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ヒロインの登場です!どうやらヒロインはお兄様を攻略対象にしたようです!(3)

 クリスタルガラスがキラキラと光の粒子を纏いながら、眩しいほどに輝く大シャンデリア。

 それらの煌めく粒子たちを音符へと変え、宮廷楽士たちが奏でる荘厳でありながら、優美でもある繊細な旋律。

 そしてその旋律の中で、大輪の花が咲くように微笑み合う紳士淑女たち。

 今宵だけは特別と、王城の大ホールでは華やぐ談笑の輪に呑まれ、男女の機微にも敏感に、甘い誘惑へとその身を委ねる―――――


「…………………………」

「ユーフィリナ、大丈夫か?」

「…………だ、大丈夫……ですッ」

 私をエスコートしてくれているお兄様にはそう答えたものの、実際はまったくもって大丈夫ではなかった。

 その証拠に、私の声は見事に裏返ってしまっている。

 ただそんな声に関係なく、私の手を引くお兄様にも、私の前を優雅に突き進んでいくお父様やお母様にも、さらには私の後ろに控えるアカにも丸っとお見通しなわけで、私は皆からの苦笑を受け止め、思わず小さくなった。

 といっても、公爵令嬢としての立ち振る舞いとしておかしくない範囲でだ。


 あぁ………着いたばかりだけれど、もう疲れたわ。

 できることなら、今すぐ帰りたい。


 引き籠もり丸出しの思考で、私はこっそりとため息を吐いた。

 

 

 お兄様の話を聞いてから二週間。

 実際、学園に行きたくとも行けなかった。

 というのも、私が引き籠りをしていた間、お兄様自身が何かと忙しく、王城へ召喚されることが多かったからだ。

 おそらく先日のアリオトの件や、今回のスハイル殿下の“先見”の能力の顕現で、お兄様は事後処理やら、事前準備やらに追われていたのだろう。

 そのため、お兄様と会えるのは毎日の日課であるおまじないの時だけなのだけれど、十分にも満たない時間でありながら、私にとっては色んな意味でぎゅっと凝縮されたかなり心臓に悪い時間となっていた。

 ん?忙しいのはお兄様であって、私ではないのだから、学園に行けたはずだ――――――なんてことは思うことなかれ。

 なんせ、超絶シスコンを売りにしているお兄様である。

 自分が一緒に行けないのに、私だけを学園に行かせるわけがない。

 たとえ守護獣であるアカが一緒であったとしてもだ。

 そんなわけで私は、仔狼となったアカと一緒に暇を謳歌するよりほかなかった。もちろん内心は、迫りくる舞踏会に胸を高鳴らせるどころか、戦々恐々としていたのだけれど。

 そして、私がお兄様の許可を得て(追加された例の痕が完全に消えて)、部屋から出られるようになったのは舞踏会の五日前で、そこからはただただ衣装合わせやら何やらで忙殺され、あれほど行きたかった学園もスコーンと頭から抜け落ちていた。

 ちなみに、お兄様に多忙を極めさせた要因の一つであるアリオトは、何故かシロと一緒に我が公爵家に身を置いているらしい。

 ここで敢えて“らしい”と付け加えたのは、あの一件以降アリオトを一度も見ていないからだ。

 なぜなら、有り余る公爵家の一室にお兄様が転移魔法陣を敷き、その魔法陣を使って毎日あのシロの屋敷―――――――アンゲリー伯爵邸へとシロと一緒に通っており、ほとんどこちらの屋敷には、寝起きのためだけに戻ってきていると言ってもいいくらいだそうで…………


『だったらずっと伯爵邸にいればいいのに。お兄様の転移魔法陣があるとはいっても、毎日通うだなんて、大変ではないのかしら』


 ………などと呟いたところ、『それでなくとも雪豹(あいつ)はユフィと少しでも一緒にいたいんだよ。だから寝起きだけでも同じ屋根の下がいいらしい。どうやらあの好奇心旺盛な“魔の者”もな。だから、あいつらの気が済むように、ここから通わせてやってくれ』と、アカからため息交じりに言われてしまった。

