第百十一話 アメリカでのミッション終了
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冷たい風が吹き抜ける死の大峡谷ダンジョンの出口付近。
そこには、アメリカの冒険者たちが救護隊とともに緊張した面持ちで待ち構えていた。
「まだ出てこないのか?」
救護隊の指揮を執るエリック・バロウズが、腕時計をちらりと見ながら呟く。
その隣で、アランが肩をすくめる。
「まあ、気楽に待とうぜ。もし失敗してもオレたちが控えてるんだ。なんとかなるさ」
アランはそう言うものの、その表情には余裕の色はない。
アメリカのS級たちが挑んでも溶岩シャークまでしか進めなかったこのダンジョン。その先に挑む日本団が無事でいられる保証などどこにもない。
「……何も起きてないのが逆に怖い。もし、ダンジョンコアが暴走していたら……」
エリックの不安げな声に、他の救護隊員たちも神経質に辺りを見回す。
その時だった。
ゲートが微かに揺れ、ぼんやりとした光が漏れ出した。次の瞬間、影が現れる。
「来たぞ!」
エリックが声を上げると、全員が緊張の面持ちで視線を向けた。
ダンジョンから姿を現したのは、ボロボロの装備に泥と血を纏った一団。
先頭に立つのは日本団のリーダー、イザナだった。
エリックはすぐに駆け寄る。
「みなさん、無事なようで何よりです!」
イザナは疲れた表情ながらも丁寧に一礼した。
「はい。心配をおかけして、申し訳ありません」
その言葉に、アランが呆れたように笑みを浮かべる。
「こういう時に謝ってくるのがジャパニーズの頭おかしいところだぜ。普通、『見ろよ、生きて帰ってきたぜ!!』とか言うもんだろ?」
周囲のアメリカのS級ストレンジャーたちからも笑い声が漏れるが、イザナは苦笑するだけで何も言わなかった。
「で、どこまで進んだんだい?」
別の冒険者が尋ねる。
「ミーたちは溶岩シャークまで行ったけど、君たちはどうだった? あ、溶岩シャークっていうのは――」
その説明を遮るように、日本団の一人が静かに口を開いた。
重複
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――ダンジョンを出た瞬間、俺、天城蓮の目に、眩しい光が飛び込んできた。空気は冷たく、俺のボロボロになった体には少し堪える。
「はぁ……やっと終わったな」
背後から、仲間たちの重たい足音が聞こえる。
俺たち全員、泥だらけで、装備もガタガタ。だけど、なんとか生きて帰ってきた。
それが何よりの成果だ。
「みなさん、無事なようで何よりです!」
駆け寄ってきたのは、アメリカの冒険者たちと救護隊のリーダーらしいエリック。
爽やかな顔をしているけど、その声には緊張が滲んでいる。
イザナが一礼して答える。
「はい。心配をおかけして、申し訳ありません」
俺は横目でそのやりとりを見ながら、少し呆れた。まったく、この場でそんな律儀に謝れるイザナさんのメンタルが謎すぎる。
「こういう時に謝ってくるのがジャパニーズの頭おかしいところだぜ。普通、『見ろよ、生きて帰ってきたぜ!!』とか言うもんだろ?」
近くで聞こえた声に、俺は思わず顔を上げる。
偉そうな感じで立っているのはアランという男だ。アメリカチームの一員らしいが、その笑顔がやけに挑発的だ。
「で、どこまで進んだんだ? ミーたちは溶岩シャークまで行ったけどさ」
ああ、これが溶岩シャークね、なんて丁寧に説明しようとしてるけど――。
「そいつは倒しました」
俺の一言で、場が静まり返った。
「え?」
エリックの目が丸くなる。アランも笑顔を凍らせたまま、言葉を失っている。
「じゃあ、その先のーー」
「はい、ボスも倒しました」
俺がそう付け加えると、アメリカチームの面々は全員驚愕の表情になった。
あのアランですら口をパクパクさせて、言葉が出てこない。
「嘘だろ……本当にボスを……?」
誰かが呟く。周りからは驚きと疑念が入り混じった視線が向けられるが、俺たちは淡々としていた。
「はい、このように」
イザナがリュックから取り出したのは、脈動するように光る記憶のオーブだった。
これがボスを倒した証拠。
俺たちが成し遂げた偉業の証だ。
エリックがオーブを見つめたまま、唇を震わせる。
「信じられない……君たちが……本当に……」
俺の頭の中には、スキル《過去視》で掘り起こした記憶と、そしてボス戦の一瞬一瞬が蘇ってくる。
疲れ果てているのに、不思議と満足感だけは胸の中に残っていた。
(結局、俺のスキルも捨てたもんじゃないな)




