2.特攻作戦
ルナ王国の国王との話を終え、ルナのもとに戻ったクロティスだが、
時間が足りず、考えていた手段が使えなくなったことを知る。
最後の策としてクロティスは敵の王国へと侵入する。
「ルーシャ!」
急いで走ってきたクロティスがルナに声をかける。ルナはすぐに後ろを向き、クロティスに気づいた。
「クロティス様...」
「はぁ...進み具合はどうだ?」
「それが....時間が足りないそうで... 」
ルナは困ったように答えた。
「あの策は使えないんです...」
「そうか....もう方法がないな...」
クロティスは悔しさを抑えながら言った。しかしルナは諦めようとはせず、言った。
「なにか...なにか方法はないんですか!?このままだと...犠牲が出てしまいます...なんでもいいんです....」
「あるにはあるが....危険すぎる...犠牲が出ても....責任はとれない。」
「可能性があるなら...やるしかありません、教えてください!」
クロティスはその場で方法を話した。
「確かに...成功する可能性はありますが...危険ですね...ですがいざとなったら、わ、私が行きます!私だって一国の主の娘ですから!」
ネオンは心配そうな顔を浮かべている一方で、クロティスは何かを考えていた。そしてクロティスが口を開いた。
「いや、その必要はない。私が行くよ。」
この言葉にルナだけでなくネオンも驚いていた。それもそのはず、この方法とは北の王国に直接行き、交渉することであるからだ。もし交渉が破断となれば、交渉に行った張本人のみでなく、国が滅ぶことになる。
「危なすぎるよ!」
ネオンはすぐに反応する。
「そうです、クロティス様はこの王国の臣下じゃないんです。任せるなんてできません...」
ルナもそれに賛同する。しかし、クロティスはそれを聞こうとしない。
「この方法は誰かが犠牲にならなきゃならないんだ。ただその犠牲が私になる、それ以上もそれ以下もない。」
クロティスは二人の静止を振り切って北の王国へと向かおうとした。しかし、ネオンが後ろから掴み、強引に引き止めた。
「さすがに危ないから...行くんだったら私も行く。」
ネオンは絶対にクロティス一人では行かせないと言うが、クロティスは一人でいこうとネオンを諭す。
長い間二人は言い争っていたが、最終的にはクロティスが折れ、二人で行くことになった。
二人はすぐに準備を済ませて北の王国へ向かった。
「絶対に帰ってきてくださいねー!」
ルナの見送りに手を振りながら二人は北に向かった。
北の王国は遠くなく、数時間後にはルナ王国と北の王国の境界へと到着した。
「ここからは全員が味方とは限らないからね。」
「わかってる。」
ネオンとクロティスは急ぎながらも慎重に北の王国の中心地へと向かう。
二人が歩いていると、目の前に騎士団が現れた。
「そこの旅人の方、どこからいらっしゃったのですか?」
騎士団の一人が尋ねる。クロティスは口が裂けても南からとは言えない。ネオンがとっさにごまかす。
「私達は東の方から来て、国をまわってるところなんです。」
「そうでしたか。最近、南の国からの入国が増え始めていて、気をつけてくださいね、危ない人が多いですから。」
「わかりました。覚えておきます。」
騎士団は去っていき、なんとか窮地を脱した。騎士団が見えなくなって、ネオンは安堵した。
「はぁ〜...よかった。バレそうで怖かった〜。」
騎士団は去っていったというのに、クロティスはまだ警戒を続けていた。
「クロティスどうしたの?騎士団ならもういないわよ?」
「私の感じたものが間違っていなければ、正体がバレている。あの騎士団のリーダーのような青年、明らかにわかっているような口ぶりだった。」
クロティスがネオンにそう話した時、ネオンの後ろにはすでに騎士団が立っていた。
「ネオン、危ない!」
クロティスがすぐにネオンの後ろ側へと行き、騎士団と対峙する。
「お前ら、なぜ私達に攻撃する。私達はただの旅人だ。」
クロティスが冷静を装って尋ねる。その質問に対する答えはクロティスが予想しないものだった。
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。クロティス。」
