ヒロイン探しは続行します(1)
私の名は、ユーフィリナ・メリーディエース。南の公爵令嬢だ。
そしてその実、私は転生者でもあり、乙女ゲーム“魔法学園で恋と魔法とエトセトラ”の舞台である、この世界の悪役令嬢という非常に有難くない配役を頂戴していたりする。
誰に?って、この世界の質の悪い神様にだ。
しかし、幕が上がってしまえばこっちのものと、悪役令嬢改め、ヒロインの引き立て役令嬢へと華麗に変身………もとい、勝手に配役変更。
これでヒロイン虐めも断罪も回避だわ――――――なんてことを思っていたのに、引き立てるべきヒロインは一向に見つからず、それどころかこの私が“神の娘”の生まれ変わりに認定されてしまった。
誰に?って、ここは神様ではなく、デウザビット王国の国王陛下から正式に―――――だ。
もちろん、それなわけはない。
私がそんな大層なものであるはずがない。
そんなことは、この私自身が一番よくわかっている。
前世でも孤児で喪女。今世では、免許皆伝の隠密スキルを持つ、地味で冴えない、魔力も枯渇寸前の公爵令嬢。
そんな私がまかり間違っても“神の娘”の生まれ変わりであるはずがないのだ。
そこで私は考えた。
本来であれば、お見舞いの品を送ってくださった方々にお出しするお礼状に、一筆認めなければならないのだけれど、今はそれどころではないと、ベッドの上に座り込んだまま悶々と考えた。
どうしてこんなことになってしまったのか――――――と。
しかし、この件に関しては、もはや考えるまでもなかった。というより、答えははじめからわかっていた。
“魔の者”の存在――――――乙女ゲームで言い換えるならば、ゲームプログラム上に発生した“バグ”がすべての原因であり、乙女ゲームの内容を狂わせてしまったのだ。
それも“悪役令嬢である私が、神の娘”の生まれ変わりなどという突拍子もない方向に………………
でなければ、この世界の悪役令嬢である私が“神の娘”の生まれ変わり認定を受けるはずがない。
いや、今の私は悪役令嬢改め、引き立て役令嬢を目指しているのだから、ゲームや小説でいえば、モブ中のモブ。
そんなモブに割り振られていい役柄では決してない。
言い換えるならば、名前もついていない、通行人扱いのご令嬢Cが実は大魔王でした――――――くらいの無理がある。
まぁ…………そんな無理が平然とまかり通ってしまうほど、この世界における正しき運命が歪んでしまったということでもあるのだけど――――――――
ただ、アカの一件では“魔の者”の介入があっただけでなく、切羽詰まった私が“神の娘”である“フィリア”の力を借りたこともまた事実であり、そこは素直に認めるしかない。
しかし問題は、その“フィリア”がどのようにして私に助力したのかという点なのだけれど、実はこれこそが最大の謎だったりする。
考えられる可能性は三つ。
一つ目は、この私が正真正目の“神の娘”の生まれ変わりであり、私を導いた心の声も、聖なる光も、私の中に宿る“フィリア”の魂であったという可能性。
二つ目は、やはり花屋の娘さんこそが“神の娘”の生まれ変わりであり、あの時の私がそう信じ込んでいたように、花屋の娘さんの中の“フィリア”の魂と偶々共鳴できたという可能性。
最後三つ目が、花屋の娘さんでも、私でもない他の誰かが“神の娘”の生まれ変わりであり、偶々なのか、見るに見かねてなのか、私たちを助けるために、私と共鳴したという可能性だ。
まず一つ目の可能性については一旦棚へ上げておくことにして、二つ目の花屋の娘さんこそが“神の娘”の生まれ変わりである可能性について考えてみる。
けれど、お兄様の話からもその線は薄いように思われた。
そもそもゲームの中のヒロインは、落ちぶれてはいたけれど、れっきとした爵位持ちの貴族。花屋の娘さんなどではない。
念のために(暫く私に抱きついて放れなかったお父様とお母様がようやく落ち着いてから)、お兄様に確認してみたところ、やはり彼女は生粋の花屋の娘さんで、落ちぶれた家を助けるために健気に花屋さんで働ている、どこかのご令嬢というわけでもないそうだ。
