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“先見”と“忘却”は私が覆します(1)

 友達ができた。

 それも女友達。

 腐女子様だけれど、とても素敵な女性だ。

 そのため、私はその素敵な女友達てあるシャウラと、放課後に図書館通いするのが日課となった。

 もちろん、私がそこへ通えばお兄様たちが漏れなくついてくる。一体なんのおまけかしら、とは思うけれど、こればかりは仕方がない。

 今の私の状況を思えば、むしろ図書館に行かせてくれるだけでも感謝しなければならない。

 それに、最初の頃はその事に対して、申し訳なさも感じていたけれど、数日経てば、お兄様たちも本を読んだり、調べ物をしたり、論文を仕上げたりと待ち時間を有意義に使っているようで、そこまで迷惑をかけていなさそうでよかったわ――――――と、思えるようになった。

 但し、約一名を除いては――――――――


「ごめんね、アカ。退屈してない?」

『大丈夫だ。それにユフィの傍にいられる方がオレとしても落ち着くしな』

「それだったらいいのだけれど…………」

 私は歓談室のソファに仔狼の姿でちょんと座っているアカに向かって、苦笑とも取れる微笑みを返してから、再び手元の本に視線を落とした。そして、“忘却”に関する記述がどこかに書かれていないかと、文字を辿り始める。

 そんな私の横で、大きなあくびをしたアカは、犬でいうところの伏せのような体勢となり、仔狼らしくすっかり短くなった前足に愛らしい顔を乗せて目を瞑った。

 その気配を感じ取った私は、目で追った文字の上に笑みを一つ零してから、ぱらりとページをめくる。

 そうあの日――――――シャウラにこの歓談室で食べられそう(?)になったあの日から、こうしてアカだけが仔狼の姿となって歓談室までついてくるようになった。

 その理由は言わずもがな、『女性同士であろうと、何が起こるかわからないということがよくわかった。紳士として、淑女の語らいの場に踏み入るような真似はしたくないが、ユーフィリナの身を守るためにはそうも言っていられない。したがって、今後は私も同席することにしよう』などと、お兄様が言い出したためだ。

 しかしそれは非常に困る。

 私にしてみれば、“神の娘”の生まれ変わりを探すつもりでいるため、スハイル殿下の御学友であるお兄様が常に傍にいる状況はただの足枷でしかない。

 そしてシャウラにしても、サルガス様に内緒で“忘却”を覆す方法を探すつもりのため、サルガス様のお仲間でもあるお兄様の存在がとんでもなく邪魔だった。

 けれど、可愛い妹がシャウラに本当に食べられてしまうのではないかと、実際そんな人食い人種のようなことが起こるはずもないのだけれど、ただただ私の心配をしているお兄様の気持ちもわからなくもない。

 そこで、私は妥協案を出した。

『わかりましたわ、お兄様。でしたら、イグニスを連れて行くことにいたします。但し、人型のイグニスではなく仔狼のアカとしてです。それで問題はないでしょう?』

 この世界は従魔が存在する。

 そのため、自分の従魔を連れている生徒も僅かながらにいる。

 もちろん炎狼本来の姿を晒せば、アカがずっと世間を騒がしていた“紅き獣”であると、すぐにバレてしまう恐れはある。けれど、可愛らしい仔狼の姿なら(といっても、炎狼ではあるけれど)、誰も気づくことはないはずだ。それに、図書館限定で仔狼に戻るだけだから、それこそ誰かの目に触れて騒ぎになることもないだろう。

 しかも、アカは私が“神の娘”の生まれ変わりを探そうとしていることを知っている。それどころか協力も買って出てくれている。

 その点からも、私にとってアカは一番ベストな付き添い役だと言えた。

 しかし、当のアカがそれを嫌だと言うならば、無理強いはできない。そこでアカに尋ねてみると、『もちろんいいぞ』と、一も二もなく了承の返事がきた。

 さらにシャウラにも確認してみれば――――――――――

『もちろん、イグニス様さえよろしければ大歓迎ですわ。それに守護獣であるイグニス様なら色々と知識をお持ちでしょうし、私としては願ったり叶ったりです』

 そう言って、諸手を挙げて賛同してくれた。となれば、お兄様もこの妥協案を呑むしかなく、こうしてアカは歓談室まで私に付き添ってくれることとなったのだけれど――――――――

