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“先見”と“忘却”は私が覆します(7)

 本当にお兄様は質が悪い…………

 

 心臓に悪い朝をどうにかこうにかやり過ごして(逃げ出して)、私はとにかくシャウラだけに集中することにした。

 当たり前だ。シャウラの命がかかっているのだから。

 そう、今は手練れのお兄様のことなど気にしている場合ではない。

 あれほど手練れるからには、過去どんなことがあったのかとか、もしかしたら現在進行形でその関係が続いているのかもしれないとか、そんなことは一切考えない。

 お兄様の傍にどんな女性がいようとも、どんなに艶っぽい関係であろうともだ。

 ううん…………違うわね。

 お兄様はその人のことをずっと一途に愛しているのだったわ。

 時折、私にその人を重ねてしまうほどに…………

「だ、だからって、妹相手にあんな風にからかって……やっぱりお兄様は質が悪いわ」

 そうプリプリと文句を垂れることで、私は胸に奥で疼く正体不明の痛みから気を逸らす。

 そしてそのままお兄様のことを頭から追いやると、シャウラのことだけを強く思い、祈った。


 どうか、シャウラの恋が悲しい恋で終わりませんように――――――――と。

 


「で、どうして突然、昼食にシャウラを誘うことになるんだ?」

 私の後に付いてきながら、呆れたように聞いてくるアカに、私は当然とばかりに返す。

「きっと、大事な魔道具が手元になくて不安なはずよ。だから友達として傍にいてあげるのは当然のことだわ。そもそも、どうして今まで昼食にシャウラ様をお誘いするという発想が湧いてこなかったのかしら。いくらクラスが違うとはいっても、大学生であるお兄様とは一緒に昼食をとっているのだから、いつお誘いしてもよかったはずなのに…………こういうところが、女性としても気が利かなくて駄目なところよね」

 しかしそんな私に対して、即座にシェアトのフォローが入る。

「だがそれは、ユーフィリナ嬢がシャウラ嬢にはシャウラ嬢の昼休みの過ごし方があるだろうからと、遠慮していたからだろう?それは気が利かないのではなく、気遣いができるということだよ」

「まぁ……シェアト様ったら、私を買い被りすぎですわ」

「いや、私は“言霊”の能力者でもあるから、言葉の重みを知っている者として、いつ如何なる時も真実しか口にしないよ。特にユーフィリナ嬢に対してはね」

 意味ありげにそう告げてきたシェアトに、私は内心で首を傾げた。

 残念ながら、その意味するところがさっぱりわからなかったからだ。

 それでも取り敢えず口では、「シェアト様、とても嬉しいです」と、ニッコリと微笑み付きで返す。

 日本人特有の、よくわからない時は笑って誤魔化しておこう作戦だ。

 けれど次の瞬間、アカからは「馬鹿!軽々しくそんなことを、そんな顔で言うんじゃない!」と怒られ、シェアトからは「だ、大丈夫だよ。私は君のことを知っているし、うっかり勘違いなどしてつけ込んだりしないからね。うん…………大丈夫だ。しかし、私以外の者には気をつけた方がいい。というか、注意してくれ」と、赤面の涙目で注意される。というか、懇願される。

 どうやら私は言葉のセレクトを間違えたらしい。でも、何をどう間違えたかわからない上に、それを聞き返すのもなんだか憚られる。

 それどころか、お互いの健闘を称え合うかのように、アカとシェアトがうんうんと頷きながら慰め合っている(ように見える)理由がまったくもってわからない。

 これではまるで私が悪者のようではないか………………とまで考えて、自分の立場を改めて思い出す。

 そうだわ。私はこの世界の悪役令嬢だったわ――――――と。

 なるほど…………私の言葉には必ず裏があるはずだから気をつけようという、攻略対象者ならではの自己防衛本能のようなものが働いたのね。

 ふふふ、私が悪役令嬢と知るはずもないのに、見事な直感ね。

 なんだかんだ言って、やはりゲームの強制力はあるのかもしれないわ。

 まぁ……“魔の者”というバグのせいで、悪役令嬢が“神の娘”の生まれ変わりかもしれないなんて、奇妙奇天烈、奇想天外なことになってしまってはいるけれど、ヒロインがどこかに存在する以上、悪役令嬢に対する警戒は怠れないものね。

