誰がヒロインなのかさっぱりです(7)
次の日――――――
もちろんお兄様と一緒に馬車で学園へ向う。
その道中、「心配だから、休まないか?」と、まるで合いの手のように会話の間に挟んでくるお兄様に、こちらも合の手の合の手返しように「問題ありませんわ」「大丈夫です」と言い続け、学園に着くまでに疲労困憊となってしまった。
本当にお兄様にも困ったものだ。
それからいつものように、最高位の公爵令嬢として、すれ違う同級生と思しき人たちに、私の方から声をかけつつ長い廊下を進む。
その度に驚いた顔をされ、さらには毎回赤面されてしまうのだけれど、ここまで頻繁に続くと、私の顔に何か恥ずかしい内容の落書きでもされているのではないかしら………と、さすがに不安になってくる。
でももし、そんなことになっていたら、同じ馬車の対面に座っていたお兄様が気づかないはずはない。というか、むしろそれを理由に嬉々として学園を休ませるはずである。
つまり私の顔に落書きはない!よし!
そう自分に納得させて、私は廊下を突き進んだ。
う~~~ん………昨日もこの光景を見たような気がするわね。
それもそのはず。昨日同様、シェアトがまるで人探しでもしているかのように、キョロキョロと教室内を見回している。
人の気配を感じては振り返り、お目当ての人物ではなかったのか、あからさまに肩を落とす。そしてまた視線を巡らし始めるのだけれど、その視線は面白いように私とは嚙み合わない。
ここまで合わないとなると、逆に避けられているような錯覚まで覚えてしまいそうだ。
それでも、普段の私ならここで、今日のシェアトは一体誰をお探しなのかしら?と首を傾げて終わる。
けれど、今日の私は違っていた。
私のほうからシェアトに今すぐ声をかけなければ――――――と、咄嗟にそう思ったのだ。
それは衝動とも、欲求とも言えるような、強い渇望。
その渇望を癒やすため、私は自分の席にも向かわず、シェアトまで一直線に歩み寄った。その間はシェアトしか見えず、シェアトだけが私のすべてに思えた。そしてシェアトの前に立ち、その顔を見上げる。まだ視線は合わない。それでも私は自分の喉の渇きを潤す泉が、シェアト自身であるかように夢中で声をかけた。
「シェアト様、おはようございます。ユーフィリナです」
瞬間、シェアトは飛んだ。
いや、厳密に言えば、その場でピョンと跳ね上がった。
あぁ、これも昨日見たわね――――――と、思考が回り始めたと同時に、私の渇望感は綺麗に霧散していた。
そうなると、急に頭が冴えてくる。それに倣うようにして、聴覚も周囲の音を正確に拾い始めた。
主に、女子生徒たちの悲鳴だったけれど………………
しかし、その悲鳴の理由はよくわかる。
おそらくシェアトは私に驚き、飛び上がってしまったことを恥ずかしく思っているのだろう。
突然声をかけたこちらが申し訳なるくらいに、耳まで真っ赤だ。しかも、やっぱり涙目。
その顔を隠すように口元を手で覆ってはいるけれども、残念ながらほぼ何も隠せていない。
思慮深く、感情の揺れ幅が少ないシェアトの絵に描いたかのような赤面と涙目。
これはもう、女子生徒の皆様方にとっては目の保養以外の何物でもなく、朝から皆してご馳走様状態だ。かくいう私にしてもそれは同じなのだけれど、元喪女の私には少々………いや、かなり刺激が強すぎる。
常日頃からあのお兄様に鍛えられているとはいえ、私のイケメン耐性は決して万能型でない。それどころか、前世の記憶が戻って以来、弱体化傾向にあることが昨日発覚したくらいだ。
そうね……朝の挨拶も済んだことだし、ここは免許皆伝の隠密スキルをフル稼働させて、早々に退散したほうがよさそうね。
まるで敵前逃亡を図るかのようにそう決めると、私はシェアトにもう一度声をかけようとした。