 口では『大丈夫だ』なんて言ってくれるけれど、やっぱり退屈よね。

 なんてことを思いつつ、私はただひたすら文字に視線を走らせた。そして“忘却”に関する内容があればその箇所を読み込んでいく。

 しかし、それに没頭できたのもほんの束の間のことで、用事があると中座していたシャウラが歓談室へと戻り、私はその気配に顔を上げる。

「ただいま戻りましたわ。イグニス様、私が不在の間ユーフィリナ様をお守りくださり、ありがとうございました」

『礼には及ばない。オレは当たり前のことをしているだけだ。しかし、それにしてもえらく大量の本だな』

「おかえりなさい、シャウラ様。まぁ、本当に大量ですね。半分お持ちいたしましょう」

 そう言って立ち上がりかけるけれど、シャウラは「これくらい大丈夫ですわ」と、私を即座に制して、テーブルの上に本の山を二つ作った。そしてにんまりと笑う。

「うふふ……実はですね、とうとう出来上がりましたの。皆様の秀作をまとめた本が。これは記念すべき初版本です。もちろん趣味の範囲内のささやかなものではありますけれど、形になっただけでも素晴らしいことですわ。ですから、私の友達であるユーフィリナ様に誰よりも一番に差し上げますね」

「まぁ…………ありがとうございます」

 私は改めてその場に立ち上がると、丁重にその本を受け取った。そして、その表紙から背表紙、裏表紙に至るまでしっかりと眺めて、今度は温めるかのように胸に抱きとめる。

 そう、これは腐女子様方の夢と期待と希望が詰まった、前世でいうところのBL本の同人誌だ。といっても、同人たちの出資ではなく西の公爵家の財力をふんだんに使い、シャウラが大量に生み出したものだ。言い換えるならば、新たな同志(とも)を獲得するための落とし込む“沼”を大量に作り上げた――――――まぁ、そんなところだろう。

 もちろん私がその“沼”にずっぽりとハマってしまうことはないけれど、偏見なく読むことはできる。

 それになにより、友達であるシャウラの気取らない笑顏がただただ嬉しい。

「しっかり読ませていただきますね」

「ユーフィリナ様にそう言っていただけて、皆様も喜びますわ」

 シャウラは淑やかに頭を下げると、そのままアカへと視線を向けた。

「イグニス様も読んでくださいます?この部屋で交わされる乙女の秘密を、唯一知る者として」

『か、勘弁してくれ…………』

 器用に前足で顔を隠しながら、アカは情けない声を出した。そんなアカにクスクスと笑ってから、シャウラは鼻唄でも歌い出しそうな口調で続ける。 

「ですよね。では、この本は待ち望んでいた方々に無償で差し上げることとして、残りは図書館に寄贈することにいたしましょう」

『おいおい、ちょっと待て!そんな本をここに寄贈するのか!それはちょっと…………』

 否定を含んだアカの声に、くるりとターンを決めるようにシャウラが振り返った。

「あらあら守護獣様は千年以上も生きてらっしゃるわりには、随分と頭がお固いようですわね。それとも、自分がモデルの作品がなくて拗ねていらっしゃるのかしら?でしたら、なんの問題もございませんわ」

『………………はっ?』

 神秘的な焔色の瞳をまん丸くしたアカに、シャウラのヘーゼルの瞳が意味ありげに細まる。

 うん、アカではないけれど、これは嫌な予感しかしない。

 戦々恐々となる私とアカの前で、シャウラはやおら本の山から一冊取り上げると、センス良く黒とグレーを配色した表紙を開き、注目!とばかりに目次を指差した。

「本当に滑り込みでしたが、イグニス様とセイリオス様を題材にした作品が手元に届きましたので、しっかりと入れてございます。ちなみに、お名前はすべて変えてありますのでご安心くださいませね」

『う、う、う、う、嘘…だろ…………』

「本当でございます」

『頼むから、嘘だと言ってくれ!』

「頼まれても、本当の本当でございます」

『嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!それもセイリオスが相手とか最悪だぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!』

