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転生した悪役令嬢ですが、どなたがヒロインなのか教えてください!  作者: 星澄


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私、気づいてしまいました(10)

「はぅ………んっ…………」


 息吐く間もないほどの口づけ。

 漏れる吐息までもすべて奪われ、思考も、理性も、ドロリと熱に溶かされてしまった。

 このまま喘ぎながら溺れ、永遠に光など見えない深みにまで沈んでしまっても構わない。


 もしも、この人から唯一の愛が得られるのなら……………


「……ん……ん………はぁ……んん………」

 部屋の空気は濃密な蜜を含んだかのように重く、身体に絡み付いてくる。

 そのせいで自分から時折漏れる喘ぎも、甘美に濡れていた。

 そしてその声が、頭を、身体を、心を、痺れさせる毒となる。

 なのに、ふとした隙を突いて、心に落ちてくる冷酷な囁き。


 この行為は、アリオトから守れなかったことに対する罪滅ぼし。

 妹の我儘を、仕方なく聞き入れただけのこと。

 だから溺れていいのはこの刹那だけ。


 だって私は、お兄様の愛する彼女ではないのだから――――――――――――


 その囁きに心は抉られ、冷水をかけられたかのように、ある種の酩酊状態から一気に覚醒する。と同時に、私はお兄様を突き放し、その腕から逃げ出した。

「ユーフィリナ………………」

「申し訳ございません。お兄様……こんな……こんな…………私………………」

 なんてことを、お願いしてしまったのだろうと思う。

 時を戻せるのなら今すぐ戻してしまいたい。

 けれど、今もこの唇で燻り続けている熱だけは、どうしても忘れたくなかった。だから、サルガス様に消してもらう選択肢など今の私にはない。

 そう、これを求めたのは私。

 欲しくて堪らなかったのも私。

 優しいお兄様はそれを叶えてくれただけで、これ以上を求めてはいけない。

 だから、名を持ってしまったこの感情は、このまま永久に眠らせることにする。

 どんな王子様の甘いキスにも二度と目覚めることがないように、アリオトが施した紋様のような茨の檻に閉じ込めることで。

 私はそう決めると、アリオトの散らした赤い花を隠しながら咄嗟にお兄様へ背を向け、紡ぎ切れなかった言葉を今度こそ口にした。

「こんな時に、淑女として、妹して…………あるまじきお願いをして申し訳ございませんでした。でも、もう……大丈夫です。アリオトに触れられたところも……全然平気です。だから………お兄様は………………」


 忘れてください――――――――――


 最後の言葉は声が掠れたために、お兄様には届かなかったかもしれない。

 けれど、もう一度それを言い直す勇気も、時間も、私にはなかった。

「セイリオス!アリオトが消えたにゃ!」

 隣の部屋から届いたシャムの声。

 忽ち部屋の空気が緊張で張り詰める。けれど、お兄様はどこまでも冷静だった。

「わかっている。意識がもどって影に逃げ込んだだけだ。だが、逃がしはしない。シャムもそこで構えていろ」

「わかったにゃ」

 シャムからの返事を受け流ししつつ、お兄様はからくり魔道具から零れ出たままとなっている闇から、素早く純白のブレザーを回収すると、それを私の肩へとかけた。そして、私の顔を覗き込みながら、困り顔で告げてくる。

「私の方こそすまない。とても冷静ではいられなかった。だが、今はお前のおかげで冷静になれた。だから安心して、私の後ろに控えていなさい。それと、今からイグニスたちをここへ呼び出すが、その顔も、その姿も絶対に見せないように」

「あ、あの……呼び出すって…………それに見せないようにと言われましても…………」

 そんなこと、どう考えてみても不可能なのでは?

