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私、気づいてしまいました(7)

 影より生まれし漆黒の闇が、しっかりとした輪郭を持ち、闇を空気中に霧散させるように色を持つ。

 そして、緩やかに弧を描いた口元と、細められた黒き瞳。

 ぼんやりとした灯りが照らす彼の顔には、人懐こそうな笑みがあった。

 

「ねぇ、何の話をしていたのかな?もしかして、再会して嬉しい……とか?それとも、このまま二人で逃げちゃおう……とか?」

「まさか……」

 ほぼ条件反射とも言える素早さで、私は無意識のままに否定の言葉を口にしていた。

 嘘は吐いてない。それは間違いない。

 しかし、後ろめたさがないわけでもない。

 なんせ私はシロをアリオトから自由にすると決めたのだから。

 とはいえ、それを微塵も感じさせてはいけないと、私は早々に話題を変えることにする。

「ところで、もうお客さまはお帰りになられたのかしら?」

 聞くまでもない愚問だけれど、今の私に気の利いた話題提供などできるはずがなく、不甲斐ないことにこれが私の精一杯だった。

 そんなことを知ってか知らずか、アリオトはゆっくりと私に近づきながら、あっさりと答える。

「帰ったよ。というか、追い出したって感じかな。ま、いつものことだけど」

 そしてそのまま視線をシロへと向けた。

「で、お前の話は済んだのかな?」

 意味ありげな問いかけに、シロは丁重ながらしれっと返す。

「貴重なるお時間を頂いたことに、感謝しております」

「賢明だねぇ。終わったとも、まだだとも言わないで、感謝だけするなんて。でも、お前の答えがどうであれ、もうお前の時間は終わりだけどね」

 そう突き放すように告げると、お茶を飲むためにシロが用意してくれたサイドテーブルを、突如床に広げた闇へとずぶずぶと沈めてしまう。

 その光景に私は小さく息を呑み、目を瞠った。

 恐怖ゆえではない。

 過去に、この光景を見たような気がしたからだ。

 それもごく最近。いや、この部屋で。

 しかしアリオトはそんな私には気づかないままに、さらにシロへと声をかけた。

「そうそう、またいつものようにフィラウティアが怒って暴れちゃってさ、部屋がボロボロになっちゃったんだよ。ユフィの相手はボクがするからさ、あっちの部屋片づけてきてくれる?」

「かしこまりました。模様替えも兼ねて明日の朝致しましょう」

 恭しく頭を下げつつも、明日すると宣ったシロに、アリオトは僅かに眉を寄せた。

「おやおや、今すぐ行かないなんて、もしかしてボクの執事は反抗期なのかな?それとも、ずっとなおざりにしていた聖獣としての自覚がユフィと再会したことで目覚めちゃったとか?」

「目覚めるも何も、私の主は最初からただ一人でございます」

 その一人が誰であるとも告げず、飄々とそんな返事を寄こしてくるシロに、アリオトは益々眉間の皺を深めた。

 その表情は明らかに気に食わないと物語っている。しかしアリオトの足は止まることなく私の所まで来ると、私の腕を掴みそのまま強引に引き寄せた。そして、腰に手を回して背後から抱き込んでくる。

「ひゃっ……………」

「ユフィ!」

 私の声にシロが思わず一歩踏み出した。

 けれど、アリオトの冷ややかな視線がそれを制す。

「まさかの“ユフィ”呼びなの?っていうか、当たり障りのないことばっか口にしてたくせに、ユフィが可愛く鳴けば途端に慌てるんだね。だとしたら、お前の前でユフィを犯し尽くせば、どんな反応を見せてくれるのか…………ねぇ、試してみようか?」

