第百二十一話 天城とイザナの作戦
「作戦通り……、イザナさん、お願いします!!」
「ああ、わかった! 天城くん!!」
ヘルヴァルキュリアが空中に舞い上がり、闇の力をさらに強めようとした瞬間、イザナが静かに呪文を唱えた。
【グラビティチェイン】
効果:対象の動きを重力の鎖で縛り、行動を鈍らせる。
「これで動きを封じる!」
重力の圧力が敵ボスを包み込み、その巨大な黒い翼が鈍くなった。
だが、ヘルヴァルキュリアはすぐに鋭い目つきでイザナを睨みつけると、闇の波動を放ち、重力の鎖を振り解こうとする。
「くっ……まだ動きを完全に封じるには至らないか!」
イザナが懸命に魔力を込め直す中、ヘルヴァルキュリアの猛攻が続く。
闇の刃が空中を飛び交い、イザナの周囲を次々と切り裂いた。
「隊長! 無理しないでください!」
白石が叫ぶが、イザナは歯を食いしばりながら耐えていた。
「今ここで仕留めなければ、次はない……!」
その言葉に、全員が息を飲む。
ヘルヴァルキュリアの動きが一瞬鈍るのを確認したイザナは、再び重力を集中させた。
「グラビティチェイン、最大出力だ!」
重力の圧力がさらに増し、ヘルヴァルキュリアの翼が完全に動きを止める。
「天城くん、今だ!」
イザナの声に反応して、俺は断罪剣を握りしめ、一気に前へと飛び出した。
【スキル:光刃剥奪】
効果:光の波動で敵を切り付けることで、敵の装備や能力をランクダウンさせる。
剣が淡く光り、ヘルヴァルキュリアを強制的にS級へとランクダウンさせる。
その瞬間、ボスの目が怒りに燃え上がり、周囲に闇の波動が爆発する。
ヘルヴァルキュリアが叫び、黒い翼を大きく広げる。
その動きに呼応するかのように、空間全体が震え、闇の刃が四方に散らばり始めた。
「まずい、奴が本気を出してくるぞ!」
イザナが叫び、全員が身構える。
敵ボスの怒りのオーラは、これまで以上に凄まじい力を放っていた。
「次は……疾風のポーション!」
ポーションを飲み干す。A級アイテム【疾風の靴】との相乗効果で速度を高める。
俺の体は風を纏うように軽くなった。
「これで……!」
ヘルヴァルキュリアの怒り狂ったオーラが空間を揺らす中、俺はその隙間を縫うように懐へと飛び込んだ。
敵の目がこちらに向いた瞬間、闇の刃が迫ってきたが、ギリギリで回避する。
「ちょっと待て! あいつの動きが読まれてるぞ!」
霧島の警告を耳にしながらも、俺はさらに加速し、一気に敵の中心を目指す。
「これで終わりだ! ドラゴンスレイヤーッ!」
渾身の力を込め、断罪剣を敵ボス目掛けて突き刺す。
しかし、その瞬間――
【ダークアブソリュートウォール】
効果:絶対防壁を展開し、物理および魔法攻撃を完全に防ぐ。
目の前に闇の壁が出現し、剣の刺突が弾かれた。
「な……まずい!」
俺は一瞬動きを止めてしまった。
その隙を突き、ヘルヴァルキュリアの攻撃が放たれる。
「天城くん!!」
白石の悲鳴が響く。
ヘルヴァルキュリアの闇の刃が俺を直撃し、全身が宙を舞った。
「ぐあっ……!」
体が地面に叩きつけられ、衝撃が全身に走る。
視界がぐらつき、立ち上がるのが精一杯だった。
「大丈夫か!」
霧島と藤堂が駆け寄ってくる。
「クソっ、作戦は失敗か……!」
霧島が歯を食いしばる。
しかし、俺は首を振りながら口を開いた。
「いいえ。作戦は成功です」
「え?」
藤堂が困惑の表情を浮かべる中、俺は敵ボスの背後を指差した。
「本命はあれです」
振り返ると、そこにはいつの間にかヘルヴァルキュリアの背後に接近していたイザナの姿があった。
「なんだと……!」
俺の派手な攻撃は囮だった。
イザナが敵の注意を引き付けた間隙を突き、背後から一刺しを狙っていたのだ。
イザナの声が低く響いた。
「これで終わりだ」
【ブラックホールエッジ】
効果:剣先に触れた対象の重力を操作し、圧縮する。
剣の先端がヘルヴァルキュリアの防壁に触れると、ギュルン!! という音とともに、その周囲の重力が一気に収縮する。
敵ボスの体が圧力に耐え切れず、崩れ落ちるようにぺシャンコになった。
「おお……あれがイザナ隊長の最終スキル……!」
驚嘆の声が仲間たちの間に広がる。ヘルヴァルキュリアの巨大な体が崩れ落ち、戦いが終わった。
イザナは剣を地面に突き立て、息を整えながらゆっくりと振り返る。
「この技は精神力がかかりすぎるから、無闇には使えない……ただ、今がその時だったな」
これで、S+級の敵は倒した。
次はいよいよ……無限迷宮のボスに挑む。




