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私、気づいてしまいました(6)

「ユフィ……何故私が彼の者を名前で呼ばないかわかりますか?」


 実はずっと気になっていた。

 はじめ扉越しに声をかけてきた時は、『アリオト様』と声をかけていたと思う。

 しかし、自分と二人きりになった後は、フィラウティアのことは名前で呼んでも、アリオトのことは一貫して“彼の者”と呼んでいた。

 もしそこに大きな意味があるのだとしたら………………と、考えを巡らせ、ハッと息を呑む。

「気づかれましたか?私は彼の者を呼び捨てにはできないのです」

「そ……それって…………も……しかして……………………」

 言葉にして聞いてしまえば、それは事実となって突き返ってくる。

 それがわかっているからこそ、私は顔色を失くしたまま口を噤んだ。なのに、シロは穏やかに微笑んでその答えを口にする。

「えぇ、私は彼の者に隷属させられているのですよ。禍々しい魔獣の血を媒介にされてね。ま、自業自得ですが………………」

 ……………………やっぱり。

 だから、敬称なしでは名前を呼べず、私の前ではあのような呼び方を…………と腑に落ちる。

 しかし同時に、暗澹たる想いが込み上げてきた。そして初めてフィリアの絶望を腹立たしく思った。

 何をそんなに何百年もぐだぐだと憂いているのかと。

 こんなにもシロを苦しめてまで。

 できることなら、今すぐ説教してやりたい。もちろん話は聞く。文句があるならいくらでも聞くし、泣きたいのなら好きなだけ泣かせてあげる。

 それでも、死を選ぶことは単なる逃げだと言ってやりたかった。膝詰めで。

 そんな悔恨にも似た忸怩たる思いを持て余しつつ、私はシロの話を聞く。

「彼の者は愉快な玩具を手に入れたかのような満面の笑みで、私に告げました。『フィラウティアと愉しみたいのならわざわざ止めたりはしないけど、もしタイプじゃないって言うんなら、助けてあげてもいいよ』と。そして纏わりつくフィラウティアを強引に私から引き剥がすと、私にだけに聞こえる声で囁きました。『ねぇ、魔獣を喰らった聖獣くん』――――――と」


 

 そう、気づいていたのだ。

 彼の者はこの私の正体に

 魔獣の血を喰らったことで、この場を回避できると考えた私を嘲笑うかのように、彼の者はその魔獣の血を使って容赦なく私を追い込んだ。

 一気に身体の中で逆流し始めた血。

 それは恐怖ゆえでもなく、好戦的になったゆえの気持ちの高ぶりでもなく、彼の者の仕業であることは火を見るよりも明らかだった。

 しかし寸刻の理解の間に、事態はあっさりと終焉を迎えていた。

 咄嗟に聖なる光を開放しようともしたが、それよりも早く、自ら取り込んだ魔獣の血が私の心臓を乗っ取り、そのまま血の鎖となって私を縛っていた。

 つまり、隷属。

 聖なる光ですら消せない、邪悪なる血による隷属だった。

 これがただ闇による束縛なら消せたかもしれないのに………

 それも、彼の者は私の心を縛ることはなく、直接心臓を縛り付けた。間接的にでも、精神的にでもなく、物理的に直接。

 それはいつでも私の心臓を握り潰せるようにと。

 その上で、こっそりと為された願望という名の命令。

『ねぇ、さっきも言ったけど、屋外でフィラウティアの相手をする気は毛頭ないんだよね。ま、屋内でもないんだけどさ。でも、フィラウティアを外でやり過ごすのは人間たちの目に触れる心配もあるし、その度に一々殺して闇に突き落とすのも面倒じゃない。だからさ、どこか場所を提供してよ。色欲塗れのフィラウティアを追い払えそうな場所?それともフィラウティアに君が聖獣だってことをばらして、ここであっさり殺されとく?まぁ、ボクが直接心臓を握り潰すっていう手もあるけど、さてどちらがより面白くてボクの興味が満たされるだろうね………………』

