3.王国の滅亡
北の王国の国王と話していたクロティスのもとに再び騎士団が現れ、騎士団はクロティスを敵とし、攻撃してくるが、どこかからの攻撃によってクロティスは勝利する。その攻撃はクロティスの仲間[レイ]のものであった。クロティスは北の王国からルナ王国へと戻るが、すでに手遅れになってしまう。
「どこから攻撃されている!?」
「わかりません!近くには人影は見えません。」
そういった騎士たちが斜線の通らないところに隠れる。
「また飛んできました!」
そのまま壁に刺さるだけだと思った攻撃は急激に角度を変えて、一人の騎士へと命中する。その騎士は天井まで突き上げられ、叩きつけられた。他の騎士にも次々に命中し、残りは青年だけとなった。
「あとはお前だけだ。いい加減諦めろ。」
「お前のような一介の旅人ごときに王国騎士団長ユーベルが負けると思ってるのか?!」
「ああ。思ってるよ。お前みたいな人を騙す人間は必ず負ける。敗けを恐れるからな。」
クロティスが剣を持ち、構える。それに応じたようにユーベルも剣を構えた。
「無駄なアドバイスだな!」
その一言とともにユーベルが大きく剣を振り下ろした。しかし、わかりやすすぎたその一太刀は避けられ、クロティスの高速の突きがユーベルめがけて飛ぶ。
「くっ、厄介な攻撃だ。」
かわしたユーベルが再び剣を構える。クロティスは時間を稼ぐ。
「お前の目の奥には明らかに迷いが見えている。勝てるか不安だからといって、迷えばそこで勝ちはない。」
「お前に言われる筋合いはない!私はただ騎士としての任務を果たすのみ!」
「普通の人間を一方的に決めつけて殺害しようとするのは一体何の任務なのかな?」
クロティスが煽りを交えて言うと、ユーベルが怒りに身を任せて剣を振り上げた。
「王国の邪魔になるものは排除するのみだ!」
クロティスは目の前のユーベルを見るが、剣を持たず、ただその場にしゃがんでいるだけだった。
「チェックメイトだな。」
クロティスが言った瞬間、遠くの森林から矢が飛んでくる。
「ぐっ...矢だと!?一体どこから...」
「目の前の敵から目をそらすなよ。」
ユーベルが外を見たことによってクロティスから視界を離した隙に、クロティスは突きを放つ。
「ぐはっ...なぜ...私が負けた...」
突きによって軽く吹き飛ばされたユーベルにもう抵抗する力は残っていなかった。
「お前は自分の力を過信しすぎたんだ。無駄な自信は自分を犠牲にすることを覚えておくといい。」
「そうか...」
ユーベルはその場に倒れた。国王が咳をしながら、ユーベルの元へと近づく。
「お前に騎士団の長を任命したのは私だ。今回の行動の責任は全て、私が取ろう。」
「国王...私に命を狙われたというのに、そのようなことを仰るのですか。」
「今のお前と昔のお前はまったく別物のようだ。昔のお前は努力家だった。誰かに負けたとしても絶対に諦めなかった。だから私はお前に全てを任せたのだ。しかし今はもう、そんなことはないようだな。」
国王はそうユーベルに言い、クロティスの方を向いた。
「冒険者...いやクロティス。お主の言ったことを信じよう。ルナ王国の国民をこの国に連れてきてくれないか。恩を返したいんだ。」
「...わかりました。感謝します。」
「今日は休んでいくといい。明日行きなさい。」
国王の勧めにもクロティスは乗らなかった。
「いえ、今日のうちに戻ります。犠牲は少ないほうがいいですから。」
クロティスはそう言って、部屋を出ていった。
クロティスが城を降りて、入ってきた入口の方へ行くと、先に話を聞いて外に向かっていたネオンが待っていた。
「クロティス...ありがとう。私のこと助けてくれて。」
ネオンの言葉にクロティスは一瞬笑顔を見せたが、すぐに冷静を保つ。
「ネオンを助けたのはな...私じゃない。帰りながらでも説明しよう。とりあえず今はルーシャのもとに戻ろう。」
「うん。わかった。」
ネオンは困惑しつつもクロティスの指示に従った。
帰り道、クロティスが話を始める。
「それで、さっきの話だが、ネオンを助けたのはレイだよ。」
「レイくん?レイくんなんていなかったでしょ?それにいたとしてももうニ年以上会ってないんだよ?そんな状態で戦闘しても上手く行かないよ。」
