第百二十六話 リナ(メイド服)とのビデオ通話
スマホの画面に映るリナの顔は、明るく輝く笑顔だった。
しかし、その笑顔の奥には心配が透けて見える。
「天城くん……思ったよりやつれてるじゃない」
リナは、俺が画面の向こうで少し弱っているのに気づいたのか、眉を寄せてじっと見つめてきた。
「本当に大丈夫なの? 無理してない?」
「いや、大丈夫だって」
「嘘ばっかり。顔に出てるわよ、天城くん」
リナが心底心配しているのが伝わってくる。
その真剣な表情に、俺は少し言葉を詰まらせた。
「……ごめん、心配かけて」
「まったく……ほんとに、天城くんって自分のことは考えないで突っ走っちゃうよね」
「……反省してます」
リナが、その言葉をきいて、どこか落ち着かなくなる。
「?」
俺が不思議に思っていると、リナが意を決したように、
「そ、そんな落ち込んでいる天城くんのために、ちょっとサービスを用意してあげようかな!!」
「? はあ?」
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
リナが画面から消え、戻ってきた時には……。
なんとメイド服を着ていた。
「え!? ええ!?」
焦る俺。
その姿は想像以上に様になっていて、一瞬言葉を失った。
リナのメイド服は黒と白のコントラストが美しく、胸元には控えめながらも可愛らしいリボンが飾られている。
フリルのついたスカートが軽やかに揺れ、両手でスカートを軽く持ち上げるようにして可愛いポーズを決める。
その仕草に、画面越しでも圧倒的な存在感が伝わってきた。
「どう? 元気づけに、ちょっと頑張ってみたの」
「……いや、えっと、その……!!」
言葉が出ない。
というのも、なんというか、リナの身体にぴったりフィットしたメイド服は、予想以上にその胸元の自己主張をさらに大きくアピールさせているもので……!
「……ちょっと、私は出ておくからな。恋人との楽しいひとときは二人で楽しんでくれ」
イザナは咳払いをしながら、病室の扉を開けて静かに出て行った。
その背中からは、妙な気まずさが滲み出ている。
「えっ、いや、イザナさん、そうじゃないです! あの……!」
俺が慌てて弁解しようとしたが、リナは照れながらこう言った。
「恋人……そう思われてたんだ……」
「こ、困るよな! ごめん! へんな誤情報与えちゃってて!」
「ううん、ちょっと、嬉しいかな……」
柔らかく笑うリナ。
その表情は普段見せたことのないような顔だった。
ごまかしきれずに俺は頭を抱える。
リナはその様子を面白がるように、さらに微笑んでいた。
「……まぁ、でも、今のですごく元気出た。ありがとな」
俺は素直に、感謝をする。
それをきいて、キョトンとした顔をするリナ。
そして、顔をさらに真っ赤にさせ、
「そういうところ……ほんとずるいよね……」
「え!? ど、どういうこと……?」
「だからみんなから天然っていわれるのよ」
※ ※ ※
その日の深夜。
シーンは変わり、ホテルの一室。
イザナ、大刀、霧島、白石、藤堂が、とある会議室に集まって話し合っている。
天城だけが、病院の自室のベッドで静かに眠っている。
「……天城くんの覚醒の可能性について、どう思う?」
イザナがテーブルに肘をつきながら話し始めた。
その表情には慎重さが浮かんでいる一方、どこか期待も混じっているようだった。
「正直、あの場面で発揮した力は、俺たちが知ってるどのスキルとも違った」
霧島が双剣を手に取りながら、言葉を続ける。
「あの魔王、夜闇の魔王を倒した瞬間のことだが……俺、見たんだよな。天城の闇の波動が魔王を飲み込んでいくのを」
藤堂も頷きながら、話す。
「確かにな。あんな強力な闇の力、普通の冒険者が扱えるものじゃない。それに……あの時の魔王の言葉、聞いてただろ?」
大刀が少し口調を落としながら会話を引き受ける。
「S+ランクだと言っていた。そんなランク、人類が到達できるわけがない……少なくとも、これまでの常識ではな」
彼の声には明らかな困惑が混ざっていた。
あの力は異質で、これまでの常識を覆すものだった。
「でもさ、夜闇の魔王だけじゃないんだよね。天城くん、アメリカでのダンジョンでも普通じゃなかったでしょ?」
白石が足を組み替えながら、じっとテーブルを見つめている。
「覚醒者っていうのか、それともなんか別の力なのか。どっちにしても、あれは普通じゃない」
白石が静かに言う。
その言葉に、イザナが頷いた。
「確かに、今はまだ推測の域を出ない。ただ、天城くんの力がこれからどう発展していくか、それを見極める必要があるな」
「まぁ、これからの冒険でわかるだろう。あいつはあいつで、きっと自分の力をどうするか考えるはずだ」
霧島が言葉を発する。
「それが覚醒だとしたら……天城くんは、人類初のストレンジャー覚醒者ということになるわよね」
白石の言葉が部屋の空気を変えた。
全員の間に一瞬の沈黙が訪れ、重みを持った考えが各々の胸に渦巻いているのが分かる。
その言葉に全員がしばらく沈黙したが、やがてイザナが静かに言葉を切り出す。
「いずれにせよ、これからの天城くん次第だな。我々は彼を見守りつつ、必要なら支えよう」
そう締めくくると、全員が頷いた。




