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“先見”と“忘却”は私が覆します(3)

「では、行くぞ」

「はい、お兄様」

「何も緊張することはないからね」

「ありがとうございます。シェアト様」

 私はお兄様とシェアトに促されるまま、怪訝な表情でこちらを窺ってくるシャウラに、スハイル殿下に呼ばれた旨を説明して挨拶をし、アカを連れて歓談室を後にした。

 アカはその際に仔狼から人型へ戻ったため、今はシェアトと肩を並べるようにして、私の後ろを歩いている。

 もちろん言うまでもなく、先頭を歩くのはお兄様だ。しかし、私の左手はお兄様の右手の中にあるため、ややお兄様が先頭となっている――――――というのが正しいところだろう。

 そして放課後とはいえ、人目がないわけではない。というより、普段より人が少ないからこそ逆に悪目立ちし、すべての視線をものの見事に掻っ攫ってしまっている。

 しかも、お兄様に手を繋がれ、背後にアカとシェアトを連れている今の私の状況は、お兄様たちに強制的に連行されている図に見えなくもない。にもかかわらず、女子生徒たちからの羨望と嫉妬の入り混じった視線が、容赦なく私に突き刺さってくる。

 いやいやいや、ちょっと待って、皆さん。よくよくご覧になってくださいね、特にこの私の表情を。

 お兄様と楽しそうに手を繋いでいるように見えますか?見えるなら、まずはその視力を疑ったほうがいいレベルですよ。それに、お兄様もアカも、そしてシェアトも、麗しくも澄ましたお顔で…………なんなら涼し気なお顔で歩いているかもしれませんが、漂わせている空気は不穏そのものですからね。

 それら諸々を踏まえた上で、是非とも皆様に強く物申したい。というか、問い質してみたい。

 この私のどこに羨ましく思えるポイントがあるのかと。

 

 ほんとお願いだから、この世界のヒロインを誰か今すぐ連れてきてくれないかしら。

 もしくは名乗り出てきてくれないかしら。

 そうすれば今の私を取り巻く状況やら、厄介事やら、万事解決するのに…………

 たふん…………


 私はそれでなくてもどんよりした状況の中で、さらにどんより感を上乗せさせながら、ただただお兄様たちに連行されていった。


 

「ここは………………」

 そう呟いた私に、お兄様はようやく私の手を放し、答えてくれる。

「ここは大学内にある王族専用の執務室だ。といっても、堅苦しく思う必要はない。大学内にある食堂か何かだと思えばいい。では、入るぞ」

 などと、お兄様はある意味とても無理難題なことを口にして、目の前の扉をノックした。

「入れ」

 すかさず返ってくる声。

 その明らかな喰い気味の返しに、「やれやれ、待ち焦がれ過ぎだ…………」と、ため息とともに零しながらお兄様は扉を開ける。それから、私に中へ入るようにと視線だけで告げた。

 最初に目に飛び込んできたものは、まるで一枚の大きな風景画のような窓だった。

 そこから覗く西の空は、斜陽に色づき始め、白亜の宮殿のような学舎を茜色に染め始めている。

 その窓の手前には、細やかな彫刻が施されたどっしりとした執務机。そしてその執務机には、鮮やかなブロンドの髪とロイヤルブルーの瞳を持つスハイル殿下が腰かけていた。

「やぁ、ユーフィリナ嬢、ご足労願って悪かったね」

「いえ、滅相もございません。私の方こそご挨拶が遅れ、大変申し訳ございません」

 優雅さの欠片もなく、慌てたように制服のスカートを持つと、膝を折り、その場で頭を下げた。しかし、すぐさまスハイル殿下から制止の声がかかる。

「構わない。急に呼び立てたのはこちらの方だ。とにかくそちらの応接にかけてくれ。セイリオスたちも一緒にな」

 そう言われてしまえば従うよりほかない。

 私はお兄様、アカ、シェアトと視線を彷徨わせてから、スハイル殿下の言葉に従い応接の長椅子へと向かうため、おずおずと足を前に踏み出した。しかし、その私の前にお兄様の手がさり気なく差し出され、まるで条件反射のようにその手の上に自分の手を重ねれば、お兄様は流れるような動きで私をエスコートし、そのまま長椅子へと座らせてくれた。