 ふむふむ、なるほどね…………すべて理解したわ。

 さすがアカとシェアトね。

 もちろん、理解した内容を口にすることはできないけれど、ここはアカとシェアトを安心させてあげるべきね、と考え二人へと振り返る。

 これからシャウラの件で共闘しようという時に、一々私の言葉の裏を読んでいては、今後の連携もままならない気がしたためだ。

 そこで、今の(悪役令嬢としての性格改変に失敗した)私に対する警戒心は不要だということを、遠回しではあるけれど伝えておくことにする。

「色々とご心配かもしれませんが、今の私はただの公爵令嬢であって、発する言葉も行動もこの心に従ってものです。シェアト様の言葉に嘘偽りがないように、今の私の言葉にも嘘偽りは一切ございません。だから、こうして共に同じ目的に向って進めることも、皆様がシャウラのために考え行動してくださることも、とても嬉しいのです。これからもよろしくお願いしますね。イグニスもお願いね」

 遠回しのつもりが、かなりの直球となってしまったけれど、言葉はその意味が正しく伝わってこそだと考えを改め、目を丸くする二人に向ってふわりと微笑んでから、またシャウラの教室を目指す。

 そんな私の背後では、「「いやいや、そういうところが全部厄介なんだ…………」」と、ぼやきながらアカとシェアトが二人揃って頭を抱え込んだことに、私は気づく由もなかった。



 しかし、所詮思いつきは思いつきのままで終わるもので――――――――

「えっ?シャウラ様がいらっしゃらない?」

 シェアトがシャウラのクラスで確認してきてくれたことによると、シャウラは昼休憩のチャイムが鳴ったと同時に教室を飛び出して行ってしまったそうだ。

 まさか、食堂の席の確保のためとは考え(にく)いし…………と、思考の海へと一人沈む。

 もしかして…………いえ、まさかそんなことは…………だって、同席させてくださるとお約束したわけだし。

 でも、ロー様の都合が変わって…………いいえ、そうとも言い切れないわよね。シャウラ自身に別の用事ができたのかもしれないし…………

 けれど…………そうでなかったら?

 もし、シャウラが今ロー様と会っていたら?

 もちろん“先見”で見えた未来が今日とは限らない。

 でも、今日である可能性もないわけではない。

「ユフィ?」

 アカの声に私は呑まれてた思考の海から引き戻される。そして私は顔を上げると、アカに大丈夫だと視線だけで返してから、先ずはシェアトに声をかけた。

「シェアト様、お願いがあります。今すぐ食堂へ行って、お兄様にシャウラがいないことを伝えていただけませんか?ただの取り越し苦労で終わるかもしれませんが、こういうことは最悪の事態を想定して動くことが肝要です!」

 けれど、シェアトはすぐさま応とは答えなかった。それどころか、私の行動を見越して否を唱えてくる。

「私がそれをセイリオス殿へ伝えに行っている間に、ユーフィリナ嬢はどうするつもりだろうか?シャウラ嬢を探すというなら、それは私が引き受けよう。だから君がセイリオス殿のところに…………」

「いいえ、駄目です。私が()()()の生まれ変わりであるなら、私がその場にいないと駄目なのです。それはシェアト様もご存知のことでしょう?」

「それはそうだが………しかし…………」

 シェアトは悔しそうにグッと唇を噛みしめた。私の言葉に反論したくとも、その言葉が見つからないのだろう。

 心底、私を心配してくれるシェアトに申し訳なく思いながら、押しの一手とばかりに言葉をさらに重ねる。

「それに私が走るよりも、シェアト様のほうが断然速いですし、私の傍にはイグニスがいます。必ず、必ず、シェアト様がお兄様たちを連れてこられるまで、何があったとしても誰も死なせないとお約束しますから、私を信じて頼み事を聞いてはくれませんか。シェアト様、お願いいたします!」

 淑女としての慎ましやかさの欠片もなく、勢いよく頭を下げた私に、刹那の沈黙の後、シェアトの苦渋の声が降ってきた。

「………………君には……本当に負けっぱなしだよ。わかった。セイリオス殿のところへは私が行こう」

「シェアト様!あっ…………」

 感謝の気持ちとともに顔を上げた私だったけれど、そのままシェアトに腕を取られ、強引に引き寄せられる。

 そして――――――――

「絶対に無事でいてくれ。でないと、私が君をこのままこの腕の中に閉じ込めてしまいそうだ」

 耳元で囁かれた、甘さだけを存分に含んだ言葉。

 と同時に、一瞬耳に触れたシェアトの唇とその熱。

 わざとではないだろうけれど、そのうっかり事故にも、私の身体は小さく跳ねた。

「シェアト!」

 今度はアカの手が私の腕を掴み、シェアトから取り戻すように私の身体を腕に収めてしまう。

 いやいや、人が変わっただけで、状態は何も変わってませんから!