 シロは一瞬顔を歪めたが、すぐに一切の表情を削ぎ落とすと、執事然として淡々とした口調で告げた。

「アリオト様、ユフィはこちらに連れて来られてから、お茶以外何も喉を通しておりません。ですからまずは、お食事にいたしましょう」

 シロの進言を聞きながら、アリオトはまるで見せつけるかのように私の頭に頬を擦り付け、啄むように私の頬にキスを落とした。

 腰に回っている腕には一層力が込められ、もう片方の手はゆっくりと身体を這い回り、胸へと伸びる。

 そして私の胸を鷲掴んだ。

「やっ…………」

「ッ!」

 シロの顔があからさまに強張った。

 その間も、アリオトはシロから目を逸らさない。

 シロまたアリオトから目を逸らさない。

 私だけがあまりの居た堪れなさに、アリオトの腕の中で必死に身を捩り、抗うように顔を横へと向けた。

 持って行き場のない視線はただただ床の上を泳ぐ。

 しかし、アリオトの拘束は解けることなく………………

 パクリと口に含まれた耳。

 甘噛みされ、無防備な耳に舌を差し入れられる。

 そして、くちゃ……くちゃ……と水音が鼓膜を揺らし、瞬く間に脳は甘美な痺れに溺れていく。

「お、お願い……やめ……て……アリオト…………」

 心がアリオトに染められてしまっているせいか、その行為自体に不快感はない。というよりきっと、そんな感情もまた記憶とともに闇に沈んでしまっているのだろう。

 しかし、アリオトから与えられる熱と、足元からぞくぞくと突抜ける快感に身を委ねてはいけないと、冷静に告げてくる自分がいる。

 見なくてもわかるシロからの突き刺すような視線。

 さすが雪豹なだけあって、その視線は間違いなく絶対零度だ。

 なのに、どこまでも生真面目で忠実な執事であるかのようにアリオトを窘めてくる。

「アリオト様、相手は公爵令嬢ですよ。少々お戯れが過ぎませんか?」

 しかし敵もさるもの。

 悪びれる様子もなく平然と返す。

「過ぎるも何も、戯れているんだよ。ユフィとね」

 そう言うや否や、制服の上からアリオトがゆっくりと胸を揉みしだき始めた。

 まるでその柔らかさを確かめるように、何度も手の中で胸の形を変えていく。

 私は悩ましくも甘い疼痛を覚え、身体を仰け反るようにして背後にいるアリオトに凭れた。そして幼子のように首を横に振る。

「い……やぁ…………」

「アリオト様ッ!」

 発せられた声と同時に、シロから荒ぶるような魔力が放たれた。けれど、私の胸をやわやわと揉んでいた手を一振りすることで、アリオトはすぐさまそれを掻き消した。

 そしてまたその手は何事もなかったかのように私の胸へと戻り、閉じ直したばかりの胸元のボタンをぷつ、ぷつ、と片手で器用に外していく。

 しかも、シロに文句を垂れながら。

「まったく、主に逆らうとはなかなかいい度胸だよね。それに主のお戯れの現場に堂々と居座るなんて、ちょっと図々しくないかな」

「そう言う貴方様こそ、調子に乗り過ぎではないですか。今すぐユフィから、その不埒な手を放しなさい」

 シロの口調には丁寧さと怒気が混在しており、その声音は明らかな殺気が滲み出ていた。

 けれど、魔力を放ったとしてもアリオトに消されてしまうだけでまるで意味がない。

 そして何より、シロの心臓はアリオトによって縛られ、今や完全にその身体は隷属化してしまっている。