いくら、隠密スキルがあるとはいえ、当然姿を消せるはずもない。そこで、席に戻ることを伝えようと思ったのだけれど、どうもシェアトの様子がおかしい。というより、これもまた昨日見た光景そのものだ。
手で口を覆ったまま、何やら一人でぶつぶつと呟いている。
「あぁ…………やっぱり駄目だ。あれだけ、昨夜から心の準備をしていたというのに……本人を目の前にすると、とてもじゃないが私の心臓がもたない。しかし、対応策を講じておいて正解だったようだ。どうやら、ユーフィリナ嬢に改めて声をかけてもらわなければ、やはり私の目は何度も惑わされてしまうらしい…………まったく、セイリオス殿の能力には恐れ入る………」
口を手で覆っているせいもあるけれど、あまりに小声すぎて、まったくもって聞き取れない。
そもそも人の独り言を傍で聞き続ける趣味など、私にはない。
そこで、改めてシェアトに声をかける。
「あ、あのシェアト様?」
「あ、あぁ……これは申し訳ない。おはよう、ユーフィリナ嬢」
ようやく我に返ったらしいシェアトが私へと向き直り、朝の挨拶を返してくれた。
未だシェアトの顔は若干赤いし、パールグレーの瞳も少し潤んでいる。けれど、返されたその一言に私は忽ち嬉しくなる。
昨日も思ったけれど、シェアトの挨拶は同じ公爵家ということもあり、とても親し気に聞こえるのだ。
クラスメイトであると、友人であると、そう伝えてくれているようで、私の顔が自然と笑み綻んでいく。
そしてその嬉しさが、私の声を自然と弾ませた。
「はい。おはようございます、シェアト様。今日も一日よろしくお願いいたしますね」
にっこりと笑って、改めてそう告げた私に、再び目を瞠ったシェアト。今度は、してやられたとばかり額に手をあて天を仰ぐ。
それが何かの合図であったかのように、また女子生徒たちから悲鳴が上がった。
そして何故か、男子生徒たちまでもが真っ赤な顔で固まっている。
み、皆さん一体何があったの⁉
教室内の異常事態に身体をビクつかせつつ、取り敢えず今は目の前のシェアトのことだと意識を切り替える。
「シェ、シェアト様、あの…何か……」
「うん、やっぱりこれは反則だ…………」
そう呟いたシェアトに、私は「反則?」とやっぱり首を傾げることとなった。
さて、シェアトに“紅き獣”のことを聞かなければ…………と、朝からずっと意気込んでいるものの、内容が内容だけに、なかなか教室では聞きにくい。
だからといって、シェアトをこの教室から連れ出せば、間違いなく女子生徒たちから悲鳴が上がる。
そして男子生徒たちは、何故か石像にでもなったかようにその場で固まる。しかも赤面で。
女子生徒の悲鳴はわかるとしても、男子生徒の石像化はさっぱり意味がわからない。
これは一体何の呪いかしら?
もし、これが本当に呪いなら、我が公爵家のお抱え呪術師にでも相談してみようかしら?――――などと考えて、ふとあることに気がついた。
そういえば、普段は誰も私の存在など気にもしていないのに、シェアトと話をしている時だけ、やたらと周りからの視線を感じるのだ。それもシェアトにではなく、私に向かってくる視線の方が断然多いような気がする。
そして席に戻った後も暫くは視線を感じるのだけれど、数分も経たないうちに私が隠密モードに入ってしまうのか、視線どころか目も合わなくなる。
今もれっきとした授業中なのだけれど、先生とも視線が合わない。いや、それに関して言えば非常に有難い。これはこのままでいいとすら思う。隠密スキル万歳だ。
けれど、普段ここまで誰とも視線が合わないのに、シェアトと話している時だけ痛いほど感じるというは、もしかして――――――
これもまた別の呪いか何かなのかしら?
