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転生した悪役令嬢ですが、どなたがヒロインなのか教えてください!  作者: 星澄


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“先見”と“忘却”は私が覆します(9)

 あれから私たちは一縷の望みをかけて、銀の魔道具が瓦礫の隙間にでも挟まっているのではないかと、探して回った。

 もちろんアカには「ロー様が目を覚ますかもしれないから、しっかりと見張っておいてね」という立派な役目を申し付けて、闇を吸った後遺症が身体から消えるまで座らせておく。

 アカはそのお役目にとても不服そうだったけれど、「主の命令を聞けないとは、困った飼い犬だな」というお兄様の素直ではない援護射撃を受けて、渋々それに従ってくれた。

 お約束のように「オレは飼い犬ではない!」と言い返してはいたけれど。

 そして私たちは、それこそ教室の隅から隅まで、お兄様たちは感知魔法を使いながら筒抜けとなった隣の教室まで探しに探して、“銀の魔道具はもうここにはない”という結論に達した。

 つまりそれは、お兄様が口にした結論にも達したということで――――――――

 そこで私たちは、どこか暗澹たる思いの中、スハイル殿下へ報告するために、別棟にある医務室へと向かうことにした。

 人酔いしたレグルス様とともにスハイル殿下がそこにいるからだ。

 正確に言えば、そこにレグルス様を運び込んだはいいけれど、出るに出れなくなったスハイル殿下がそこにいるから―――――となる。

 そして当然、そこにはシャウラもサルガス様もいる。

「おい、大丈夫か?」

 アカの声に振り向けば、どうやらタイミングよくロー様も目覚めたらしい。

 今回の事件の詳細を聞くためにも、当事者である彼にもまた医務室へ同行してもらわなければならない。

 今回の件において、あくまでもこの時点ではあるけれど、彼は限りなく黒に近い。

 あの銀の魔道具を作ったのは他ならぬ彼である以上、そう判断するのは仕方がないことだろう。

 しかし完全に黒だと断定できないのもまた確かで、まずは銀の魔道具に施された魔法陣が、どのようなものであったのかを確認しなければならなかった。

 (くだん)の銀の魔道具が消えてしまった以上、尚更のこと。

 それに、何度も『違う!違うんだ!』と言い続けていた彼の声が、どうしても耳から離れない。

 だからこそ、私は何がどう違うのか確かめなばならないと強く感じていた。


 

 向かった医務室。

 しかしその医務室の前の廊下は、学園と大学の女子生徒で犇めき合っていた。

 そして、その手に花束やら、上等な菓子箱を持っているところからして、どうやらレグルス様のお見舞いに駆けつけてきたらしい。

 それにしても、さすが皆さん貴族のご令嬢だけあって手配が早い。というか、優秀な従者をお持ちのようだ。

 レグルス様が医務室へ運び込まれて、まだ一時間も経っていないというのに。

 なるほど……これがスハイル殿下を引きこもりした原因ね。

 でも、これではまたレグルス様の人酔いが悪化しそうだわ。

 と、私は眉を寄せてしまう。

 しかしここはれっきとした医務室前。中にいてるのは具合の悪い者か、心底心配して付き添っている者たちだけだ。

 だからこそ、ここは慎ましい淑女として静かにするべきだわ、と思う。

 そしてそれを思ったのは私だけではなかったようで、お兄様がぼやくように告げてきた。

「まぁ、この程度なら、レグルスが能力を閉じている限り問題はないはずだ。とはいえ、心配してもらうのは有難いことだが、その下に見え隠れしている下心がなんとも醜いものだな。お見舞いと称してお近づきになろうとしているのだろうが、むしろ殿下やレグルスに嫌厭されていることに気づいた方がいい。シェアト殿、頼めるか?」

