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ヒロインの登場です!どうやらヒロインはお兄様を攻略対象にしたようです!(2)

「スハイル殿下が“先見”の能力を顕現された…………?」

 

 お兄様が口にした言葉をほぼそのままオウム返しで口にして、私は一旦そこで思考を止めた。

 正直言うと、スハイル殿下が能力を顕現させたことにも十分驚いたのだけれど、ただ話があまりにも突然過ぎて、面食らってしまったのだ。

 それもそのはず、この台詞を口にする前、お兄様はこう告げていた。


『ユーフィリナ、学園には行くな』


 ―――――――――と。

 学園に行ってはいけない理由をその後に述べるならまだしも、次に発せられた言葉は、スハイル殿下の関する報告だ。

 私が呆けてしまうのも、ある意味仕方がないことだと理解してほしい。

 けれど、お兄様はその突拍子もない話題変更から、さらなる急展開な話題変更をやってのけた。

「そこで、今度舞踏会がある」

「はい?」

 学園には行っては駄目で、スハイル殿下が“先見”を顕現させて、そこで舞踏会。

 本当に話が飛び散らかっている。

 いやいや、お兄様はここまで話下手だったかしら…………などと、内心で首を傾げながら、再び重い腰を上げるように、ゆっくりと動き始めた思考で、自分なりに話の脈絡を繋げてみることにする。

 これはちょっとした連想ゲームのような状況だ。

 しかし、今日の私の冴えはなかなかなものだったらしい。

 それは見事に話を繋げてみせた。

「えっと……つまり数日前に(私が部屋に閉じ込められている間に)、スハイル殿下が“先見”を顕現されたので、そのお祝いとして舞踏会が催されることになり、その準備やら何やらで今は学園に行っている場合ではないと?」

 我ながらなんて素晴らしい読解力だと、ここぞとばかりに自画自賛しておく。

 それに、改めてそう口にしてみて、ようやく腑に落ちたというか、すべてにおいてしっくりときた。

 飛び散らかったパーツが、綺麗に収まるべき場所に収まり、正解を引き当てたくらいの気分だ。

 なのに、何故か目の前のお兄様は微妙な顔つきとなってから、「まぁ、そんなところだ」と、肩を竦め言葉を濁した。

 大正解の百点満点をもらう気でいたのに、「う~ん……ちょっと違う気もするけど、今回はおまけで〇にしておくか」と、甘い採点をつけられたかのような、なんだか素直に喜べない気持ちになる。

 そんなちょっと不満げな気持ちが、やや尖らせた唇あたりに駄々漏れていたらしく、お兄様は私を宥め賺すように頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。

 それから困り顔を苦笑に変えて、正解となる答えを口にした。

「確かに名目上は、お祝いという形で舞踏会は開かれるが、実際のところそうではない。今までは現国王陛下に世継ぎがいないことから、あくまでも対外的に王位継承権第一位とされていたが、“先見”の能力が顕現したことで、次期国王陛下は正式にスハイル王弟殿下となった。そこで急遽、スハイル殿下の婚約者を発表する場として舞踏会が催されることとなったというわけだ」

「婚約者を選ぶのではなく、その場で発表するのですか?つまりスハイル殿下には、すでに婚約者となるべき方がいらっしゃるということですね」

 思わずそう聞き返してしまったのは、今までそんな浮いた噂を聞いたこともなければ、スハイル殿下の周りにそのような影がちらついていた記憶もまるでないからだ。

 しかし、決して自慢ではないけれど、私は社交界の噂にかなり疎い。

 デビュタント以降、一度も社交界に顔を出したことすらない、筋金入りの箱入り令嬢だ。

 そのため、私が知らないだけで、世間では既知の事実として広く知れ渡っている可能性も大いにある。

 そこでお兄様に尋ね返してみたのだけれど、お兄様は即座に否定で返してきた。

「いや、今の時点で殿下にそのような方はいない。だからこそ、発表という形で強引に決めてしまうつもりなのだろうな。国王陛下と王太后陛下は。ま、今回の舞踏会はその候補者であり、元より希望者でもあるご令嬢たちが集められるようだから、たとえ舞踏会で突然婚約者として名を呼ばれようとも、泣いて喜びはすれ、嘆き悲しむご令嬢はいないはずだ。それに、予め公の秘密としてこの舞踏会の思惑についても周知されるだろうから、皆その心積もりでの参加となる。だだ、中には名前を呼ばれては困るご令嬢もいるはずだ。たとえば、公にはできない身分違いの恋をしているご令嬢とか……?」

