私、気づいてしまいました(15)
「暗黒せ……」
『お兄様、待って!』
それは反射だった。
考えての行動ではない。
もちろん“幻惑”の中にいる私の声は、お兄様にしか届かないこともわかっている。
でも私が止めたいのはそのお兄様なのだから、何も問題はない。
ただ問題があるとすれば、そう叫んだものの、その先のことは何も考えていなかった点だ。
しかし、私の声と同時にアリオトの影もまたお兄様の暗黒星から逃れるために動いた。
おそらくそれは“魔の者”であるアリオトの影の本能と呼ばれるもので―――――――
『シロッ!』
私にはアリオトの影が狙いを定めた先がわかった。
もちろんこれも熟考したわけではない。
勘だ。
しかし、この勘は外れないというこれまた根拠のない自信もあった。
今のシロは、自ら取り込んだ魔獣の血によってアリオトにその心臓を縛られ、隷属させられている。つまり、光を宿す聖獣でありながら、同時に闇もその身体に抱えているのだ。
ただ、そこにはトゥレイス殿下もいる。
ある意味、アリオトの影にしてみれば、わざわざ用意されたかのように二つの選択肢がある状況だ。
魔獣の血により闇に縛られた聖獣か、深い闇に溺れ僕と成り下がった人間か。
しかし今のアリオトの影に深く考える余裕はないに違いない。
聖獣か、人間か。
どちらの肉体が強く、弱いか。
どちらの魔力が優れ、劣るか――――――――ただ、それだけだ。
しかし、シロたちの傍にはアカがいる。
それに、レグルス様には“読心”があるし、シェアトには“言霊”もある。
サルガス様が“忘却”を行使すれば、アリオトはシロたちの存在も忘れてしまう。
如何なる方法を使ってもアリオトの影を止めることはできるはずだ。
それ以前に、お兄様がアリオトの影の反応を見誤ることはない。
だから大丈夫――――――――
そう思うのに、嫌な予感がしてならない。
そして、その嫌な予感は裏切られることなく、部屋に立ち込める重い空気を切り裂くように、アリオトの影は勢いよく触手を伸ばした。
それも数え切れないほどの触手を、やはりシロに向かって幾重にも。
それらをお兄様たちが、無詠唱の攻撃魔法で薙ぎ払っていく。
しかし、これではキリがないと思ったらしいお兄様は、再び暗黒星を発動させた。すると、それを察したアリオトの影は、シュルッとすべての触手を引っ込めてしまう。
けれど――――――――
「床だ!」
それはレグルス様の声と同時だった。
真っ黒な触手が、床を突き破りながら現れた。
おそらく、お兄様たちに気づかれないように、お兄様たちと攻防を繰り広げながら、その影でこっそり床下を這い進んできたのだろう。
その触手は迷うことなく、意識なく床で横たわるシロの身体にぐるぐると巻き付いた。
「くそっ……蛇みたいにニョロニョロと」
アカは悪態を吐きながら、咄嗟に攻撃魔法を繰り出そうとするけれど、それを放てば触手に絡め取られたシロも無傷でいられないこと察して、それを止めた。
そのアカの思惑をいち早く察し、シェアトが“言霊”を発する。
『聖獣雪豹を放せ!』
しかし、アリオトの影はそれに反応しなかった。
それを見たお兄様が、シェアトではなくレグルス様へと視線を向ける。シェアトもまた、戸惑いで瞳を揺らしながら、お兄様の視線を追うようにしてレグルス様を見た。
その意味を的確に読み取ったレグルス様は、肩をすくめながらそれに答える。
「アリオトの影は完全に自我を失っている。以前、守護獣殿がシェアトの“言霊”を強引に解除した時のようなものだな。といっても、オレはお前たちの報告でしか知らないんだけどさ。でも、“読心”で読む限りアリオトという人格――――――いや、影相手に人格と言っていいのかもさっぱりなんだけど、誰かさんのせいで完全に崩壊してしまっている。簡単に言えば、我を忘れて、聞く耳を持たないというか、周りの声が聞こえていないといった状況だ。そう、誰かさんのせいでね」
誰かさんのせいで――――と、二回も言ったレグルス樣に、お兄様は憮然とした表情となり、シェアトは渋い顔となった。
つまり今のアリオトの影にはシェアトの“言霊”は通用しないということだ。お兄様の追い込みが効きすぎて………………
