれていく……!!」
おそらく、もう『物質固定』の特殊スキルは使えないだろう。
「まさか……こんなことが起きるとは……!」
イワンは声を荒げながら、自分の体を確認するように視線を走らせた。
その顔には、これまでの自信が影を潜め、明らかな動揺が浮かんでいた。
「なかなかやるじゃないか、日本のA級ストレンジャー……だが……!」
イワンの体から放たれる威圧感は依然として強烈だった。
「俺の真の力はまだ見せていない」
イワンが静かに呟くと、彼の周囲に赤いオーラが漂い始めた。
「いくぞ!! アマギ!!」




