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挿話【Side:サスガス】頭痛しかない妹と、頭痛を呼ぶ少女(3)

『シャウラ、よかったらユーフィリナ嬢の良き相談相手となってやってくれ』


 屋敷に戻って早々、そう告げたのが運の尽きだった…………

『まぁ……なんてことでしょう。今の今まで存じ上げず、私としたことが挨拶さえしておりませんでしたわ。それにしても、あんまりではございませんこと?いくら危険があるとはいえ、ずっと“幻惑”の中に閉じ込められているなんて、不憫でなりませんわ。えぇ、えぇ、よぉくわかりました。私がユーフィリナ様の友人に喜んでなりますわ。それにしても、セイリオス様もいくら妹が可愛いからといって、その守り方はどうなのでしょう。まったく殿方の考えることはいつだって両極端ですわね。でも、裏を返せばそうまでして守らなければならないほどの存在であり、儚くも美しいご令嬢ということですわね。ふふふふ、お兄様、ご心配なさらずとも大丈夫ですわ。私はお兄様の妹ですよ。お兄様のお気持ちは手に取るようにわかります。大船に乗ったつもりでいてくださいませね。本当に手のかかるお兄様ですこと。うふふ、今からユーフィリナ様にお会いするのが楽しみですわ』

『……いや、私はむしろ一気に心配になったのだが、と、とにかくお手柔らかに頼む』

『お任せください。必ずやお兄様の初恋を成就させてみせますわ』

『だ、だ、誰が初恋だ!私はそんなこと一言も頼んでない!』

『あらあら、素直ではないですこと』

『だからそうじゃない!』


 失敗したと思った。

 明らかに人選ミスだと。

 だが生憎、私の妹はシャウラ一人で、それ以外の兄妹はいない。つまり、人選もなにも選びようがない。

 あぁぁぁ…………最悪だ。

 内心ではなく、リアルに頭を抱え込む。

 しかし、頼んでしまった以上、今更なかったことにはできない。いや、私にはできるが、こんなことに能力を使う気はない。

 それに、私の初恋云々は是が非でも阻止するとしても、物は考えようだ。

 すぐに自分を責めてしまう気質のユーフィリナ嬢には、ずけずけと億さず物を言うシャウラのような人間が必要なのかもしれない。

 シャウラが言うように、彼女は“幻惑”という檻に閉じ込められながら守られ続けてきた。

 正直、初めてそれを知った時、同じ妹を持つ兄として、かなり引いた。ドン引きレベルでだ。

 セイリオス殿は、しれっと宣わっているが、それは犯罪ではないのか!と、問い質したくなるほどに。

 しかし、彼女の存在価値を知った今、それを否定することはできなくなった。むしろ、よくぞここまで守ってくれたと称賛の声を送っていいとさえ思っている。

 彼女の姿を見た今なら、尚更に。

 だが、トゥレイス殿下との一件でもわかるように、その檻にも限界がきている。

 ならば、彼女を守る手は可能な限り増やしておくべきだと思う。

 物理的にも精神的にもだ。

 それに医務室でうっかり『それなら私の妹シャウラを紹介しましょう。きっと妹同士で話が合うかもしれません』と、提案してしまった以上、約束を違えるわけにはいかないだろう。

 まぁ、ユーフィリナ嬢がこの約束を覚えているかはともかくとして。

 とにかく明日、放課後にでもユーフィリナ嬢に生徒会室へ来てもらい、シャウラを紹介しようと改めて腹を括った。



 なのに、どうしてこうなる?


『――――――それはもう愛らしいのに美しくて、あれこそが、神の求める美。無色透明。純粋無垢。それでいて傾国傾城、沈魚落雁。重ねられるだけ、思いつくだけの賛美の言葉を口にはしましたが、全然足りませんわ。あぁ…………なんたることでしょう。“神の娘”の生まれ変わりだと聞いておりましたので、どれほどのご令嬢かとわくわくしながら訪ねてはみましたが、実のところ数多いる見目麗しいご令嬢とそれほど大差ないだろうと、ちょっと思っておりましたの。でも、驚きましたわ。あれほどまでに、完成された無垢なる美を私は見たことがございません。お顔と家柄がいいだけで、頭が固く、面白味の欠片も、情緒も欠落したお兄様が一瞬で恋に落ちるなんて………と、密かに思っておりましたが、あれは落ちます。私でも落ちます。というか、落ちました』