 と、思うのは決して間違いではないはずだ。

 呼び出すといっても、この世界の有効的な連絡方法は非常に限られている。

 早馬を使っての伝達か、手紙を送るかだ。

 これでは時間がかかって仕方がない。

 さらに細かい事を言い出すならば、たとえアカたちがこの屋敷の外で待機しているのだとしても、それはあくまでも呼び入れるのであって、呼び出すことにはならない。

 それに、アカたちがここへ無事に呼び出されたとして、顔も姿も見せないようにするのは些か難しいように思われる。

 なんせ、私は連れ去られた張本人であり、彼らは私の安否をなによりも気にしているだろう。

 その私が、彼らからコソコソ逃げ隠れするのは、礼儀にも反しているし、余計な心配をさせてしまう恐れもある。

 もちろんこの姿をそのまま晒せば、それはそれで違う心配が浮上しかねないのだれど………………

 促されるままにお兄様のブレザーに袖を通せば、きっちりと前ボタンを留められる。

 しかし当然それだけではすべてを隠せるはずもなく、結局お兄様はベッドに広がる闇を光魔法で消し去り、ベッドからシーツを剥ぎ取った。

 その弾みで、展開されたままのからくり魔道具がベッドで跳ね、かたんと音を立てる。

 お兄様が現れたあのからくり魔道具だ。

 一体何がどうなれば、お兄様がからくり魔道具から出てくることになるのか、是非ともその謎についても説明して欲しいところではあるけれど、もちろん今はそれどころではない。

 事実、お兄様はそれを尻目に、私にシーツをそそくさと巻き付けた。といっても、ただ簀巻きのようにぐるぐると巻くのでも、マントのように、もしくはシーツお化けのように被すのでもなく、一度着せたブレザーをわざわざ脱がせ、胸元が隠れるように丁寧に巻き付けてから、シーツの端をウエストのサイドでギュッと固く結んだ。それからもう一度ブレザーを着せてから、しっかりボタンを留める。

 さらには、完全に袖を余らせている私の短い腕に合わせて、丁寧にブレザーの袖を折ってくれる。しかし、私のせいでお兄様のブレザーに変な形を付けてしまっては申し訳ないと、遠慮してみたけれど――――――

「こうしないと、ユフィが動きにくいだろう?それよりシーツは苦しくないか?きつかったもう少し緩めるから言いなさい」

 などと、逆に心配そうに言われてしまえば、大丈夫だと頷くよりほかない。

 それに、実際姿見で確認したわけではないけれど、純白のワンピースの上に純白のブレザーを重ね合わせてような仕上がりで、確かにブレザーに関していえば、着せられている感満載だけれど、そこまで不格好になっているようには思えなかった。というか、そう思いたい。

 ま、それでもシーツを巻いていることには変わりないのだけれど……………

 しかし、隠したいところも無事に隠されて、シーツお化けよりも数段見栄えが良くなったところで、改めてお兄様が私の顔を覗き込んでくる。

 けれど、その顔は先程のような困り顔ではなく、どこか吹っ切れたかのような清々しいものだった。

「これはこれで、なかなかいいな。まるで神話に出てくる女神のようだ」

「ッ!」

 褒め殺しもいいところである。

 そもそもシーツを巻き付けた上に、だぼだぼのブレザーを着た女神さまなんて見たことも、聞いたこともない。

 再び身体中の血が顔に集まるのを感じ、私は視線を宙で泳がせながら、頬を両手で押さえた。

 なんなら今からシーツお化けとなりたいくらいだ。

 そんな私をお兄様は愛おしそうに見つめ、再度注文を突きつけてくる。

「私はお前のことになると、どうしようもなく狭量なのだ。だからその潤んだ瞳も、上気した顔も、私以外の誰にも見せたくない。なんならこのまま永遠に隠してしまいたいと真剣に思っている。いや、隠そうと思えば隠せるのだが、今ここで隠してしまえば、逆に妙な勘ぐりをされ、後々厄介なことになるのは目に見えている。すまないが、一瞬でいいから無事だということだけは彼らにも示してやってほしい。極力顔も、姿も、見せない方向で」

「…………………………」

 一瞬って…………しかも顔も、姿も、見せない方向って、無理難題がすぎます!