「わかりました」

 お兄様の苦言でしかない言葉に、シェアトは苦笑ととも同調して、“言霊”の能力を使った。


()()()()()()()()()()()!」


 と同時に、お兄様が指を鳴らす。

 どうやら医務室の周りに“幻惑”をかけたらしい。

 あの三層構造でできた“幻惑”を。

「やれやれ、医務室へ入るにも一苦労だな…………」

 うんざりとしているお兄様に、まったくだ、と内心で返しながら、ようやく私たちは医務室へと入った。


 一見して人影がない医務室。

 カーテンで仕切られたベッドが二つあるだけで、シャムの姿もない。ただし、ベッドの下に敷かれた魔法陣が両方とも発光していることからも、現在発動中であることがわかる。

 しかし、私たちの気配を察したからか、手前にあるベッド下の魔法陣から光が消えた。

 それと時を置かずして開けられたカーテン。するとそこからは、スハイル殿下と何故かサルガス様が顔を覗かせた。

 ざっと、私たちの顔ぶれを確認したスハイル殿下とサルガス様の目が、ロー様で止まる。

 あぁ……確かに彼は黒には近いけれども、まだ黒と断定したわけではないことを告げるべきね、と思考を回すけれど、二人の視線は何も告げることなくロー様から離れた。

 さすが、状況だけにあっさりと流されて、真実を見失ってしまうほど浅慮ではないことに、私は一先ず安堵する。

 しかし、私は淑女としての礼を取りながら、頭の中に新たな疑問符を芽生えさせていた。

 どうしてサルガス様がスハイル殿下と一緒に出てくるのかしら?

 そこはレグルス様が休んでいるベッドなのよね。

 本来、サルガス様はシャウラのベッドの方にいるはずでは?

 えっ?もしかして私がそう思い込んでいるだけで、逆なの?

 いやいやその場合、スハイル殿下までもがシャウラに付き添う形となるから、そっちの方が問題だわ。

 もしかして、兄妹でも男女である以上、カーテンで仕切られた狭い空間の中で付き添うのはよくないと、生真面目なサルガス様のことだから遠慮されたのでは………………

 一度そう思う始めると、もうそれが正解以外の何物でもないような気がしてくる。

 そして、きっとそうに違いないわ。と、私なりに結論に達したところで、スハイル殿下の声が降ってきた。

「ユーフィリナ嬢、顔を上げてくれ。今回の“先見”が覆ったのは、やはり君があの場にいてくれたおかげだ。本当は君にそんな危険なことをして欲しくなかったのだが、シャウラ嬢の命が救われたのは間違いなく君の勇気あっての行動ゆえだ。王弟として感謝する。本当にありがとう」

 私はスハイル殿下の言葉に従い、ゆるりと顔を上げると、微笑みになり切れない曖昧な表情となった。そして、丁重に言葉を返す。

「いえ、私は自分にできることを精一杯やっただけで、褒められるようなことは何もしておりません。あの……もしよろしければ、シャウラ様とレグルス様のご容態をお教えていただけないでしょうか?」

 そう私が口にするや否や、「ユフィちゃん!」と嬉しそうな声が聞こえ、カーテンの向こうからレグルス様が飛び出してきた。

 なんなら抱きついてきそうな勢いに、お兄様とシェアトがさっと私の前で壁となる。

「ちょっと、セイリオスはわかるとしてもなんでシェアトまで邪魔するんだよ。せっかく俺とユフィちゃんの抱擁の場面なのに」

 人酔いから見事な完全回復を遂げたらしいレグルス様が、可愛らしく口を尖らせて見せるけれど、お兄様とシェアトの視線はこれまた完全に冷え切っている。

 下手をすれば、レグルス様のみならず、周りにあるものすべてを凍り付かせてしまいそうなほどの冷たさだ。

 しかもそれは視線だけでなく、発する言葉もブリザードと化していた。

「レグルス殿、お言葉ですが、そんな場面などあろうはずがありません。それに私は、ユーフィリナ嬢にとってクラス代表であり、(今は)友人であり、絶対的な守り手の一人でもあります。邪な考えで彼女に害を及ぼそうとする者があれば、たとえそれが四大公爵家の一角である北の公爵家ご子息レグルス殿であろうとも、即排除対象です。言動にはぐれぐれも注意された方がよろしいかと」

「ちょっ…………これ誰?いや、今のシェアトが昔の喜怒哀楽の薄いシェアトではないことは知っているけれども、これは一体誰だ?俺の可愛いシェアトは、どこへ行っちゃったわけ?」

「レグルス殿の可愛いシェアトやらは元々存在などしておりませんが、私ならちゃんとここにおりますよ。それよりも、レディの前でいささか行儀が悪くないですか?ブレザーも着崩れますし、タイも歪んでますよ。ほら、髪には寝ぐせが………………」

