ヒロイン探しは続行します(9)
嵐…………もとい、彼女がやって来たのは、私が教室の自席にようやく腰を下ろした直後のことだった。
この日も、お兄様のおまじない付きで馬車から降り立った私は、べったりと張り付くアカを連れ、さらには一階ロビーで私を待っていたというシェアトに誘導される形で、教室へたどり着いた。
言うまでもなく、その道中のことはすでに忘れてしまいたい過去だ。
お兄様は、すぐに慣れるようなことを言っていたけれど、元喪女の私にとっては土台無理な話だと思う。
なにしろ、そもそものスタート地点からしてお兄様とは違うのだ。
その類稀なる麗しさゆえに見られて当然のお兄様と、目立つ存在に挟まれたせいでうっかり見られることになってしまった地味な私。
もちろん、ほとんどの視線がアカとシェアトに向けられているのはわかっているのだけれど、疑問と嫉妬の視線もその中には多分に含まれているわけで、その視線がとにかく痛い。
しかしこれもそれも、ヒロイン探しのためだわ!と自分を鼓舞…………というより何とか言い包め、どうにかこうにか教室にたどり着いてみれば、教室でも黄色い悲鳴と、大量の石像化。
あぁ………やっぱり慣れない……………と、げんなりとしながら自席につき、ようやく教室の時間が平穏に流れ始めたかと思われたその時、彼女は前触れもなくやって来た。
『ユーフィリナ様、いらっしゃいますか?…………あら?おかしいわね。先程の廊下の騒ぎからいって、いらっしゃっているはずなのに…………ユーフィリナ様?…………すみません、ユーフィリナ様はいらっしゃいますか?』
『は、は、は、はい!ここにおります!』
そう自席から飛び上がるようにして立ち上がり、私は教室の出入口に立つシャウラの声に応えた。
自分の隠密スキルに改めて感心するとともに、突然の訪問者に驚きながら。
そして私は、それぞれの自席から駆け付けてきたアカとシェアトとともに、シャウラの怒涛の口撃ならぬ自己紹介を受けることになったのだけれど――――――――――
「しかしこれは、セイリオス様がお隠しになられていた理由がわかりますね。シェアト様もそう思われるでしょう?」
「そ、そうは思うが、シャウラ嬢……その事についてユーフィリナ嬢は全然………」
慌てたようにそう言葉を返すシェアトに、シャウラはヘーゼルの瞳で私をチラリと流し見て、それから驚いたように目を瞠った。
「ま、まさかお気づきなく、毎日を過ごされている?なんて鈍感…………」
「あ、あの………………」
一体私が何を気づいていないというのかまったくわからないけれど、酷く驚かれていることだけはわかる。ついでにディスられたことも。
少し不安になってアカとシェアトを交互に見やれば、アカからは「心配するな、ユフィ。何も問題はない」と返され、シェアトからは「ユーフィリナ嬢はそのままでいいんだよ」と言われる。
つまり、鈍感ではあるけれど、問題はないからそのままでいい…………ということで、私としては鈍感な時点で問題大有りな気がしてならない。
そこで、シャウラ自身に問おうと視線を戻すと、シャウラは「うっ………………」と、言葉を詰まらせた。
そして何故かヘーゼルの瞳を潤ませ、頬を赤く染めると、そっと私から目を逸らす。
どうしたのかしら?と首を傾げつつも、私はまた別の衝撃を受けていた。
同じ女性であり、同じ十六歳でありながら、このけしからん色香は何なのだ!と。
赤く色づく頬にかかるローアンバーの髪。ヘーゼルの瞳を縁取る睫毛は長く、ふっくらと柔らそうな唇は朝露に濡れた薔薇のように瑞々しく可憐。背も私より五センチは高く、その身体つきも出るところは出てとても女性らしい。
そんな公爵令嬢にふさわしいほどの圧倒的な美しさと、煽情的な艶やかさを併せ持つシャウラに、同姓でありながらくらくらとしてしまう。
しかし、何故急に頬を染めてしまったのかがわからない。
私、何かしたかしら?と、隣に立つアカとシェアトに再び交互に視線を投げかけて、ようやく気がついた。
わかったわ。私を見て頬を染めたのではなく、私の横に立つアカかシェアトがうっかり視界に入ってしまって、ドギマギされてしまったのね。
先程までは平気そうだったのに、麗しき殿方を目におさめてしまって、急に恥ずかしくなってしまわれたのだわ。
あぁ、これでは確かに鈍感と言われても仕方がないわね。
それにしてもシャウラ様ったら、とても可愛らしい方だわ……ふふふ。
ちょっとした親近感を覚えながら、私は同時にこうも思う。
シャウラ様の方が私なんかよりもずっと悪役令嬢が似合いそうね――――――とも。
それほどまでに圧倒的な迫力を持った美しきご令嬢が、瞳を潤ませ、頬を赤く染めている。これは目に毒だ。非常に問題である。これこそ今すぐ隠すべきものだ。