 どこまでも上機嫌なシャウラとは対照的に、アカは目一杯叫ぶだけ叫ぶと、炎が消えて灰だけが残ったような有様でがっくりと項垂れた。

 そんなアカを同情の眼差しで見やって、私は思う。

 あぁ……やはりこの時間は、アカに迷惑をかけているのかもしれないわ………………

 アカ、ごめんね……………と、内心で土下座となった。



 それにしても、シャウラの機嫌が天を衝くほどにいい。

 念願の本ができたこともあるだろうけれど、それにしたってこの機嫌の良さは少し異常である。

 そもそも高爵位持ちの貴族は感情を隠すことに長けている。一見起伏が激しそうに見えるシャウラにしても、鉄壁の微笑みで簡単には読み取らせないように覆い隠してしまっているのが常だ。

 しかし、今のシャウラはその鉄壁の微笑みが外れ、どちらかというと終始にやけ顔となっている。

 私も高爵位持ちにしては常々、思っていることが顔に出やすいと言われるけれど(私的には完璧なポーカーフェイスをしているにもかかわらず)、今のシャウラは本当に酷い。

 そこで私は、シャウラのこのにやけ顔を訝しがった(気持ち悪がった)アカからの無言の催促を受け、“運命の恋、溺れる愛”という、赤面しかないタイトルの本を読みながら、ただただにやけ続けているシャウラに対し、恐る恐るの(てい)で声をかけることにした。

「あの……本を読まれているところに失礼いたしますが、シャウラ様、何かとても良い事があったのでしょうか?先程からお顔がとてもにや…………いえ、とても嬉しそうに見えるのですが…………」

 するとシャウラはにやけ顔をおさめるのではなく、むしろ顔いっぱいに広げると、読みかけだった本を膝の上に伏せて置いた。そして、よくぞ聞いてくれましたとばかりに口を開く。

「やだわ。私としたことが、うっかり顔に出してしまったようですわ。しかし、ユーフィリナ様がどうしても、ど〜〜〜しても、気になって夜も眠れないと仰るのでしたら、お話することも吝かではございませんわ。うふふ、実はですね、先程あの方にお会いしたのです!」

 この様子だと、シャウラはずっと話したくてうずうずしていたようだ。

 逆に聞くのが遅れたことを申し訳なく思いながら、「あの方?」と繰り返した。その時に少し首を傾げたことがシャウラの萌えポイントだったらしく、いつのように悲鳴を上げられる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~ッ!その顔、しぐさ、すべてに悶えてしますわ!本当に今すぐ食べてしまいた………………」

 とまで言いかけて、ギロリと睨んだアカの視線にシャウラは賢明にも口を噤み、「失礼。ちょっとした願望が漏れ出てしまいましたわ」と、麗しき笑みを湛え直した。そして、“あの方”について改めて語り始める。

「以前お話した、私が一目惚れをした“あの方”ですわ。先程お会いしましたの」

 そういえば、シャウラとはじめて図書館に来た時、そんな話をしていたな…………と思い出す。

 途中でさて置かれたこともあり、またそれ以外の話のインパクトが強すぎて、辛うじて頭の隅っこに引っ掛かっていた程度だ。というか、もはや記憶の底に埋没寸前となっており、言われてようやく引っ張り出せたくらいのものだった。

 しかし、膝に伏せられたタイトルの本といい、シャウラのこの浮かれ具合といい、一目惚れは本当のことだったのね、と微笑ましく思う。

 そして私も一応うら若き乙女であり、前世ではファンタジー小説の中で繰り広げられるすったもんだの恋模様に憧れていた身としては(もちろんハッピーエンド)、やはりシャウラの一目惚れに興味がある。

 逆にアカは、シャウラのご機嫌な理由を知り、一気に興味をなくしたようだけれど、神聖なる聖獣としてそれは至って当然な反応とも言える。そのため、無関心にも目を閉じてしまったアカに苦笑しつつ、私は自分の好奇心を抑えきれず、僅かに身を乗り出しながらさらに質問を重ねた。