そして魔力量も一般的。
なにより、その髪と瞳の色からアリオトに目を付けられ、魔力を抜かれてまで“神の娘”として仕立て上げられたのならば、彼女はその時点で“神の娘”ではないということになる。
アリオトが本物とも気づかず、うっかり仕立て上げてしまった可能性も、決してゼロではないのだけれど、これまたお兄様曰く――――――
『それはさすがにないだろう。ユーフィリナも実際に経験したからわかるはずだ。アカの呪いや、花屋の娘の呪いが聖なる光で加速したように、常に闇は光に対して敏感に反応する。つまり、花屋の娘が“神の娘”の生まれ変わりであったならば、“魔の者”であるアリオトがそれに気づかないわけがないのだ。その点からも、花屋の娘が生まれ変わりであるはずはない』
――――――――ということらしい。
そこまではっきり言わてしまえば、さすがにこの可能性については捨てるしかない。
私としてはこの可能性が一番心穏やかに済むのだけれど、こればかりは仕方がないと早々に諦める。
だとしたら、残る可能性は一つ目と三つ目となるのだけれど、三つ目については、あくまでもその可能性があるというだけで、今の段階ではじっくり考察するだけの材料すらない。そのため、これについては一先ず保留にしておく。
というわけで、棚上げにした一つ目の可能性を、今度は丁重に棚から下ろすしかないのだけれど――――――――
まず、私にはその自覚はまるでない。
そして、幼い頃から感じていたあの声にしても、『私は“フィリア”よ』と、名乗ってきたこともないので、判断のしようもない。
それに、“神の娘”の生まれ変わりとして認定されたからといって、私が実際に“神の娘”の生まれ変わりであるかどうかはまた別の話だ。
何故なら、この世界の本筋で言えば、私は悪役令嬢であってヒロインではない。
そしてもし仮に、ヒロインが“神の娘”の生まれ変わりだとするならば、私の認定は誤りとなる。
というか、誤りでなくては困る。
それこそ悪役令嬢が“神の娘”の生まれ変わりだとしたら、ある意味ラスボスへの道まっしぐらな気がしてならない。
いや、間違いなくそうなる。なんせ、“悪役”と名の付く役どころ。そんな特別な者に認定されてしまったら、ますますヒロインを追い詰める最強の敵役となってしまうことは請け合いだ。
性格改変に失敗しているにもかかわらず、ここぞとばかりに働いたゲームの強制力とやらのせいで………………
だからこそ、今の私としては“神の娘”の生まれ変わり認定なんて甚だ迷惑なだけで、どうにかして返上できないものかと真剣に考えてしまう。
国王陛下相手に受け取り拒否なんて……できないでしょうし…………ほんとどうしたらいいのかしら――――――と。
だいたい私が悪役令嬢兼、“神の娘”の生まれ変わりであったとしても、この世界のどこかには正真正銘のヒロインがいることだけは確かだ。
つまり、この私が“神の娘”の生まれ変わりであろうとなかろうと、乙女ゲーム定番の悪役令嬢断罪への道もまだしっかり残されているわけで………………
「嘘でしょ?断罪を回避できていないどころか、余計なものに認定されて、また新たな迷宮に足を踏み入れたってこと?」
思わずそう独り言ちれば、アカがすかさず声をかけてきた。
『ベッドの上でずっと百面相をしているから、ついつい面白くて眺めてしまったが、なんだ?その断罪って……誰が断罪されるんだ?』
ここでまさか、「この私です」とも言えず、曖昧に笑って誤魔化しておく。そして改めて思い出す。
そうだったわ。私の守護獣としてアカがずっと傍にいるんだったわ。だとしたら、この所構わずの独り言も自制しないといけないわね。まぁ……そう簡単に自制できるとは思えないけれど…………
などと、微笑みの裏で反省と諦めをしつつ、すっかり私の愛猫である白猫ニクスに懐かれ…………いや、おそらく暖を取られているだけのアカに、ぐだぐだと一人で考えるより思い切って尋ねてみようかしら――――などと考えてみる。