 と、泣きそうになるけれど、とても言い出せる雰囲気ではない。

 そして、苛立ちも露わにアカがシェアトに警告をする。

「お前……これをセイリオスの前でやったら、確実に殺されるぞ」

 もはや警告というより、明らかな脅し。しかしシェアトは、顔色一つ変えることなく、苦笑を零し肩を竦めて見せた。

 それから、何故か苦しそうに目を細めて私を見つめると、切なげに口を開く。

「ユーフィリナ嬢、私の言葉はいつだって真実だからね…………」

 そう言葉を残すや否や踵を返すと、颯爽と廊下を駆けて行った。

 こうして廊下に残されたのは、完全に茹で上がった蛸のような私と、しっかりと私を確保しながら「油断も隙もあったもんじゃないな!」と憤慨している守護獣。

 そして、うっかり?いや、ちゃっかり一部始終を目撃したがために、赤面の石像と化した通りすがりの学園生たちだった。

 


「ったく、ユフィももっと警戒心を持て!じゃないと、その相手が間違いなくセイリオスに殺されるぞ!下手したらオレもな!」

 いやいや、うっかり事故でそのお相手や、守護獣であるアカを殺すなんて、いくらお兄様が度が過ぎたシスコンでもさすがにそこまでは………………いえ、あるのかしら?

 なんてことを思いつつ、物騒な事ばかりを告げてくるアカを連れて、私はシャウラを探し、廊下を駆ける。

 正直、身体はまだ火照ってはいるけれど、今はそんなことなど気にしていられない。

 おそらくシェアトからすれば、時にとんでもなく無鉄砲となる私を戒めるために、あんなことを囁いたのだろうけれど、もう少し自分がこの世界におけるヒロインの攻略対象者で、その発言から仕草に至るまで、破壊力抜群であることを自覚して欲しいと切に思う。

 そのせいで、もし私の一生の心拍数が予め決まっているのだとしたら、間違いなく私の寿命は縮んでしまったし、それは偶然居合わせた通りすがりの皆にも言えることだ。

 それにしても、廊下にできあがってしまった大量の石像をそのまま放置してきてしまったけれど、問題ないわよね…………と、ふと思う。

 万が一、まかり間違って私とシェアトのことが噂となり、ヒロインの耳に入って要らぬ誤解を与えてしまっては、乙女ゲームの内容に支障をきたす恐れも十分にある。いや、今のこの状態も、とんでもなく支障が及んだ結果なのだけれど、これ以上複雑されては堪らない。

 とはいえ、私にはシェアトやサルガス様のような特殊能力があるはずもなく、あの石像群に対してどうすることもできなかったというのが正しいところだ。

 というか、見方を変えれば、あまりの居たたまれなさに、ただただ逃げ出しただけかもしれないけれど…………

 しかし、あれは逃げ出したのではなく、緊急事態にゆえの放置だと自分を正当化させて、シェアトが耳に残していった熱も一緒に振り払う。

 そして私は、シャウラの姿を求めてアカとともに廊下をひた走った。

「ユフィ!心当たりはあるのか⁉」

「ないわ!でも、国王陛下の“先見”では、学園内の特別教室でシャウラらしい女子生徒が倒れていたという話だったはずよ。だから、特別教室を片っ端から確認していくしかないわね!」

 そう投げ返すように答えて、そういえばアカが優秀な聖獣だったことを思い出す。

「ねぇ、イグニスならシャウラの気配を感じ取れるのではないの?」

 けれど、私の見立ては甘かったらしい。

「ユフィを見つけた今なら、たとえこの世界の果てだろうとユフィの気配はわかる!だが、シャウラの気配はさすがにある程度近づかなければ断定できない!」

 私の気配なら世界の果てでもわかると断言したアカに驚くべきか、ある程度の距離まで近づかなければ、さすがにアカでもシャウラの気配を判別できないことを残念に思うべきか、正直悩むところである。