『な、な、な、な……………………』

『まぁまぁ、お兄様。お口が釣り上げられたお魚のようになっておりますわよ。それに顔は熟れたリコペル(トマト)のようですわ。ほんとお可愛らしいこと』

『シャウラ――――――――ッ!』


 昼休憩の生徒会室。

 私は大概ここで生徒会長としての仕事を片付けてから食堂に向かうことにしている。

 理由は、食堂の混雑を避けるためと、少しでも女子生徒からの昼食の誘いを減らすためだ。

 そして今日も例に漏れず、私は食堂へ行く時間をずらすべく、一人生徒会室で今年度の行事予定進行表を確認していたのだが、そこに堂々とシャウラが乱入してきた。

 特段それに対して驚くことはない。ある意味、好き勝手にやって来ては、聞いてもいない報告やら、愚痴やらをしていくのはもはや日常茶飯事。

 たとえ他の生徒会役員がいようがいなかろうが、それは変わらず、遠慮もない。

 そのため、今日もまたか…………といった感じだったのだが、語られた内容に私の心臓は活きのいい魚のように跳ねた。

『ちょ、ちょ、ちょっと待て。お前、ユーフィリナ嬢に会いにいったのか?』

 思わず目を剥いた私に、シャウラはさも当然とばかりに頷く。

『えぇ、我慢しきれず、今朝始業前に』

『お、お前…………昨日、私が放課後に紹介すると言ってあっただろう!』

『お友達になるのに、兄の手がいるなんて、私をいくつだと思っていらっしゃるのかしら?それに、思い立ったが吉日。善は急げと申しますでしょ。これで私とユーフィリナ様はもうお友達同士ですわ。ですから今日の放課後、図書館で逢引いたしますの』

『逢引って…………』

 屋敷同様、内心ではなく、直接自分の両手で頭を抱え込んだ私に、シャウラの笑い声が降ってくる。

『うふふふふ……心配なさらずとも、まだお兄様のお気持ちについてはお話しておりませんわ』

『だから、私はそういうことではないと………………』

 少し顔を上げて恨みがましく睨んでやれば、肩を竦められる。が、もちろんそこに反省はない。それどころか…………

『私、まだほんの少し会話をしただけですが、ユーフィリナ様をとても気に入ってしまいましたわ。というか、今すぐ私が欲しいくらいです。それはもう、その御存在をずっとお隠しになられていたセイリオス様を恨みたくなるほどに。だから、義理の姉妹になることを前提にガンガン攻めて、私の鑑賞と癒し………いえ、お兄様の初恋のために、一肌でも二肌でも脱いでユーフィリナ様を落として参りますので、楽しみにお待ちくださいね』

『……………………………………』

 楽しみに……待ちたくない。

 できれば、全力で阻止したい。

 たとえ私が恋に落ちているとしても、それは妹に叶えてもらうものではないからだ。

 しかし、シャウラのやる気が半端ない。すでに嫌な予感しかしない。というか頭痛しかない。

『………………とにかく放課後、生徒会の仕事が片付いたら、私も図書館に行くから…………」

 そう伝えるのが精一杯だった。

 だが、シャウラの暴走は留まることを知らず……………………


『きゃあぁぁぁぁぁッ!』

 大急ぎで仕事を片付け、セイリオス殿たちと図書館の閲覧室で合流を果たした私だったが、『そろそろいい時間だし、声でもかけるか』というセイリオス殿の言葉に従い、シャウラたちがいるという歓談室へと向かう。