 そう言いながら、シェアトがタイを正し、寝ぐせを撫で、ささっとレグルス殿の身だしなみを整えていく。

 レグルス様はされるがままで、まるで手のかかる息子と、子離れできない過保護な母親のようだ。

 そんな二人に、お兄様は絶対零度の視線から呆れだけを含んだ生温い視線へと緩和させると、「シェアト殿と新しい関係を築けそうで、なにより」と、まったく感情がこめられていない声でそう告げた。

 しかしこれで、レグルス様の容態はわかった。

 というか、ご本人様登場で、疑うまでもなく本調子となっていることがわかる。

 でも………………と、完全にカーテンで閉ざされてしまっているベッドを見やれば、サルガス様が私の意を汲み取り答えてくれた。

「今、シャムが魔力増強の魔法陣でシャウラの枯渇した魔力を回復してくれている。私も付き添いたかったのだが、シャムからただの回復の魔法陣とは違い、この魔法陣はかなり強力なため、影響を受けて魔力あたりを起こしかねないと締め出されてしまってね、こうしてレグルス様を見舞いながら待っているところだったのだ。それよりも、こうしてシャウラの心配をしてくれて本当にありがとう。先程も伝えたが心から感謝している。我が西の公爵家の名に誓って、この恩は必ずお返しすると約束しよう」

 さすが生真面目が制服を着ていると揶揄されるだけあって、サルガス様はピリッと姿勢を正し、折り目正しく頭を下げてきた。

 この前にレグニス様を見たばかりなので、その強弱というか、硬軟というか、その高低差加減があまりに酷過ぎて面食らってしまう。

 けれど、私の口は無意識のうちに、元日本人ならでは遠慮深さをしっかりと発揮していた。

「サルガス様、本当にお気持ちだけで結構です。私はシャウラ様の友人として当たり前のことをしただけですから」

「いや、その当たり前のことがなかなかできないものなのだ。人は我が身が可愛い生き物だからな………この私も………」

 そう言って、サウルガス様は一度シャウラのいるベッドの方を見やってから、すぐに我に返ったかように首を横に振った。それから慌てたように、口を開き直す。

「あぁ、よかったら、こちらの椅子にかけないか?君もシャウラの件で疲れているだろう。これから話をするにしても、立ったまではゆっくり話し合うこともできないからな。スハイル殿下もこちらの椅子にどうぞおかけください。シェアト、悪いがあちらから椅子を運んできてくれ。レグルス殿はもう一度、ベッドの上へどうぞ。一応は病み上がりですからね」

 どうやらシャウラを心配する兄から、生真面目で優秀な生徒会長モードに切り替わってしまったサルガス様は、医務室内を話し合いの場にふさわしく整え始めた。

 レグニス様をベッドに戻した時点で、話し合いの場にふさわしいかは多少疑わしくなってしまったけれど、確かに病み上がりであるのは事実のため、レグルス様は渋々、他の面々はそれをあっさりと受け入れる。

 そして最後に、居心地悪そうにアカに付き添われながら立っている魔道具師ロー様に視線を向けると、サルガス様はただ事務的にも聞こえる口調で「貴方もこちらに…………」と椅子をすすめた。



 今、医務室にいるのは、シャウラとシャム、そして、魔道具師ロー様を含めた私たちだけだ。

 ふと、今日の医務室担当の大学院生と、スハイル殿下の専属護衛騎士であるエルナト様の姿がないことに気づき、それとなく確認してみると、担当大学院生には医務室に運び込むまでもない軽傷の生徒たちに、癒し魔法を施してくるようにとスハイル殿下が命じ(体よく追い出し)、エルナト様は被害状況の確認のために一時的にスハイル殿下の傍を離れているだけらしい。