 それを見ていたスハイル殿下が、何故か酷く悔しそうな口調で告げてくる。

「セイリオス、なんでいつもいつもお前はやることなすことがスマートなのだ!だいたいユーフィリナ嬢をエスコートするなら、その役目は私が担うべきだろう!」

 しかし、お兄様はむしろそれを嫌味ではなく褒め言葉として、さらりと受け流す。

「お褒めに預かり光栄だ。だが、執務中でお忙しそうな殿下に、そのような役割を振るなど滅相もない。ならばここは、兄である私がエスコート役を引き受けるのが最も妥当だろう」

「よくもまぁ、抜け抜けと……」

 怒りというよりむしろ呆れに近い表情でスハイル殿下は執務机から立ち上がると、お兄様と同じ純白のブレザー姿で、私の対面の長椅子に腰かけた。それを確認してから、お兄様は私の右隣に、アカは私の左隣に、シェアトは一人掛け用の椅子にそれぞれ腰をかける。

 そこでようやく、私がここへ呼ばれた案件に入るのか…………と思いきや、スハイル殿下は私の顔をまじまじと見つめて、それから両手で顔を覆った。そして何故かその体勢のままで、シェアトに話しかける。

「シェアト……どうすれば直視できるようになるんだ?できればその秘訣を今すぐ私に伝授してくれ…………」

 私にはさっぱり意味のわからない問いかけだったけれど、さすが名指しされただけあってシェアトはすぐに理解できたらしく、困ったような眉尻を下げた。

 とはいえ、王弟殿下からの直々の質問だ。答えぬわけにはいかないと、シェアトは口を開く。

「お言葉ですが殿下。私も直視できるようになったわけではございません。ただ、すべてをこの目に焼き付けたい一心で、日々鋭意努力しているだけでございます。そもそも、平気になるとか慣れるとかの境地に至るには、セイリオス殿の心臓を手に入れるよりほかないでしょう」

「た、確かにな。セイリオスの心臓には、それはそれは立派な毛が生えているのだろうな。それにしても、今日の私は心の準備を十分にしていたにもかかわらず、これだ…………あぁ……先が思いやられる」

 どういうわけか酷く落ち込んでいるように見えるスハイル殿下に、私はお兄様とアカを交互に見やった。

 呼び出されたとはいえ、一度出直した方がいいのではないかと思ったからだ。

 しかし、私の内心を的確に読み取ったお兄様は「いつものことだ。気にしなくていい」と言い、アカもまた「今はただそっとしといてやれ」と返してくる。

 そこで私は、そういえばスハイル殿下はとても面倒で厄介な人だったわ、と即座に思い出し、スハイル殿下が立ち直るのを気長に待つことにした。

 すると、再びノック音。

 私の他にも呼ばれていた方いたのかしら?

 などと、思っていると、落ち込んでいたはずのスハイル殿下がスッと顔を上げ、「入れ!」と貫禄たっぷりに告げた。

 さすが、こういうところは王弟殿下だわ、と感心しきりとなっていると、執務室の扉が開いた。と同時に、ゴロゴロとワゴンのキャスターを転がしながら入ってきたのは、帯剣した騎士と、手に銀のトレイを持ったレグルス様とサルガス様だった。

 忽ち、応接に座っている私を見つけたレグルス様が、親し気に声をかけてくる。

「もうユフィちゃんも来てたんだね。いやさ、スハイルが、『ユーフィリナ嬢を呼ぶなら、お茶と菓子を用意せねば!』なんて急に言い出すもんだから、サルガスとエルナトと一緒に、大学と学園の食堂から色々と失敬してきたんだよ」

「レ、レグルス!余計なことを言うな!」

「まぁ……なんだか申し訳ございません」

 スハイル殿下と私の声が綺麗に重なる。そのことに二人顔を見合わせ、今度は思いがけず目が合ったことに対し、二人揃って赤面となってしまう。そこでまた二人同時に慌てて目を逸らば、「なに?この妙に初々しい二人は…………」とレグルス様は半眼となり、何故かお兄様はぶすっと不機嫌顔となった。

 さらにはシェアトが、いつもの独り言をぶつぶつと発動し始める。

「なんだろう…………この甘酸っぱい感じは。いやこれは、隣の芝生というものだな……きっと。周りから見れば、私とユーフィリナ嬢もきっとそんな感じに見えているに違いない………というか、私が目指しているものは、何も甘酸っぱい関係ではないからな………私はもっと踏み込んだ関係になればいいだけの話だ…………うん、そうしよう…………」

 相変わらずシェアトの発する言葉の半分以上を聞き取ることも、理解することをできなかったけれど、最後に何かをするつもりでいることだけはわかり、シェアトの望み通り事が運ぶといいわね――――――と、友としてそっと祈っておいた。

