第百三十二話 クレムリンからの要請
翌朝、俺たちは黒服たちを集め、改めて昨夜の襲撃について問い詰めていた。
黒服たちは緊張した表情で、肩をすぼめている。
「ロシア軍が関与しているんだな?」
イザナが静かに問いかける。
その鋭い目つきに、黒服たちは思わず視線を逸らす。
「……おそらく、そうです。しかし、我々にも詳細は知らされていません。ただ、軍の一部が暴走しているという話は耳にしています……」
「暴走?」
俺が思わず尋ねると、黒服の一人が小さく頷いた。
「はい。彼らはストレンジャーを信用せず、近代兵器で全てを解決しようとしています。日本団の皆様も、目障りだと思われている可能性が高いです」
その言葉に場が静まり返る。
全員の視線がイザナに集中する中、スマホが振動した。
「これは……クレムリンからの通信だ」
イザナが画面を操作し、通話を繋げる。
そこに映し出されたのは、ロシア大統領だった。
画面越しに映るロシア大統領、アレクセイ・ペトロフは、疲れ切った表情をしていた。
その顔には明らかな怯えが浮かんでいる。
「日本団の皆様……ご無事で何よりです」
「これは一体どういうことでしょうか?」
イザナの冷静な声に、大統領は深いため息をつきながら言葉を続けた。
「正直に申し上げます。我々ロシアは、現在軍を完全に支配下に置けていません……」
「どういうことですか?」
白石が眉をひそめながら尋ねる。
大統領は苦しそうに口を開いた。
「全ては、ロシアがダンジョンゲートの攻略で後手後手に回ってしまった結果なのです。S級ストレンジャーもほとんど国内にいない状況で……軍の幹部たちは、ダンジョンゲートをストレンジャーたちの力ではなく、近代兵器で制圧しようとしています」
「なるほど。だから日本のストレンジャーも邪魔者というわけですね」
霧島が静かに言い放つ。
その言葉に、大統領は苦しげに頷いた。
「ですが……ダンジョンを通常武力で攻略するなんて、できるのでしょうか?」
俺が疑問を口にすると、イザナが答えた。
「無理だろうな。そんな前例はない。魔法やスキルは、兵器よりも遥かに強力で、無限の可能性を秘めている」
「ですよね……」
俺が呟くと、大統領は深く頷きながら言った。
「その通りです。だからこそ、お願いがあります。せめて日本団の皆様には、速やかに古代ダンジョンまでたどり着いていただきたいのです。そのために、大統領専用ジェットを用意します」
その言葉に全員が驚いた表情を見せたが、イザナは静かに考え込んだ後、口を開いた。
「大統領、少し提案があります」
「提案?」
「軍の幹部のアジトは把握していますか? もし場所が分かるなら、私たちが制圧してみせます。それでいかがでしょうか?」
その提案に、大統領は目を見開いた。
「そ、そんなことができるのか!? 幹部たちは武装しています。彼らを無力化するなど……」
「被害は一切出しません。敵も味方も、一人も犠牲を出さずに終わらせます」
イザナの言葉に、大統領はしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「もしそれが可能なら……最大限の協力をお約束します」
「ありがとうございます。それでは、幹部たちのアジトの情報をいただけますか?」
「すぐに送ります……どうか、よろしくお願いします」
※ ※ ※
大統領の画面が切れると、部屋に静寂が訪れた。
イザナが再び口を開く。
「今の話を整理する。ロシア軍は分裂状態で、幹部たちは暴走を続けている。その状況を放置すれば、古代ダンジョン攻略どころではない」
「でも、俺たち少数のストレンジャーだけで本当に止められるのか?」
霧島が眉をひそめる。
イザナは少し考え込んだ後、力強く頷いた。
「可能だ。だが、我々の連携が鍵となる。これ以上、横槍を入れさせないためにもな」
「了解です」
白石が頷き、藤堂も盾を軽く叩きながら同意を示した。
「行くぞ。軍の暴走を止めて、ロシアの未来を取り戻す」
イザナの言葉に、全員が力強く頷いた。