 その途中で聞こえてきたユーフィリナ嬢らしき悲鳴。

 我々の足は忽ち床を蹴り上げ、廊下を走る。もちろんこんな時に悠長に早歩きなどしている場合ではない。

 そして、ノックもすっ飛ばし、セイリオス殿の手でバンッ!と開け放たれた歓談室のドア。

『ユーフィリナ‼大丈夫か!?』

『ユフィ‼何があった⁉』

『ユーフィリナ嬢‼お怪我は……』

『ユーフィリナ…………シャウラ!お前は何をやっているのだ!』

 雪崩れ込んだ私たちが見たものは、我が妹シャウラによって歓談室のソファに押し倒されているユーフィリナ嬢。

 これは一体…………あぁ、夢なら今すぐ覚めてくれ。

 軽い現実逃避をしそうになった私に、何故か開き直ったシャウラがユーフィリナ嬢を離さないままに責めるように告げてくる。

『いきなり入ってきてなんですの?もちろん、ユーフィリナ様があまりにも愛らしくて純粋でいじらしいものですから、このまま私が食べてしまおうとしておりましたのよ』

『お、お、お、お前なんてことを……っていうか、ユーフィリナ嬢を食べるんじゃない!』

 しかも、言うに事欠いて………………

『あらあら、私がお兄様より先に味見しようとしたからってなんて狭量なこと。殿方の僻みほど醜いものはありませんことよ、お兄様』

 なんてことを言ってくる始末。

『シャ、シャ、シャウラ――――――ッ‼』

 私の叫声が響いたのは言うまでもない。


 だから、知らなかった。

 いつもシャウラはこんな感じだから。

 兄である私を思い、まさかユーフィリナ嬢にあんな頼みごとをしていたなんて――――――――



 シャウラは生まれた時から、常に魔力に溢れていた。

 正確にいうならば、母親のお腹の中にいる時から、ずっと魔力に溢れていた。

 その言葉だけを聞けば、とても素晴らしいことに聞こえるが、実際はそうではない。

 我々人間の中には、神より与えられた魔力を溜めるため器があるという。

 その大きさや形は千差万別で、器が大きければ大きいほど、多くの魔力を溜めることができ、その器の形よって適合する魔力の属性が変わってくるという。

 もちろん自分の中にある器の大きさや形など見たこともないが、私とシャウラの器はそれなりに大きく、魔力属性は闇以外のあらゆる属性に適合する万能型であると思われた。

 だが、困ったことに、シャウラはその器以上の魔力を集めてしまう体質らしく、母親のお腹にいる頃から魔力を必要以上に溢れさせ、魔力あたりを引き起こし、母親を苦しめた。

 時にそれは命を脅かすほどに。

 そのため母は、シャウラを生んでからも、彼女を恐れ、怯えた。

 実際、赤子のシャウラは魔力過多による魔力あたりだけではなく、癇癪とともに魔力暴走を起こし、乳母や侍女、医者や呪術師といった自分の傍にいた人間を巻き込んだ。幸い誰も命を落とすことはなかったけれど、母の目には十分脅威に映ったようだった。

 そのせいで、母はシャウラに一切の愛情を示さず、そして危険認定されたシャウラもまた、父の命令で公爵家敷地内に設けられた別宅で育てられることになった。

 そんなシャウラが、幼心に可哀そうに思えて、私は両親に内緒で時折シャウラに会いに行っていた。

 どうやら両親としては、西の公爵家を継ぐ者として私に何かあってはいけないと、シャウラに近づけさせたくなかったようだが、私が顔を見せる度に『おにいたま』と舌足らずな口調で呼んでくれることや、大好きと謂わんばかりに満開の笑顔で駆けてきてくれるシャウラが愛しくて仕方がなく、私はどれだけ反対されようとシャウラに会いにいくことをやめなかった。


 だが、そんな日々に起こった醜悪な事件――――――

 

 その日は両親ともに留守にしており、私は退屈すぎる家庭教師の授業を終えると、シャウラのもとに向かった。

 当然のように私に付いてくる侍従たちと一緒にだ。しかし彼らはよくできた侍従たちで、私がシャウラの所へ通うことに口を挟んでくることはなく、むしろ協力的だった。

 おそらく、シャウラの境遇に彼らも胸を痛めていたのだろう。

 ちなみに屋敷から別宅までは、子供の足で五分ほど。

 同敷地内とはいえ、大きな庭園を挟んでおり、さらには馬房と使用人たちの寮を迂回していかなければならず、それなりの距離があった。

 そしてこの別宅も二階建てのなかなか立派な建物で、専用の料理人たちと侍女とメイド、さらにはシャウラの魔力暴走に備えて呪術師が常に控えていた。

 私と同じ色合いを持つ二歳年下の可愛らしい私の妹。

 七歳となっていたシャウラは、私の姿を見るなり、『おにいさま、今日はこのご本を一緒に読んで』と駆けてきた。

 うん、いくつになっても可愛い。

 そして私はシャウラにお願いされるまま、これまでも飽きるほど読まされたキラキラなお姫様と王子様が出てくる、九歳の男子にはかなり物足りない、七歳女子にしても少々幼すぎる本を受け取り、シャウラとともに読み始めた。

 可愛い妹の頼みなら、所詮本の内容などどうでもいいのである。

 しかし子供向けの本のページはそれほど多いわけでもなく、あっさりと読み終えてしまった私たちは、この後何して遊ぼうかと顔を見合わせた。

 もちろん兄として、色々な提案をしてみるが、その決定権を握っているのはシャウラだ。

 散々悩みに悩んだ後、私の提案の中には含まれていなかった外出をシャウラは望んだ。

 といっても、公爵家の敷地内の庭園にだが。

 いつもなら、いくら決定権がシャウラにあるとはいえ、頷くことはなかったに違いない。

 だがこの日は、両親が共に留守にしていた。つまり、シャウラと母がうっかり鉢合わせることもない。後々父にバレたとしても、怒られるのは私であって、シャウラではない。父は父なりにシャウラを愛し、むしろ今のシャウラの不遇な状況に対して嘆いているくらいなのだから。