ちなみにこれは余談だけれど、現在お父様とお母様は別室で、アカの一件と“魔の者”についてお兄様から報告を受けているところだ。そしてその話を聞けば、またもやこの部屋に押し駆けてくることは必至。
特に、アリオトからの求婚の件を聞けば…………それはもう電光石火の如く…………
その警戒もしっかりとしつつ、私はアカと一緒に自室にいるのだけれど、このアカもつい先程まで白猫ニクスに対して大爆笑をしていた。
『お、お、お前が“ニクス”……あのお高くとまった雪豹と同じ名前の“ニクス”?これはいい!しかもこの雪だるま体型が最高だ!』
もちろんこの最高は、“最高に可愛い”とも“最高に素敵”とも違う。“最高に不細工”が正解だ。
しかし猫のニクスは、自分の体型を笑われているとも知らず、どういうわけか炎狼であるアカにすり寄り、ゴロゴロと機嫌よく喉を鳴らしていた。
そして今はベッドのシーツの上で二匹一緒に仲良くくつろいでいる。
私はその光景に自然と目を細めてから、躊躇いつつも口を開いた。
「ねぇ……アカ。あなたのお友達……でいいのかしら?雪豹のニクスはどうしたの?まだ天国とこの世を繋ぐという光の階段で、“神の娘”が生まれ変わるのを待ち続けているのかしら?」
アカは私の問いに、顔だけを上げて答えてくれる。
『オレたちに“友”という概念はない。ただ同じ主を持つ種類の違う聖獣ってだけだ。それに、四百年ぐらい前にふらっと出ていったっきり戻ってきていない』
「よ、四百年も前に?それは心配ね。今回のアカみたいなことになっていたら…………」
『心配はいらない。存在が消えたらわかる』
「どんなに離れていても?」
『あぁ、どんなに離れていてもだ。そして残念ながらニクスはまだ存在しているようだ。まったくどこをふらついているんだか、あの雪豹は………』
ちょっと拗ねたような口調でそんなことを言うアカに、私は少し笑ってしまう。
口では“友”でないと言いながら、アカは常にニクスの気配を感じ取り、密かに安堵しているように思えたからだ。
しかし、だとするならば――――――――
「アカはずっと一匹で待っていたのね。フィリア様が生まれ変わる日を………そしてニクスが戻ってくる日を…………」
何気なく返した言葉に、アカは何も答えなかった。でもそれが答えだと思った。
そう、アカは一匹で待っていたのだ。
どれだけ孤独で、どれだけ寂しかっただろうと思う。
“フィリアいるのか⁉今、フィリアを感じたんだ……もしいるなら、声を聞かせてくれ!ずっとずっと待っていた!千年も待っていたんだ…………フィリア!頼む!この身体が完全に呪われ、朽ち果ててしまう前に…………フィリアッ‼”
あの日のアカの叫びはやはり慟哭。
寂しかったのだと、ずっと会いたかったのだと、アカの心は必死に訴えていた。
だからこそ、アカにはちゃんと“フィリア”の生まれ変わりに会わせてあげたいと思う。
助けるためとはいえ、その場限りのフリなどではなく、誰かに認定されたからとかでもなく、真にアカの心の叫びに応え、受け止められる存在に――――――――
「と、ところであの……フィリア様はどんな方だったの?」
『ん?フィリアかぁ?好奇心旺盛で、いつだって笑顔で、とにかく周りを明るくする奴だったよ』
「そう…………素敵な方だったのね。それでその………私は……ほ、本当にそのフィリア様に似ているのかしら?」
実際は、“フィリア様の生まれ変わりなのかしら?”と聞こうとしたところを、私は咄嗟に軌道修正させた。
ここでもし、もう一度アカから『そうだ』と断言されてしまえば、もう逃げようがない気がしたからだ。
まぁ、この質問も然程逃げきれているとは思わないけれど、それでも多少の逃げ道は残されているような気がする。
ただ、そんな気がするだけで、袋小路かもしれないのだけれど…………
そんな私の葛藤など知る由もないアカは、すっかり寝入ってしまったニクスをシーツの上に残し、トコトコと私へ近づいてきた。そして仔狼の姿のままちょこんと座り直すと、コテンと首を傾げる。それがまた可愛くて悶えそうになるけれど、ここは我慢だ。