しかしここは教室前の廊下。それもまだ始業前。あまりに人目があり過ぎる。というか、またもや視線がビシバシ刺さってくる。
これらの視線が本物の刃なら、私はとうに死んでいるはずだ。
こんな時こそ、お兄様とサルガス様の能力があれば………………いえ、ここには“言霊”の能力者がいるわ!――――――と、突如舞い降りた閃きに、今すぐシェアトにお願いしようかどうしようかと、一人わたわたとし始める。そんな私に、いつの間にかしっかりと立て直していたシャウラがニッコリと微笑んだ。
「なるほど……よくわかりましたわ。確かにこれは危険ですわね。お兄様が心配する意味もわかります。それも、ユーフィリナ様はまったくお気づきになられていないどころか、何の疑問も持つことなくずっと過ごされてきた。これは、セイリオス様の能力を凄いと褒め称えるべきか、それともユーフィリナ様の鈍………………いえ、本当に悩んでしまいますわね。しかし、なんて可憐で愛らしくて、それでいて愉快で面白い方なのでしょう。今までお名前だけは存じておりましたが、このような方をずっと放置していたなんて、何たる不覚。私としたことがとんでもない失態ですわ…………いいえ、これはお兄様のせいね。だって、昨日ですのよ。ユーフィリナ様のことを色々と教えてくださったのは。それも帰って来るなり早々『シャウラ、よかったらユーフィリナ嬢の良き相談相手となってやってくれ』などと告げてきて………話というものは順序立てて話すものだと、思わず怒ってしまいましたわ。でも、安心なさってくださいね。私はただのお悩み相談の相手ではなく、ユーフィリナ様とお友達になりたいの。一方的に悩みを聞くのではなく、私の兄に対する不満とか、兄に対する疑問とか、兄に対するその他諸々も聞いていただきたいのです。どうかしら?」
「見事に兄のことばっかりだな…………」
アカの呟きに、内心では盛大に首を縦に振る。
ついでに言えば、彼女の舌はよく回るなぁ…………と感心しきりだ。
けれど、私は彼女の優しさに嬉しくなった。
一方通行ではない関係を望んでくれたことが………………
それに、私にとっては今世での初めての女友達となる。
シェアトも友人だけれど、やはり同姓と異性の違いは大きい。一度シェアトにもヒロインの手掛かりを探すために話を聞いたことがあったけれど、シャウラは女性ならでは目線、もしくは繋がりで、ヒロインらしきご令嬢の心当たりがあるかもしれない。
そうよ!シャウラ様は私にとって最高の協力者だわ!
まるで天のお導きのように思えて、私は思わずシャウラの両手を掴むと、「こちらこそよろしくお願いいたします!」と、満面の笑みとなった。
そんな私の顔を見て「あぁ、これは眩しすぎて直視できませんわ!」と、天を仰いだシャウラに、アカとシェアトが「「同感だ……」」と二人揃ってしみじみと頷く。
またしても三人だけが理解している状況に、私は一人むむっと眉を寄せた。
「さぁ、女同士存分にお話しいたしましょう」
その日の放課後、そう言ってシャウラに誘われたのは学園内にある図書館だった。
普通、図書館のイメージと言えば私語厳禁なのだけれど、ここは異世界。そもそも前世の図書館とは規模が違う。
図書館と名の付く通りフロアは三階に別れ、閲覧コーナーに、個室使用となっている執務室と魔法実践室、さらには使用目的ごとの歓談室と会議室に、ちょっとしたカフェも常設されている。
つまり、一人で黙々と本を読むイメージの前世の図書館とは違って、本を楽しみながら共有、もしくは即実践できる場が用意されているのだ。
ちなみに、このシャウラのお誘いの件は、お兄様の了承を取ってある。
いつ了承を取ったのかと言うと、昼食の際にだ。
やっぱりというか、案の定というか、お兄様はトゥレイス殿下の件が落ち着くまでは毎日一緒に昼食をとると言って聞かず、さらにはそこにアカとシェアトまでが便乗し、暫くの間はずっとこのメンバーで食べることになってしまった。
しかも、お兄様曰く――――――――
『今日はレグルスの協力もあってなんとか阻止できたが、おそらくスハイル殿下も隙あらば押しかけてくるようになるだろう………悪いが、その事だけは覚悟していてほしい』
――――――――ということらしい。
それも非常にうんざりとした様子のお兄様から察するに、今日もそれなりの攻防戦を繰り広げてきたことが窺い知れる。
やっぱりスハイル殿下は厄介で面倒な人だ…………と思いながら、私はお兄様にシャウラの話をした。
今朝の教室来襲から始まり、シャウラと友達になったことまでをすべて。
そして、トゥレイス殿下の件もあるし、もしかしたら反対されるかも?