 お兄様はわざわざそこで言葉を切り、にっこりと見惚れるほどの綺麗な笑みを見せた。

 その美しすぎる笑みに促されるようにして、私の脳裏に浮かんだのは、シャウラとロー様の顔。

 まさか……と、不安の影がチラついた瞬間、お兄様が先を続ける。

「だが、そういった例外となるご令嬢に関しては予めスハイル殿下が名を呼ばないように裏から手を回すだろうから、その点についても問題はない」

「…………………………」

 よかったと思う反面、私はなんとも言えぬ気持ちとなっていた。

 シャウラのことは大丈夫そうだけれど、スハイル殿下は果たしてそれでいいのかと。

 確かに次期国王陛下として、世継ぎを残すためにも妃を得ることは、国として最重要案件だと思う。

 しかし、“先見”の能力が顕現したからといって、今すぐに決めなくてはならないものなのかと、疑問と憐憫が同時に湧き立ってくる。

 だいたい今の国王陛下だって、妻子はいらないと独身主義を貫いているというのに、スハイル殿下には有無を言わさず結婚させようだなんて、少し押しつけが過ぎるような気がしてしまう。

「スハイル殿下は…………それに対して納得されているのでしょうか?」

 もちろん王家の問題でもあるため、地味で存在感も魔力もない底辺オブ底辺である公爵令嬢の私が、どうのこうのと言えたことではないけれど、今や私にしてみれば、スハイル殿下はシェアトたち同様頼もしいお仲間の一人だ。いや、シャウラとアリオトの件が一応解決となるならば、だった…………と言うべきかもしれない。

 けれど、その人の立場上仕方がないこととはいえ、お兄様に聞かされた話は正直眉を顰めてしまうものだった。


 誰も、スハイル殿下自身の幸せは考えていないのではないか――――――と。


 しかしお兄様からの返答はまたもや予想外のものだった。

「…………スハイル殿下のことを、そこまで心配するとは、なんだか妬けてしまうな」

「…………はっ?」

 私は思わず目を見開いた。

 と同時に、じわじわとした熱が顔に向かって全身から這い上ってくる。

「ほら、こんなふうにすぐ顔が真っ赤になるのも、殿下のせいだと思うと許せない」

 なんてことを言いながら、まるで輪郭なぞるように、お兄様が私の頬に指で撫でていく。

 そのせいで、言葉の綾などではなく、本当に顔から火を吹いてしまいそうだ。

「お、お兄様……違っ…………」

「違わない。如何なる理由であれ、他の男のことで、お前が頬を染めることは許し難いことだ.。この潤んだ瞳も、小さく戦慄く唇も、私の心を波立たせ、悩ませる罪作りなものばかりだな」

 そう言って、お兄様は私の唇を親指で押し当てるようにしてなぞっていく。

 その仕草や、向けられる視線すべてが艶めかしくて、私の頭の中ではプスプス…………と、人としてあり得ない音を発し始めている。

 まさしく人体発火数秒前だ。

 もしかしたら全身から立ちのぼる湯気は、私の潤んだ目には見えないだけで、すでに目視できる状態にあるのかもしれない。

 それはうら若き麗しの(あくまでも年齢的には)乙女として、由々しき事態である。

 ここは是が非でも、私なんかよりもよっぽど罪作りなお兄様から離れるべきだと、私はじりじりと後退った。

 自分で言うのもなんだけど、これはれっきとした敵前逃亡。

 けれど、その逃げを目の前のお兄様は許さない。それどころか―――――――

「ユーフィリナ、先程も言ったが、その顔を男に見せるのは危険だ。それも自分ではない男のことを考えてそんな顔をしているのだと思えば、尚更穏やかではいられない。頼むから、いい加減自覚してくれ。このようなお前を、舞踏会に参加させねばならないとは、なんとも忌々しいことだ。いっそのこと王城を攻撃魔法で破壊して、砂地にしてしまおうか」

 などと、私の腕を掴みながら、説教と文句の同時発動だ。

 いやいや、ちょっと待ってほしい。

 私の顔が真っ赤になったのも、こんなにも挙動不審で逃げ腰なのも、元はといえはすべてお兄様が原因だ。

 しかも、その説教や文句に混じって不穏でしかない台詞が聞こえたのだけれど、私の空耳か、それとも単なる気のせいだろうか。いや、不穏な台詞はいつものことだとここは敢えて聞き流し、その前に聞こえてきた台詞をまず確認するべきだと、すぐさま思い直す。