 そのため私は、シャウラがそれを望むならと二つ返事で了承した。

 そして、私付きの侍従と、シャウラ付きの侍女を背後にぞろぞろと引き連れて訪れた公爵邸内の庭園。

『おにいさま、たくさんピンク色のお花が咲いているわ。あのお花はなんて言うの?』

『あぁ……あれは、カルナチィオ(カーネーション)だね』

『だったら、こっちの紫のお花は?』

『イーリス(アイリス)かな』

『きれいね。おにいさま』

『そうだね』

 シャウラははしゃぎにはしゃいだ。

『あれは?』『これは?』と指差しながら、初めてと言ってもいい外の世界にキラキラとヘーゼル大きな瞳を輝かせた。

 こんなことならもっと早く連れ出してやればよかったと、内心で後悔しきりとなる。

 だから、この時の私は聞かれるがままに外の世界をシャウラに教えてやりたいと思った。しかし九歳の知識なんてたかが知れている。

 そこで私は自分が持つ花や虫の図鑑を、自室へ取りに戻ることにした。

 そうすればもっとシャウラにたくさんのことを教えてやれると思ったからだ。

『シャウラ、いい子だからここで待っているんだぞ』

『はい、おにいさま』

 あの頃のシャウラは本当に素直で可愛くていい子だった。今は……………うん、これ以上は語るまい。

 そう…………

 あれから何度、この日のことを思い出しただろう。

 そしてその度に思う。

 何故私はシャウラを一緒に連れて戻らなかったのかと。

 しかし、言い訳にしか過ぎないが、母がシャウラを必要以上に恐れ、同じ屋根の下にいることを頑なに拒んだからだ。

 もちろん、この日は母が留守なのだから、たとえ連れ戻ったとしても、家の者たちは誰も咎めたりはしなかっただろう。

 だが、今に思えばこの頃から私は、融通の利かない子供だったのかもしれない。

 物事を寛容にも、柔軟にも考えられない、杓子定規な人間――――我ながら呆れてしまうほどに。

 それでも、シャウラの笑顔がもっと見たくて、私は図鑑二冊を抱えてとにかく急いだ。

 さすが公爵子息に与えられた図鑑はずっしりと重く、九歳男子が運ぶには大きさといい分厚さといい、少々骨が折れる代物で、何度もずり落としそうになっては持ち直す。  

 途中、『お坊ちゃま、お持ちしましょうか』と、見かねて声をかけてきた執事に頑として首を横に振り、シャウラのもとへ走る。

 そうして、ようやく無駄に広い玄関ホール突っ切り、重厚感たっぷりの堅牢な扉を執事に開けてもらった瞬間―――――――――


『おにいさまぁぁぁ――――――ッ!』


 シャウラの切羽詰まったような声が聞こえた気がした。庭園よりのかなり遠くの場所から。

『シャ……シャウラッ!』

 聞こえた声に、図鑑をその場に投げ捨てるかのように放り出して、私は反射的に駆け出していた。

 執事と侍従たちは私を止めようとしたが、それよりの私の足は速かった。

 そのため、私の跡を追って執事も付いてくる。私付きの侍従たちは言わずもがなだ。

 言っておくが、私はシャウラ一人を庭園に残したわけではない。シャウラの傍にはシャウラ付きの侍女がいた。それにシャウラがいた場所は、我が公爵家敷地内の庭園であって、危険などあろうはずもない。なのに――――――――――

 庭園には意識なく倒れる侍女。足を止めることなくそれを横目で確認し、『彼女を‼』と侍従に声をかける。

 と同時に、ガシャン!と裏門の門扉がぶつかり合う音。

 さらに馬の嘶きと、男女の声に、馬車の車輪の音。

 残念ながら目視はまだできない。すべて風に乗って聞こえてくる音だけだ。

 それでも、シャウラが連れ去られたことだけはわかる。おそらくこの屋敷の中に手引きした者がいるのだろう。

『シャウラッ!』

 駄目だ!このままではシャウラごと逃げられてしまう。せめて姿が見えれば魔法が使えるのに!