なんてこと考えつつお願いしてみれば、こちらが拍子抜けしてしまうほどあっさりとお許しが出た。それも――――――――
『私も何度かお話したことがあるが、シャウラ嬢はさすがサルガス殿の妹君だけあって、なかなかしっかりとした女性だ。魔力量もご令嬢の中では飛び抜けて多い。まぁ、本人はそれを持て余しているようだがな…………だが、公爵令嬢としてお高くとまることなく、とても社交的な方だから、ユーフィリナにも気兼ねなく接してくださるだろう。是非仲良くしてもらいなさい』
――――――などと、お兄様にしては珍しく大絶賛でだ。
そこで私はふと考える。
かつてここまでお兄様がべた褒めにした女性はいただろうか………………いや、いない。
そもそもお兄様が私の前で他の女性の話をすることさえ珍しい(最初にこの話題をふったの私だけれど)。
もしかしたら、お兄様はシャウラのような女性が好みなのかもしれない。
なにしろ、家柄も年齢的にもお兄様の婚約者としてピッタリな上に、社交的で魔力量たっぷりな美人。
うん、これはもう間違いないだろう。
だとすれば、ここは妹としてしっかりと応援しなければならない。
そうよね。
だって……お兄様には今まで散々お世話になったし、こんな時こそお役に立たなければ申し訳ないわ。
ここは妹して、一肌も二肌も脱いで差し上げましょう。
そんな私自身の心づもりも色々とあったりして、私はそれとなくお兄様に聞いてみることにした。
『お兄様、あの………お兄様はシャウラ様のような女性がお好きなのでしょうか?確かに初対面とは思えぬほどに、私にも親し気に話してくださいましたし、それに何より、地味な私とは違って華があり、同姓で同じ歳の私が思わずうっとり眺めてしまうほど、艶やかでとても美しい方でした。お兄様とお並びになれば、さぞかし場が華やぐことでしょう。もちろんシャウラ様のお気持ちもありますが、もしお兄様がシャウラ様を望まれるのでしたら、私は心より応援いたしますわ。きっとシャウラ様となら義理の姉妹として仲良くやっていけそうですし』
もはやそれなりではなく、かなりの直球となってしまったけれど、こういう事ははっきりと聞いておくべきだと思い直す。
しかし、お兄様の反応は意外なものだった。
『ユーフィリナが、地味…………どこをどう見ればそのような感想になるのだ…………』
『あ、あのお兄様?』
まるでこの世の終わりであるかのようにガックリと項垂れて、そんなことを呟くお兄様に、私の方が困ってしまう。
やはりシスコンであるお兄様は、実の妹が世間の総評で地味枠に堂々入ってしまうことを認めたくないのかもしれない。
しかし、事実は事実だ。自分で言ってて悲しくなるけれど、事実である以上仕方がない。
ここはできるだけ、お兄様のショックが少なく済むようにと、改めて言葉を選びつつ重ねようとしたところで、シェアトがいつもの独り言を発動し始める。
『信じられない…………南の公爵家には鏡がないのか?…………それとも歪んでいる?…………いや、これもセイリオス殿の“幻惑”のせいか?でなければ、ユーフィリナ嬢がここまで自分を卑下するような台詞を口にするわけがない。あぁ…………なんて痛ましいことだ。自分の姿を知らないなんて………だが、物は考えようだ。ユーフィリナ嬢が知らなくとも、私は知っている。だから、私が彼女を目一杯愛でればいいだけの話だ……うん、そうだ。それでいい…………』
いつも通り半分以上は理解できなかったけれど、なんとなくシェアトに慰められてるような気がして、一応微笑みだけは返しておく。そんな私を見やりながら、今度はアカがどんよりとしながら口を開いた。
『嘘だろ…………勘違いに、勘違いが上書きされていく…………これはどう収拾したらいいんだ?千年前のフィリアも、さすがにここまでは酷くなかったぞ…………』
『えっと……イグニス?勘違いって何かしら?もしかして、お兄様の好みはシャウラ様ではない?』
『あぁ、そうだな!たぶんそれも勘違いだな!って、オレはセイリオスの好みなどどうでもいいが、おそらくあのシャウラではないだろうな!』
何故か自棄でも起こしたかように、アカが返してくるけれど、私にはその理由がさっぱりだ。でも、お兄様の好みの女性がシャウラではないことだけは理解する。