 なんだかとんでもない無茶ぶりをされているような気がするけれど、結局私は何も言えず、コクコクと首を縦に振った。

 というか、目の前のお兄様はすっかりいつものシスコンお兄様に戻っていて、私だけが変に意識しているのが、なんだか馬鹿みたいに思えてくる。

 先程までのあの激しくて深い、貪るようなキスは一体何だったのかと問い質したくなるくらいだ。

 いえ、これもまた、なかなかいつも通りとはならない私への、残酷すぎるお兄様の優しさなのかもしれないけれど……………

 しかし、そんな私の葛藤を知ってか知らずか、お兄様は素直に頷いた私に対し、満足げに目を細めた。

「いい子だ。そのまま私の後ろで見ていなさい」

 しかしその前に、私には伝えるべきことがある。

「あ、あのお兄様、実はシロ…………いえ、雪豹の聖獣とトゥレイス殿下がアリオトの晦冥海に沈められて………………」

 これだけは何が何でも話しておかなければならないと急ぎ口を開けば、お兄様からは淡い微笑みが返ってきた。

 どうやら私が一々伝えるまでもなく、感知魔法で二人の気配に気づいていたらしい。

 魔力枯渇寸前どころか、今やアリオトに吸収され、魔力がすっからかんとなった私とはすべてにおいて出来も規格も違うのだ。

 昔はそのことに多少の僻みを感じたものだけれど、今はただただ心強い。

 そのため、「お願いします」と頭を下げてから、私は素早くお兄様の後ろへと下がった。

 もちろん、高みの見物ではなく、足手まといにならないようにするためだ。

 お兄様はそのまま私に背を向けると、二歩、三歩と前に進み出る。

 そして床に片膝を付き、この世界における最上級魔法を発動させた。


「転移魔法陣!」


 鋭き詠唱の声。

 と同時に、床に置かれたお兄様の手から床へと伸びていく赤味を帯びた光。

 その光は、前後左右へと縦横無尽に勢いよく床を這いながら、魔法陣を正確に描いていく。

 複雑な幾何学模様にも見える図式と共に刻まれていく文字は、古の魔法文字であり、今の世でこれを読める人たちはほんの一握りだけだという。

 それらの文字と魔術式が、光のペンで床に描き足されていき、最後は綺麗な円に囲まれて、すべてがその中に収まった。次の瞬間―――――――――― 

「ひゃっ…………」

 その円から神々しい光が天井を衝くように立ちのぼり、直径二メートルほどの光の円柱が部屋に出現する。しかしそれは束の間のことで、やがて空気中へと溶け込むように霧散し、儚く消えていく。するとそこには、よく知る顔があった。

「アカ!シェアト様!それにサルガス様にレグルス様まで…………」

 信頼する守護獣と、仲間と呼べる人達。

 しかし、この中にスハイル殿下とその護衛騎士であるエルナト様の姿がないということは、スハイル殿下は王弟という立場から、そしてエルナト様はその殿下の専属護衛騎士という立場から、不参加となったのだろう。

