第百三十三話 ロシア軍ザハロフ将軍の企み
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ロシアの雪深い山奥。
その地下に、広大な軍の秘匿基地が隠されている。
氷と鉄で覆われたその施設は、外部からの侵入を防ぐために最新の警備システムが張り巡らされていた。
冷たい空気が滲み込むような地下通路では、警備兵たちが足音だけを響かせて巡回している。
基地の中心部にある作戦室では、軍のトップであるアンドレイ・ザハロフ将軍が、数名の幹部や側近たちを従えていた。
彼は立派な髭を撫でながら、大きなスクリーンに映し出されたデータを見つめていた。
「見たまえ、これが近代兵器の力だ」
ザハロフ将軍がそう言いながらスクリーンを指差す。
そこには、最新型の戦車やミサイルランチャーの映像が映し出されていた。
T-14アルマータ戦車が雪原を力強く進む姿、イスカンデルM弾道ミサイルの発射映像、さらに最新型のSu-57戦闘機が空を切るように飛行する映像が次々と流れる。
幹部たちはその圧倒的な破壊力に息を呑んでいた。
「将軍、これが次の作戦に使われるものですね?」
「その通りだ。これらの近代兵器を使って、ロシアにあるダンジョンゲートとやらを片っ端から破壊するのだ!」
その発言に一瞬沈黙が生じる。
やがて、慎重な表情を浮かべた側近の一人が口を開いた。
「しかし、将軍。それでは、中のモンスターが外に這い出てきてスタンピードの可能性が……」
「馬鹿者!」
ザハロフ将軍が声を張り上げる。
部屋の空気が一瞬で張り詰めた。
「這い出てきたモンスターも焼き払えばいいのだ! 我々には近代兵器がある。それを使えば全てが解決する!」
その豪語に、部屋中の幹部たちが拍手を送った。
部屋の隅に座っていた若い幹部の一人は、困惑した表情を浮かべながらも、周囲に合わせて拍手を始める。
「ストレンジャーだの、スキルだのといった時代遅れの力に頼る必要などない。この近代兵器こそが、我々ロシアの未来を切り開くのだ!」
「その通りです、将軍!」
側近の一人が力強く頷く。
「スキルや魔法などという不確実な力ではなく、科学と技術こそが我々を勝利に導くのです」
「そうだ。我々は愚か者ではない。我々には計画があり、そして武器がある」
ザハロフ将軍は笑みを浮かべながら、さらに声を張り上げた。
「昨夜、日本から来た忌々しいストレンジャーどもを殺し損ねたが、次は失敗せん。毒ガス兵器を使うことも検討している」
その言葉に、部屋の空気がさらに熱を帯びた。
「毒ガスですか! それは素晴らしい!」
別の幹部が興奮した声を上げる。
「奴らはどれだけ優れたスキルを持っていようと、ガスには抗えないでしょう。我々の計画は完璧です!」
「そうとも。我々が成すべきは、ロシア帝国復権の第一歩だ!」
ザハロフ将軍がさらに言葉を続ける。
「さらに、これ以上の抵抗を許さぬためにも、地下にある兵器庫の新型ミサイルも準備しておけ。奴らの次の動きを封じるには、強硬手段しかない!」
「了解しました、将軍!」
幹部たちの一斉の応答が部屋中に響く。その中で、ウォッカのボトルが開けられ、将軍は誇らしげに胸を張り、グラスを掲げた。
「ロシア帝国に栄光あれ!」
「栄光あれ!」
乾杯の声が響き渡る中、その場の熱気は最高潮に達した。
しかし、その瞬間――
ドガァンッ!!
突然、施設全体が揺れるほどの大きな振動が発生した。
鋼鉄の壁がきしみ、天井の照明が揺れる。
「なんだ!? 何が起きた!?」
ザハロフ将軍が怒鳴り声を上げる。
その顔には明らかな動揺が浮かんでいた。
「将軍! 振動は南西のセクションからです!」
通信士が慌てた声で報告する。
その瞬間、扉が開き、一人の伝令が駆け込んできた。
「将軍! 奇襲です!!」
「奇襲だと!? ロシア政府の犬か!」
ザハロフ将軍が顔を歪めながら怒鳴る。
しかし、伝令の返答は予想外のものだった。
「いいえ……それが……」
「なんだ! はっきり言え!」
「に、日本のストレンジャーです!!」
その言葉が響いた瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「なにぃ……!」
ザハロフ将軍は握り締めた拳を震わせ、部屋中に怒号を響かせた。
「奴らがここまで来たというのか! 今すぐ全兵力を配置しろ! 奴らを絶対に逃がすな!」
ザハロフ将軍は激昂した声を上げたが、その言葉の裏には動揺が隠しきれていなかった。
「襲撃を仕掛けるのは我々の側だったはずだ……なぜ、あいつらの方からこちらに襲いかかってくるのだ!!」
幹部たちも顔を見合わせ、不安な表情を浮かべている。
その時、ザハロフ将軍が鋭い声を張り上げた。
「被害箇所をモニターに表示しろ!」
通信士が慌てて操作を始め、数秒後、スクリーンに雪山の映像が映し出された。
しかし、そこに映っていたのは、ただの襲撃跡ではなかった。
「こ……これは……!」
画面に広がるのは、雪山にぽっかりと空いた巨大なクレーター。
まるで隕石が衝突したかのように、周囲の雪と岩が吹き飛び、黒く焼け焦げた跡が残されていた。
「どういうことだ……!? これは一体……!」
ザハロフ将軍はスクリーンを凝視し、震える声で呟いた。
幹部たちの間にも動揺が広がり、誰もがスクリーンを見つめたまま言葉を失っていた。