「なぜ...私の名前を...」
「我が王国が自国の領土のみで情報を得ていると思ったら大間違いなんですよ。あなたもその程度なんですか...まだまだですね。」
「この国が半独裁国家って言う話は本当だったんだな。」
「独裁だなんて人聞きの悪い言葉ですね。私達はただ情報を集めているだけですから。」
世界の裏では、北の王国は独裁国家と揶揄され、国に流れている情報の少なさから統制が行われていると有名であった。
「ところで、お前たちは騎士団なんだろう?国王はどうしているんだ?」
「国王はずっと寝たきりですから。私達が治安維持をしているのもそのせいです。」
「そうか...ところである噂があるんだ...国王が幽閉されていると。」
クロティスは騎士団の怪しさを見抜き、脅しをかけた。
「これが国民に伝わったら...国はどうなるだろうな。しかも、首謀者は騎士団。もっとすごいことになりそうだ。」
「...脅しですか...わかりました、一旦ここは引きましょう。ですが、さっさと国に帰ることです。次あったら命はありませんよ。」
「そんな減らず口をたたいている暇があったら、国王の幽閉を解いたほうがいいんじゃないか?」
「…そのまま勝手に喋っておけばいいですよ。」
騎士団は元来た方向へと帰っていった。クロティスは急いで王国の中心部へと向かった。
「次会えば確実に戦闘だ。さっさと行こう。」
「国王の幽閉なんて...本当なの?」
「ああ。おそらく本当だ。」
クロティスが言った国王の幽閉とは北の王国の政治が大きく変わった時をきっかけとして起こったとされているものだ。長年、北の王国はルナ王国との対立で戦争を繰り返していた。しかし今の両国王は友好関係を築き、国家の対立はなくなったものとされていた。しかし、数年前から北の王国は再び対立を引き起こし、ルナ王国からの旅人などを拘束、もしくは殺害までしていた。その数年前から囁かれているのが、国王が幽閉されているという噂だった。
「もし本当なら...どうして国王が幽閉されてしまったの?」
「それは...本人に聞いたほうが早いんじゃないか?」
ネオンは納得したのかクロティスに黙ってついてきていた。
二人が急いで中心部へと向かうと、城の全面に軍隊が張り付いていた。おそらく先程の騎士団である。
「これはまずい...ただでさえ時間がないのに...ここまで対応が早いとは...」
「クロティス!あそこ見て!」
ネオンが指さした先には不自然に軍隊がいない場所があった。そして入口がある。どう見ても怪しいのだが、今は方法がない。二人はそこから城に入ることを試みた。
「静かに行くぞ。」
夕方になり、あたりの兵が油断し始める時間を見計らって、二人は入口を目指した。
「静かに...静かに...」
ガサッ。ネオンの足に何かが引っかかって音を立て、兵がネオンの方を向いた。なんとか兵が気づくことはなかったが、ネオンは足に引っかかったものを取らない限り、その場から動けない状況になってしまった。
「クロティス...先行って...」
ネオンが小声でクロティスに言うが、クロティスはネオンの足に引っかかったものを取ろうとする。
二人が悪戦苦闘していると、何かの楽器の音が鳴り、兵が数人を残してどこかへと行った。すぐにクロティスは立ち上がり、近くの二人の兵に攻撃し、気絶させた。
「ネオン、とりあえずこれで大丈夫だ。一回座れ。」
クロティスがあたりを見回して、人がいないことを確認し、ネオンの足元を見た。ネオンの足には罠のようなものがかかっていて、それを無理に取り外そうとすると、おそらくネオンの足に傷がつくようなものであった。
「クロティス、これ外せる?」
「おそらく外せるが...時間がかかる。」
「私をおいていっていいよ、だから行ってきて。」
ネオンがそう提案するが、クロティスは反応せずにネオンを持ち上げて、城の中へと入った。
「少しの間だ。我慢してくれ。」
「え!?」
ネオンはいわゆる[お姫様抱っこ]をされたことにびっくりし、恥ずかしさからしばらく下を向いていた。
城の中につき、一度ネオンをおろしたクロティスは慎重にネオンの足についた罠をはずす。
「あまり複雑な構造じゃないみたいだ。もうすぐ外せる。」
クロティスの言った通り、罠はすぐに外すことができた。