『まぁ……そうなの。私の早合点みたいね。お兄様、大変失礼いたしました。お兄様がシャウラ様を絶賛されていたのでてっきりそうなのかと…………』
そう素直に頭を下げれば、ずっと頭の上に大きな石でも乗せていたかのように項垂れていたお兄様が、ゆるりと顔を上げた。そして私を真っすぐに見据え、問いかけてくる。
『ユーフィリナは私とシャウラ嬢を一緒にしたいのか?』
『いえ、決してそういうわけでは…………』
『では聞くが、ユーフィリナは私が他の女性の話をしているのを聞いてどう思った?』
明らかに不機嫌さを漂わせながらそんなことを聞いてくるお兄様に、私は改めて考えてみる。
同じ歳で、同じ公爵令嬢で、私とは違いとても洗練された美しさを持ち、それでいて気取るところがなく社交的なシャウラ。しかも持て余す程の魔力量持ちで、お兄様からも大絶賛。
対する私は元喪女で、地味で冴えなくて、魔力も枯渇寸前の悪役令嬢。
………………………少し…………ううん、かなり面白くない。
それに……何故かしら……小さな棘が刺さったみたいに心がチクチクと痛い。
比べること自体、お門違いだということはわかっている。けれど、同じ公爵令嬢で、同じ歳となれば、どうしても比べずにはいられない。
自分がみじめになることをわかっていながら…………
そうか。だから、お兄様は敢えてこんな質問をしたのだわ。
本当にお兄様は意地悪よね。
お兄様のことだから、私がどう思っているのかなんてすべてお見通しのはずなのに、わざわざこんな事を聞いてくるのだから。
けれど、私を見つめてくるアメジストの瞳は、逃げは許さないと告げている。
つまり、この感情と向き合えということだ。
同じ女性としてシャウラを羨む気持ちと、自分を惨めに思う気持ちを真正面から受け止め、乗り越えてみせろと。
シャウラと心からの友達となりたいのであれば、尚更のこと――――――――
私は何度も口を開きかけては閉じ、それを何度か繰り返してからようやく言葉を絞り出した。
『楽しい気分…………には、なれませんでした』
『それは不愉快だったということだな?』
不愉快…………確かにそう言われてみればそうかもしれないと、私はコクンと頷く。
すると、雲間から急に太陽が顔を覗かせたように、お兄様の機嫌が見る見る間に回復した。
『そうか、不愉快だったか。ふむ……それはなかなかいい兆候だ…………』
などと、一人納得しながら………………
そのせいで、今度はシェアトが微妙に不機嫌となり、アカは一層げんなりとしてしまったようだけれど、最終的には機嫌よくお許しがももらえてよかったわと、私は胸を撫でおろした。
そして放課後、私はシャウラと図書館にいるわけだけれど――――――――――
「それにしても、やっぱり見張りが付くんですね。セイリオス様に、イグニス様に、シェアト様。お兄様にも今日の放課後のことをお伝えしたら、生徒会の仕事が片付き次第こちらに来ると申しておりましたから、後程さらにお兄様も加わりますわね。さすが、“神の娘”の生まれ変わりであるユーフィリナ様をお守りするとなると、鉄壁ですわね」
シャウラはそう言って、二階フロアにある歓談室の窓から一階にいるお兄様たちを覗き込んだ。
私としては申し訳なさと気恥ずかしさで項垂れるしかない。
そう、私は確かにお兄様の許しを得た。放課後、シャウラと会ってもいいと。
けれど、そうなれば漏れなくお兄様たちが付いてくることをすっかり失念していたのだ。
そして案の定、シャウラよりも早くお兄様が颯爽と私の教室にやって来て、私はお兄様とアカ、さらにシェアトを従える形でシャウラを出迎えることになってしまった。
もうその時の教室の状況やら、道中の廊下の状況やらは封印したい過去だ。
ただ救いは、お兄様たちが立派な紳士で、女性同士の歓談に割り込んでくるような無粋な真似はしないという点だ。
そのため、私たちは歓談室がある二階フロアへそのまま向かい、お兄様たちは人の出入りが確認でき、尚且つ二階の歓談室の窓が見える一階の閲覧コーナーに陣取っている。それも数多の目を引きながら………………