 しかし、お兄様の転移魔法で突然現れた――――――いや、呼び出された頼もしい助っ人たちに、私の声は驚きと喜色で満ちていた。

 そんな私の声に反応した彼らの声も、私の声と同じ成分でできており、さらには安堵の感情も多分に入り混じっていた。

「ユフィ(ちゃん)!」

「「ユーフィリナ嬢!」」

 そして、そのまま私に向って駆け寄ろうとするけれど、お約束というか、案の定というか、お兄様が堅牢な壁となって、私たちの間に立ちはだかった。

「こら!セイリオス、そこを退け!これではユフィの顔が見えないだろう!」

「そうですよ!我々も心配していたんですから、ユーフィリナ嬢に会わせてください!」

「セイリオス殿、せめてユーフィリナ嬢に声をかけるだけでも…………」

「セイリオス!お前ちょっと心狭すぎだから!っていうか、ここは感動の再会シーンだから!」

 アカたちからの文句もなんのそので、お兄様は両手を広げて彼らの行く手を阻む。

 所謂、通せんぼ状態である。

 下手すれば魔法を発動する用意さえありそうだ。

 何故かそんな一触即発の雰囲気の中、お兄様はそっけなく告げた。

「悪いが、感動の再会は後だ。ちなみに、この通りユーフィリナは無事だから、心配しなくてもいい。それよりもアリオトの方が先だ」

「いやいや、この通りも何も、お前の身体が邪魔でまったく見えないんだけど!」

 レグルス様のご尤もな突っ込みを受けてもどこ吹く風で、お兄様にそこをどく気配はない。

 むしろ、お兄様の身体からは再び殺気がゆらゆらと立ちのぼり始めている。

 その殺気の矛先が、アリオトに向けてなのか、アカたちに向けてなのか、それとも両方に向けてなのかは正直不明だ。

 そもそもの話、助けにきてもらった立場上、本来ならここで、「皆様、私は全然大丈夫です!ご心配をおかけしてすみません!」と声をかけ、頭を下げるべきだと思う。というか、今すぐにでもアカたちとちゃんと会いたいし、話がしたい。

 けれど、確かに自分のこのシーツ姿では、やはり説得力の欠片もないどころか、お兄様が懸念するように、この寝室で何かあったのかと勘ぐられてしまうだけだろう。

 それではかえって彼らに、要らぬ罪悪感を抱かせてしまうかもしれない。

 とはいえ、はじめからお兄様の“幻惑”の能力で姿を隠してしまえば、それはそれで彼らが納得しないだろうし、更なる憶測を呼びかねない。だからこそ、お兄様も最初から“幻惑”を使うことはしなかったのだろう。

 そう、彼らを呼び出すまでは。

 本当に思慮深いお兄様である。

 そのため、ここはお兄様の殺気の影に隠れ、現状に流されることにする。

 つまり、今は感動の再会は後回しにして、アリオトとシロたちが優先ということだ。

 そして、案の定―――――――――

「ユーフィリナは暫く“幻惑”の中に隠れていなさい」

 お兄様は指を鳴らし、あっさりと私を“幻惑”の中に閉じ込めてしまった。

「おい!こら、待て!俺はユフィの守護獣たぞ!一目だけでも…………」

 アカの制止と、懇願の声も虚しく、お兄様の“幻惑”に囚われた私。

 この先は“幻惑”の中から見守るしかないらしい。

 アカたちもまた大いに不服はあるものの、一応は私の声を聞き、お兄様の背後にいるとわかったことで、取り敢えずは無理やり納得することとしたらしい。

 そのため、「どんなに狭量なんだ」とか、「仏頂面のセイリオスの顔を見たって、こっちは嬉しくもないんだよ」とか、盛大に文句を垂れつつも、アカたちはそのまま大きな風穴が開いた隣の部屋へと視線を向けた。