 私もまだ九歳だったが、それでも公爵子息。魔力量と重ねてきた訓練で、世間の九歳より魔法の腕は確かだ。

 ようやく見えた裏門近くでは、門番と思しき男たちが二人倒れている。どうやら、不意打ちで何かしらの攻撃魔法を喰らったらしい。

 そして今にも走り去らんとする幌馬車。

 行商人風を装っての犯行なのだろう。

『坊ちゃま、これ以上行ってはなりません!ここは公爵家専属騎士たちに…………』

 そう言って執事が、裏門手前で私の腕を掴み引き留めたが、それを風魔法と一緒に振り払う。

『風魔法!薙ぎ払え!旋風!』

 実際、風魔法で薙ぎ払ったのは馬車の幌であって、執事ではない。

 その目的は、馬車の荷台にいるはずのシャウラを目視で確認するためだ。

 いた!

 遠目もわかる。御者も含めて男三人、女一人。おそらく女の服装がメイド服であることからして、あの女こそが今回の誘拐を手引きしたのだろう。

 いきなり飛ばされていった幌に慌てているようだが、それでも走り出した馬車に乗る自分たちには追いつけないと思っているらしい。

 こちらの出方を窺いながらも、不敵な笑みを浮かべているように見える。

 そして肝心のシャウラは、まだ意識はあるようだが猿ぐつわをはめられ、男の腕にしっかり抱き込まれている状態だ。

 このままでは本当に逃げられてしまう!

 けれど、下手に攻撃魔法を放てば、シャウラまで傷つけてしまうかもしれない!

 どうしたら………………

 焦燥と怒りで視界が歪む。

 出し倦ねる次の手を考えるより先に、馬車を追って足が前に出る。しかし、その足はすぐに止まることとなった。


『地魔法!馬車の足を止めよ!流砂!』

『父上ッ!』


 背後から聞こえてきた父の声。

 どうやら屋敷に戻っていたらしい。

 そんな父から魔法が発動された瞬間、砂と化した地面に馬と車輪が沈み、馬車が止まる。

『今だ!捕らえろ!』

 立て続けに放たれた父からの命令。それに従い、私の横を剣を抜きながら駆け抜けていったのは、我が公爵家の専属騎士たちだった。

 それに慌てた誘拐犯たち。シャウラを人質にしながら攻撃魔法を繰り出してくる。

 が―――――――――

 

 ゴウッ!


 シャウラの身体から一気に吹き出した魔力。

 シャウラを中心に、父の地魔法で砂と化した地面を巻き込み大き竜巻を生む。

 そこに呆気なく呑み込まれた犯人たち。まるで紙片のようにその身体が砂とともに風に巻き上げられていく。

 専属騎士たちは間一髪で巻き込まれずに済んだようだが、それ以上近づくこともできず、むしろ後退を余儀なくされる。

 幼くともわかる。

 父に確認するまでもない。

 これは明らかな魔力暴走。

 シャウラの魔力が一切の制御を受けることなく、解き放たれているのだ。

 そしてそれは、子供の目にもいつも以上に威力があることがわかった。

『シャウラッ!』

『風魔法!防風壁!』

 私の声と重なる形で父より放たれた防御魔法。

 そして父は今にもシャウラに向って――――巨大な竜巻に向って――――駆け出していきそうな、私の身体をその腕に抱き込む。

『父上!魔力吸収を!』

『無理だ!これほどまでの魔力を一気に吸い取ることはできない!できたとしても、我々の身体では到底持たない!』

『そんな…………』

 この時の私にできたことは、ただ爪が食い込むまで拳を握り、血が出るまで唇を噛み締めることだけ。

 そして、魔力が自然に雲散霧消していくのをただ為す術もなく見つめるしかない残酷な時間だけがそこにあった。

 早く!早く!

 早く!おさまれ!

 私の可愛い妹を……

 シャウラを返して!

 永遠にも思える酷薄な時間を越えて、フッと時が止まったかのように急に凪いだ風。

 巻き上がっていた砂塵がドサッ!という音を立てて地に落ちる。

 そしてその中には、竜巻に巻き込まれていた人間たちも含まれており――――――――

 

 私の視線の先で広がる光景は、全身からおびただしい血を流して地に伏し、息絶えている者たち。

 それを見下ろすかのように、馬車の荷台の上で、魔力が枯渇寸前となりながらも、呆然と立ち尽くすシャウラ。


 それはまさしく、シャウラの魔力暴走が人の命を奪った瞬間だった。


こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


シャウラの過去。

やはり重い………

でも明るい未来に続くと信じて――――――


どうか皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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