しかし今は、それに弁解やら不服を申し立てている暇ないと、お兄様はそのままアカへと視線の矛先を変えた。
「イグニス!お前の聖なる光を使ってニクスを今すぐ目覚めさせるんだ!」
「言われなくとも!」
アカはそう叫ぶように応じると、シロを真っ赤な炎で包んだ。
それを見た私たちは(お兄様以外)ギョッと目を瞠る。
さすが炎狼なだけはあるけれど、聖なる光はそんな感じでいいのか正直なところ疑問しかない。
そもそも炎と光は似て非なるものだと思うのだけれど…………
しかし、そんな私たちの疑問を他所に、アカは堂々と宣った。
「オレに焼き殺されたくなかったら、いい加減目を覚ませ、ニクス!簡単に身体を闇に明け渡すな!ユフィにっこっぴどく説教されるぞ!」
確認するまでもなく、アカ自身が嵌められ、呪われた時のことを言っていることはわかる。確かにあの時の私は、すべてを諦め、シェアトに“死ね”と“言霊”で命じさせようとしたアカをしかり飛ばした。それはもう膝詰めの説教をする勢いで。
だから、アカの台詞の出処はわかる。理解もしている。だとしても、非常に人聞きが悪い。
ここはまず、シロではなくアカを説教すべきだわ…………
なんてことを思いつつ、私は真っ赤な炎に包まれているシロを見つめた。
シロは雪豹だ。
先程も人型から雪豹の姿へと戻る際に、この部屋を吹雪で白銀に染めていた。
どう常識的に考えても、炎とは真逆の存在であり、それを炎で包んでしまうなんて、いくらそれが炎狼にとっての聖なる光だとしても、雪豹にとっては堪ったものではないはずだ―――――と思う。
まさかこれは、アカなりのショック療法とかなの?
それとも今すぐ止めるべき?
いえ、お兄様が黙って見ているってことは、問題がないということかしら?
現実は、かなり緊迫しているにもかかわらず、あまりの常識はずれな光景に、私の思考は呆けてしまう。
でもさすがにこのまま放っておけば、シロが丸焼けになるか、そのまま溶けて消えてしまうかもしれないと、私は“幻惑”の中からお兄様にアカを止めるように頼もうと口を開きかけた。けれど、それよりも早く、部屋に猛烈な吹雪が駆け抜ける。
「イグニス!私を焼き殺す気ですか!毎度毎度、こんな起こし方をして、私の繊細な美しい毛並みが少しでも焦げついていたら許しませんよ!」
床に横臥していたはずのシロは、自ら起こした吹雪でアカの炎を消し去ると、平然と起き上がった。
しかも、四百年ぶりの再会などという感傷は露ほども見せず、アカに当然のように噛みつきながら。
けれど、着ている服にも焦げ跡一つなく、人型となっているシロの顔にも火傷はなさそうだ。この様子だと、雪豹の美しい毛並みが焦げついているなんてことはまずないだろう。
それでも怒り心頭となっているシロに対し、アカもまたこれが日常のように打って返す。
「何が繊細な美しい毛並みだ!いつもいつも寝ぐせ上等なくせして!そもそもお前が寝坊ばかりするからオレが毎回起こす羽目になっているんだろうが!少しは成長しろ!この、惰眠猫が!」
「その言葉丸ッとそのままお返ししますよ!紅茶一つまともに入れられないほど不器用なくせして!だいたいユフィの傍に一応は聖獣と名の付く者がいるからと安心していたら、なんですかこの様は!どうせまた無茶をしすぎて、動けなくなっていたんでしょう?相変わらずその一本鎗で融通がきかないところ直したらどうですか!この馬鹿犬!」
「う、うるさい!お前こそ………………」
と言いかけて、アカはシロの身体に巻き付いていたアリオトの影の触手が、パラパラと消し炭のように落ちるのを確認して息を吐いた。
シロもまた、アカの口が急に止まった理由を察したのだろう。自分の足元近くに倒れたままのトゥレイス殿下を確認してから、壁のアリオトの影に視線を向けた。
アリオトの影はというと、自分の触手が焼け落ちたことに対し、不思議そうに首を傾げたまま動きを止めている。
シロはそんなアリオトを一瞥しただけで、お兄様たちへと視線を順々に流して、アカまで戻すと、もう一度その口を開いた。