 しかしその話を聞いた直後、お兄様は何かを感知したのか、一度指を鳴らした。どうやら一旦“幻惑”を解いたらしい。

 すると、医務室の扉を開けてエルナト様が戻ってきた。まさに噂をすれば影である。

 すかさず鳴らされるお兄様の指。それを確認してから、エルナト様が嬉しそうな声を上げた。

「うわぁ……ユーフィリナ様もいらっしゃってたんですね。いやはやご無事で何よりでした。こうしてお元気そうなお顔を拝見できてとても嬉しいですよ」

「そんな……こちらこそご心配をおかけして申し訳ございません」

 護衛騎士という立場であるにもかかわらず、自分の主を放置したままニコニコと話しかけてくるエルナト様に、私の方が冷や冷やとしてしまう。

 けれど、そんなエルナト様の主であるスハイル殿下は毎度のことだと慣れてしまっているようで、こめかみを指でぐるぐると解しながら「報告」とだけ命じた。

 その一言に顔を引き締めるでもなく、むしろニッコリと笑みを深めて見せると、エルナト様は従順にも報告を始めた。

 うん、スハイル殿下の専属護衛騎士はかなりの強者である。

 しかしその報告内容は、先程お兄様が私に説明してくれた内容と然程変わりのないもので――――――――

「今回の件による被害者は、シャウラ様を含め…………いえ、守護獣様と魔道具師様を含めまして、二十二人。しかしシャウラ様以外、すべてが軽傷のため、癒し魔法を得意とする学生たちによりすでに全員が回復済みでございます。建物被害といたしましては、特別教室のある棟だけが半壊。それ以外の棟及び敷地内に関しましては、外壁の一部破損、柱のひび割れ、窓ガラスの割れ、中庭の陥没等々、数にすれば数百ヶ所以上に及びますが、土属性の魔法使いを緊急召集し、半壊である棟を除き明日にはほぼ修復完了の予定です。もちろん陛下にも早馬でその旨はお伝えしております。それにしても今回は、昼休み中で、特別教室の棟にはほとんど誰もいなかったことが不幸中の幸いでした」

 スハイル殿下はエルナト様の報告を最後まで聞き終えると、「確かにな……」と頷いた。

 それからスハイル殿下はロー様、アカ、私と視線を経由させて、お兄様を見つめた。

 さすが御学友同士というべきか、それだけでお兄様はスハイル殿下の言いたいことを的確に読み取ったらしい。

「殿下のお望みのままに」

 お兄様は恭しく胸に手を当て、わざとらしくそう告げると、腰かけていた椅子からゆっくりと立ち上がった。

 そして、ポンと私の肩に手を置いてから、居心地悪そうに座っているロー様へと歩み寄る。

「あ、あの……一体何を…………」 

 不安げに揺れるアクアマリンの瞳で見上げるロー様を、お兄様はアメジストの瞳に映しながら手を翳す。

 恐怖で顔を引き攣らせるロー様に、お兄さまは眉一つ動かさず声を発した。

「幻に落ちろ」

 瞬間、ロー様の瞳が生気を失い、虚空を見つめる。身体は石のように固まりピクリとも動かない。

 時を奪われたようにも、永遠の時に閉じ込められたようにも見えるロー様。

 それはまさしくロー様がお兄様の“幻惑”の囚われてしまった証拠だった。

 お兄様がロー様が確実に“幻惑”の中に落ちたことを確認すると、スハイル殿下に向き直り、どうぞとばかりに手を差し出した。

 その仕草だけでこれまた絵になってしまうのだから、お兄様の麗しさは留まるところを知らずだ。

 スハイル殿下もまた、私と同じことを思ったのか、若干うんざりした顔で頷くと、そのまま私に視線を向けた。

 そして真摯に告げてくる。

「ユーフィリナ嬢、そして守護獣殿、まずは貴方たちの話から聞きたい。魔術準備室で一体何があったのか。覚えている範囲でいい。お願いできるか?」

 私は当然とばかりに頷き返し、魔術準備室に到着してからの顛末をすべて話した。

 私とアカがそこに到着した時には既に、シャウラの意識はないように見えたこと。

 その後すぐに、銀の魔道具からシャウラの魔力が放出され、咄嗟にアカが守護結界を張ってくれたおかげで、私だけでなくシャウラとロー様も助かったこと。

 そして――――――

 私がそのシャウラの暴走した魔力を消したと思われること。

「ま、まさか……君は“神の娘”の生まれ変わりとして能力を、自分の意志で行使したというのか?」

 どうやらシェアトが勘違いしていたように、スハイル殿下もアカがシャウラの暴走した魔力を吸収し消し去ったのだと思い込んでいたらしい。そしてそれはレグルス様とサルガス様も同様だったようで、驚愕で目を見開いている。

 しかし、どこまでも生真面目なサルガス様はハッと我に返ると、すぐさま立ち上がり、その勢いのまま私に向かって頭を下げてきた。

「まさか、ユーフィリナ嬢が“神の娘”の生まれ変わりの力を行使してくれたなどと思いもせず、あのような通り一遍の言葉でしか感謝を示さなかった私をどうか許して欲しい!」

 いやいや、許すも許さないもありません。

 アレのどこが通り一遍だったのでしょうか?