ネオンの疑問にクロティスが何かを取り出して、ネオンに見せる。それは小さな宝石だった。
「この石、覚えてるか?」
「これって、昔のメンバーが全員持ってる石でしょ?でも、どうやって仲間を認識するの?こんな小さな石じゃ何もできないし...」
「ネオンにはいったことなかったが、この石はそれぞれが共鳴し合っているような状態でな、すこしだけ魔法を込めると、石を持っているものに位置を知らせることができるんだ。」
ネオンは知らなかったためにとても驚いていた。それから、クロティスはその石によってお互いの場所を認識できたこと、レイが弓の達人であることを覚えていて、あえて扉を開けたままにしたことを話した。
「そっか...レイくんは弓がうまいし、魔法の力で操ることができるもんね。」
「ああ。本来戦闘するとしたら扉を閉めたほうが狭くなって戦いやすいんだが、今回は開けたんだ。そしたら上手くいったってわけさ。」
クロティスは狭い場所での戦闘を得意とし、攻撃手段は本来は剣ではなく短刀である。
「そしたらなんでクロティスは剣で戦っていたの?」
「剣で戦ったほうが相手の攻撃を受け止めやすい。あいつは自分が有利だと思うと攻撃速度よりも一撃の強さを意識する傾向があるんだ。それに気づいてすぐに剣での戦闘に切り替えた。」
ネオンは感嘆していた。
「一回の戦闘でそこまで考えてるなんて...すごいね。」
「それぐらいしないと、負けそうだからな。」
二人がそのような話をしていると、ネオンがふと振り向いた時に後ろから騎士団が4人来ていることに気づいた。
「クロティス!あれ!」
「あれは...騎士団だな。まだ諦めてないのか」
騎士団が二人のそばまですぐにやってきて、馬を降りる。
「何の用だ。お前らの長はさっき倒したはずだが。」
クロティスが冷静に少し圧を込めて問いかけた。しかし、帰ってきた返答は予想外のものだった。
「クロティス様。我々は敵では有りません。ユーベル団長の指示で馬をお届けに参りました。」
「なんだ...そういうことね。気遣いありがとう。」
クロティスよりも先にネオンが反応する。
「馬を2匹お渡しいたしますので、ルナ王国までお急ぎください。」
騎士団の一人がそういったが、クロティスは一匹でいいと言って、一匹の馬にネオンと乗った。
「一匹あれば十分だ。わざわざ気遣いありがとう。ユーベルにまた会おうと伝えておいてくれ。」
「承知しました。」
「じゃあ、また会おう。」
クロティスは騎士団の者たちにもそういい、馬を走らせた。騎士団はその場に整列し、二人を見送った。
二人が馬を走らせ、一気に境界を超えると、王国が少しずつ見えてきた。
「あともうちょっとだな。」
クロティスがそういい、少しずつ王国がはっきりと見えてくると、二人はその様子に驚いた。ルナ王国はすでにフルーフの侵食の被害を受け始めていて、クロティスたちの方へたくさんの人々が逃げてきていた。
「急がないと...また犠牲が出る...」
クロティスは急いで馬を走らせた。ネオンは驚いたせいか何も喋らなかった。二人が馬に乗って王国へと向かっている時、人々の中には国王もルナもいなかった。国王とルナの二人は未だ王国の中心部にいるのだ。
「急ぐぞ。」
「これ以上は馬で行けなさそうだから、走らないと!」
クロティスとネオンが馬を降り、走って中心部へと向かう。しかし、大量の人々が逃げ惑っている中で走ることが徐々に難しくなり、最終的には人の流れに逆らうことで精一杯になっていた。
「クロティス!こっちに来て!」
ネオンが裏道を見つけ、そこに二人は飛び込む。
「やはり少しずつ侵食がきたわけではなさそうだ...フルーフの瞬間的な侵食速度が早くなっているのか...?」
クロティスがまたも頭を抱える事態になった。そんな中、ネオンがあるものを見つけた。
「クロティス!こっち!たぶん中心部までつながってる!」
ネオンが見つけた道は細いながらもずっと遠くまで続いていた。
「ナイスだネオン!急いで行くぞ!」
「りょーかい!」
二人は再び走って中心部へと向かう。
ネオンの予想は正しく、その道をずっと辿っていくと、中心部へとつながっていた。二人は王城に入るが、人気はない。