 愉悦の入り混じった脅迫。

 その口調はまるでこのまま家に帰る?それともここで遊ぶ?とでもいうように、酷く軽々しい。

 しかしその内容は、酷薄で理不尽極まりないものだった。

 だいたいそんな場所があるなら私のほうが教えてもらいたい。

 “魔の者”を寄せ付けず追い払える場所があるなら、そこは間違いなくこの地上における天国だ。

 だが、それを断れば私の心臓はこのまま握り潰されることは間違いない。いや、フィラウティアに嬲り殺される可能性もある。

 どちらにせよ、私に用意された未来は最悪だった。


 聖獣としての矜持を捨てるか、このまま殺されるか――――――――

 

 実際、殺されても構わないと考えた。その方が楽になれるとも。

 フィリアを待つだけの時間は、私にはあまりに残酷で長すぎた。そして何より、敵でしかない“魔の者”に、心はそのままで身体だけ隷属させられるということは、神聖なる聖獣としての矜持を踏みにじられたも同然だった。

 魔獣を喰らった身で何を言っているのかという話ではあるが、聖獣としての誇りを失ったわけではない。

 だからこそ、このまま殺してくれた方がまだましだと思った。たかが場所の提供かもしれないが、それを与えた時点で、私は本当に地に堕ちる。

 考えるまでもなく、そこからは永遠に堕ち続けるだけだ。

 いや、フィリアを失った日から、私はずっと堕ち続けていたのかもしれない。

 ただそのスピードが一気に加速しただけで。

 そしてそれを終わらせる方法が死だけであるならば、私はそれを受け入れてもいいと思った。

 しかし、先程感じた淡い希望が、私にいそれを踏み止まらせた。

 フィリアの魂の再生。

 それも百年という空白時間を置いての再生。

 そこに意味があるのか。ないのか。その希望に縋っていいのか、やはりまた絶望に取って代わるのか。

 不安と恐怖、そして僅かな期待に心落ち着かない自分がいた。

 

 だからまだ死にたくないと希む自分が…………………………

 

 そうだ。ここで死ぬのは簡単だが、それはあまりに早計だ。

 この四百年間で捨てたものならたくさんある。最後の砦のように残った聖獣としての矜持を捨て去ったしても、フィリアの魂の復活に立ち会えるのなら、そしてこの“魔の者”たちから、我が身を賭してフィリアの魂を守ることができるなら、それこそ本望だ。

 そう思えば、心はとても楽になった。

 心臓の絡み付いた枷は重くとも、聖なる光はまだ自分の中にあり、フィリアを想う気持ちも残っている。

 それこそが救いだと今は素直に思えた。

 

 たとえこの身体が我が意に反して、彼の者の隷属に成り下がろうとも――――――――




「そして私はこの屋敷を彼の者に提供することにしたのです。その結果、彼の者は本来この屋敷の主であるはずの私を執事として扱うようになってしまいましたがね」

「シ……ロ…………………」

 私の心はアリオトにある。

 しかしシロの心はアリオトになくとも、その身体は隷属させられてしまっている。

 どちらが辛いかなんて、それこそ考えるまでもない。

 そんな私のわかりやすい思考を読んだらしいシロが、ふっと笑って肩を竦めた。

「隷属…………なんて言葉を聞けば、さぞかしこき使われているように思うでしょうが、彼の者は少し“魔の者”でも風変わりなタイプなようでして、本当に興味を持った時でしか動きませんし、この屋敷に常時住み着いているわけでもありません。だから基本は、そうですね………………放置プレーといったところでしょうか」