 そのため実力行使に出ることも叶わず、ただただ歯噛みしながら殺気を纏わせているのだろう。

 とはいえ、シロにはこの部屋を出ていくという選択肢はないようだった。

 それもそのはず…………

 一度出ていってしまえば、再びアリオトの手によって扉が開けられるまで、二度とこの部屋には入れなくなってしまうからだ。

 だからこそ、あーだこーだと言い募って、出ていくことを頑なに拒んでいるのだろう。

 うん、有り難い。

 シロの気持ちは非常に嬉しいし、心強くもある。

 けれど正直な話、私の心情的にはかなり複雑だった。

 こんなところをシロに見られたくない。

 それでも、アリオトと二人きりにはされたくはない。

 だから、シロにはいて欲しい。

 なのに、いて欲しくない。

 そんな相反する気持ちに揺れ動いている中、アリオトの手がくつろげた胸元からするりと入り込んできた。

 どうやらシロを追い出すのではなく、全面的に見せつけることにしたらしい。

 とんでもない意趣返しだ。

 しかもそれを堂々と口にする。

「だったら、そこで大事な光のお姫様が穢れていく様を眺めていればいい。少々痛いお仕置き付きでね」

 冷酷にもアリオトがそう告げた瞬間、シロは大きく目を見開いた。

「ぐっ………………」

 そして呻き声のようなものを漏らし、忽ち苦痛に顔を歪めると、自分の左胸を両手で掻き毟るように押さえ込みながら膝を付く。

「シロッ!」

「駄目だよ。ユフィはこっちに集中して」

 耳元でそう囁かれた直後、胸元に忍び込んだアリオトの手が、直接私の胸に喰い込んだ。

「嫌ッ…………」

 悲鳴に近い声を上げて、必死に身をよじれば、アリオトの指は胸の頂へと届くことはなかった。しかし今度は、首元に吸いつかれる。

「あ……やぁ………あぁ………………」

「ユ……フィ………………」

 痛みに堪えながら絞り出されたシロの声。

 その声を耳に捉えつつ、私はこの状況から逃れるべくジタバタとしてみるけれど、腰に巻き付いた腕は微動だにせず、逆に力を込め引き寄せられてしまう。それどころか、アリオトは私の首からようやく唇を離すと、「綺麗に咲いたな」などと満足そうに呟き、ねっとりとしゃぶるように私の首を舐めた。

 そして、私の身体をぞんざいにベッドへ放る。

「きゃ…………」

 衝撃はない。しかし沈んだ身体を立て直す前に、アリオトが私の上に伸し掛かり、そのまま押さえ込んでしまった。

「ユフィ、君の聖獣がちゃんと見守っててくれるそうだよ。だから安心してボクと一つになろうね」

 私は何度も何度も首を横に振る。けれど、アリオトの手は止まらなかった。

 


 先程もこんな風に身体を暴かれそうなった。

 そう、これは完全な仕切り直しだ。

 けれどその時は、ずっと頭の中に靄がかかっていて、何かを考えることも億劫だった。

 それでも超えてはいけない一線はわかっていたようで、唇へのキスを頑なに拒んでいたように思う。

 問いかけた心がアリオトを愛していると嘯くのを鵜呑みにしつつも、おかしいと叫ぶ自分の存在をどこかで感じていた。

 でも今は、少しアリオトと距離を置き、シロと話したおかげで頭の中の靄は多少晴れたらしい。

 それを幸いと呼ぶのか、それとも災いしてと言うべきなのか、アリオトのこの熱は毒だと、このままアリオトに溺れてしまうのは危険だと、はっきりとした警告音が頭の中で鳴り響いている。