 そうこうしている間に、おおらかな性格であるレグルス様と、生真面目な性格のサルガス様によって、どこか適当だけれど、それでも皆が取りやすいように、銀のトレーがテーブルの上に並べられ、スハイル殿下の護衛騎士と思しき男性から、柑橘系の清々しい香りがする紅茶をサーブされた。

 その慣れた手つきを眺めながら、なんて美しい騎士なんだろう……………と、いつの間にか私の視線は不躾にもその護衛騎士の顔へと向いていた。

 大学に溶け込むためか、それともスハイル殿下専属を示すためか、特別な純白の騎士服。

 その眩しいほどの騎士服に映える白い光を纏ったかのようなブロンドの髪と、晴れやかな空を思わせる涼し気な空色の瞳。そして、私の不躾な視線も意に介することなく、どこか人懐こそうな笑みを覗かせる。

 うん、さすが乙女ゲームに出てくるキャラだわ。

 ただこの人が、攻略対象者なのかはさっぱりだけど…………

 そんなことを一人呑気に考えていた私の隣では、アカもまたその護衛騎士の顔をまじまじと見つめた後で、「セイリオス…………」と、お兄様を呼ぶことで何かを促した。

 するとお兄様は、今はじめて気付いたかように、「あぁ……二人は初めてだったな」と、わざとらしく言い出し、丁度タイミングよくすべてのサーブが終わり、スハイル殿下の後ろへ立った護衛騎士の紹介を始めた。

「彼はスハイル王弟殿下の専属護衛騎士であるエルナト殿だ。エルナト殿、今更だとは思うが、私の妹のユーフィリナと、その守護獣であるイグニスだ」

「エルナトと申します。以後お見知りおき下さいませ」

 お兄様の紹介を受け、今度はエルナト様自身が胸に手を当て、恭しく挨拶してくる。

 ようやく正式に紹介され、今度は私が正式な淑女の礼を取るところなのだけれど、生憎ソファに腰かけてしまっている上に、テーブルの上にはたくさんの菓子と紅茶が用意されてしまった後だ。ここで立ち上がって、なにか粗相を仕出かすわけにもいかない。というか、私の場合、仕出かす未来しか見えない。

 そこで已むなく、面倒だからとかそういうことではなく、本当に已むなく私は座りながらではあるけれど、「ユーフィリナ・メリーディエースでございます。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」と、丁重に頭を下げた。

 しかしアカは、どういうわけか「まじか…………」と、呟いただけだった。

 どうやら、守護獣様は挨拶もそっちのけになるほど、酷く何かに驚いているらしい。

 そこで「どうしたの、アカ?」と小声で問えば、「い、いや、潜在する魔力量に驚いただけだ…………」と返される。そのことに首を傾げながらも、私は改めてエルナト様を見やった。

 アカの態度に気分を害するわけでもなく、私に向かって一層目を細めてくるエルナト様。その笑みに、私の心がポカポカと温かくなったような気がして、私からも自然と笑み零れる。

 するとエルナト様は、感無量とばかりに突然奇声を発した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~…………その笑顔は反則です。殿下、殿下、ちゃんと目におさめましたか?私は眩しすぎて目におさめ切れず、泣いちゃそうです。というか、既に泣いてます。号泣です。あぁぁぁぁ…………ようやく、ようやく、本当にようやくお会いできて、こんな笑顔を見られるなんて、ここまで待った甲斐がありました。炎狼様にも会えて本当に嬉しいですよ。うぅぅぅぅぅ…………私のことは気にせず、皆さま菓子と茶をお召し上がりください。私は暫しここで感動に酔いしれておりますので…………」

 自己申告通り、号泣している護衛騎士に、ここまで感受性が強くて普段の仕事は大丈夫なのかと心配になっている。それに関してはアカも私と同意見だったらしく、「気持ちはわかるが、泣き過ぎだ………………」と呆れ顔になっている。

 そして主であるスハイル殿下も、己の騎士の泣きっぷりに、後ろを振り仰ぎながら、顔を引き攣らせているけれど………………

 いやいや、スハイル殿下もはじめてお会いした時、エルナト様に匹敵するくらい号泣していましたからね。しかも気絶までされて、どれだけ私が慌てたことか。

 正直、今もってその理由はわかりませんが、しっかりと意識を保ってらっしゃるエルナト様の方が、まだましです!