「放置プレー……って」

「都合のいい時だけ、こうして屋敷提供させられるんですよ。それに、約束は守るタイプなのかフィラウティアに私が聖獣であることを話してないようですしね」

「そう……なの…………」

「まぁ、そのおかげで定期的に魔獣の血を飲まなければならない身体になってしまいましたがね………………」

 自嘲を伴って吐き出された言葉は、そのまま重い空気中を漂い、行く当てもなくぽとりと落ちた。それは吹き払うように、シロは少し笑ってから続ける。

「でも、そうまでして生きた甲斐がありました。今、こうしてユフィと出会えたのですから。できれば、彼の者からユフィを解放して差し上げたいのですが、たとえ今の私が隷属されていない状態であったとしても、“真紋”を消し去ることはできません。それどころか、彼の者がこの部屋の扉を開けるまでは、結界が邪魔して入ることさえできませんでした。我が屋敷だというのに……………」

 喜びと情けなさを綯交ぜにして、そんなことを告げてくるシロに苦笑しつつ、私はずっとシロの話を聞きながら抱えていた疑問をぶつけることにした。

「ねぇ……シロ。あなたも、アリオトたち“魔の者”も、フィリア様の魂が再生したことがわかると言っていたわね。だとしたら今から十六年前、それを感じることはできたのかしら」

 私が生まれたのは今から十六年前。

 過去に二度、フィリアの魂の再生を感じ取り、その度に希望と絶望を繰り返してきたのなら、今回もまたフィリアの魂の再生を感じ取ったはずだ。

 私が“神の娘”の生まれ変わりだとしたら、私が生まれた十六年の前に。

 そうなれば、もっと早くシロやアリオトたちが私の前に現れていてもおかしくはなかったはずだ。

 

 フィリアの魂と再会するために……

 私を殺すために………

 

 しかし依然として曖昧なままの記憶を辿ってみるけれど、そんな記憶はどこにもない。それゆえの問いかけだったのだけれど――――――

「感じましたよ。十六年前、フィリアの魂がこの世界に再生したことを。しかし、すぐにその魂の気配は消えてしまいましたが」

「えっ?」

 予想外の答えに、私は呆けたようにシロを見つめた。

 それはつまり、フィリアの魂が絶望のために三度(みたび)消えてしまったのも同義ではないかと。

 だとしたら、やはり私は“神の娘”の生まれ変わりではないと言うことになる。

 なら、私は一体何者なの?―――――――と、自問しかけて、そういえばただの平凡な公爵令嬢だったわ、自答し腑に落ちる。

 そして自分が特別な存在ではなかったことに、安堵感と喪失感が同時に心に占拠して、だったらこの状況は解せないと、私は困惑をそのまま表情に乗せた。

 すると、忽ちシロが慌てたように、両手と首をシンクロさせて横に振る。

「違います!違いますよ、ユフィ!貴女様は紛うことなき“神の娘”の生まれ変わりです!それだけは間違いありません!今も私にはフィリアの魂がここにあると感じられますから!」

「だったら………………」

 自分でも呆れてしまうほど頼りなげに響いた私の声。

 そのまま縋るように上目遣いで見つめ返せば、慌てていたはずのシロはその怜悧な麗しすぎる顔で、今度は必死に笑いを噛み殺していた。

 何故?と疑問に思うと同時に、頬に空気が溜まる。所謂、膨れっ面というやつだ。

 それを見たシロはとうとう堪え切れないとばかりに噴き出した。

 乙女の顔を視て笑うとは、なんとも失礼な聖獣である。

 というか、聖獣なのに上戸らしい。

「シロッ!」

 思わずシロを睨みつければ、シロは片方の手で顔を覆い、さらには肩を震わせながら弁解してきた。

「す……すみません。その……困った顔も、膨れっ面も、あまりにフィリアにそっくりだったもので、千年経って生まれ変わっても全然変わらないものだなと可笑しく…………いえ、懐かしさで嬉しくなってしまいました」

 シロは然りげなく言い直してくれたようだけれど、それはまったく成長が見られないということなのだろうか。

 いやいや、私はフィリアではなくてユーフィリナだし、そもそも成長とかしないから!