「うふふ……凄いわね。セイリオス様たちを中心に、人の輪ができてしまったわ。でも、あれでは出入口が見えないわね。あらあら…………どうやらシェアト様が“言霊”を使ったようだわ。そして、私の目にもセイリオス様たちが見えなくなってしまったということは、セイリオス様が“幻惑”を使われたのね。さすがだわ」
窓を覗くシャウラの隣で、私も一緒にその光景を眺めながら、お兄様たちの人気の凄さに改めて驚かされる。
ただシャウラと違って、今も尚、私の目にお兄様たちの姿が映っているということは、ここにいるから安心しなさいという、過保護なお兄様の気遣いなのだろう。
それにしても、この状況に一週間で慣れると言っていたシェアトの心臓は鋼でできているのかもしれない。
アカはちゃんと慣れてくれるかしら……心臓は鋼かしら…………
なんてことをぼんやり考えていると、いつの間にか歓談室の備え付けのソファーに腰かけていたシャウラから、唐突な質問が飛んできた。
「それで、ユーフィリナ様は誰が好みなんですの?」
「はぁッ⁉」
ぎょっと振り返った私にシャウラがにんまりと笑う。
「やはり女性同士となれば、話題は殿方のことでしょう?ちなみに私は東西南北の公爵家で言えば、セイリオス様が好みですわ。ユーフィリナ様はどの方が好みのタイプなのかしら?」
「いえ……あの……そんなことは考えたことも……ありません……」
尻すぼみにそう答えて、ブンブンと首を横に振る私に、シャウラはヘーゼルの瞳を丸くしてから吹き出した。
「まぁ……ユーフィリナ様は見た目通りにとても純粋でいらっしゃるのね」
「そ、そういうわけではありませんが、公爵家に生まれた者として……恋愛はその……」
「まさか、お家のために政略結婚をなさるおつもり?でも、ユーフィリナ様は政略結婚の駒にはならないと思いますわよ」
シャウラからきっぱりはっきり告げられて、あぁ……私のような地味な令嬢ではいくら高爵位であったとしても、政略結婚の駒にもなれませんよね…………いえ、わかっていましたが、そこまでずばり言われると、さすがに傷つきます――――――と、わかりやすく悄気る。
そんな見るからに落ち込んだ私に、今度はシャウラが慌てた。
「やだ……違いますわよ。そういう意味で言ったのではなく、ユーフィリナ様は“神の娘”の生まれ変わり認定を受けた身でしょう?だから、政略結婚の駒にはなり得ないという意味ですわ。それに、ユーフィリナ様を手に入れたい殿方など、それこそ履いて捨てるほどいるでしょうし」
「そ、そ、そ、そんな方はいらっしゃいません!」
そう否定しつつも、トゥレイス殿下とアリオトの顔が浮かぶ。
けれどそれは、私のことを“神の娘”の生まれ変わりだと思い込んでいるからで…………とまで考えて、シャウラの台詞もそういう事ね、と思い至る。
私が“神の娘”の生まれ変わりの認定を受けたことを皆が知れば、そうなる可能性があると。
別に騙しているつもりはないけれど、もしそうなった場合のことを考えると、気持ちが重くなってしまう。
それに――――――――
私は心に引掛りを覚えたままシャウラの対面となるソファへ腰かけると、恐る恐るの体で尋ねてみた。
「シャウラ様は……本当にお兄様のことが…………その……いつかは添い遂げたと思ってらっしゃるのでしょうか?」
昼間はし損なった心づもりだけれど、シャウラがその気なら今度はシャウラの友達として応援してあげたいと思う。
アカはお兄様のタイプはシャウラではないと言っていたけれど、お兄様はシャウラのことを大絶賛していたわけだし、お兄様の口から直接タイプではないと聞いたわけでもない。
もし、シャウラがその気ならば、私は………………
また胸のどこかに、小さな棘がチクリと刺さったような気はしたけれど、そこは敢えて気づかないふりでやり過ごす。
すると、シャウラは数秒程固まった後で、今度はお腹を抱えて笑い出した。言うなれば、公爵令嬢にあるまじき呵々大笑である。
「や、やだ…………ユーフィリナ様…………おかし……あぁ、そうよね……私がセイリオス様のことが好みだと言ったから…………で、でもそうではないのよ。ちゃんとはじめに申し上げたでしょう?東西南北の公爵家では……………と。もう、ユーフィリナ様ったら、そんなことで妬いてしまわれるなんて、なんて可愛らしいのかしら……今すぐ食べてしまいたいくらいですわ」
「えっ…………や、やく?たべる?」