 もちろん私としては問題はない。むしろ、シロとアリオトと、できることなら会って話したいとも思っている。

 誰かからの伝聞ではなく、直接自分の目と耳で彼らの現状を知り、彼らが今何を思い、どんな表情を浮かべているのか知りたかった。

 

 彼らが少しでも今を、幸せだと感じているのかどうかを………………


 しかし、今の彼らはある作戦と責務で正直それどころではないらしい。

 それというのも、あの日突然やって来たもう一人の“魔の者”、フィラウティアに怪しまれないようにするためと、現時点ではれっきとした伯爵であるシロは、与えられた爵位に対しての責任があり、後継者が決まるまでは屋敷を守る義務があるためだ。

 そしてそんなシロに、アリオトは盛大に文句を垂れながらも、ちゃんと付いていっているらしい。

 それは時に、引き摺られるようにして―――――――

 

『いい加減諦めて、大人しく付いて来なさい!』

『ユフィに会ってから行く。あれから何日会ってないと思ってんの?ボク、ユフィ欠乏症で死んじゃうよ』

『貴方だけがその病を発症していると思ったら大間違いですよ。とにかく今は、フィラウティアのことをなんとかするのが先です』

『あんな面倒な奴の相手なんかホントにしたくないんだけど。同じ“魔の者”でもボクとフィラウティアでは、そもそも感性が違うっていうかさ、話が合わないっていうかさ…………』

『わかっていますよ。貴方は好奇・快楽の“魔の者”。興味がなければ、振り向きもしませんが、フィラウティアは違います。彼女は色欲。それも我が強く、この世界の男性すべてを、自分に傅かせようなどと考える下劣な思考の持ち主です。だからこそある意味、フィラウティアは魔王の意志に忠実だとも言えます。この世界の愛し子、“神の娘”を葬るという意志に』

『まぁね。フィラウティアにしたら、己の欲を満たす上でも、ただただ邪魔な存在でしかないんだよ。千年前も今もね』

『だとしたら、尚更私たちはユフィの存在をフィラウティアに気づかせるわけにはいきませんね。それでも何かしら気づいているようではありますが…………』

『そりゃ、気づいているだろうね。フィラウティアだって、“魔の者”に違いないしね。とはいってもさ、まさかこのボクが先にユフィを見つけて、そのユフィをベッドで美味しくいただこうと………って、痛い痛い痛い!ちょっと頬を抓らないでくれる⁉』

『おやおや、回復力は人間の約200倍だと聞きましたが、痛みは同じようにあるみたいですね』

『当たり前だろ!あぁ……クソッ!やっぱり一度ユフィに会ってから……………って、危ないな!いきなり攻撃魔法を発動してくるんじゃない!』

『今すぐここで塵となって消えますか?それとも大人しくフィラウティアの餌になりますか?後者なら、フィラウティアが片付き次第、ユフィに会えますよ。私も伯爵をやめて、守護獣に専念しますし』

『………………ったく。この極悪っぷりで聖獣とかほんと聞いて呆れるね』

『何か言いましたか?』

『別に何も!』


 なんてやり取りをしつつ、アリオトはシロに首根っこを掴まれて、強制的に連れて行かれたらしい。

 あの一件まではシロの方がアリオトに隷属していたというのに、変われば変わるものである。

 とはいっても、アリオトは今も正真正銘の“魔の者”であることに変わりはない。

 ただ、今こうして大人しくしているのは、あの時私に祓われた闇が、現在七割ほど戻ってきてはいるものの(本人談)、何故かそれ以上は戻らず、未だ完全体ではないことがその理由の一つらしいけれど、どうやらアリオトの興味の対象が私であることも大きな理由となっているらしい。

 その事に若干複雑な気持ちはあるけれど、あの時思ったように、アリオトの心にもいつか希望という名の光が射せばいいなと、本気で願っているし、必ずそうなると信じている。 


 この世界をあまねく照らす光が、アリオトの心にも届くことを。

 

 

 そして舞踏会三日前、お父様とお母様が領地から王都へと馳せ参じてきた。

 念の為に言うけれど、転移魔法陣による移動ではない。

 それこそお兄様の転移魔法陣を使えばいいと思うのだけれど、お兄様曰く――――――

『転移魔法陣には対となる魔法陣が必要だ。領地には確かに転移魔法陣はあるが、あの魔法陣の対は王城にあるものであって、この屋敷にあるものではない。いつか領地へ戻った際に、対になる魔法陣を敷いてきてもいいが、今は王都を離れるわけにはいかないからな。父上と母上には地道に帰ってきていただこう』