「なるほど。彼の者の影だけがそこにあるということは、本体はどこかで回復中ということでなんでしょうね。そして、やっぱり彼がユフィの絶対的守護者ですか。まったく、強くなるばかりの独占欲は、もはや呆れを通り越して、見事としか言いようがありませんね。とはいえ、まずはこの状況に感謝しましょうか。こうして今、私が目覚められたことに対しても。まぁ、その起こされ方はともかくとして……」
ほぼ呟きに近かったシロの声を、アカは余すことなく聞き取ると、「その通りだ。だからしっかりとオレに感謝しろ」と、深く頷いた。
しかしシロからは感謝の言葉ではなく、睥睨とした目を向けられる。
「よりにもよってその相手がこのイグニスで、危うく焼き殺されかけたというのに感謝するのは、なんだかとっても癪ですね。いっそのこと凍らせてしまいましょうか」
「なんでだ!そこは素直に感謝しろよ!」
けれど、そんなアカの突っ込みもどこ吹く風で綺麗に無視すると、シロは改めてアリオトの影を見やった。
「ところで、この状況から察するに、彼の者はどうやら私の身体をご所望らしいですね。私の身体に彼の触手が巻き付いていたようですし……そしてユフィは…………あぁ、よかった。無事のようですね。気配でわかります。しかしどうやら、独占欲の強すぎる守護者に隠されてしまっているようですが………違いますか?」
なんてことを口にしながら、シロはお兄様へと視線を移す。するとお兄様はその視線に眉を寄せた。
「“ユフィ”と呼ぶな」
ここに来ても一切ぶれない突っ込み。
そのことに、シロとアリオトの影以外の全員が、一斉にため息を吐いた。当然である。
一瞬目を丸くしたシロだったけれど、どこまでも察しの良い優秀な雪豹は、これが通常運転なのだろうと見事な察知能力を見せ、ここでもまたお兄様相手に堂々と返す。
「そう呼んでいいと私に許可したのは、他でもないユフィですからね。私は私の一番大事な主人の言葉を聞きますよ。この命が尽きるまでね」
飄々と発したわりに、妙に仰々しくも不穏な響きを持つシロの言葉。
私は無意識のうちに眉を寄せ、お兄様は何かを見定めるかのように、無言でシロを見据えた。
しかし当のシロはというと、再びその目をアリオトの影に向け、臆することなく問いかける。
「こちらの僕とした人間ではなく、私を狙ったのは、私が聖獣だからということではなさそうですね。私の中に自分の魔力の残滓を感じましたか?」
アリオトの影は何も答えない。けれど、不思議そうだった表情は、いつの間にか白抜きの目と口で大きな弧を描き、薄気味悪いものになっていた。
そして、それが答えのように思われた。
探していたものを見つけたという歓喜と、獰猛なる執着が、明らかに見て取れた。
シロは思わず苦笑して、アカへと声をかける。
「イグニス、感じているでしょう?私の中にある闇を。でもこれは彼の者の闇に沈んで侵食されたものではありません。これは私が自らの意思で喰らった穢れた血による闇です。ただ、その血によって私は彼の者に縛られています。その魔力の残滓を、あの影は感じ取ったのでしょう」
「お前………なんて馬鹿なことを…………」
二の句が継げないといった様子のアカに、シロは苦笑を深くした。
「わかっています。あの時の私は自暴自棄になっていたんでしょうね。私はイグニスと違って、“待て”が苦手ですから………だからこの件に関しては私に責任があります。誰にも背負わせる気はありません。だから、ユフィのことはちゃんと貴方が最後まで守るのですよ。“神の娘”の守護獣として」
「ちょっと待て、ニクス!」
けれど、シロはアカの制止を無視した。
そしてアリオトの影だけを見つめながら歩みを進めると、お兄様の横に並び立った。
それでも視線を交わすことなく、二人してアリオトの影をその瞳に捉え続けている。
でも、紡がれる言葉は隣に立つ相手に向いていた。
「まさかこういう形で会うことになるとは思いもしませんでしたよ」
「同感だ」
「…………貴方も、あの馬鹿狼同様、千年経っても相変わらずですか。しかし、さすがですね。今やユフィの絶対的守護者とは――――――これは、罪滅ぼしですか?」
シロの台詞は私には聞こえなかった。
しかしお兄様の耳には届いたようで、お兄様は一度心の中を探るように瞑目してから、再び目を開いた。そして――――――――
「…………それもある」
と、感情を押し殺したような声で答えた。
