第百十六話 出発のとき
ドイツに到着してから1週間が過ぎた。
俺は、ホテルの一室にこもりきりで《過去視》を使い続けていた。
机の上にはジャンクショップで買い取ったアイテムの山。
朽ち果てた剣、ひび割れた盾、そして用途不明の金属片。
それらを次々と進化させ、使えるアイテムへと変えていく。
「よし、これで五つ目だな……」
目の前には新たに蘇った輝かしい装備やアイテムが並んでいる。
その中には、防御性能に特化した盾や、未知の力を引き出すアイテムなど、頼もしいものが揃っていた。
(これだけあれば……いや、まだ足りないかもしれない)
ドイツの迷宮ダンジョン。
その危険度はこれまでのダンジョンを遥かに上回ると言われている。
ストックをできる限り増やしておかないと、生き残ることさえ難しいだろう。
額に汗を浮かべながらスキルを発動し続ける。
手元の装備が少しずつ輝きを取り戻していくのを見るたびに、胸に小さな希望が灯る。
※ ※ ※
その頃、他の日本団メンバーたちはそれぞれの時間を過ごしていた。
大刀はドイツのS級ストレンジャーたちと模擬戦を行い、その実力を磨いていた。
「おいおい、そんなんじゃ俺には勝てないぞ!」
大刀は大剣を振りかざし、対戦相手を圧倒していた。
その豪快な戦いぶりは、ドイツのストレンジャーたちにも一目置かれる存在になっていた。
「ただ力任せじゃ駄目だ。もっと鋭さが必要だぞ」
模擬戦の合間に大刀がアドバイスを送ると、ドイツの冒険者たちも真剣に頷いていた。
「お前たち、次は本気で来いよ。俺も負けるつもりはないけどな!」
豪快な笑みとともに、彼は次々と挑戦者を迎え撃った。
※ ※ ※
霧島は、情報交換の場で冷静に相手と会話を進めていた。
「この迷宮ダンジョン、罠が多いと聞きますが、具体的にはどんなタイプの罠ですか?」
「主に空間転移系と魔力吸収系だ。それに気をつけて進むべきだな」
霧島は相手の言葉を一つも聞き漏らさないように、慎重にメモを取っていた。
「それと、ボスモンスターの動向について何か情報はありますか?」
さらに突っ込んだ質問をする霧島に、相手も感心したように口を開く。
「まだ全容は分かっていない。少なくとも君たちみたいな少数精鋭で挑むのは自殺行為だろうな」
その言葉に、霧島は苦笑する。
※ ※ ※
白石は、地元の冒険者たちと賭け試合をしていた。
「これで三連勝。少しは本気を出してもらわないと困るわね」
軽やかな動きで勝利を収める白石の姿に、周囲から拍手が巻き起こる。
「レディ、お見事ですね」
「ありがとう。でも、まだまだこれからよ」
白石が街のベテラン冒険者たちに話しかけると、彼らは驚きつつも情報を提供してくれる。
「え? もっと強い魔力を持つ相手と戦いたいって? すごいな、お嬢さん……」
「ふふ、うずうずするのよね、決戦の前って」
※ ※ ※
藤堂は独自の訓練を続けていた。
静かな森の中で、重厚な槍を手に、黙々と動きを繰り返している。
「必ず仕留める。それ以外に道はない……」
その真剣な眼差しは、彼がどれだけこの冒険に賭けているかを物語っていた。
「槍は重いが、その重さが力だ」
彼は木製のダミーを次々と突き破り、その度に自らの技術を確認していた。
「次の戦いでも、勝つ……」
彼の覚悟は揺るぎなかった。
※ ※ ※
イザナは地元の冒険者ギルドの会議に出席していた。
「迷宮ダンジョンの攻略において、ドイツの支援を受けられる点は非常に助かります」
イザナの冷静な発言に、ギルドの幹部たちは一様に頷いた。
「だが、日本団がすべてを担うわけではない。お互いの得意分野を生かすことが重要です」
その発言には説得力があり、場の雰囲気をさらに引き締めた。
「迷宮に挑むのはこれが最初で最後のつもりです。全力を尽くしましょう」
その言葉には、彼自身の強い覚悟が滲んでいた。
※ ※ ※
そして、ついに迷宮ダンジョンに挑む日がやってきた。
朝のホテル。
俺たちは集合場所として指定された屋上に向かった。
「なんでこんなところに呼び出されたの?」
白石が首をかしげる。
他のメンバーも不思議そうにしていた。
すると、遠くから大きな音が聞こえてくる。
「なんだ、あれ……?」
俺たちの頭上に、巨大なヘリコプターが降りてきた。
その迫力に圧倒されながら、俺たちはその場で息を呑む。
ヘリのドアが開き、クラウディアが現れる。
「皆さん、準備はよろしいですね?」
彼女は穏やかな笑みを浮かべながら、俺たちを見渡す。
「さあ、向かいましょう」
その言葉を合図に、俺たちはヘリに乗り込んだ。
いよいよ、ドイツの古代ダンジョン『無限迷宮』に向かう。