「こ、こんなことを尋ねていいのかわかりませんが、その方は学園の方なのですか?」

 一応断りらしきものを入れつつ、重ねた質問だったけれど、それもまた無用の心配だったようで、シャウラは淀みなく答えてくれる。

「学園の生徒ではありませんわ。この学園にある魔道具を扱う、魔道具師の方で、ロー・セルペンティス様とおっしゃいますの。時折、魔道具の交換や修理のために学園へいらっしゃるのですが、その際に学園保有の魔道具の調子などを確認するために、生徒会長であるお兄様へ会いに来られるのです。私が出会ったのは偶々お兄様に用事があって訪れた生徒会室でですわ」

「では、そこで一目惚れを?」

「えぇ、そうですの。とても涼し気なアクアマリンの瞳に、さらりとしたキャメルの髪。全体的にガシッと堅そうなお兄様とは違って、とても優しげで穏やかで、繊細な麗しさをお持ちの方ですわ。かつては爵位持ちの貴族だったそうですけれど、三男だったこともあり、以前から興味があった魔道具の研究と制作にかかわりたいと自ら家を出られたらしいの。確かお歳は二十四歳だったかしら…………」

 声を弾ませながらそう説明してくれるシャウラに、私はその話を聞きながら徐々に眉を下げた。

 何故なら、この世界にはれっきとした身分がある。もちろんその身分に見合った恩恵もあるけれど、その分私やシャウラのような高貴族のご令嬢には自由恋愛なんてものは存在しない。

 まだ相手が釣り合う身分の相手ならともかく、元貴族の魔道具師ではシャウラの恋の成就は難しい。そんなことを思いながら聞いていると、シャウラは私の考えていることを的確に読んだようで、コロコロと笑い始めた。

「あらあら、ユーフィリナ様が失恋なさったかのようなお顔をされていますが、私は大丈夫ですわ。そうですね………恋に恋をした――――といったところでしょうか。ただね、私の悩みを親身になって聞いて、涙を流してくれたその方の優しい人柄に、ほんの少し心を奪われてしまっただけのことですわ。あと、私を慈しむように微笑むその瞳にも………………」

 それって…………と、思うけれど、私は敢えてシャウラの笑顔に騙されることにした。そして別に気になった単語を口にする。

「シャウラ様がご相談されたお悩みとは……まさか………………」

 人の悩み事を興味だけで聞き出すものではないという自制と、もし役に立てるのならばというお節介と、もしかして相談した悩みが“忘却”のことなら、いくら信用できる相手だとしても大丈夫だったのかという心配に、私の問いかけは終着点を見失ったかのように尻すぼみとなる。

 しかし敏いシャウラは、私の質問の意図を読み解き、小さく首を横に振った。

「ご相談したのは、“忘却”のことではありませんわ。私の魔力のことです」

「魔力……でございますか?」

 そう問い返しながら、私は考えた。

 枯渇寸前の私が魔力のなさに悩むことはあったとしても、ご令嬢として潤沢な魔力量を持つシャウラがどんな悩みを持っているのだろうと。

 けれどすぐに、本人はその膨大な魔力を持て余しいるようだ――――――と、お兄様が話していたことを思い出す。

 するとここで、興味なさげに一度は閉じた目を、アカが徐に開けた。そして、シャウラを見やり、納得したように呟く。

『あぁ確かに……器と魔力量が一致していないな…………』

 そのアカの呟きは、シャウラの耳にもしっかりと届いていたらしく、「さすが守護獣様ですね。その通りですわ」と、膝の上で伏せていた本を、今度は丁寧に閉じてテーブルの上に置き直すと、制服のスカートのポケットから小さな箱を取り出した。

 五センチほどのサイコロ型の銀の箱。

 装飾はとてもシンプルで、すべての面に何かの魔法陣のような模様が彫られているだけだった。残念ながら、私にはそれが何の魔法陣かまではわからない。

 しかし守護獣であるアカは、シャウラの手の上にあるその箱の模様を一目見ただけで、簡単に言い当ててしまう。

『それは魔力吸収と封印の魔法陣だな。つまり、過分な魔力を吸収し封じ込める魔道具ってところか』

 シャウラは、しっかりと頷いてから、その箱をテーブルの上に置いた。

「私は非常に魔力量が多いのですが、どうも巧く制御しきれず、魔力あたりを起こして寝込んでしまうこともございますの。もちろん七歳以前の記憶はございませんが、周りに話を聞く限り、以前からそうだったようですわ。そのため、余分な魔力を定期的にお兄様や呪術師に吸い取っていただいているのですが、溢れかえる私の魔力量があまりに多すぎて、逆にお兄様と呪術師が寝込まれてしまうことも度々…………そこで、誰にも迷惑をかけることなく、魔力を吸収して調整してくれる魔道具はないかと相談しましたところ、早速私のためにこのような物を作って来てくださったのよ…………」