 ――――――と、心の中で告げて、長年連れ添った夫婦が似てくるように、護衛騎士もやはり仕える人に似てしまうのかもしれないわねと、私は結論付けた。

 


 それにしてもこの集まりは何なのだろう?――――――と、思う。

 歓談室へ迎えに来たお兄様の様子から余程の案件かと思い、戦々恐々していたのだけれど、これではただのお茶会である。

 レグルス様たちが失敬してきたお菓子は文句なしに美味しいし、エルナト様がサーブしてくれた紅茶も、程よい甘みと爽やかさで非常に飲みやすい。

 こんなことなら、シャウラも一緒に誘えばよかったと思い始めてくるくらいだ。

 しかし、あの時のお兄様はそれを許さないと謂わんばかりの不穏な空気を纏っていた。

 そういう今もずっと、お兄様は甲斐甲斐しく私の好きそうなお菓子を取り分けてくれるけれど、どこか重いモノを胸に抱え込んでいるような気がする。

 そしてそれはスハイル殿下にも言えることで――――――

 やはり、何かあるのね…………

 私は食べる手を止めて、改めて身構えた。

 これだけ食べておいて、今更何を…………という話だけれど、これはこれ、それはそれだ。

 せっかく用意して頂いたお菓子を美味しく頂かない方が、私にとっては罪となる。いや、前世の名残で、食べられる時にしっかりと食べておくのがモットーでもあるため、美味しい物を目の前にしてシリアスになれというのは、愛らしいモフモフたちを目の前にして、極悪非道になれと言うくらい無理な話だった。

 そのため、私自身ずっとここに呼ばれた真なる目的を棚上げにしてきたわけだけれど、十分にお菓子も紅茶も堪能した今、そろそろその抱え込んでいるものを、吐き出してもらいたいと思う。もしそれが無理だと言うなら、そのまま永遠に腹の底へと重し付きで沈めておいてもらいたいところだ。

 けれど、やはり世の中、美味しいことばかりではないようで――――――――――


「ねぇスハイル、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな?俺たちだけじゃなく、ユフィちゃんまで召集したわけをさ。どうやらセイリオスはすでに何か感じ取ってるみたいだけど、俺たちはさっぱりなわけだしさ」

 そのレグルス様の言葉に、ようやく私は状況を知った。

 不穏なモノを感じ取っているけれど、お兄様もまだ詳細は知らないのだと。そしてそれはシェアトやサルガス様にも言えることで、スハイル殿下の重すぎる口がいつになったら開くのかと、お菓子を摘まみながら皆待っていたのだ。

 しかし、いい加減とばかりに、レグルス様が先陣を切った。

 スハイル殿下はそんなレグルス様を見やり、「相変わらず、その場の空気もなんのそので切り込んでくるんだな、お前は………」と、感心したような、呆れたような口調で返す。そして、胸に抱えるモノの重たさを示すように、重いため息を吐いた。

 けれど、そこはこの国の王弟。

 すぐに気持ちを立て直して顔を上げると、ロイヤルブルーの瞳に私を映した。

「セイリオスたちだけでなく、ユーフィリナ嬢をここへ呼んだのは、“神の娘”の生まれかわりとして、君の力を借りたいからだ」

 咄嗟に、「無理です!」と答えそうになったけれど、私はそれを必死に呑み込んだ。

 目の前に困っている人がいて、話を聞く前に切り捨ててしまうなど、“神の娘”の生まれ変わり以前に、人としてどうかと思ったからだ。

 そこで真摯な瞳で見つめ返すと、スハイル殿下は「ありがとう……」と、淡く微笑んだ。おそらく私が一先ず話を聞こうとしていることに対しての感謝なのだろう。

 そしてそれは、あの医務室での私の様子を知るからこそ出た言葉でもあるわけで――――――

 少し厄介な面はあるけれど、やはり素敵な王弟様だわ、と私はスハイル殿下の次の言葉を待った。

 しかし、スハイル殿下はここで何故か一度サルガス様へと視線を向けると、不思議そうに目を見開いたサルガス様を置き去りに、また私に視線を戻す。それから、一切の感情を自ら削ぎ落し、事実だけを口にした。

「国王陛下が、また“先見”をご覧になられた。それは学園に関するもので、ある生徒が一人、犠牲になるかもしれないというものだった。そしてその犠牲になる生徒だが、陛下の話からして…………シャウラ殿である可能性が高い」