 けれど、今の自分が混乱の坩堝にいることも、賢明な私はちゃんと理解しているため、もう一度お兄様に聞き直すことにする。

 そう、理解できないのなら何度も聞き直す。それは学業を本分とする学生の正しき行動だ。

 ま、今の私は学生としてではないけれど………

「あの……お兄様、今なんと仰られましたか?」

「いっそのこと王城を攻撃魔法で破壊して、砂地にしてしまおうか」

 うん、その不穏すぎる言葉も空耳ではなかったらしい。しかし今はその言葉ではなく…………

「いえ、その不穏すぎる台詞の前です」

「このようなお前を、舞踏会に参加させねばならないとは、なんとも忌々しいことだ」

 さすが記憶力のいいお兄様。

 私の質問に対して、自分の言った台詞を一言一句違わず口にしてくれた。

 そのことに感謝と称賛を内心でしつつも、私は驚きに目を丸くする。

「わ、私も参加するのですか?舞踏会に⁉」

 きっとお兄様に腕を掴まれていなれば、私はさらにそのまま後退り、よよよ……とベッドに倒れ込んでいたかもしれない。

 だって、そりゃそうだろう。

 お兄様の話によれば、この舞踏会の真の目的はスハイル殿下の婚約者を決めること。

 そのために、その候補者であり、元より希望者でもあるご令嬢たちが集められると、聞いたばかりだ。

 そこに私が参加するということは、もしかしなくても私はスハイル殿下の婚約者候補の一人ということで、今の今までスハイル殿下の心情ばかりを気にしていたけれど、もはやそれどころではない。

 対岸の火事が、勢い余って我が身に飛び火してきたかのようだ。

 しかし、お兄様は例外となるご令嬢がいるとも言っていた。その場合、名を呼ばれないように、スハイル殿下が裏から手を回すとも。

 もしかしたら、私はその枠に入るのではないかしら……と、自分にとってかなり都合のいい考えが巡り、淡い期待と希望らしきものがふと心に湧き上がる。

 すると私も単純なもので、お兄様はスハイル殿下の御学友だし、私はその妹なのだから間違いなくその枠ね…………などと、途端に気持ちが楽になって、浮上した気持ちのままお兄様を見上げた。その刹那、私は声なき悲鳴を喉の奥で上げる。

「お、おおおお、お兄様……お兄様の顔がとんでもなく凶悪なことになっています!」

 元々精巧に作られた彫像のように整った容貌のせいで、それはもう泣く子も黙るどころか、そのまま失神するくらいの凶悪さとなっている。なのに、これまた慄くほどに美しいとはどういうことなのだろうと思うけれど、今はその謎に果敢に挑んでいる場合ではない。

 けれどお兄様は、さも当然とばかりに口を開く。

「凶悪な顔にもなるだろう。スハイル殿下は………いや、御学友であるスハイルは私の性格や魔力を十二分に知っているから、そんな愚かな決断はしないだろうが、国王陛下と王太后陛下はそうではない。まったく知らないというわけでもないが、スハイルほど知っているわけでもない」

「えっと……それはつまり?」

 恐る恐るといった体でお兄様は上目遣いで聞いてみれば、お兄様はとんでもなく不愉快だと謂わんばかりに眉を寄せ、それからこの世の終わりを告げるかのような重苦しい口調で私の問いに答えた。

「“神の娘”の()()()()()()として認定されたお前は間違いなく、スハイル殿下の婚約者最有力候補だ。余程のことがない限り、国王陛下はお前の名を揚々と告げることだろう」

「そ、そんな…………」

 あまりの事態に私の思考が再び止まる。こうして私が部屋に閉じ込められている間に、あまりに状況が変わり過ぎだ。

 地味で、魔力枯渇寸前の、存在感すらない公爵令嬢でありながら、この世界における悪役令嬢であり、さらには“神の娘”の生まれ変わりという、なんとも非常識な役どころを得ている私が、今度は次期国王陛下となるスハイル王弟殿下の婚約者最有力候補――――――――

 

 あり得ない。

 そんなことは死んでもあり得ない。

 

 いや、公爵令嬢という立場的には十分にあり得る話だけれど、自分のことを()()()理解している私としては、その不相応さ加減に頭を抱えたくなってくる。

 しかし、お兄様に腕を掴まれているので、今はそれもできない。

 敵前逃亡も無理ならば、現実逃避も無理そうだ。

 そんな身動き一つ取れない私の頭上に、不穏な響きしかないお兄様の声が降ってくる。

 

「まったく、よりにもよってこんな時期に“先見”を顕現させるとは、間が悪いとしか言いようがない………だが、王家の思惑通りにはさせない。南の公爵家を敵に回すことがどれほど愚かなことか、この際王家にじっくりと味わっていただくとしよう」


 お、お兄様、それは完全に悪役キャラの台詞です。


 私は逃亡不可能な現実と、不敵な笑みを漏らすお兄様を前に置いて、今こそ真剣に一生箱入りでいいからこのまま引き籠りたいと切に思った。

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


皆様、台風は大丈夫でしたでしょうか?

私は大阪在住ですが、なんとか大丈夫でした。

本当に自然災害は怖いですね。


そしてお話は嵐の前の静けさといったところ。

今後、このお話の台風の目は一体誰となるのか。

楽しんで頂けると幸いです☆



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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