第百十三話 いざ、ドイツへ
カリフォルニア・ロサンゼルス空港のロビーは普段以上の活気に溢れていた。
俺たち日本団を見送るために集まったアメリカの冒険者たちが、興奮した様子で話し続けているからだ。
「おい天城、どうしてあの時、あんなに冷静に魔法のタイミングを読めたんだ?」
「《過去視》って、いったいどんな風に見えてるんだ? 映像? それとも感覚?」
「お前のスキル、これからどう進化させるつもりなんだ?」
次から次へと質問攻めされ、俺は苦笑しながら適当に返事をしていた。
「いや、あれは工夫ってだけで……特に大したことじゃないんですが」
そう返しても、彼らは「いやいや、そんなわけないだろ!」とさらに食い下がってくる。
「お前ら、アマギを少し休ませてやれよ」
助け舟を出してくれたのはアランだった。
彼が軽く手を挙げると、冒険者たちは渋々質問を引っ込める。
「すっかり人気者だな、天城くん」
隣でイザナさんが穏やかに笑いながらそう言った。
「……からかわないでください」
俺が溜息をつくと、アランが俺の肩を叩きながら笑った。
「まあ、それも仕方ねえだろ。お前のおかげで、死の大峡谷ダンジョンのボスを一人の犠牲もなく討伐できたんだからな」
「皆さんが協力してくれたからですよ。俺一人じゃ絶対に無理でした」
そう答えたが、アランはその場で立ち止まり、真剣な表情で俺を見据えた。
「謙遜するな。お前はすごい。……どこまで高みに行くつもりなんだ?」
その言葉には冗談の色はなく、純粋な興味と尊敬が込められていた。
「それは……やれるだけやってみる、としか言えないです」
そう返すと、アランはニヤリと笑い、手を差し出してきた。
「またやり合おうぜ、アマギ」
「はい、もちろん! でも次は、もっとお手柔らかにお願いします」
俺が冗談めかして返すと、アランは豪快に笑いながら手を握り返してきた。
周囲からは拍手が湧き起こり、俺たちは笑顔で手を振りながらゲートへ向かった。
飛行機の座席に腰を下ろし、俺はようやく肩の力を抜いた。
アメリカ遠征は、振り返れば弾丸ツアーだった。
ダンジョン攻略に全力を注ぎ、観光もほとんどせずに次の目的地へ向かう。
「天城くん、Wifiが使えるみたいだぞ」
隣のイザナさんが雑誌をめくりながら教えてくれる。
スマホを取り出して通知を確認すると、リナ、朱音、リンの三人からメッセージが届いていた。
まずはリナのメッセージを開く。
リナ:「天城くん、ボス討伐おめでとう! ニュースで見たけど、本当にすごい! 帰ってきたらたくさん話聞かせてね!」
次に朱音のメッセージ。
朱音:「天城くん、無事でよかった! ボス討伐、本当にすごい! 私も頑張らないと……また学校で話そうね!」
最後にリンから。
リン:「天城さん、最高! あの大峡谷ダンジョンでの活躍は伝説だよ! 帰国したら特訓よろしくね!」
(もう噂になってるのか……)
古代ダンジョンの件は秘匿扱いのはずだったが、ネットで噂が広まればもう制限は効かないらしい。
俺はそれぞれに返信することにした。
リナには「ありがとう。帰ったらたくさん話そう。無事でいられたのはみんなの応援のおかげだよ」
朱音には「心配してくれてありがとう。こっちも無事だよ。また学校で会おう」
リンには「特訓……了解。また一緒に頑張ろう」
メッセージを送り終えると、俺は軽く目を閉じた。
彼女たちの言葉に救われる気がするのは、俺の性格が単純だからかもしれない。
※ ※ ※
ドイツの『無限迷宮ダンジョン』。
古代城塞の地下に広がる迷宮型ダンジョンで、広大な迷路が広がり、内部の構造が頻繁に変化するため、脱出がかなり困難らしい。
確認されているボスモンスターは、『夜闇の魔王』。
迷宮の主である闇の魔物で、幻影や幻覚を操り、侵入者の精神を蝕むと言う。
当然ボス討伐の成功例はゼロ。さらに、廃城の周囲には不吉な噂も多く、挑む冒険者が少ないのも特徴だった。
だが、その前に準備が必要だ。
(S級アイテムがそろそろ限界だな……《過去視:改》を使って新しいアイテムを揃えないと)
俺はぼんやりとジャンクショップのことを考えながら、目を閉じた。
今度の戦いもまた、簡単なものにはならないだろう。
(でも、やるしかない。俺のスキルで限界まで)