 そしてお兄様に改めてレグルス様が声をかける。

「いやはや、初めて転移魔法なんて味わったけど、ほんと五体満足に転移できてよかったよ」

「みたいだな。私としては、別にレグルスの片腕がもげていようが、頭がもげてようが、特段気にはしていなかったのだが」

「そこは大いに気にしてくれ!っていうか、頭がもげてたら死んでるから!」

「確かに首無しで来られても困るな。見た目が悪い」

「いやいや、そこは見た目の問題とかじゃないからね!生き死にの問題だからね!」

 そうしっかりと言い返した後で、レグルス様はやれやれとため息を吐き、ようやく本題へと入った。

「………で、セイリオス、今の状況は?」

 その声が若干疲れて聞こえるのは気のせいではないはずだ。

 しかしお兄様はどこまでも淡々と答える。

「かくれんぼの最中だ。シャムが見張っている」

「つまり、影に潜んで回復中ってことか?」

 すかさずアカが聞き、お兄様は鷹揚に頷いた。

「まぁ、そんなところだろうな」

「ちなみに、どれほどのダメージを負っているんですか?」

 そう尋ねたのはシェアトだ。それに対し、お兄様は心なしか少し罰が悪そうに口を開く。

「軽く意識を失うくらいには?」

 ここで疑問形なのは、あの時のお兄様がまったく冷静ではなかったからだろう。

 そのことにサルガス様が苦笑する。

「さすがと言うべきか、容赦がないと言うべきが、正直悩むところですね」

 しかし、口にした言葉とは違って、その口調はまったく悩んではおらず、サルガス様はそのまま続けた。

「それで、そのかくれんぼはどのようにして終わらせるつもりですか?このまま律儀に回復を待ってやるほどの義理も、余裕も、こちらにはないはずです。あらゆる意味で」

 サルガス様の言う通りだと思う。

 今回お兄様の攻撃がアリオトに効いたのは、お兄様が完全にキレていたせいと、お兄様がからくり魔道具なるモノから出てきたことに対し、アリオトが心底驚いていたためだろう。

 けれど、今度影から出てくるアリオトは、完全に臨戦態勢だ。

 そう簡単に先程のような矢継ぎ早の連続攻撃が加えられるとも思えない。

 だからこそ、ある程度の回復が為される前に、アリオトを影から引き摺り出さなければならないことは私にだってわかる。

 とはいえ、その方法がさっぱりわからない。

 

 一体、どうするつもりなのかしら…………


 私は“幻惑”の中からお兄様を見つめた。

 彫像のように整いすぎた横顔。

 どうしても視線がその唇に引き付けられてしまうのは、致し方ないことだと思う。

 薄く形の良い唇。

 時に、悪戯に口角を上げ、からかいの言葉を乗せる唇。

 私の唇を好きなように貪り、甘い痺れと熱を与えられる代わりに、吐息まで奪っていった唇。


 愛しさと切なさを私の唇に残していった唇…………


 そこまで考えて、私は首を横に振った。

 名前を持ってしまった感情は、もう永遠に封じた。

 二度と目覚めることがないようにと、茨の檻の中に。

 だから考えない。

 お兄様に何も求めない。

 今の私が考えることは、ここから皆で無事に帰ることだけだ。

 そう、シロとトゥレイス殿下も一緒に。

 だから、たとえ“幻惑”の中にいようとも、ただ守られているわけにはいかない。

 私にもできることはきっとあるはずだと、自分に言い聞かせるようにして考える。

 そんな時、お兄様の口角が緩やかに上がり、綺麗な弧を描いた。

 どうやらお兄様にはすでにアリオトを引き摺り出す算段がついているらしい。

 というより、彼らには――――――と言うべきかもしれない。


「サルガス殿の言う通りだな。我々には、呑気に回復を待ってやる義理も、余裕も、確かにない。それよりイグニス、戻っているか?」

「問題ない。しっかりと戻っている。なんなら、放蕩者の雪豹の気配も感じ取れているぞ。トゥレイスもな」

「それは上等。レグルスはどうだ?」

「なんとかね。でも、ま、ここまで来てできませんでした――――は、さすがに格好悪すぎでしょ。“魔の者”相手にどこまで通用するかわからないけど、やるしかないね。そもそもそのためのメンバー入りなんだし?」

「そうですね。前回は、使うということさえ頭にありませんでしたから。しかし、試す価値は十分にもあると思います」

「シェアトの言う通りです。個々ではどうにもならないかもしれませんが、各々の能力を集結させれば、“魔の者”にも対抗できるかもしれません」

「多勢に無勢で卑怯な気もしないでもないけどさ、形振り構ってなんかいられないよね。相手が相手なだけに」

 レグルス様はそう締め括ると、表面上は飄々としながらも、一気に魔力を高め、殺気をその身に纏った。

 それはアカやシェアト、そしてサルガス様も同じで、“幻惑”の中にいるにもかかわらず、肌に無数の針が突き刺さってくるようなピリピリとした空気を感じる。

 しかしお兄様はまるで心地よい風が吹いたかのように、ふわりと笑み零した。

 そして、膨大な魔力を解放すると同時に、その笑みを不敵なものへと変える。

 向けられた相手はもちろんアリオト。


「それではそろそろ始めるとしようか」


 その声を皮切りに、お兄様たちは一斉に魔法を発動させた。


 


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