第百二十五話 ベルリン大病院
目を覚ました時、俺は見知らぬ天井を見上げていた。
(ここは……どこだ?)
頭がぼんやりしていて、全身が重たい。
柔らかいベッドの感触と、漂う薬品の匂いから、ここが病院だと理解する。
を少し動かすと、鈍い痛みが全身を駆け巡る。
(ぐっ……全身が鉛みたいに重い。何があったんだっけ……?)
同時に、静かな足音が近づいてくる。
「お目覚めですか?」
白衣を着た男性が俺のそばに駆け寄る。
名前の刺繍には「Dr.マイヤー」と書かれている。
「ここはベルリン大学病院です。あなたは命に別状はありません。ただ、激しい戦闘による全身疲労と魔力の消耗があり、しばらく安静が必要です」
(ベルリン大学病院……ドイツの大病院か。なんとか助かったんだな)
安心感が胸に広がるが、同時に仲間たちのことが気になり始める。
「イザナさんたちは……?」
声が掠れる。
自分でも驚くほど弱々しい声だ。
(まさか……みんな無事じゃないとか? みんな、大丈夫なのか? 俺の無茶で誰か傷つけてたら……)
「皆さん無事ですよ。あなたほど重傷ではありませんが、ここで少し療養されています」
(良かった……本当に良かった……)
全身の力が抜けるような安堵が広がる。
その言葉を聞いて、ようやく体の緊張が解けた。
※※ ※
数分もしないうちに、病室の扉が勢いよく開かれ、イザナ、大刀、霧島、白石、そしてクラウディアが駆け込んできた。
「天城くん!」
イザナが一番に声を上げ、私のそばまで来る。
その顔には疲れと安堵が混ざった表情が浮かんでいた。
「よかった……本当に目覚めたんだな」
イザナが深く息をつきながら言う。
その姿に、俺はどれだけ心配をかけたのかを思い知らされる。
「天城くん……もう、無茶しすぎよ!」
白石が目に涙を浮かべながら俺の手を握る。
その温もりに胸が詰まる思いがした。
「お前、どれだけ心配かけたと思ってんだ!」
大刀は笑みを浮かべながらも、少し怒ったような口調で言った。
(そうだよな……みんなに迷惑ばかりかけてる)
「……みんな、ありがとうございます」
声がかすれる中で、ようやく絞り出す。
「あの……それで、記憶のオーブは?」
(頼む……失ってたら、俺の無茶がただの無駄になる)
俺の問いに、イザナは静かに頷きながらバッグから光る球体を取り出した。
「これだ。私たちがしっかりと手に入れた」
イザナが慎重にバッグから取り出したオーブが、光を放ちながら病室を照らした。
その輝きは、まるで新たな希望のように見えた。
その眩しい輝きを見て、俺は心底安堵した。
「……良かった……」
(これで次に進める……)
再び眠気が襲い、俺は意識を手放した。
※ ※ ※
次に目覚めた時、カレンダーは3日後を指していた。
カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
「ようやく起きたか」
イザナの声が聞こえ、ぼんやりとした視界に彼の姿が映る。
椅子に座りながら、俺を静かに見つめていた。
「どうだ、体の調子は?」
イザナの落ち着いた声が病室に響く。
俺は自分の体を確認しながら答える。
(3日か……俺、どれだけ無茶してたんだ)
「……問題ないみたいです」
俺はゆっくりと体を起こしながら答えた。
「それで……どうなったんですか? 魔王は……?」
(あの戦い……あれは一体何だったんだ?)
「……覚えてないのか?」
「ええ、はい……」
「そうか……なら……」
イザナが何かを考えるようなしぐさをしたあとに、
「それが分からないんだ」
イザナは少し困ったように首を振る。
「えっ、分からない?」
「記憶のオーブを手に入れたのは確かだが、どうやって魔王を倒したのか、誰も正確には覚えていない」
「そうなんですか……きっと、みんな無我夢中だったんですね……」
(俺も断片的にしか思い出せない……仕方ないのかもしれないな)
「ああ、そのようだ」
あの出来事は現実だったのか、それともただの夢だったのか。
「ともあれ、これで記憶のオーブ2個目を手に入れた」
イザナが再びオーブを見せてくれる。
その輝きは何度見ても神秘的だ。
「天城くん、君がいなかったら、成功しなかっただろうな」
イザナの言葉に、俺は首を振る。
「いや、みんなのおかげです」
その時、机の上に置かれたスマホが振動した。
画面を見ると、ビデオ通話の通知が表示されている。発信者はリナだった。
「……リナ?」
俺は少し驚きながらも、通話ボタンを押す。
「天城くん! 無事で良かった!」