『あの時は似ているというより、同じだと思った。好奇心旺盛な性格も、すぐ突っ走るところも、俺の身体でモフモフしたがるところも一緒だったしな。あと、俺に説教する時の口調とかもな。それと、髪の色とか瞳の色は違うが、顔の造形も似ている。おそらくこれがルークスの好みなのだろう』
「ルークス?」
『光の神の名前だ。フィリアが付けてやったな』
「そ、そうなのね…………」
そう答えながら、娘が父親の名前を付けるなんてと、不思議に思う。だいたいそれまで神様には名前もなかったのだろうか――――と。
だとしたら、神様は誰よりも孤独な存在であり、だからこそ最愛の“娘”が死んだ時に、悲しみのあまり姿を消してしまったのではないかと、ふとそんな思考が巡る。
と同時に、あることを思い出した。
「あ、あのね、あの時……私が咄嗟に“アカ!”って呼んでしまったあの時のことなんだけど…………」
『あぁ、オレが自我を飛ばしてた時だな』
「そう、その時……その時にね、とても不思議なんだけど、頭の中で男の人の声が響いたの。そして私とまったく同じことを叫んでいたわ。“やめなさいッ!アカッ!!”って…………アカにも聞こえていたのかしら?」
『悪い…………あの時のことはあんまり覚えてない……』
罰が悪そうに俯くアカに、私は勢いよく首を横に振った。
「ううん!気にしないで!そんな声が聞こえたような気がしただけで…………」
『…………ルークス……かもしれないな』
「えっ?」
俯き加減でそう呟いたアカに、私は目を瞠る。
『ユフィが“フィリア”の魂を宿して生まれ変わってきてくれたから、雲隠れしていたルークスもひょっこり出てきたのかもしれないな。ユフィに会いたくて………』
「ま、まさか…………」
『ルークスはそういう奴だ。寂しがりで、わがままで、すぐ拗ねる。そしてすぐ泣く』
「あ、あの…………それってこの世界の神様の話よね。近所に住んでいたルークスさんという人の話ではないわよね」
『もちろん、神の話だ』
そうきっぱり断言したアカに、私は若干遠い目となる。
うん、質が悪いと散々内心で言ってきた身だけれど、これでは困った子供のようではないか。
『だが、それほどまでにフィリアを愛していた。というより、フィリアの存在を得てルークスは愛という感情を知ったんだ。だからユフィの存在に気がついて隠れていられなくなったのかもしれないな。おそらくニクスもそろそろ…………』
そんなことを言って楽しげに笑うアカを見つめながら、私は後悔し始めていた。この話をアカに振ったことを。
結局、自ら逃げ道を塞いだ気がしてならなかったからだ。
そんな私の気持ちを読んだわけではないとは思うけれど、アカはこんなことを言い出した。
『だが、フィリアとユフィは違う』
「えっ…………?」
『名前が違うとか、髪と瞳の色が違うとか、そういうことじゃない。根本的に違うんだ』
「根本的に…………?」
キョトンとアカを見つめ返す私に、炎狼でありながら人間並みに表情が豊かなアカは、人でいうところの苦笑となった。
『ほら、さっきセイリオスも言っていただろ?』
「さっき……お兄様が?」
“よかった……ユーフィリナがユーフィリナのままで…………あぁ、それでいい。それでいいのだ。私はそれが知れて本当に嬉しい。何も心までその魂に染まることはない。たとえこの先何があったとしても、この世界に絶望だけはしてくれるな。きっとユフィならば、この世界にも、その魂にも、希望を与えることができる。今回のようにな”
確かに言っていた。
でも、私にはその意味が未だわかりかねている。
お兄様は一体何をそれほどまでに恐れているのだろう…………と。
まさか私が“フィリア”の生まれ変わりだとして、私もまた“フィリア”と同じように死んでしまうとでも思っているのだろうか?
それとも私が私でなくなる日がくるかもしれないとそう危惧しているのだろうか?
