序章『不思議な棺と冒険者』
更新不定期ですが、こつこつやっていきたい。
後、今度こそデータ飛ばない様に頑張りたい。
──『夢』のない冒険者はいないと誰かが言った。
「………っ⁉︎」
硬い地面を転がりながら、茶髪の少年は即座に体勢を立て直して武器を構える。
片手剣を向ける先には、四足歩行の獣がいた。
頭にはツノがあり、鋭い牙に爪、長い尻尾、おまけには羽根に見える部位もある。
「夢みてえな魔物だな……、」
戦いたいかと言われれば、別にそうでもない。
絵本で見た絵は確かに男の子なら憧れる存在かもしれないが、じゃあそれと戦いたいかと言われれば、勝てる気はしない。
あれは主人公が伝説の戦士とか、最強の聖剣とか、特殊な能力があるから勝負ができているのだ。
──今の自分にそんな力はない。
「グルルルルゥゥゥゥ!」
低く唸る獣は、やがて大きく息を吸い出した。
それが今までの攻撃のモーションとは違って、嫌な予感と共に濃密な死の予感が脳裏に過ぎる。
吐き出されたのは──燃えさかる火炎だった。
「嘘だろ……っ⁉︎」
吐き出された荒々しい火。
本当に御伽話に出てくるようなドラゴンの様な攻撃を少年は間一髪で回避する。
今日ほど自分の足が速いことに感謝した日はないかもしれない。
(これ、勝てるのか……?)
果たして、あの硬そうな体に刃は通るのだろうか。
自分の持てる力で効くものがあるだろうか。
運が悪いことに、一緒に来ていた仲間も今は近くにいない。本当に偶然、この新種の魔物とエンカウントしてしまったのだ。
「……っ‼︎‼︎」
剣を構えて身構える前で、ドラゴンの様な魔物がその前足を突き出してきた。
その攻撃を受けきろうとし、失敗を悟る。
誤算だったのは、予想以上のその膂力だった。
(あ、これヤバ────っっっ)
選択肢を間違えた。
ミシミシ、と突き出してきた前足の攻撃を受けた片手剣を握る両腕が軋むような音を出している。
そのまま背後へと吹き飛ばされ、再び迷宮内の地面を転がっていく。
全身の痛みに耐えながら体を起こせば、周りは知らない景色へと変わっていた。
「………痛た……っ、? ここ、は……?」
今まで、この迷宮の中でこの様な場所は見たことがない。
緑の木々が生い茂り、苔まみれの石垣が点々と存在している遺跡の様な建造物もある。
しかし、何よりも気になるのはその遺跡の中心に鎮座する箱のような、棺にも見える何か。
(……迷宮らしい、まるで宝箱みたいな、)
かなりデカい。大人一人は楽々入りそうなくらいには長い箱だった。
箱の中心、正方形になっている部分へと手をかざすと棺の青い線が光出す。
それと同時に、ズン、と大きな足音が耳に入る。
「ちっ……もう追ってきたのか……」
ドラゴンの様な魔物もすぐそこまで来ている。
この場所にもう退路はない。
目の前の脅威を排除する以外の選択肢は存在しない。
(…………まだ、死にたくない、)
ここが、自身の冒険の終着点ではない。
無我夢中で、生き残る為の打開策を見つけるべく少年、冒険者ラージはその箱を開けた。
「っ、これ……は、」
しかし、そこにあったのは伝説の武器でもなければお宝でもなかった。
「女の子…………?」
冷たい風に吹かれながら開いた棺の中には、金髪の少女が入っていた。
しかし、この時まだ、少年は知る由もなかった。
この出会いから、停滞した世界の秒針が動き出したことを。
これは、地底世界に棲む冒険者が地上を目指す冒険譚。