 と、当たり前のことを思って、一層じとりとした視線をシロに向ける。

 するとシロは、唾を呑み込むように笑いを呑み込み、そのまま笑いの壺に蓋をした。

 それでも若干笑いの余韻をどこかで引き摺っているらしく、それを穏やかな微笑み変えて、ようやく疑問に対しての答えを口にする。

「違うのですよ、ユフィ。『魂の気配が消えた』というのは、フィリアの魂が死んでしまったということではありません。文字通り、その気配が消えてしまっただけなのです」

「それは……一体どういう意味なの?」

 自分の理解力のなさにほとほと呆れてしまうけれど、文字通り理解するにしても、それはなかなか困難なことだった。

 この世界に生まれた者が、死んでもいないのに気配を消す。おいそれとできる芸当ではない。

 それも泣くことが仕事である生まれたばかりの赤ん坊に気配を消させるなんて、無理難題もいいところだ。

 生まれ落ちた瞬間から、今ここに至るまでの十六年間も。

 でも、ちょっと待って………………と、私は一旦思考を止めた。

 そして今度は、闇に沈んだままの記憶を手探りで探ってみる。

 何となくだけれど、それに似たような状況を、私は知っているような気がしたからだ。

 見たのではなく、実体験による経験。

 私にとって唯一無二とも言える能力。

 えぇ~っと、それって……確か……………と、ほとんど闇雲に記憶をまさぐり、指先に引っ掛かった記憶の断片を掴み上げる。

 そして――――――――――――

 

 そうよ、それってまさに隠密スキルじゃない!


 残念ながらそれを使っていた記憶はほとんどない。でも、その“隠密スキル”という単語だけは掬い上げることができた。

 しかも、その能力に不思議な親近感を覚え、もしかしたら私は生まれた時から、無意識にこの能力を発動させてたのではないかしら――――――と、思い至る。

 

 そう、我が身を守るために――――――

 

 だとしたら、シロやアリオトたちに気づかれなかった理由にも大いに納得がいくわ。

 さすが私。

 聖獣であるシロや“魔の者”であるアリオトたちからも気づかれないなんて、なかなかのスキル持ちじゃない。

 などと、自らその答えを導き出し、あぁそういうことか。凄いわ、私…………と、内心で自画自賛しながら何度も頷いていたところ、シロから微妙に違う答えを返された。

「はっきりとは断言できませんが、おそらくその右手の甲に“仮紋”を付けたユフィの絶対的守護者――――――その彼がこの世界からユフィの存在を隠してしまったのでしょう。生まれて落ちてから、すぐに」