「ありがとう...クロティス...」
「一応敵の陣地だ。気をつけないとな。顔が赤いぞ?大丈夫か?」
「うん...大丈夫...」
ネオンの方はまだ恥ずかしさが抜けていないらしい。
そんな話をしながら二人は城の中へと入った。城の中は複雑であったが、国王の部屋はすぐに見つかった。
国王の部屋は中ではなく、外に面していて、外のバルコニーに行かないと中に入れない部屋になっていた。
「失礼しますよ。」
クロティスが中に入ると、そこには確実に寝たきりではない元気そうな国王がいた。
「誰だお前!私の命を狙う者か...!」
突然のクロティスの侵入に驚いた国王がクロティスに対して大きな声を上げたが、クロティスは冷静に返した。
「いえ、そんな気は滅相もございません。私達はあなたを助けに来たのです。」
「助けに来た...?何を言っているんだ。」
「国王様は今、この部屋に幽閉されているのでしょう。我々はそれを助けに来たのです。これはルナ王国の王女の命令でもあります。」
「ルナ王国、懐かしい響きだ。どうやらお前は怪しいものではないようだな。」
「ええ。私は冒険者ですから。」
クロティスは国王に騎士団のことを全て話した。
「騎士団が勝手にルナ王国の民を虐げていると?」
「そうですね。拘束で済むなら別ですが殺害が起きている可能性もあると。」
「私はあいつらを信頼して任せたのに、裏切りおったな...」
「任せた...ということは国王様は自ら幽閉を選んだのですか?」
「ああ。私はもう死が近いからな。」
「そうなのですか...しかし国王様はまだお若いのではないんですか?確か、まだ30歳ほどでは。」
「病気を持っていてね、あと数年しか生きられないんだ。」
「病気ですか...聞いたことがありませんが。」
「数年前にな、風邪をこじらせてからというもの体がさらに弱まってしまったんだよ。」
国王の病気は世界中の人々どころか、国民にも知られていないと言う。それにはクロティスも驚いていたが、ある程度予想のついていたことだった。
「ところで国王様、ひとつだけお聞かせ願いたい。あなたはルナ王国との戦争をお望みですか?」
クロティスがそう尋ねると、国王からは予想通りの返答が帰ってくる。
「ルナ王国は私が国王になってからの長い間、何度も助けてくれた。国王は私の恩人だ。戦争なんてまったく起こしたくない。」
「ならば、お願いがあります。」
クロティスが言おうとした時、扉が勢い良く開いた。
「国王様!ご無事ですか!」
騎士団の青年を含めた数人が部屋へと押し入り、そのうちの一人がクロティスに剣を突き立てる。
「動くな!」
クロティスはその騎士によって扉の近くまで追いやられた。青年は、国王の無事を確認した後、クロティスを危険人物と決めつけた。
「お前、先程忠告したと言うのに、国王様の暗殺を企てるとは。生きては返さないぞ。」
「国王の話を聞かず、一方的な抑圧。それが騎士団のやることか。」
「国王を呼び捨てにするな!」
騎士がクロティスを殴ろうとした...が外で待機していたネオンがその騎士を横から蹴り飛ばす。
「恥ずかしいと思わないの?!あなたたちがやってることは国王を守ることなんかじゃない、権力を濫用しただけの独裁よ!」
「生意気なガキが....調子に乗るな!」
ネオンは戦闘では強いが、圧には弱い。騎士に怒鳴られ、ネオンは震えている。
「いい加減にしろ!調子に乗ってるのはお前らの方だとわからないのか!!!」
クロティスが怒鳴ると、騎士団の青年が不適な笑みを浮かべた。
「ならば、ここで国王を殺しますか?」
「な、何をする気だ!」
青年の一言に国王が驚く。青年は剣を抜き、その剣を国王に向けた。
「や、やめろ!そんなことしていいと思っているのか!」
「今ここであなたを殺せば、すべての罪はこの旅人に着せられます。私がやったことにはならないんですよ。」
青年が剣を振り上げる。
「やめろ!」
クロティスが大声を出しても、青年には届かなかった。
青年が剣を降り下ろそうとした瞬間、青年が真横に吹き飛んだ。
青年が壁に叩きつけられた後、他の騎士も次々に壁に向かって吹き飛ばされる。それは明らかに外部からの攻撃だった。
今回も無事に5000文字でございます。
今月中にたくさん投稿していきます。