 だから―――――――― 

 飽きることなく私の首や鎖骨に吸い付いては、赤い花を散らしていくアリオトの身体を私は必死に押し返す。

「やめ……て……アリオト、お願い………」

「ユ……フィを放……せ…………やめ……るん……だ…………」

 アリオトの胸を押し続ける私の懇願も、胸の激痛に立つこともままならないシロの制止も、アリオトには届かない。

 そればかりか、視線だけをシロに向け、冷たく言い放つ。

「見学者は大人しくしといてくれる?それとも死んどく?」

「ぐっ……ぐうあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁッ!」

 無慈悲なアリオトの言葉の後に、部屋を震わせたシロの絶叫。

 おそらく、魔獣の血で縛り付けたシロの心臓を、闇の力で握り潰そうとしているのだろう。

「アリオトッ!お願い!シロを殺さないでッ!」

 私は半狂乱に陥りながら泣き叫んだ。そして、アリオトから逃れるために、右に左に身をよじり、それが無理だとわかると私は拳をアリオトに打ち付けた。

 しかし私の力ではアリオトの身体は微動だにせず、私の反抗的な両手は、アリオトの左手によって、頭上でベッドに縫い付けられてしまう。

 それに乗じてアリオトの身体は私の両足の間に我が物顔で陣取り、その右手はスカートをゆっくりとたくし上げていく。

 素肌を這い上っていくアリオトの手。

 その感触に、ぶるりと身体が震え、全身の毛が逆立った。

「大丈夫。ユフィがいい子にしていたら、殺さないよ。だから、泣かないでユフィ……もっと虐めたくなるから」

 蕩けるような甘さしかない声は嗜虐的な笑みに濡れ、アリオトは私の涙を舐め取った。

「さぁ、ユフィ。今からボクが穢してあげるからね。だからユフィはボクだけを愛して――――――――もし、ここで拒めば君の聖獣は死ぬよ」

 この囁きはやはり猛毒でしかない。というよりも、もはや脅迫だ。一方的に愛を乞うのに、与えられるものは恐怖と不安と、危険な快楽だけ。

「お願い……シロを……傷つけないで……」

「じゃあ、もう拒まない?」

「拒まない……わ。だから、シロを………」

「だったら、ボクのこと愛してる?」

「……えぇ…………愛して……いるわ」

「ユ……フィ……駄目です……」

「いいから、外野は黙っててくれる?」

「ぐふッ………………」

 シロの激痛に堪える声が漏れる部屋で、熱を孕む甘やかな吐息が嗚咽と絡みあう。

 アリオトは、取り敢えずは私の言葉に満足したのか、ベッドにきつく縫い付けられていた私の手を解放した。

 しかし、そのことに安堵を覚えたのは刹那のこと。

 自由となったアリオトの左手は、私の頬から首へとゆるりと下り、はだけた胸元をさらに魔力で引き裂いた。

「やっ………」

 淡き灯りの中に曝された生々しくも白い肌。

 胸が完全にまろびでることはなかったけれど、アリオトの指先が膨らみに触れ、そのまま頂を目指す。

 そしてその頂をアリオトの指先が捉えた瞬間――――――

「ひぅッ…………」

 甘さを含んだ悲鳴を咄嗟に噛み殺した。

 その間も、私の内腿を弄るように触れてくる右手は酷く卑猥で、その刺激に私の足はただただシーツの波を藻掻くように掻き続けた。

 頭の中の靄は晴れても、まだ心は闇に染まっている。

 だから、愛を乞われ、問われても、その答えは決してその場しのぎのものではない。

 

 そう、私の心は何度でもアリオトを愛していると嘯いてくる。

 でも――――――――


 一度冷静になった思考は、まだ私の自我をどうにか繋ぎ止めてくれていた。

 なのに、身体はそれに反して、今にもアリオトの熱に溺れてしまいそうになっている。

 そんな錯覚が、陶酔という名の眩暈となって私を襲う。だからこそ、必死に無情な現実だけを口にした。

「言うことを聞くから、シロを……今すぐ解放……して……」 

 これは、今の私にとって譲れぬ一線だ。このままシロのことを忘れて、アリオトと一線を超えるつもりはない。

 それに、脳内で鳴り響く警告音に混じって、誰かの声が入り混じる。

 身体がアリオトから与えられる快楽に陥落しようとする度に、誰かが私の名前を呼ぶ。


 ユーフィリナ……

 ユーフィリナ……………

 ユフィ……大丈夫だ……私がいる。

 だから、闇に抗い、すべてを思い出せ!

 

 ユフィ!


 懐かしくも優しく、そして力強くも温かい声。

 脳裏にチカチカと見える残像のような影に、私は知らず知らずのうちに宙へと手を伸ばす。

 しかし、その影を掴むことは疎か、アリオトの手がもたらす新たな刺激に身体が跳ね、その影は儚く消える。

「んっ………んん……あぁ………やあぁ…………」

 宙から落ちた手は、縋るようにシーツを掴む。

 そして、(かぶり)だけを振る。

 持て余す熱と快感。

 それを必死にやり過ごす。

 するとまた誰かが私を呼ぶ。

 ただ私の名前だけを。


 ユーフィリナ!

 ユーフィリナ!

 ユーフィリナ!


 ユフィッ!

 

 その声が泣き声にも聞こえてきて、ふと思う。


 どうしていつも貴方はそんなに泣きそうな顔をするの?


 瞬間、その人の顔が見えた気がした。

 涙を流してはいないけれど、酷く泣いているようなあの人の顔が…………

「あぁっ………………」 

 それを霧散させるように、アリオトの右手が秘所へと伸びる。と同時に、耳の下に赤い花を咲かせたアリオトの唇が、私の唇へと落ちてくる。

 私の目は一気に覚醒したかように見開かれ、そのまま渾身の力でアリオトを振り払った。

「嫌ぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 今まで以上の拒絶に、アリオトの動きがはたと止まる。

 そして興ざめしたかような冷ややかな目で私を見下ろし、抑揚なく聞いてくる。

「ねぇ、これはどういうことかな?そんなにあの聖獣を殺して欲しいのかな?だったら、お望み通りするけどさ…………いや、その前にちょっとこの状況はおかしいよね。ユフィの手にはちゃんとボクの“真紋”とやらが付いているのに、ここまで抵抗されちゃうなんてさ。やっぱり、愛を持たない“魔の者”は“真紋”なんてもの付けられないのかな?」