 西の公爵家の名に誓ってらっしゃいましたよね?

 これ以上に感謝を意を伝えるって、どうするおつもりですか?

 やはり土下座ですか?この世界でも土下座ありですか?

 お願いですから、それだけは絶対にやめてください!

 そんなことを内心で訴えながら、これ以上の感謝は必要ありませんと、手と首を横に振り全力でご遠慮願う。

 そんなわたしに、「ユーフィリナ嬢は本当に慎み深いな…………」と、サルガス様が困ったように苦笑したけれど、これは慎み深いのでなく、自分の身の丈を知ってのことです!と、微笑みだけで反論しておく。

 もちろんそんな私の反論など聞こえるはずもないけれど、それでももう一度謝罪できたことに(実際は三度目となるのだけれど)、一先ず満足したらしいサルガス様は、ようやく腰を下ろしてくれた。

 それを待ってから、私はこれだけは告げておかなければならないと、再度口を開く。

「今お話しいたしましたように……確かに私はそれらしき能力を行使いたしました。しかし、それがどのような能力であるかは、まったくわからないのです。ただ、私がしたことといえば、強く望んだだけ――――――ただそれだけなのです。そしてイグニスの話によりますと、“神の娘”であったフィリア様も、その守護獣であったイグニスも、その能力が具体的にどのようなものであったのかまでは知らなかったようです」

「自分の能力を知らない?守護獣殿はともかく、力を持つ本人が己の能力が何なんか知らないなんてことが起こり得るのか?」

 スハイル殿下はご尤もな疑問を唱えて、アカを見る。アカはそれに首を竦めて、私の時とまったく同じ台詞を口にした。

「“神のみぞ知る”――――――ってことだ」

 これほど酷い逃げ口上もない。

 しかも、それがまた事実なのだからなんとも始末が悪い。

 唖然とするスハイル殿下たちに対し、私は一層居たたまれなさを感じて、眉をへにょりと下げて俯いてしまう。

 けれど、ここで声を発したのは、護衛騎士であるエルナト様だった。

「殿下、申し訳ございません。少しだけユーフィリナ様によろしいでしょうか?」

「構わん」

 スハイル殿下からの許可を得たエルナト様は、人懐こそうな笑みを満面に広げた。

 そして穏やかな口調で告げてくる。

「何故自分の能力なのに、“神の娘”も知り得なかったのか?私が思うに…………知る必要がなかったからではないでしょうか?ユーフィリ様のお話によると、何かしらを強く望まれた結果、その能力が発動されたんですよね。しかし、考えてもみてください。人は誰であれ、何も望まないことなんてほぼありません。大なり小なり、望みを持っているものです。そしてそれはユーフィリナ様にも言えることです。違いますか?」

 正直エルナト様が何を言いたいのがさっぱりわからなかったけれど、「違いません」と同意する。

 するとエルナト様は我が意を得たりとばかりに、ニッコリと笑って話を続けた。

「ですよね。だとするならば、過去にもその力を行使していても、なんら不思議はなかったはずです。しかしそういった事実は、守護獣様の事件が起こるまで、一度としてなかった。だからこそユーフィリナ様は戸惑っておられるのでしょう?」

 コクンと頷けば、エルナト様もまた頷き返す。

「つまり、そこから導き出される答えは、ユーフィリナ様が有する能力の発動条件は、この世界の運命を変える程の望みであり、それこそが正しき未来であると、世界が認め、受け入れた時のみ―――――と、なるのではないでしょうか」

「この世界が認め、受け入れる…………?」

「そうです。そもそも“先見”で見える未来は確定された覆ることのない未来です。言い方を変えるなら、神が定め、この世界が認めた未来なのです。しかし、“神の娘”と“魔の者”だけが、神の定めた運命を覆すことができる。まぁ、“魔の者”については、神の理の外にいるのだから当然のこととして、神の創造物であり、理の中にいるはずの“神の娘”が、何故そんなことができるのか…………」