だとしたら、やっぱりお抱えの呪術師に………………と思いかけて、私は突如として閃いた。
昨日に引き続き、今日の私も冴えているらしい。
あぁ、そうよね。
地味で目立たない私が、シェアトと話しているのだもの。
シェアトに憧れる女子生徒の皆様方にすれば、「地味で冴えない娘が、公爵家というだけで大きな顔をして!」と睨みつけたくなるのも当然よね。
だとしたら、ヒロインはもっと大変だわ。公爵令嬢である私ですらこうだもの。
私はそう考えて、ヒロインのことを思った。
ヒロインは決して高位の貴族ではない(ゲームの設定ではそうなっていた)。
しかし、強力な癒やし魔法と、愛らしくも美しい容姿(絶対に全方向トマトではないはずだ)、そして何よりもその人柄で、攻略対象者たちの心を鷲掴んでいくことになる。
それはもう周囲からのやっかみを受けやすいに違いない。
そして、そのやっかみを傲慢な態度と言動にすべて変換させて、ヒロインにぶつけていく代表格が悪役令嬢であるこの私……………
う〜ん……居たたまれないことこの上ないわね。
周囲から痛い視線を受け続けても健気に頑張っているヒロインを蔑み、虐めるなんて、もはや人がすることではないわ。
非道よ!非道!
まぁ……それが、私のこの世界での本来の役どころではあるのだけれど…………これは人として凹むわね。
私は開いた教科書の上に、顔を埋める勢いで、ガックリと項垂れた。
けれど――――――私は性格改変に失敗した。そこにこそ光明があるはずだと、顔を上げる。
そうよ!大丈夫よ!
今の私は悪役令嬢改め、引き立て役令嬢(自称)なのだから!
ちょっとこの類稀なる隠密スキルが色々と支障をきたすかもしれないけれど、貴方を目一杯引き立ててフォローしていくわ。
それにこの公爵令嬢という立場も、いざという時、貴方を守る防波堤程度にはなれると思うの。
公爵令嬢である私が貴方にピッタリくっついて仲良くしていれば、誰も貴方に面と向かって、やっかみをぶつけてくることはないはずよ。
そのためにも、やはりこの極めすぎた隠密スキルを解除する必要があるのだけれど、こういうものはその時が来れば、なんとかなるものよね。
だから安心して、入学してきてちょうだい!
この世界のどこかにいるはずのヒロインにそう心で呼びかけて、よし、どんな時でもまずは腹ごしらえからよねと、お昼のチャイムが鳴るや否や私はパタリと教科書を閉じ、颯爽と食堂へ向かった。
食堂――――――――
それは学生や教職員が食事をするところ。
もちろん異世界であろうともそれは変わらない。
但し、前世とは違って“優雅に”という言葉が付く。
食堂というよりも、舞踏会をそのまま開けてしまえそうな大ホールに、ゆったりとした間隔でテーブルと椅子が並べられ、ご丁寧にも上等なテーブルクロスまでかけられている。
もちろん食券販売機なんてものはない。
そもそもここでお金を出す必要もない。
すべては高額な授業料に含まれており、一流のシェフたちが作った料理の数々をビュッフェ形式で、好きなだけ食べることができる。
もう、前世の私が聞けば、泣いて喜ぶシステムだ。
この学園に入学してから暫くの間は、お兄様が色々と学園内を案内してくれた。
医務室にいるシャムのことを色々と教えてくれたのもお兄様だし、この食堂の使い方やどの席に座るべきか、またどの料理が一番お薦めで、曜日ごとに替わる絶品デザートの種類まで懇切丁寧に教えてくれたのもお兄様だ。
そのため、大学の中にも食堂があるにもかかわらず、お兄様は私と昼食を共にするために、毎日昼食時間になると学園へと足を運んでくれた。
しかし、学園と大学では授業と講義時間の違いから、昼食時間の始まりに15分のずれがある。
つまり、大学の方が15分遅く昼食時間となるため、お兄様はわざわざ講義を抜け出してまで、通ってくれていたらしい。
私が偶然にもそのことを知ったのは、ある日、学園のチャイムより15分遅れで聞こえてきた大学のチャイムに気づいたからだ。