 ということで、お父様とお母様は馬車に揺られながら王都の屋敷へと帰ってきた。

 もちろんこの時期にわざわざ領地から帰ってきたのは、次期国王陛下となるスハイル王弟殿下の“先見”の能力顕現を祝うためなのだけれど、帰ってくるなり早々、なんなら『ただいま』と言う前に、両親揃って声高々と宣言した。

 

『『ユーフィリナは、お嫁には出さない(しません)!』』


 どうやらお兄様と同じ見解だったらしく、両親の中でも私はスハイル殿下の婚約者最有力候補らしい。

 そしてさらに、両親は家の者たちの前で堂々と宣わった。


『『南の公爵家の威信にかけて、スハイル殿下とユーフィリナの婚約は断固として阻止する(わ)!』』


 それに対して、家の者たちが顔を引き攣らせるかと思いきや、何故か満面の笑みでのやんややんやの拍手喝采。

 何、この団結力…………と、私が顔を引き攣らせたのは言うまでもない。

 というか、そんなことに…………いや、決してそんなことではないけれど、南の公爵家の威信はかけないで欲しい。

 それはある意味、立派な反逆罪だ。

 しかし、お兄様もまたよく言ったばかりにうんうんと頷くだけで、この屋敷の常識人は私だけのようだと改めて思い知る。

 悪役令嬢で、“神の娘”の生まれ変わりという非常識な身ではあるけれど。

 もちろん私の素直な気持ちとしては、非常に有り難いとは思う。

 箱入り上等、引き籠もり大歓迎と思っていたところなので、婚約阻止は願ってもないことだ。

 しかし、相手は王家。

 うちはその臣下。

 どれだけ、王家との結び付きが強くとも、仕える立場であることに変わりはない。

 だからせめて穏便に…………と、思うのは当事者である私だけで、お兄様を筆頭に、王城を砂地に変えるくらいのやる気を漲らせていた。

 

 そんな中で迎えた舞踏会当日。 

 気が重いなんてものじゃない。

 胃に穴が開きそうなレベルで、本当に居た堪れない。

 自分が婚約者として正式に選ばれてしまうかもしれないことはもとより、三日経っても、お父様たちの熱は冷めることなく、それどころか益々ヒートアップさせて、王家に対し喧嘩腰でこの舞踏会に乗り込んできているのだから、当然気だって重くなる。

 ある意味、ちょっとした殴り込みのような状況だ。

 しかし、それを表面上はおくびにも出さないのだから、さすが最高爵位の貴族といったところだろう。

 そして、殴り込みの装いにしては、不相応なほどに、とても華やかで――――――――


 お父様とお兄様は、襟元と袖口に銀糸と淡紫の糸で丁寧に刺繍が施された細見の夜会服姿で、それぞれがクラヴァットにお父様はお母様の瞳の色であるアメジストを付け、お兄様はエメラルドを付けている。

 自分で言うのもなんだけれど、お兄様のエメラルドは私の瞳の色だ。

 間違ってもお父様の瞳の色にちなんだわけはない。いや、ないと思う。というか、思いたい。

 そしてそれだけで、なんだか嬉しくも、面映ゆくなってしまうのだから、恋する乙女の心境はなかなかに忙しい。

 そしてお母様の遠縁の者として出席しているアカもまた、黒を基調とした麗しの夜会服姿で、左の胸元に燃えるように赤い薔薇の刺繍をさりげなく配している。

 さすが炎狼。

 なかなか粋な自己主張だと思う。

 対する女性陣はというと、お母様はお父様の髪色である銀糸の刺繍と無数のダイヤが施されている、華やかでありながら決してゴテゴテしすぎない洗練された濃紺のドレス姿。

 そして私は、淡紫から鮮やかな紫へのグラデーションが美しいシフォンを幾重にも重ねたドレス姿で、お兄様の髪色と同じ紫銀の糸で花の刺繍がドレスの裾を細やかに飾り、さらには純白のチュールレースが可愛さとエレガントさを両立させている。