もちろん私には、何が『それもある』のかわからない。
しかしシロは、その整いすぎた横顔に微苦笑を湛えている。どうやら、シロにはお兄様の言葉がわかりすぎるほどわかるらしい。
とはいえ、それを全面的に認めるかは別問題らしく――――――
「こんな状況でなかったら、すぐさま色々と問い質したいところですが、今にも彼の者の影が私に飛び掛かってきそうですからね。ここは妥協して、それ以外にもあると、敢えて深読みしておきますよ。あくまでも妥協ですが」
「それはどうも」
「で、ここからが本題です。貴方たちは彼の者とその影を引き離すことで、別々に封じようとしている――――――で、間違いありませんか?」
シロがそう言い終わるや否や、まるでちょっかいを出すかのようにシロへと触手を伸ばそうとしたアリオトの影に、無詠唱で攻撃魔法を放ってから、お兄様は口許だけで笑みを形作った。
「さすが知力に優れた雪豹だな。そこの体力勝負の駄犬とは大違いだ」
「誰が体力勝負の駄犬だ!」
「そうやって、誰とも言っていないにもかかわらず、いきり立っていること自体が、自分だと名乗りを上げてることだと気づかない駄犬のことだ」
「セイリオスッ!」
と、お兄様にがなり立てながらも、シロにへとまた懲りずに触手を伸ばそうとするアリオトの影に、アカもまた攻撃魔法を放った。その容赦のない攻撃が、八つ当たりのように見えたのは、私の気のせいだと思いたい。
それを呆れの中に、懐古と憧憬の情を滲ませて眺めていたシロは、瞬きの間にそれを掻き消した。
そして、「確認ですが…………」と言い置いてから先を続けた。
「私はこの四百年間、何もぼ~っとして過ごしてきたわけではありません。“魔の者”について自分なりに調べてきました。そこで辿り着いた答えは、たとえ神だろうと、聖獣だろうと“魔の者”を完全に消滅させることはできないということです。異論は?」
「ない」
お兄様の即答に、シロは忽ち半笑いとなる。
「そうです。そもそも“魔の者”は、光の神が落とした影より生まれた存在によって、創造されしモノです。光の神の創造物でない以上、この世界にとっては異端。聖なる光でも完全に消滅させること無理でしょう。出来て、封印しながらの相殺。それも永遠に、相殺し続けるしかない」
「その通りだ」
ここでもまたお兄様はあっさりと認めた。
その間も、アリオトの影は尋常でない執着でシロを狙い続け、それをお兄様とアカだけでなく、シェアトたちも参戦し必死に防いでいる。
正直言って、呑気に話している場合ではないのだけれど、どうやらこの確認は、シロにとっては必須事項らしい。
そのためシロは、早口でさらに問いかける。
「しかし、貴方はその聖なる光を持っていない。その貴方ができることと言ったら、闇を同じ闇に同化させて、封印することでしょうか」
「…………そう、なるな」
今までのような打てば響くような返事ではなく、お兄様は若干の躊躇いを見せた。
その切れ味の悪い返事に、不穏の影を見つけて私は思考を巡らせた。
シロの話を要約すれば、“魔の者”を消滅させる有効的な手段はないらしい。
だからこそ、封印という形になるのだけれど、聖なる光なら相殺、同じ闇ならば同化。
でもそれは、どちらにせよ永遠に抱え続けなければいけないということで――――――
お兄様は、アリオトの本体と影を完全に引き離した。
その上で、アリオトにとっての最大の防御である影を、お兄様は暗黒星に取り込む気でいた。
私が止めなければ。
しかしその後、お兄様はどうするつもりだったのだろう。
嫌な予感がする。
嫌な予感しかしない。
もしも、この予感通りならば、お兄様はきっとアリオトの影を……………………
「自分自身の闇に沈める気ですか?それも永遠に」
シロの言葉に、アカたちの視線が一斉にお兄様に向けられた。その様子から鑑みるに、誰もそこまでのことは聞いていなかったらしい。
それはそうだろう。
自分の身体に“魔の者”の影を封印すると聞いて、賛成などするわけがない。
私だって絶対にそんなことは許さない。
しかしお兄様は、彼らからの視線に表情を変えるわけでもなく、この隙にと再び床の下を伝って、背後からシロを狙った触手に攻撃魔法を発動させると、振り向き様、散れぢれに吹き飛ばした。