「きゃぁぁぁぁぁ~~~~片言!発する言葉まで全部可愛いだなんて、なんてことでしょう。これは駄目だわ。私にはそんな趣味はなかったはずなのに…………あぁ~ん、もう我慢ができませんわ。愛らしすぎるユーフィリナ様を、今からぎゅうぎゅうの刑に処します!」
そう言うや否やソファから立ち上がると、シャウラは私へと駆け寄り、その言葉通りぎゅうぎゅうに抱きついてきた。
私はモフモフ依存症だけれど、シャウラのこの病気は一体何なのだろうと、ソファの背もたれにシャウラの女性らしい柔らかな身体で押し潰されながら考える。
しかし、シャウラの口撃はさらに続き――――――
「大丈夫ですよ。ユーフィリナ様から誰もセイリオス様を取ったりなどしませんから。というより、どう考えても無理ですし、そんな徒労はいたしません。それにね、私つい先日ある殿方に一目惚れをしてしまいましたの。だからご心配なく」
ぎゅうぎゅうに抱きついたままそんなことを私の耳元で囁きかけてくるシャウラに、驚けばいいのか、ホッとすればいいのか、もはやわからない。
けれど、本当の衝撃はこの後に来た。
「その一目惚れにつきましては、今は置いておくとして、ここからが本日の本題ですわ。私はセイリオス×スハイルが一番の推しなのですけれど、最近はセイリオス×シェアトにも萌えますの。ユーフィリナ様は一体何推しなのかしら?」
「…………………………………………………………………………………はい?」
セイリオス×スハイルが一番の推しで、セイリオス×シェアトが最近の萌え?
なに?このどこかで聞いたことがある言い回しというか、響きは?
これって、全世界共通なの?異世界とか関係なく?いや、もしかしてここが乙女ゲームの世界だからだとか?
ってことは、もしかしてシャウラは…………いやいやこれは、もしかしなくとも…………
腐女子様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ‼
突然すぎるシャウラのカミングアウトに唖然とする私。
嘘でしょう…………と暫し、シャウラに抱きつかれたまま、私は一人遠い目となった。
こんにちは、また初めまして。星澄です☆
たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪
いつもはあとがきを書かないのですが、これからは時折、書いていこうと一念発起(笑)
(※もちろんあとがきスルーでもお話上は問題ないです。って当たり前か)
そんなわけで、今回はキャラについてです。
この悪役令嬢のお話に関しては(←ここ重要)、プロットらしきものがちゃんとありますが、基本キャラ任せとなっております。
その結果――――――
シャウラさんはお兄様の後ろに隠れてしまうような大人しいキャラを予定していたにもかかわらず、蓋を開けてビックリ。登場からいきなりぶちかまされてしまいました。
ユフィよりもむしろ、私の方が慌てました。
誰、この人?………と。
ま、楽しい人っぽいので、これからも仲良くやっていけそうです。
ということで、次回のシャウラさんも楽しみにしていてくださいね☆
そして最後に、厚かましいお願いで恐縮ですが、ブックマークと、評価に★を(できれば5つ←我儘)入れていだだけるととても嬉しいです☆
皆様からの反応に一喜一憂しながら、ガラスの心臓をプルプルさせて毎日に書いている私の励みとなります。
もちろん感想も大歓迎です♪
張り切って、ぜーんぶ返信しちゃいますよ!
あぁ……それと、恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。
何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。
毎回毎回あれだけ読み返してまだあるって、私の目は節穴か!という話で……本当にすみません。
とまぁ、こんなお願いと謝罪を時々思い出したかのように書きつつ、これからも投稿してまいりますので、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
皆様にとってドキドキワクワクできるお話となりますように☆
星澄