 でも、特別教室のある場所は、学舎内でも一区画に限定されている。つまりそこに近づきさえすれば、アカにもシャウラの気配が感じ取れるはずだと、私は前向きに捉えることにする。

 しかし恨むべくは、この学舎が無駄に広いことで、気持ちばかりが先行していくのに、一向に身体が目的地に辿り着かない。

 もちろん、私の足の遅さがその要因の一つであり、アカを先に行かせれば済む話なのだけれど、たとえそれをお願いしたところでアカが素直に頷いてくれるとはとても思えない。

 だからこそ、少しでもシャウラのもとへ辿り着けるように、アカの足をできるだけ引っ張らないようにと、街中をシェアトと一緒に全力疾走した時と同じく(途中、シェアトの手を借りながらだけれど)、私にとっての最速で廊下や階段を駆け抜けていく。

 あぁ…………明日から今後に備えて走り込みでもしようかしら…………

 なんてことを、思いながら。

 そしてようやく、特別教室だけが並ぶフロアに到着し、私は立ち止まることなく一番手前にある特別教室を開けた。

 魔術解読室と呼ばれる、私にとってはまったく縁があるように思えない特別教室。

 しかし、そこは一見しただけで無人とわかるほどにがらんとしていた。

「ここ…では……ないわね。次の……教室へ行くわ…よ」

 ぜいぜいと息切れを起こしながらアカにそう声をかけるも、アカは息を乱れさせることもなく、ただただ無人の廊下の先を見つめていた。

 そもそも今は休憩時間であり、特別教室に来る生徒などほとんどいない。そのため、乱れた私の呼吸音だけが、やけに廊下で響いてしまう。それはもう耳障りなほどに。

 しかし、アカの耳は私の呼吸音以外の何かを捉えたらしく、一度ゆっくりと目を閉じ、すべての五感を最大限に働かせると、確信をもって告げてきた。

「いたぞ!シャウラだ!」

「アカ!案内して!」

「あぁ、こっちだ!」

 再び廊下を走り出した私たち。

 アカはいくつかの特別教室をあっさりと通過していくと、迷いなく“魔法準備室”と札が掲げられた特別教室の扉を開け放った。

「シャウラ様!」

 瞬間、私はアカとその教室に雪崩れ込む。その私の目に飛び込んできた光景は、教室の窓際でシャウラが男性の胸にしだれかかっているところだった。

 こ、こ、これは恋人同士の密会場面なんじゃ………………

 ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ッ!私としたことが、失礼しましたぁ‼

 と、自分の間の悪さを呪いかけたけれど、すぐに違和感を覚える。

 私たちの登場に驚く男性の反応は、当然のことだと思う。

 しかしその彼の胸にしだれかかっているシャウラは、私たちに気づかないどころか、意識すらないように見える。

 そして、そのシャウラの足元に転がっているのは銀の箱型の魔道具。

 宝物であるはずの魔道具を、シャウラがこんな風に床の上に転がしておくわけがない。

 キッとその男性を見据えると、男性は咄嗟に言い訳のようなものを発した。

「こ、これは………違う!違うんだ!」

 しかしそんな男性の言葉を、私はすぐさま断ち切る。

「あなたは魔道具師のロー・セルペンティス様ですね。シャウラ様は意識がないようにお見受けしますが、これは一体どういう状況なのでしょう?今すぐご説明いただけますか?いえ、その前にシャウラ様をこちらにお渡しください」

