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第百二十七話 大刀と霧島の過去


俺たちは、ベルリンにあるドイツ首相官邸ブンデスカンツラーアムトに招かれていた。


荘厳な建物の中、広い会議室で首相と向かい合っている。


ドイツの首相、ヴィルヘルム・グローエは、テーブルの上に置かれた記憶のオーブをじっと見つめていた。


その神秘的な輝きに目を奪われ、手を伸ばしかけては引っ込める。


その仕草から、オーブの存在がいかに彼を感動させているかが伝わってきた。


その目には明らかな感動が浮かんでおり、小さな息をつくたびに目がわずかに潤んでいるようにも見えた。


「これが……記憶のオーブか……。素晴らしい、実に素晴らしい……」


グローエ首相は呟くようにそう言った。


だが、以前俺たち日本団にやりこめられたことを覚えているのか、その態度にはどこか遠慮が見えた。


「……できれば、この記憶のオーブの情報を、我々ドイツにも共有してもらえないだろうか?」


首相の言葉に、クラウディアが少し緊張した表情で俺たちの方を見た。


「イザナ様、どうでしょうか……」


イザナは静かに頷くと、俺の方に目を向けた。


「天城くん、どう思う?」


「えっ……俺ですか?」


突然振られて、俺は思わず声を上げてしまった。


視線が一斉に俺に集中する。


「いやいや、リーダーはイザナさんですよね。イザナさんが判断することじゃないんですか?」


「もちろんそうなのだが、天城くん、君の意見も聞きたいんだ」


イザナの穏やかな声に、俺は戸惑いつつも口を開いた。


「えっと……ダンジョンゲートの問題は全世界の問題です。情報は共有すべきだと思います」


その言葉に、グローエ首相は深く頷いた。


「たすかるよ、ミスターアマギ! 君のような若者が、全世界の未来を考えてくれるのは心強い。我々ドイツも、この技術大国の誇りにかけて、君たちを全力でサポートする準備がある。科学研究の共有、装備の提供、さらには戦略的な支援まで、何でも遠慮なく声をかけてくれたまえ」


「えっと……ありがとうございます」


少し気まずいながらも俺がそう答えると、隣に座っていた大刀が小声で呟いた。


「いいなぁ、天城。首相から直々に言われるなんて、すげぇじゃん!」


大刀が肩を叩いてきた。


その表情はどこか羨ましさと楽しげな感情が混ざっている。


「ほんとにね、天城くんってこういう時だけ妙に得するよね」


白石も微笑みながら言う。


俺はただ苦笑いを返すしかなかった。


※ ※ ※


その夜、ドイツの首相主催で盛大なパーティが開かれた。


会場は華やかな装飾が施された大広間で、長いテーブルには所狭しとドイツの名物料理が並んでいる。


ソーセージやザワークラウト、プレッツェル、さらには名産のビールが絶え間なく振る舞われ、豪華な宴会が繰り広げられていた。


「すげぇな……こんなに豪華なパーティ、生まれて初めてだぜ!」


大刀が目を輝かせながら皿に料理を盛っている隣で、霧島が手を止めた。


「見ろよ、大刀。あのソーセージ、一本で俺の腕ぐらいあるぞ」


「なんだそれ! 絶対に食わなきゃ損だな!」


大刀が目を輝かせながら、皿に料理を盛っている。


「料理だけじゃなくて、雰囲気もすごいわね。見て、あのダンス!」


白石が指差した先では、ドイツ民謡の音楽に合わせて華やかな民族舞踊が披露されている。その軽快なステップと色鮮やかな衣装に、俺たちはしばらく目を奪われた。


そんな中、俺の周りには何人かのドイツ美女たちが集まってきていた。


「ミスターアマギ、あなた、まるで映画のヒーローみたい! 記憶のオーブを持ち帰るなんて、本当に素晴らしい!」


「えっ、いや、そんな……」


美女たちが俺に向かって賞賛の言葉を次々と浴びせかける。


声は軽やかで、その目はどこかきらめいているように見えた。


近くで揺れる金髪や鮮やかなドレスのフリルに、視線の行き場が分からなくなる。


気づけば囲まれるような形になり、俺はひたすら困惑していた。


「ミスターアマギ、日本の冒険者ってみんなこんなにかっこいいの?」


「えっと、いや……」


「もしかして、彼女いるの? 私なら冒険にもついていけるわよ!」


「そ、そんなこと言われても……!」


顔が赤くなるのを感じながら、俺はなんとか言葉を濁そうとした。


その時、スマホが震えた。


(助かった……!)


画面を見ると、朱音からのメッセージだった。


『クリアおめでとう。でも、ドイツではめはずしちゃダメよ』


「なんで分かるんだよ……!」


思わず小声で呟いてしまった。


思わず小声で呟いてしまった。朱音の勘の鋭さには毎回驚かされる。


その後、パーティがひとしきり続いた頃、大刀と霧島が俺の元にやってきた。


「天城、ちょっといいか?」


大刀が椅子を引き寄せ、向かいに座る。その隣には霧島も腰を下ろした。


「どうしたんですか?」


俺が問いかけると、大刀が大きく息を吐き、笑みを浮かべた。


「いや、こうしてのんびりできるのも珍しいからな。少し昔話でもしようかと思ってさ」


「昔話?」


「そうだ。俺がどうやってS級ストレンジャーになったか、話してなかっただろ?」


大刀の言葉に、俺は興味を引かれる。


「確かに、聞いたことないですね」


「俺は、元々は小さな町で育ったんだ。何もない、ただ平凡な生活を送っていた。でも、ある日、村がモンスターの襲撃を受けて壊滅してな。その時、たまたま通りかかったストレンジャーに助けられたんだ」


大刀の声は穏やかだったが、その目には当時の記憶がちらついているようだった。


「そいつがかっこよくてさ。それで俺も強くなりたいって思った。それから訓練に明け暮れて、気づいたらここまで来てたってわけだ」


「なるほど……」


「俺も似たようなもんだよ」


霧島が口を開く。


「俺は街の孤児だった。毎日生きるのに精一杯で、ストレンジャーなんて遠い世界の話だと思ってた。でも、イザナさんに拾われて、鍛えられたんだ。今こうしていられるのも、あの人のおかげだよ」


「イザナさんに……」


霧島が小さく頷く。


「俺にとって、イザナさんはただの隊長じゃない。命の恩人でもあるんだ」


その言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。


(大刀さんも霧島さんも、俺が出会った時から圧倒的に強かったから、そんな過去があったなんて考えもしなかった。でも、当たり前だよな……みんな、最初は初心者ストレンジャーで、そこから血の滲むような訓練や、数え切れないほどのダンジョンを踏破してきたんだ)


俺は、改めて自分の気持ちに気合いを入れ直した。


(こんなすごい人たちと一緒に戦えるなんて、本当に感謝しかない。俺ももっと頑張らなきゃな)


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