お兄様は背中にも目がついているらしい。
それから、何事もなかったかのように正面に向き直り、徐に答える。
「一度、アリオトの本体を暗黒星に取り込み、そのまま夜の闇に同化させたが、アリオトにしてやられ、すぐに復活されてしまった。だったら、次の手を打つより他ないだろう?だからといって何も大それたことをしようというわけではない。私は聖なる光を持ってはいないが、この中で唯一闇属性を持っている人間だ。しかも永遠に相殺し続けるのではなく、ただの同化。言うなれば、闇を一つ新たに抱え込むだけの話だ。それに、暗黒星という強力な封印に閉じ込めてからの封印だから、私自身がその闇に浸食されることはまずない」
しかし、そう言い切ったお兄様に、シロはゆっくりと頭を振った。
「いいえ。相手は“魔の者”です。絶対にそうできるとは言い切れません。たとえ貴方が深すぎる闇を端から抱えていようともです。だから――――――――」
シロは一歩前に進み出ると、お兄様へと振り返り、場違いなほど晴れやかな笑みを見せた。
「私が彼の者の影を引き受けましょう。都合がいいことに、私は彼の者の影に所望されているようですし、聖なる光だけでなく、聖獣としてはあるまじきことに闇も抱えています。これほど打ってつけの者もいないでしょう。だから、貴方がたは彼の者の本体をどうにかしてください。おそらく、今の彼の者の本体には、回復用の闇しか残っていないはずです。それこそ永遠にこの影から引き離してしまえば、簡単に封印できます」
駄目よ、シロ。
「これは私からの願いです。私は自業自得とはいえ、すっかり穢れてしまった。でもそこに意味があるとしたら、きっとこのためだったのだと今なら思えます」
そんなこと、絶対に駄目よ、シロ。
「イグニス、私が彼の者の影を取り込んだら、やるべきことはわかっていますね。私もさすがに延々と抱え込んではいたくないですからね。だから、あんな子供騙しのような炎なんかではなく、本気できなさい。それが私を救うことになるのですから」
一体、何を言っているの、シロ。そんなこと許せるわけがない。
「最期に、馬鹿狼の間抜け顔も見られたことですし、独占欲の塊である貴方にも、フィリアの魂とも会えました。だから――――――私は満足です」
シロはニッコリと笑って、アリオトの影へと一歩、また一歩と近づいていく。
それを待ち切れないとばかりに、アリオトの影がシロを包み込むように、幾重にも触手を伸ばす。
誰一人としてシロを止める術も、言葉も見い出せないままに、成り行きを見守るようにしてシロの背中を見つめている。
そして私もまた、打開策一つ浮かばないままに、“幻惑”の中で唇を噛みしめる。
シロの言うことはわかる。でも納得はできない。したくもない。
違うと思うのに、何が正解なのかわからない。
けれど、正解がわからないからといって、このままシロの言葉を鵜呑みにできるほど、私は決して物わかりのいい人間なんかじゃない。
はい、そうですかとこんなこと許せるほど、寛容でもない。
それにやっぱり私は、シロだけでなくアリオトも救いたいのだ。
封印とか、消滅ではなく、この世界に生きる者として、闇一色に染まった心を希望という光で照らしてあげたい。
たとえアリオトから、すべての闇を消し去ることができないとしても―――――
“だったら君はそれを望めばいい。君なら変えられる。君にしか変えられない”
突如、いつかのように頭で響いた声。
私はその声に縋るようにして、咄嗟に声をかけていた。
『ルークス!』
こんにちは。星澄です☆
たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪
すっかり投稿が遅くなっちゃいました。
すみません。
でもこの章もようやく終盤です。長がったぁ〜
次回は、いよいよユフィの出番ですね。
恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。
何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。
どうぞよろしくお願いいたします☆
星澄