 必死に冷静さを装いながら、私はアカに視線だけでシャウラのことを頼む。

 アカは無言でそれに応じて、足を前に進めた。

 いつかシャウラが話してくれたように、アクアマリンの瞳に、さらりとしたキャメルの髪を持つ、とても線の細い男性。

 背はアカよりも十センチ程低く、職人というより、確かに社交界では女性たちの目を惹きそうな貴族然とした華かな面持ちだ。

 確かに見た目も、性格も、堅そうなサルガス様とは正反対だと思う。

 但し今は、顔面蒼白となってしまっているようだけれども――――――――

「ち、違う!本当にこれは違うんだ!」

 何度も違うという言葉を繰り返してくる彼に、これはしっかりと話を聞くべきね…………と考える。

 それでも、最優先事項はシャウラであるため、もう一度しっかりと告げる。

「話は聞きます。しかしその前にシャウラ様を…………」

 しかし、私は最後まで言えなかった。アカの声に阻まれたからだ。

「ユフィ!伏せろ‼」

 教室に響いたアカの叫声。

 その刹那、シャウラの足元から、凄まじいエネルギーが放出された。

「アカッ!シャウラ様をお願いッ‼」

 私は反射的にそう叫んで、次に来る衝撃に備えるために、目を閉じ、歯を食いしばった。

 アカには伏せろと言われたけれど、そこまでの反射神経を私に要求するのはそもそもの間違いで、両腕で顔を防ぐのが精一杯だった。

 けれど――――――――――――


 一秒、二秒、三秒…………と待ってみても、その衝撃は一向にやって来ない。

 そして恐る恐る目を開けてみれば、私はアカが張った守護結界の中にいた。

「アカッ!」

 思わずそう声をかけ、同じく結界の中にいるアカへと駆け寄れば、アカは結界の外で嵐のように荒れ狂っている膨大な魔力へ魔法を発動させながら、苦渋の声を出した。

「すまない、ユフィ。シャウラとあの男にも守護魔法を展開したが、間に合ったかどうか、正直わからない。これは間違いなくあの銀の魔道具の中で圧縮され、封印させていたシャウラの魔力だ。この魔力が邪魔をして、目視は疎か、感知すらできないんだ」

「そんな…………」

 呆然とした声を出す私に、アカはもう一度「すまない…………」と声を絞り出した。

 しかしこの状況はアカのせいではない。むしろ、こうして私を守ってくれたことに感謝して然るべきだ。

 私は、アカのブレザーの裾を握り締めながら、アカは全然謝る必要はないのだと、何度も何度も首を横に振った。

 そして、そこからの時間は、私にとってただただ祈るだけの時間だった。

 そんな祈るしかできない私とは違い、アカは守護結界の強化だけでなく、シャウラの魔力の暴走を何とか最小限の被害で食い止めるために、魔力吸収を行っていた。

 結界の一部に魔力の吸い込み口を作り、前に突き出した手から、凄まじい暴風と化した魔力を吸い取っていく。

 言い換えるなら、我が身を銀の魔道具に置き換えているのも同義。

 シャウラも、サルガス様と呪術師が魔力吸収を行って寝込んでしまうと話していた。

 定期的に行われる魔力吸収でさえ、優秀な魔法使いたちを寝込ませてしまうほどなのに、アカはここまで凝縮され膨大となった魔力の吸収を我が身一つで行っているのだ。

 いくらアカが守護獣とはいえ、とても無事で済むとはとても思えない。

「くっ………………」

 アカが顔を顰める。

「アカッ!」

「大……丈夫だ……ただちょっと、シャウラの魔力に食傷気味なだけでな。それに今は……イグニスだろ?」

 この期に及んで、片目を瞑りながらそんなことを告げてくるアカに、泣きそうになりながらやはり首を横に振る。そして、「アカ、もう無理しないで……これ以上はやめて…………」という喉まで出かかった言葉を必死に呑み込んだ。

 そうよ。ここでアカが食い止めなければ、学園全体に甚大な被害が及ぶかもしれない。

 だからここはアカを信じて………………

 しかしそう思った矢先に、アカが苦悶の声を漏らす。

「クソッ…………この魔力には……闇の力が込められているな……どうやらあの魔道具には魔力属性変換の魔法陣が……秘されていたらしい…………」

「闇の力って……だったら、またアカがッ!」

「ユフィ……心配するな。オレは聖獣だぞ……今回は呪われているわけではないからな……これくらいの闇ならオレの光でなんとかできる…………」

「でも……」

「まぁ……ちょっとばかし……面倒ではあるがな…………」

「そんな……アカッ‼」

 どうすればいいの?

 どうすればアカを、シャウラを、シャウラが恋した彼を救えるの?

 ここで“光結晶”を発動してお兄様を呼ぶ?

