第百十二話 同盟国との約束
※ ※ ※
俺たちはアメリカの冒険者ギルドに到着すると、スタッフに案内されて専用の会議室に通された。
さすがはS級ストレンジャーたちが集う施設だけあって、会議室の机や椅子はやたら豪華だし、部屋中に飾られた装備やトロフィーも高価そうに見える。
とはいえ、俺はその雰囲気に浸る余裕もなく、適当な椅子に腰を下ろした。
疲労がどっと押し寄せ、頭をテーブルに突っ伏したい衝動に駆られる。
「ここで少しだけ待機してください」
案内係がそう言い残して出ていくと、イザナさんはすぐにリュックを下ろし、記憶のオーブを取り出した。
その光は会議室の照明に負けることなく、静かに輝きを放っている。
やがてエリックをはじめとするアメリカの冒険者たちが部屋に入ってきた。
彼らの表情はまだどこか緊張している。
「本当に、あのボスを……」
エリックが小さく呟く。目はオーブに釘付けだった。
「これをアメリカが回収して、研究を――」
その言葉が出た瞬間、イザナさんは穏やかな笑みを浮かべながらも、はっきりと首を振った。
「申し訳ありませんが、それはできません。このオーブは4つ集めて初めて意味を成します」
その言葉にアメリカチームは困惑したような顔を見せる。
「4つ……だと?」
アランが眉をひそめた。
「はい。死の大峡谷ダンジョンの記憶のオーブは、他の3つのオーブと組み合わせることで、ダンジョンゲートに関する重要な情報を明らかにします。もし1つでも欠ければ、その情報は解読できません」
イザナさんの落ち着いた説明に、アメリカチームの面々は視線を交わし合った。
エリックが困ったような表情で口を開く。
「……では、他の3つも君たちが集めるというのか?」
「もちろんです。4つ全て、日本チームが手に入れてみせます」
イザナさんの声は自信に満ちていた。その言葉にアメリカチームの誰かが息を呑む音が聞こえた。
「ただし、記憶の情報を秘匿するつもりはありません。同じダンジョンゲート研究をしている同盟国として、アメリカにも解除後のデータを全て共有させていただきます」
その一言に、アメリカチームの緊張が少しだけ緩んだ。
アランが小さく笑いながら肩をすくめる。
「さすがジャパニーズだな……こんなとこでも律儀だ」
「我々としても、協力していただけるならありがたい。これ以上の争い事は避けたいからな」
エリックも安堵の表情を見せる。
イザナさんが一礼すると、静かにこう告げた。
「では、よろしければ……我々も少し休ませていただけませんか?」
その言葉に、エリックは慌てて顔を上げた。
「ああ! これは失礼した。ぜひそうしてくれ! いくらでも、どんなものでも準備しよう!」
「ありがとうございます」
イザナさんが頭を下げるのを横目に、俺は椅子に深くもたれた。
「ふぅ……やっと休める……」
背中に広がる疲労感を感じながら、俺はぼんやりと思い返していた。
「アメリカ遠征……本当にいろんなことがあったな」
命の危険を感じたダンジョン攻略、異国の冒険者たちとの摩擦、そしてボス討伐という大きな成果――。
どれもが濃すぎて、もう何ヶ月もここにいるような気分だった。
「でも、これが終わりじゃないんだよな……」
まだ3つのオーブが残っている。そのために俺たちはどこまでも進まなきゃならない。
「……まあ、その前に、とりあえずは休もう」
そう心の中で呟き、俺は目を閉じた。
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