そしてそれをお兄様に問い詰めてみると、案の定『何も問題はない』という、判で付いたかのようないつもの返事が返ってきただけだった。
もちろん、私がお兄様の講義が終わるまで15分待てば済む話でもある。けれど、大学にも食堂があるのに、わざわざお兄様に卒業した学園の食堂に通わせるなんてやはり申し訳ないし、おかしい気もする。
誓って言うけれども、15分という時間が待てないわけではない。そこまで私も飢えてはいない(前世じゃあるまいし)。
というか、そもそもの話、妹と昼食を一緒にするために講義を抜けてくるなんて論外だ。
そこで私は、あくまでも『問題ない』と言い張るお兄様に対し、丁重にお断りを入れた。
『お兄様、私は一人でも大丈夫です。ですから、講義を最後までしっかり受けてください』――――――と。
最初はとても渋っていたお兄様だけれど、週のうち二回はお兄様とご一緒するという提案…………というより、妥協案というか、折衷案というか、なんとか落としどころを見つけて、お兄様はようやく頷いてくれた(とどのつまり、週の二回は講義を抜け出すことになるのだけれど、もうここは目を瞑ろうと決める)。
その際、付けられた条件の一つが、毎回お兄様とご一緒していた同じテーブルで、必ず昼食を取るというものなのだけれど―――――――と、そんなことを思い出しつつ周囲を見渡した。
食堂には大、中、小と様々なテーブルが用意されおり、生徒たちは会食をしたり、一人でゆったりと食べたりと、各々のスタイルで自由に昼食を楽しんでいる。
ちなみにお兄様が私に勧めてくれた席は、広い食堂の中でも一番静かでありながら周囲が良く見渡せ、窓から見える景色も素晴らしいという、おそらくこの食堂におけるVIP席ともいえるような場所だ。
まるで予約席か、指定席であるかのように、一人で食べる日も必ず空いているこの席に座るのだけれど、どうして他の方はこの席には見向きもしないのだろう?と不思議に思う。
落ち着いて食べられるし、景観も素晴らしいし、テーブルの広さだって、たとえ四人で一緒に食べたとしても、まだまだ余裕がある。なのに、少し遅れて食堂に来たとしてもこの席だけは必ず空いているのだ。
なるほど…………この席は高爵位の者しか使えないことに、暗黙の了解でなっているのかもしれないわね。
そして毎回、私が当然のように座るものだから、皆さんご遠慮されているのだわ。
そういえば―――――前世では、ほぼ毎日のように“江野実加子”に押し掛けられ、頼みもしないこの乙女ゲームの話を散々聞かされたものだけれど…………
できれば今こそ、“江野実加子”にご登場願いたいわね。
そうすれば“紅き獣”のことも聞けるのに――――――などと、ため息混じりに思った瞬間、私はふと湧いた思いつきに思わず立ち上がった。
そうだわ。この席にシェアトをお招きすればいいのよ。今日はお兄様と昼食をご一緒しない日だし都合がいいわ。
だいたいクラスメイト同士が、食堂で一緒に昼食を食べることは普通のことだもの。他の方々だってそうされているのだから、私とシェアトがそれをしたって問題はないはずよね。
自分の思いつきに嬉しくなりながら、広い食堂を今度はシェアトの姿を求めて見回してみる。
すると、比較的近いところでシェアトの姿を見つけた。
料理を取り終えたトレーを手に、女子生徒と話をしている。どうやら会食のお誘いを断っているらしい。
なかなか執拗なお誘いだったようだけれど、シェアトは礼儀正しくもしっかりとお断りを入れたようで、ガックリと肩を落とした女子生徒が自分の席へと戻っていく。
それを確認してから、シェアトは何かを探すようにキョロキョロとし始めた。
おそらく落ち着いて食べられる席を探しているのだろう。
まぁ、人気者は食事の時間まで大変ね――――――なんてことを思いつつ、名案だと思った考えが自分本位であったことに気づき、私はすとんと座り直した。
昼食ぐらい、シェアトもゆっくり食べたいわよね。
しかしそうは思うものの、朝にも感じたあの渇望が、何故か私の中で一気に込み上げてくる。
シェアトに声をかけなればという強い衝動。