 そう言って、アリオトは私の左手を掴み、自分が付けた“真紋”をまじまじと見つめた。

 黒い茨の鳥籠に閉じ込められた鳥の紋様――――――――まるで、アリオトの檻に閉じ込められた私自身を示すかの紋様。

 しかし、アリオトはそれを見つめながら不思議そうに首を傾げた。

「…………ちょっと、薄くなってる?」

 そして、その答えを探すように、床で苦しんでいるシロへと目を向けた。

「お前、一体何したの?」

「お言葉……ですね。私は貴方様に……隷属した身…………そんな命知らずなこと……しませんよ。ユフィを置いて………あっさり…死ぬような真似……なんて……ね」

 息も絶え絶えに告げてくるシロに、アリオトは私に覆い被さっていた身体を起こすと、ベッドの上から忌々しげにシロを見下ろした。

 痛みに身体を奮わせ、胸を押さえ込むシロの額には汗が滲んでいる。

 しかし、シロはアリオトに不敵な笑みを見せた。

「ユフィ……の守護者が…………そう簡単に……奪わせるわけないだろう?大事な……お姫様を」

 シロから吐き出された言葉に、アリオトは憮然とした表情となったものの、それもほんの一瞬のことで、すぐに呟く。

「なるほどね。あいつか…………」

 そして今度は私へと視線を戻した。

 (ねぶ)るように私の身体を這っていくアリオトの視線。

 首から胸元にかけて散った所有の証に、アリオトは愉悦の表情を見せてから、その視線を左手の紋に落とす。それから徐ろに右手へと移し、そこでアリオトの視線は止まった。

 そう、“仮紋”があるという右手で――――――――

 隠さなければと思うのに、アリオトに翻弄された身体は重く、その右手を持ち上げる前に、アリオトの手に収められてしまう。

 目を眇めてそれを眺め、アリオトは嘲笑のような笑み見せた。

「あぁ……そういうこと。道理で…………」

 一人納得し、今度はすべての興味を失ったかのように、私の右手をベッドに投げ捨てた。

 そして、アリオトはシロへと向かって右手を伸ばし、翳す。

「お前との主従ごっこもなかなか面白かったけど、もういいや。こうなることは、はじめからわかっていたことだしね。さぁ、ここでお別れだ―――――沈め!」

「やめッ…………」

 ぜいぜいと息を吐きながら、アリオトを見据えるシロ。

 その顔に恐怖は微塵も感じられない。

 だからといって、このままシロをアリオトの闇に沈めさせていいわけがない。

 私は身体の気だるさも忘れて、羽跳ね起きた。けれど、身体はアリオトの腕という檻に呆気なく閉じ込められてしまう。

 床に広がる闇の海。

 先程は、ここにサイドテーブルが沈んだ。

 でも今度はシロだ。

 命あるものだ。

 大事な大事な私の守護獣だ。

 ずぶずぶと、底なし沼へと沈んでいくかのように、シロの身体は常闇の海へと呑まれていく。

 シロはそれを畏怖ではなく、どこか達観したように受け止め、私に向かって「大丈夫ですよ、ユフィ」と、微笑みさえ見せてくる。

 冗談ではない。

 大丈夫なわけがない。

「嫌よ!シロ!お願い!やめて、アリオト!シロを沈めないで!」

 そう泣き叫びながら、再び既視感が募る。

 いや、違う。

 これは紛うことなき記憶だ。

 私はこの光景を見たのだ。

 ここで。

 そして沈んだのは――――――――


「トゥレイス……殿下………………」


 確信に基づいた呟き。

 そしてさらに怒涛のように流れ込んでくる記憶。

 学園の医務室。

 癒ししかないウサギ型魔獣に、大切な友人と、信用すべき人たち。

 そして……そして…………

 そこには、あの人もいて…………


 皆、闇に沈んで――――――――

 

「お兄様ッ!!」


 悲痛でしかない声。

 頬を濡らす滂沱の涙。

 そんな私に、何故かシロは安堵の表情を浮かべて、闇に沈んだ。 



 

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


喉風邪を引きました。

熱はありませんがとにかく喉が痛いです。

おかげで読み直しが遅くなり、投稿も遅れでしまいました。

すみません……って、喉関係ないですよね。

こんなシーン音読で読み直しはかなり痛い子になるので………


少しでもドキドキワクワクしていただけば幸いです☆


恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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