「ルーシャ!どこだ!」
「ルーちゃん!どこ?!」
二人が呼びかけると、少しだけ声が聞こえた。その声は上の階から聞こえていた。
「クロティス様!ネオンちゃん!」
二人が上の階へ上がるとルナの声が一つの部屋から聞こえていた。
「ルーシャ!そこにいるのか...何かあったのか?」
「私もお父様も怪我はありません!ですが、扉が大きな揺れの時に壊れてしまって...開かなくなってしまって。この城は国王が住む場所ですから扉が頑丈になっているんです。ちょうど城には誰もいなくて...取り残されてしまいました。」
「わかった。ルーシャ、少し下がっていてくれ。」
「はい...」
クロティスがその扉に向かって突きを放つ。そうすると、扉には簡単に穴が空いた。クロティスが縦に複数の穴を開け、最後に真ん中を勢いよく蹴る。すると、扉が真っ二つになり、片方の扉が倒れ、外に出れるようになった。
「「すごい...」」
ネオンとルナが同時に声を漏らす。
「すぐに逃げよう。」
国王とルナに怪我がなかったことが幸いし、すぐに四人は中心部から逃げた。
「ルーシャ。ここからは別行動だ。国王を連れてルーシャは逃げてくれ。私とネオンはフルーフを見てくる。」
「勇敢な戦士だな。だが、あの侵食は速度が早い。気をつけなさい。」
「もちろんです。」
国王とクロティスは考えていた。[侵食を止める方法を掴む]ということを。
「クロティス様、危険ですから本当に気をつけてくださいね!ネオンちゃんも無理はしちゃダメだからね!」
ルナは二人が侵食を知り尽くしていることを知っていて、二人を止めようとはせず、見送った。
「ルーちゃん、また後でね!」
ここで四人は別行動になった。
クロティスとネオンは一緒に侵食の方へと向かう。侵食された土地はひどい有り様だった。建物は崩れ落ち、道端に育った草は枯れ、きれいに舗装された地面は砕けて凸凹になっていた。
「まるで天変地異だな。これは近づきすぎると危ない。少し離れよう。」
二人が少し離れた場所から侵食を見ていた。クロティスは速度を見極めようと、ずっと見ていたが、値オーナは遠くの侵食されていない地面を見ていた。
「ネオン?何を見ているんだ?」
「...もしかしたら...侵食はもう広がってるかもしれない。」
「まだ大丈夫だよ。どうしたんだ?」
「あそこ...見て。」
ネオンが怯えたように指した先を見ると、そこには侵食が進行している姿があった。
「何だ?ただ侵食が進んでいるだけだよ。まだここには到達していない。」
「もっとよく見て!特に侵食の出方を!」
クロティスが侵食の出方をよく見ると、侵食は既に侵食された土地から広がっていくのではなく、地面の一点に侵食が生まれ、その場から広がっていた、つまり、侵食は侵食された場所に関係なく広がっていた。
「侵食が...なにもない場所から...なんだこれは...!?」
「わからないけど...確実に危険なことは確かだよ...」
「スグに逃げよう。あれが本当なら、どこから侵食が生まれてくるかわからない。」
二人がすぐに一本道を走って逃げる。すると、侵食は既に脇の建物ほとんどに広がっていた。
「クロティス!気をつけて!たぶん横の建物倒れてくるよ!」
「わかった!」
二人が走っていると、ネオンの言った通り脇の建物が次々と二人に向かって倒れてくる。
「ネオン!伏せろ!」
「え?!」
ネオンが理由もわからず伏せると、すぐにクロティスが氷魔法を放つ。
「避けるよりも防いだほうが早い!」
氷が道を覆うようにドーム状となって二人を守った。
「急ぐぞ!ここももうじき侵食された地面といっしょになる!」
二人が走っている時、ネオンが北の王国で罠が引っかかった方の足に痛みを感じ、転んでしまう。
「痛っ...痛い...」
ネオンはその場から立てない、しかし侵食はすぐそこまで迫り、氷にもたくさんの建物がぶつかって亀裂が入り始める。
「とりあえず逃げるぞ!」
クロティスはネオンを背負い、急いだ。ネオンの顔が赤くなっていることにクロティスは気づかない。
二人はなんとかルナ王国から脱出することに成功したが、ルナ王国は国民が残っているものの事実上滅亡した。
今日も小説投稿です!