いいえ……たぶん、そうじゃないわね。
お兄様は私を通じて誰かを見ている。
私に誰かを重ねて…………
けれど、それが“フィリア”だとはとても思えない。
そうだとしたらお兄様もまた、神様やアカのように千年の月日を待っていたことになるからだ。
だとしたら誰を?
過去、お兄様が愛した人とか?
それって――――――――
妹の私に重ねてしまうくらい、お兄様は今も忘れられないほど愛した人がいるってこと?
そんな自問自答にチクンと痛む胸。
でも、いつかお兄様の妹を卒業して、お兄様の幸せをここではない何処かで祈るということは、この痛みも一緒に抱えていくことなのかもしれない…………と、今はその痛みを自嘲で霧散させる。そんな私に、アカはさらに続けた。
『オレはユフィと出会うまで、フィリアがそのまま生まれ変わってくるものだと思い込んでいた。オレの知るフィリアそのものが、千年前の姿でだ。だが、そうではなかった。ユフィはユフィだった。今回のことにしても、ユフィではなくフィリアがあの場にいれば、また違った結末になっていたと思う。たぶん俺はあのまま朽ち果てていた。最後にフィリアに会えたと、そう満足をしてな…………そしてフィリアも最終的にはそれを受け止め、オレを看取ってくれたはずだ。だが、ユフィは違った。このオレに諦めるのを諦めろと言った。そんなユフィの想いが、フィリアの魂を動かしたのは間違いない。絶望ではなく希望へと………だから、ユフィは自分がフィリアの生まれ変わりだとか、そんなことは考えなくてもいい。ユフィはユフィだ。今まで通りユフィがやりたいように、信じたように、生きればいい』
そう言って、器用にもニッと笑ったアカに、私もまた淡い笑みを返す。
結果的には、アカからは“フィリア”の生まれ変わりとしての太鼓判を押されてしまった形だけれど、そんなことは考えなくてもいいと言ってくれた言葉に、私は救われたような気がしたからだ。
何故なら今の私は、たとえ国王陛下から認定されようとも、自分が“神の娘”の生まれ変わりだとはとても思えない。なんなら、悪役令嬢であると気がついた時のほうが、まだよっぽど受け入れられていたような気がする。
それに現時点では、私ではない他の誰かが“神の娘”の生まれ変わりという可能性だって大いにある。
そして私は、引き立て役令嬢へと方向転換しているとはいえ、やはりこの世界の悪役令嬢であって、ヒロインではないのだ。
だったら、探すしかないだろう。
この世界のヒロインを改めて。
そのヒロインこそ、“神の娘”の生まれ変わりである可能性はまだ十分にあるのだから――――――――
そう思った瞬間、私の口は勝手に開いていた。
「決めたわ。これまで通り、ヒロイン探しは続行よ!」
『あぁ?何を探すって?』
またもやアカにそう聞き返されて、またしてもやってしまったと、思考を駄々洩れさせる自分の口にほとほと呆れながら、ここでもまた曖昧に笑っておく。
しかしそんな私に『何かを探すなら手伝ってやるぞ』と、アカが申し出てくれる。それも私の役に立てることが嬉しいのかモコモコのしっぽを全力で振りながらだ。
正直、私のことを心底“神の娘”の生まれ変わりだと信じているアカに申し訳ない気持ちもある。自分がそうだと思えないからといって、往生際悪く他に“神の娘”の生まれ変わりがいるかもしれないと探すことに。けれど、それはアカのためにもなると、即座に思い直す。
そう、今のこの状況は“魔の者”という“バグ”が引き起こした歪みのせいでもある。もちろんこの世界の神(設計者)でも修正できない歪みを、この私にどうこうできるとは思えない。けれど、諦めなければまたアカの時のように何かしらの希望と奇跡は生み出せるかもしれない。
そのためにもまずこの世界のヒロインを探すことが先決となる。
そして見つけ出したヒロインが“神の娘”の生まれ変わりかどうかを確かめる。
私が“神の娘”の生まれ変わりかどうかは、ヒロインが見つかりさえすれば自ずとわかる――――――気がする。
まぁ、もし何かの間違いで私が本当に“神の娘”の生まれ変わりであったならば、悪役令嬢としてラスボスの道へとまっしぐらとなるのだけれど、その時はその時でまた回避の道を探せばいい。
そしてアカは、自動的にラスボスの手下になってしまうわけだけど、その時は…………うん、それもその時考えよう。
誰かに認定されたからではなく、自分が納得できるまで、絶対に絶対に諦めないんだから!