 そう説明しながら、頬をぽっと赤く染めたシャウラに私は目を細めて、もう一度その魔道具へと視線を落とした。

 とても綺麗だな…………と思った。

 その魔道具師が依頼された仕事としてこれを作ったのか、シャウラの悩みに同情し作ったのか、またシャウラに特別な感情を抱いて作ったのかはわからない。しかし少なくとも、シャウラの話に涙したということは、シャウラの苦しみを理解した上で、シャウラのことを思いこれを作ったことだけは間違いないだろう。

 だからこそシャウラは、あんな風にずっとにやけてしまうほど嬉しいんだな…………などと思い至ると、なんだか私まで急に気持ちがホクホクとして、にやけてしまいそうになる。

 けれどそれも一瞬だった。

 魔道具のすぐ横に置かれた本。

 “運命の恋、溺れる愛”などという恋愛小説ですと名乗って憚らないベタなタイトルが、なんだかとっても痛々しい。

 シャウラは『恋に恋をした』といって、自分の気持ちを茶化してみせたけれど、この本を目におさめながら実際はどうなのだろうと詮なきことを考えてしまう。

 できれば、この恋心が失恋の痛みでなく、淡い恋の思い出としてシャウラの中で消化されればいいな…………とも。

 そんなことを、魔道具と本を交互に見つめなら考えていた私は、どうやらまたお得意の百面相となっていたらしい。

 私の対面に座っていたシャウラが、俄に笑い始める。

「本当にユーフィリナ様は見ていて飽きない方ですわね。それも何を考えていらっしゃるのか手に取るようにわかってしまいますわ。でも、先程も申しましたように、私の気持ちについてのご心配なら不要ですわ。誰にも恋することなく、一生を終えることがなくてよかったと、逆にそう思っているくらいですから。それに、私がこちらの本を読んでいたのは、なにも自分の恋心を慰めるためではございませんわ。“神の娘”について学ぶためです」

「……………………はい?」

『……………………はぁ?』

 シャウラの恋心を思って切なくなりながら聞いていたところに、突如もたらされた思いがけない返答。

 いやいやその本で“神の娘”の何を学ぶつもりなんだと、疑問だけが先に立つ。

 そしてさすがのアカも、“神の娘”という言葉に完全に起き出し、ソファにちょんと座り直した。その様がなんとも可愛らしいけれど、今はそれにモフモフ依存症を発症している場合ではない。

「シャウラ様……そちらの本で“神の娘”の一体何を学ばれていらっしゃるのでしょうか?」

「もちろん性格とか考え方とか、運命の人との出会ったことでの苦悩とか、その他諸々ですわ」

「……………………はい?」

『……………………はぁ?』

 シャウラの返しに、私とアカはまるで判で押したように同じ反応となる。

 もしかしてその恥ずかしいタイトル本は、千年前に“神の娘”自身が(したた)めた自伝みたいなものなんでしょうか?

 それとも日記とかなんでしょうか?

 もしそうだとしたら、かなり引いてしまうんですけれど…………もちろんそのタイトルに…………

 そんなことを呆けた頭で考えていると、シャウラがとても丁寧な手つきで、銀の箱型の魔道具をスカートのポケットにおさめた。

 まるで、世界に一つしかない至高の宝物であるかのように。

 それから私とアカの前に、テーブルの上を滑らせる形でその本を差し出してきた。

 そしてにんまりと笑う。


 あぁ…………

 嫌な予感しかしない…………………


 得てして、そういう予感ほど外れないもので――――――――――

 

 思っきり顔を引き攣らせた私とアカの予感は、羞恥と困惑を伴って、この後見事的中することとなる。

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


シャウラ様始動です。

いや、とっくに始動しているのですが、さらにギアを入れて始動です。

ユフィと同じ歳のはずなんですけど、話すだけで妙に艶っぽい……

シャウラ様、さすがです!


皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆


恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



星澄

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