 私はその先を待つべく息を呑んだけれど、エルナト様はふっと笑みを零した。

「“神の娘”は神にとって鏡であり、良心だからですよ」


 鏡は我が身を映すもの。

 ありのままに、誠実に――――――


「神は“神の娘”の瞳に映るモノ見つめることで、自分の姿を、行いを、この世界を知るのです。だから、神の良心である彼女が正しきモノを望めば、この世界は、神は、たとえそれが己の非であったとしても認めざるを得ない――――ただそれだけのことですよ。だから神は敢えて、その能力が何たるかという核となる部分を伏せたのだと思います。伝える必要がなかったから…………まぁ、拙き護衛騎士の想像に過ぎませんがね。ねぇ、セイリオス様?」

 唐突にも、ご指名付きでやってきたエルナト様の無茶振りに、お兄様は半眼となって睨み返す。けれどすぐさま、人畜無害そうなエルナト様の笑顔を前に、諦めたように一つため息を吐くと、エルナト様の言葉を引き取った。

「エルナト殿の言う通りだろう。ただ、付け加えるとするならば、“神の娘”は神の鏡であり、良心であるがゆえに、その心が穢れてはいけない。能力が何たるかを知ることで、欲を生みかねないと、神は懸念したのだろう。人は穢れやすく脆い。“神の娘”も特別な人間であるとはいえ、移ろいやすい人間であることに変わりはないからな。さらに言えば、たとえ“神の娘”が純粋なままでも、その能力を知った周りの欲深い人間たちに利用されないとも限らない。それゆえに神は誰にも告げなかったのだろう。その能力が何なるかをな。つまり、ユーフィリナは、何も考えず今のままでいればいいということだ」

 ―――――なんて、お兄様は締め括ってくれたけれど、正直に言ってもいいだろうか?

 とてもじゃないけれど、理解が追いついてこない。

 しかし私以外の面々は、神妙な顔つきながら、納得の表情を浮かべている。

 その理解力、できれば私にもわけてほしいところだ。

 でも、さすがにこれだけはわかった。

 “神の娘”の能力は、取扱い注意の非常に危険な能力であるということが。

 だからこそ神は、その能力を与えておきながら、秘したのだ。

 なのに、悪役令嬢である私がその能力を持ってしまっている。

 その時点で、この世界にとって大きな間違いが生じていることに、いい加減神様も気づいてほしい。

 お兄様は今のままでいいと言うけれど、悪役と名の付く者に、そんな危険なモノを持たせるなんて、世界滅亡を促しているのも同義だ。

 あぁ……いっそのこと、正しき者にフィリアの魂が宿るように望んでみようかしら?

 なんてことを考え始めたところで、私はふと思い出した。

 取扱い注意の危険物が一つ、現在行方不明になっていることを…………

 そこで、話の脈略も一切度外視で、スハイル殿下に報告する。

「スハイル殿下、大事なことをお伝えそびれておりました。実は銀の魔道具なのですが、あの場から忽然と消えてしまったのです」

「ユーフィリナ嬢……今何と?」

 しっかりと聞こえていたはずなのに、どうやら脳がちょっとした受付拒否を起こしているらしく、スハイル殿下はもう一度尋ね返してきた。

 しかしそれに対して、答えたのはお兄様で……………………

「ユーフィリナが言った通りだ。銀の魔道具は消えた。おそらく本件の首謀者にでも奪われてしまったのだろう」

「しゅっ、首謀者ってなんだ?その魔道具を奪って何に使う?いや、その前にこのロー・セルペンティスは黒ではないのか?」

「首謀者とは、陰謀や悪事企てて、裏で糸を引いている者のことだ。そしてロー・セルペンティスは限りになく黒に見えるが、黒ではないだろう。といっても、現時点では完全なる白とも言い切れないがな」

 飄々とそんなことを宣うお兄様に、誰もがぽかんと口を開いた。

 もちろんスハイル殿下もその一人だ。

 けれど、誰よりも真っ先に口を閉じ、浮きかけていた腰をストンと下ろすと、スハイル殿下はこめかみを押さえつつ命じた。

「セイリオス」

 たった一声。

 それも名前を呼んだたけ。

 されど、お兄様にとっては十分だったようで――――――


「仰せのままに」

 

 そう告げるや否や、指を一つ鳴らした。

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


どうか皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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