 いいえ、それは駄目ね。

 万が一、お兄様がこの守護結界の外に転移してしまったら、シャウラの暴走した魔力に晒されてしまうことになるわ。

 でも、このままではまたアカが、闇の犠牲になってしまうかもしれない。

 

 それだけは絶対に駄目よ‼


 私は掴んでいたアカのブレザーを離した。

 そしてアカに縋るばかりだった自分にしっ咤し、結界の外で吹き荒ぶシャウラの魔力を見据える。

 ねぇ…………私は何のためにここに来たの?

 シェアトに『誰も死なせない』と、大口を叩いてまで………………

 そうよ。私がここにいる理由は“先見”を覆し、シャウラを救うためよ。

 その私が、ただアカに守られているだけでいいはずがないわ。

 こんなところで、自覚がないなんて言わない。言うつもりもない。

 だからお願い!この私の魂が、“神の娘”であるフィリアのものだというなら、私に力を貸してちょうだい!

 私がそう己の魂に願った瞬間、アカが魔力吸引の力を一気に強めた。

 このままでは埒が明かないと思ったのだろう。

 しかし、身体への負担は大きく、圧倒的な質量で押し込まれるように、アカの身体がズズッ、ズズッと後退していく。

「クソが………………ッ」

 悪態をつくアカの身体を支えるように、私は後ろからギュッとアカに抱きついた。

 もちろん私的には加勢しているつもりだ。

 端から見れば、ただの小判鮫にしか見えなくともだ。

「ユフィ……オレから離れろ……危ないから…………」

「嫌よ!私は……私は………………」

 馬鹿の一つ覚えのように、やはり何度も何度も首を横に振る。

 そして、どうにかしたいのに、何かを起こしたいのに、その起こし方がわからなくて涙だけが零れる。

 でも、諦めたりしないわ……絶対に………

 グッと奥歯を噛みしめて、これ以上後退しないようにと、床に足を縫い付けるようにして踏ん張る。

 それでも徐々に後退していくアカと私の身体。

「この……馬鹿魔力が…………」

「んん―――――――ッ!」

 必死に足を床で踏ん張ってみるけれど、後ろに弾き飛ばされないようにするだけで精一杯だ。

 アカの身体を通じて伝わるシャウラの凄まじい魔力量。

 あの魔道具のせいで魔力の属性変換されただけでなく、もしかしたらその威力も数十倍に高められてしまっているのかもしれない。

 このシャウラの魔力を消すことができれば……………

 “無”に戻すことができれば………………

 そんな途方もない考えが私の思考を占拠し始めた時、いつかも聞こえたあの男性の声が脳内で響いた。


 “大丈夫。強く望みさえすれば、いつだって君の望みは届くよ。だから、正しいと思ったことを信じて望みなさい。君の瞳はいつだって真実だけを映す鏡なのだから”


 この時、納得と確信だけが私の中に舞い降りてきた。

 とはいえ、やはり自覚したわけでない。けれど、“今の私ならできる”という根拠のない自信があった。

 そう、ただフィリアの魂に、どうにかして欲しいと漠然とお願いするだけでは駄目なのだ。

 どうしたいのか、何が正解なのか、自分の目で見極めなければ意味がない。

 強く望むのは、他でもない私自身。

 何を望むかは、自分の瞳に映る真実から正解を掴みとる。

 そうすればきっと、私の信じる未来へ繋がるはずだから――――――――――

 

「暴走したシャウラの魔力よ!今すぐ消え去りなさい‼」

 

 アカの身体にしがみついたままで叫ぶ。

 格好悪いことこの上ないけれど、今は恥も外聞もない。

 そしてその直後――――――――――


 スン…………………


 静寂に支配される教室。

 暴風と化し荒れ狂っていた魔力は沈黙し、そこへぽつんとアカと私だけが取り残される。

 そのアカと私の眼前に広がる光景は――――――――

 

『次に見えた光景は、瓦礫となり果てた教室と、そこに倒れている女子生徒の姿。そして、その女子生徒はすでに灰色に染まっていたそうだ…………』

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「ユフィ!しっかりしろッ!!」

 

 そこには(まさ)しく“先見”と同じ光景があった。

 


 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


またまた波乱な展開です。

さぁ、この危機をユフィはどう乗り越えていくのか?

そしてやっぱりユフィは“神の娘”の生まれ変わりなのか?


どうか皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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