第百二十話 S+級ボス、ヘルヴァルキュリア
ヘルヴァルキュリアとの戦いは、すでに長時間に及んでいた。
その巨大な黒い翼は何度も猛攻を仕掛けてきており、鋭い風圧はまるで刃のように仲間たちを次々と吹き飛ばしている。
さらに放たれる闇魔法【ダークヴェール】が視界を遮る黒煙となり、全員の体力をじわじわと削っていく。
【ダークヴェール】
効果:闇の霧を生成し、視界を奪いながら敵の体力を徐々に消耗させる。
「……決定打がない……」
イザナが短く呟く。
俺たちの攻撃はそれぞれ効果を上げているものの、ボスの耐久力は想像以上だった。加えて、こちらの体力も削られ続けている。
「これでも食らえっ!」
大刀が渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
しかし、ヘルヴァルキュリアの硬い羽がその一撃を弾き返す。
「効かないのか!?」
大刀が驚きの声を上げる中、ヘルヴァルキュリアが反撃に転じる。
闇の羽が刃となって次々と飛び交い、俺たちの周囲を斬り裂いていく。
「藤堂! 防げるか!?」
「任せろ!」
藤堂が盾を掲げ、防壁魔法を発動させる。
【フォートレスウォール】
効果:透明な防壁で仲間全員を包み込み、敵の攻撃を受け止める。
羽刃が防壁に激突し、次々と光の粒子が弾ける。
その圧力に藤堂の足元が沈むが、彼は歯を食いしばりながら耐え続けた。
「シャドウステップ!」
霧島が闇の中を駆け抜けるようにして敵の側面へと移動し、双剣を振り下ろした。
【シャドウステップ】
効果:目にも止まらぬ速さで敵を翻弄しながら連続攻撃。
「どうだ……これで!」
しかし、双剣の刃はヘルヴァルキュリアの魔力の膜に阻まれる。
「くそっ、防御が厚すぎる!」
霧島が一旦距離を取るが、ボスは隙を与えず巨大な魔力の弾を放ってくる。
「イザナさん、どうするの!?」
白石が焦りながら叫ぶ。
「重力魔法で足を止める!」
イザナが手を掲げ、重力魔法を発動させる。
【グラビティフィールド】
効果:空間全体を重力の圧力で包み、敵の動きを鈍らせる。
「今がチャンスだ! 全員、一斉に攻撃しろ!」
イザナの指示で全員が攻撃に転じるが、ヘルヴァルキュリアの羽が盾のようにその攻撃を全て受け止める。
「なんて奴だ……!」
※ ※ ※
「みんな! 時間を稼いでくれ!」
霧島が叫んだ。
「俺が解析魔法をかける。その間、何としても攻撃を防いでくれ!」
「わかった!」
藤堂が再び前に出る。盾を掲げ、防壁魔法を強化する。
透明な防壁が力強く輝き、俺たち全員を守る。
イザナもすぐに手を掲げ、再び重力魔法を展開する。
「よし、霧島、早く!」
「任せろ!」
霧島は双剣を前に構え、呪文を詠唱し始めた。
その姿には、仲間たち全員の信頼が集まっている。
その時だった。
ヘルヴァルキュリアが、にやりと笑ったように見えた。
「今……笑った……?」
俺は不安に駆られる。
その直後、ボスの目が闇の光を放ち、何かが起きた。
「!!」
突然、藤堂の防壁魔法が消え去り、イザナの重力魔法も解除されてしまった。
「ディスペル……だと!?」
焦りが広がる中、ヘルヴァルキュリアの猛攻が始まった。
鋭い闇の刃が放たれ、大刀を直撃する。
「があっ!!!」
大刀が膝をつき、血を流す。その巨体が崩れ落ちるように倒れた。
「大刀!」
藤堂がすぐに駆け寄り、回復魔法を発動する。
【スキル:ヒーリングオーラ(Healing Aura)】
効果:範囲内の味方の HP を回復する。
柔らかな光が仲間たちを包み込み、大刀の傷口を癒やしていく。
「まだ終わらせない!」
大刀がゆっくりと立ち上がる。
その巨体が再び戦闘態勢に入るのを見て、全員がほっと息をついた。
「こいつ、手強いよ!! どうやって勝つの!!」
白石が叫ぶ。全員の表情に焦りが滲んでいる。
「……そうだな……」
イザナが静かに言葉を紡ぐ。
「天城くん。どうかね?」
「ええ、いけると思います」
俺は静かに答えた。その言葉に、白石が驚きの声を上げる。
「一体、何言ってるの、二人とも!?」
「攻略法が見つかりました」
「え!?」
白石の目が大きく見開かれる。だが、イザナが微笑みながら頷く。
「私と天城くんは同じことを考えているようだ」
「じゃあ、いこう」
イザナの言葉が全員に響く中、俺たちは新たな一手を準備するために動き出した。