「へっ?」

「えっ?」

「私が自ら気配を消して、隠れたのではなく?」

 てっきり自分の手柄のように考えていたために、思いっきり間抜けな顔でそう問い返せば、逆にシロからは質問に質問で返される。

「何故ご自分でお隠れになったと思われたのでしょう?」

 隠密スキルが…………

 と、言いかけたところでやめておく。

 証拠どころか、その記憶すらないからだ。

 その代わりに、質問に質問を重ねられて、さらに質問で返すという、会話という概念を覆す暴挙に出る。

「だったら、その私の絶対的守護者という方はどうやって私を隠したの?」

 しかしさすがのシロもそこまではわからないらしく、首を捻って見せた。

 その様子からも、やはり私の打ち立てた私の隠密スキル説のほうが有力そうね、と勝手に結論付ける。

 けれど、それを敢えて口にしなかったのは、この場ではどちらにせよ、明確な答えが出せないからだ。

 そこで私は、その場を濁すように笑って、灯りを吹き消すように笑みを消した。

 そして、今のシロと私の状況をぼんやりと口する。

「でも、今は…………シロも、私も、アリオトの檻の中にいるのね」

「えぇ、その通りです」

 しっかりと肯定されて、私はそのまま視線をシロから窓へと流した。

 開け放たれた窓。

 しかし、アリオトの強力な結界が張られているため、風は通るけれども、魔力は一切通さないという、見方次第ではある意味快適な安全地帯となっている。

 そしてここが、アリオトの用意した檻だというのなら、私たちは籠の中の鳥のようなものだ。

 どれだけ風に誘われても、決して外に出ることは叶わない翼を奪われた可哀想な鳥。

 その代わりに、安全な住処と庇護を得た幸運な鳥。

 不幸なのか、幸せなのか、心をアリオトに染められている私にはわからない。

 だけど、これだけはわかる。

 シロは間違いなく不幸だと。


 カサカサと窓の外から囁いてくる草木。

 四角い窓からは、瞬く星も、煌々と輝く月も見えず、希望も見えない。

 でも、見えないからといってそこにないわけではない。

 目に見えなくとも草木の存在が感じられるように――――――星や月が雲に隠れていようともいつだってそこにあるように――――――希望は間違いなくある。

 

 きっと可哀想な鳥が窮屈な鳥籠から出る方法だって………………


 そうね、まずはシロを自由にしなければいけないわ。

 私はそう決めて、窓からシロへ視線を戻した。

 するとシロは、難しい顔をして私を見つめていた。

「シロ?」

「ユフィ……貴女様に一つ確認したいことがあります」

 先程までの口調とは打って変わって、緊張を纏った硬い声に、私は思わず居住まいを正した。

 シロは感情を押し殺したまま、抑揚なく続ける。

「ここにはもう一人、彼の者に囚われた者がいたはずです。彼の者に心だけでも、心臓だけでもなく、すべてを奪われてしまった者が」

「えっ?」

 私の身体は驚愕に小さく跳ねた。

 その刹那、私は慌てて記憶を探る。

 闇に沈んだままの記憶を。

 この部屋に私とアリオト以外に誰かがいたというの?

 私は誰を忘れているというの?

 しかし、どれだけ浚おうとも、その記憶はかすりもしない。

 駄目よ!

 ちゃんと思い出すのよ!

 闇に沈んでしまったその人の記憶を!

 不安と焦燥で胸が激しく脈打つ中、私は頭を抱え込んだ。

 そして、縋るようにシロを見上げ、懇願するように声を絞り出す。

「教えて……シロ。ここには誰がいたの?その人は……その人は…………」


 どうなってしまったの?


 怖くて口に出せなかった言葉。

 そんな呑み込んだ言葉の代わりに、部屋に落ちた沈黙。

 その沈黙がむしろ雄弁に私の不安を語る。

 シロは暫し言葉を探すように逡巡した。

 そして意を決したかのように、ようやく口を開く。けれど、シロがそれを告げるよりも早く、ガシャンッ!と、大きな音を立てて窓が閉まった。

「ひゃっ!」

 その音に今度は大きく跳ね上がった身体。

 瞬間、身体中が粟立つ。

 さらに恐怖を煽るように、部屋の明かりがフッと限界まで落とされる。

 ちょっとした怪奇現象だ。

 しかし、風のせいで窓が閉まったわけでも、部屋の明かりが心許なくなったわけでもないことくらいわかる。 

 私もさすがにそこまで愚鈍でない…………はずだ。

 アリオトの結界で魔力までもが閉じ込められた部屋。

 言い替えるなら、アリオトの魔力だけが出入りを許される部屋。

 ならば、その答えは自ずと出る。

「チッ!」

 シロのらしくない舌打ち。

 そしてそのシロの視線を追えば、扉ではなく、明かりの届かない部屋の隅へと向けられていた。

 部屋の隅にできた闇溜まり。

 その闇から生まれる一つの影。

 どこまでも頼りなげなランプの灯火に、その影はゆらゆらと蠢めき、やがて漆黒の闇を凝縮させた人型となる。


「ねぇ、二人して何を話してたのかなぁ。仲間はずれにしないでさ、ボクにも教えてくれない?」



 それはまさしくアリオトの帰還だった。

 

  

 


 

 

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