 明らかに二週間そこらで俄かに仕立てられたものではないドレスだ。

 あまりの準備の良さに、専属侍女であるミラとラナに聞いてみると、どうやらお茶会や舞踏会があるなしに関係なく、季節ごとに三着ずつドレスが新調されているそうだ。

 つまり、引き籠もり令嬢であるにもかかわらず、たとえ着ていく場がなくとも年に十二着ものドレスが用意されているわけで、金銭感覚が前世の節約命の一般人である私にとっては、お金を溝に捨てているような気さえする。

 なんせ、箪笥の肥やしでしかないドレスを毎年せっせと作っているのだから。

 しかし、このように急遽舞踏会が催されるような事態を思えば、やはりこれは爵位を持つ貴族として必要経費なのだろうと、公爵家の財力に今更ながら遠い目となる。

 うん、郷に入っては郷に従えだ――――――と、どうにも身に余ってしまうドレスを眺め、自分はやはり異世界にいるのだと改めて自覚した。

 けれど、家の者たちは違ったようで、特にミラとラナはデビュタント以来の私のドレス姿にただただ目を輝かせ…………

『あぁ~お嬢様、美しすぎです!眩しくて、目を開けていられません!本当にこれは危険です。会場にいるすべての殿方たちを、たちどころに魅了してしまうことは間違いないでしょう。だから、何があっても絶対に絶対にお一人になってはいけませんよ。不埒なことを考える者に誘拐されかねませんからね。あぁ……それにしても私たちのお嬢様は、なんて神々しくて美しいんでしょう。心が洗われるようですわ」

 と、目が開けていられないと言いつつ、全身穴が開くように見られ、さらには危険物扱いされた上に、最終的には胸元で手を組み、祈られてしまった。

 なんとも大袈裟である。

 しかしながら、主人想いの優しい侍女たちだと、心から思う。

 このような地味顔を持つ主の気持ちを少しでも上向きにさせようと、それはもう涙ぐましいほどに必死に褒めてくれたのだから。

 さすがに祈るのはやめてほしかったけれど、二人のおかげで多少の勇気が持てた。

 正直、麗しき彫像の化身の如きお兄様の横を歩くのは、少々…………いえ、かなりの抵抗がある。

 自分の気持ちに気づく前までは、兄と妹だからと割り切り、むしろ素敵なお兄様を自慢する気持ちすらあったのだけれど、今はそんな気など微塵もなく、つり合いがとれない自分を情けなく思うばかりだ。

 けれど、いくら心中は穏やかでなくとも、会場に足を踏み入れた以上、下を向いているわけにはいかない。

 そう、痩せても枯れても私は公爵令嬢であり、この場でのお兄様のパートナーは私なのだから。


「今日はシロもアンゲリー伯爵として出席しているはずだ。会場のどこかで会うと思うが、決して“シロ”などとは気軽に呼ばないように」


 後半の注意よりも、シロに会えるかもしれないという喜びに、私はお兄様を見上げふわりと笑う。

 もちろんアリオトのことも気になったけれど、この場でアリオトの名前を出すわけにはいかないと自重した。

 私だって時と場所は選ぶのである。

 

 

 キラキラと眩しいほどに輝く大シャンデリアの下で奏でられる荘厳でありながら、優美な旋律。

 その悠然と流れる旋律の中で、談笑に花を咲かせながら微笑み合う紳士淑女たち。

 今宵だけは特別と、男女の機微にも敏感に、甘い誘惑と探り合いが笑顔の裏で密やかに行われている。


「では行こうか。私の姫君」

「はい。お兄様」


 触れたお兄様の腕の温もりを(しるべ)に、私は煌びやかな世界へと足を踏み出した。


 


 

 

 

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪



一日遅れの投稿です。

すみません。

実はあるアプリを使って書いているのですが、

突然そのアプリが固まり、文章が書けなくなるどころか、文章を保存しているページにも辿り着けない事態に………

でもなんとかアプリ運営者さんの手を借り

保存していた文章に辿り着けました。

また1からなんて軽く死ねます。


そんなわけでお話は、いよいよ舞踏会へ突入です。

そして次回はようやくヒロインの登場となりそうです。



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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