「なっ!」

「ッ‼」

「………………」

「まさかッ!」

「そんなの嘘です‼」

 あまりにも衝撃的な内容に、それぞれがそれぞれの反応を示す。

 その中でも、一番最後に声を発したサルガス様が言葉と同時に勢いよく立ち上がった。

 怒りで赤く染まる顔。

 わなわなと戦慄く唇と握られた拳。

 相手がスハイル殿下でなかったら、勢いに任せてそのまま掴みかかっていたかもしれない。

 しかし、サルガス様は拳を握ることでそれを制した。

 そして私もまた身体の震えが止まらず、自らの両腕で今にも崩れそうになる身体を支えながら、ふるふると完全に血の毛に失せた顔を横に振った。

 今聞いた言葉を、信じたくない、理解したくないと、耳から追い出すように。

 そんな私を、お兄様はチラリと見やり、次に未だ立ち上がったままのサルガス様へと視線を向けると、言い含めるかのように殊更ゆっくりした口調で話しかけた。

「サルガス殿、気持ちはわかるが、先ずは話を聞くべきだ。冷静さを欠いてしまえば、助けられるものも助けられなくなる」

 そのお兄様の言葉に、サルガス様は一度目を瞑ると、「………………そう……ですね。セイリオス殿の仰る……通りです」と、声を絞り出し、すべての感情を押し沈めたところで再び目を開けた。

 そして、スハイル殿下に深々と頭を下げる。

「殿下、このように取り乱し、大変申し訳ございません!」

「気にするな、サルガス。他でもない妹君のことだ。そうなって当然のことだ。だが、これ以上話が聞けないというのなら、もちろん退室を許可するがどうする?」

 まるで、サルガス様の心を、精神状態を試すかのようにスハイル殿下が問いかけると、サルガス様は間髪入れずそれを否で返した。

「いいえ!最後まで聞かせていただきます!これは他でもないシャウラのことなのです!この私に聞かないという選択肢はありません!」

 方々からサルガス様へ寄せられる視線。それは、心痛も含んでいたけれど、それ以上にシャウラを助けたいという気概で溢れていた。

 もちろんそれはスハイル殿下にも言えることで――――――――

「わかった。では、座れ。今から“先見”の詳細について話す。そしてできるならば、私はこの“先見”を覆したいと思っている。一度、覆ったなら、今回もできるかもしれないだろう?」

 そう言って片目を瞑って見せたスハイル殿下に、サルガス様は泣き笑いような顔となって頷くと、話を聞くために素早く座り直した。

 それを確認してから、スハイル殿下は私へと視線の矛先を変える。

「ユーフィリナ嬢…………」

 目は口程に物を言うというけれど、本当ね……………………と思う。

 そう、私は国王陛下より“神の娘”の生まれ変わりとして認定を受けた身。

 その私がここへ呼ばれ、力を借りたいと言われれば、たとえどんなに鈍かろうとその答えは手に取るようにわかる。


 私には、まだその自覚はない。

 だからといって、それを言い訳にして、最初から何もできないと言ってしまうのはまた違う。

 何もしないうちから諦めたくはない。

 そう、私は以前アカにも告げたように、諦めだけは悪いのだ。

 自分でも呆れるほどに………………


 気がつけば、震えはいつの間にか止まっていた。

 迷いも、恐れもなく、今の私の心は凪いでいる。

 サルガス様に向いていた視線が、今度はすべて私へと向けられる。

 興味、期待、不安…………感じ取れる感情は様々。

 中でも、左右から感じるお兄様とアカの視線は心配そうだ。

 ほんといつまで経っても二人揃って心配性なんだからと、内心で苦笑しつつ、私は見据えるかのように、スハイル殿下を見つめ返した。

 もちろんこの先の話を聞いた以上は、もう後戻りはできない。

 逃げ出すなら今しかないだろう。

 それもわかっている。

 わかってはいるけれど…………

 今ここで逃げ出せば、私は一生後悔することになる。

 大切な友達を救うためなら、どんなことだってできるはずだ。

 最後の最後まで諦めさえしなければ。

 だから……………… 

 

「すべてをお聞かせください」


 それが、私の出した揺るぎなき答えだった。

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


スハイル殿下の呼び出しはやっぱり不穏。

でも諦めるわけにはいきません!


皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆



また、ブックマークと、評価に★を(できれば5つ←我儘)入れていだだけるととても嬉しいです☆

皆様からの反応に一喜一憂しながら、ガラスの心臓をプルプルさせて毎日に書いている私の励みとなります。

もちろん感想も大歓迎です♪


恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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