そう、腹を括った私は、改めて有難い申し出をしてくれたアカに、にっこりと笑顔になる。
「ありがとう、アカ。私からもお願いできるかしら?私自身、その方のお名前もお住まいも何もわからないのだけれど、世界中の男性が夢中になってしまうほどのご令嬢を探しているの」
『それって……ユフィの……………』
アカが何を言いかけていたようだけれど、私は構わず言葉を重ねる。
「とにかく、愛らしくて、傍にいるだけで癒されて、たぶん白金の髪に空色の瞳で、癒し魔法に特化した魔力を持つご令嬢なの」
『いやだから……癒し魔法に特化っていうのはともかくとして、それはユフィのこ………………』
「一緒に探してくれる?アカ」
私は何故か困惑顔となっているアカに、胸の前で手を組み懇願の姿勢となる。
その私にアカは深々とため息を吐きながら『なるほど……ユフィの頓珍漢はこうやって生み出されるわけだな……これは…セイリオスでも手を焼く…………』などと、失礼極まりないことを呟いている。けれど、ここは頼み込んでいる立場のため、敢えて聞き流すことにし、再度押しの一手で「お願い、アカ!」と祈るように見つめた。
そんな私にアカは一瞬呆れたような視線を向けたものの、すぐにガックリと項垂れる。
『…………わかった。ユフィが満足するまで付き合ってやる』
「ありがとう!アカ!」
嬉しさのあまり、仔狼のアカを持ち上げ、そのままぎゅっと抱きしめる。
『だ、だ、だから、そうやってすぐにオレを抱きしめるんじゃない!オ、オレも守護獣とはいえ男なんだぞ!』
「ふふふ、わかっているわよ。アカはとても優しくて素敵な男性よ。聖獣にしておくのがもったいないくらい」
『まったくこれだから………セイリオスも苦労するな……………』
「そうね。お兄様には迷惑かけっぱなしだものね。これからは一人でもやっていけるように頑張るわ」
『いや、その頑張りはむしろいらない。そんなことをしたらセイリオスが泣くぞ』
「大丈夫よ。妹が独り立ちすれば、お兄様も安心して自分の将来について考えられるはずよ。むしろ今までの私はお兄様に甘えすぎていたと思うの。今更だけれど、ちゃんと反省しないとね」
『………………うん……これは冗談を抜きにして、本当に手強い……思わず、セイリオスに同情したくなるくらいにな…………』
「アカ?一体何が手強いの?それにお兄様に同情って?」
『いや、気にするな。っていうか、その前に……オレとしてはユフィが鏡を見れば、その人探しもあっさり完了だと思うのだが、まぁいい。言い出したら聞かないことももう知っている。すでに経験済だ。だから、納得できるまで好きにやれ。とことん付き合ってやるから』
私に抱き込まれているせいもあって、半分以上は聞き取れなかったけれど、付き合ってくれることだけはわかり、私はアカのモフモフ感をさらに堪能しながら「ありがとう、アカ。大好きよ」と伝える。
その一言に、どうやらアカは完全に照れてしまったようで『だ、だ、だ、大好きとか、簡単に言うな!』と、私の腕の中で前足をワタワタと動かす。それがあまりに可愛くて、そしてなによりアカの協力が嬉しくて、私はまた「アカ、大好きよ……」と、さらにアカへ顔を埋めた。
現状は、一歩前進どころか、そのまま回れ右でふりだしに戻る。
本当にこの世界の神様は質が悪い。
しかし今度はアカという心強い協力者もいる。
さぁ!今度こそヒロインを見つけるわよ!
こうして私は決意も新たに、ヒロイン探しの続行を決めた。