シェアトに声をかけたくてしかたがないという強い欲求。
すべてを満たしてくれる存在は、やはりシェアトしかいないのだと、私はオアシスを求める旅人のようにふらりと立ち上がった。
「あの……シェアト様、申し訳ございません。なんだか無理矢理ご一緒させてしまったようで…………」
「いいや、そんなことはないよ。私もユーフィリナ嬢と昼食を一緒にしたいと探していたところだったから、むしろ声をかけてもらえて助かったくらいだよ。それにしても………セイリオス殿の能力はなんて強力なんだ…………私がユーフィリナ嬢を視覚できていた時間は、ユーフィリナ嬢に声をかけられから別れるまでと、その後三分程度のこと…………後は、感知魔法ですらわからなかった。さらには食堂の一角にまで、周囲から見えないこんな一画を作り出しているとは……ユーフィリナ嬢と一緒でなければ座れぬテーブルか…………あぁ、この学園自体、セイリオス殿の“幻惑”の中にあるのかもしれないな…………」
やはりと言うか、何と言うか、シェアトは途中から独り言モードに突入してしまい、私は半分以上も聞き取ることはできなかった。それでもなんとなくだけど、お兄様の能力について褒めていたような気はする。
それは実の妹としてはとても嬉しいことなので、ニコニコと笑みを返しておく。
しかしそんな私の笑顔を見て、シェアトはやれやれとばかりに盛大なため息を吐いた。
そのため息の理由がわからず、私は「シェアト様?」と首を傾げる。
「レディとの食事の最中にため息なんて無作法なことをしてすまない。だが、少し………セイリオス殿に色々と劣っている自分がとても情けなく思えてね。魔法使いとしても、能力者しても……男…としても………………」
まぁ、シェアトはお兄様をとても尊敬しているね。そして、いつかそのお兄様を超えたいとも思っているのだわ……………
そんなシェアトの向上心に、私は眩しいものを感じて目を細めてしまう。
「シェアト様なら大丈夫です。お兄様に並び立てるほどの魔法使いにも、能力者にも、男性にもなれますよ」
「……並び立つ……か。超えられると言ってくれないところが、なんとも口惜しいな」
「ふふふ、申し訳ございません。やはり私はお兄様の妹ですので、ほんの少しお兄様贔屓になってしまうようです」
私の言葉にシェアトは一つ苦笑を零して、それから私へと真剣な目を向けてた。
「そうだね。今はそれでいい。しかし、これだけは覚えておいてほしい。私はいつかセイリオス殿を超えたいと思っている。彼が大事にしているものを託せるような男になりたいとね。そうすれば、今は幻の中に記憶と姿を封じられている可憐な花も、いつか真実の姿で、眩いばかりに咲き誇ってくれると思うから………その花にずっと恋い焦がれ続けてきた私の腕の中でね。だから、その時まで……ユーフィリナ嬢には私を見ていてもらいたい。他の誰でもなくこの私だけを…………」
シェアトのパールグレーの瞳を見つめながら、なんとも大変なお願いをされてしまったようだわ、と思う。
けれど、シェアトが超えたいと望む相手がお兄様ならば、そのお兄様の実の妹であり、シェアトのクラスメイトである私がその見守り役として打ってつけなのだろう。
そして、シェアトが幻を見てしまうほどに恋い焦がれたヒロインの引き立て役としても…………
だとしたら、ここは快く引き受けるべきよね――――――と、私は躊躇いなく頷いた。
「えぇ、わかりましたわ。お兄様の妹として、シェアト様のクラスメイトとして、この私がしっかり見届けさせていただきます。そして、シェアト様が恋い焦がれていらっしゃる方と、一刻も早くお会いできるよう心から祈っておりますね」
そう心の底から承諾したというのに、何故かシェアトはガクンと項垂れた。
そしてまたもや独り言を零し始める。
「うん…………今、私にもユーフィリナ嬢が、このセイリオス殿が作り出した摩訶不思議な状況を、ここまであっさりと受け入れている理由がわかったような気がする…………ユーフィリナ嬢はとてつもなく……鈍感なんだな…………うん……それならば納得だ……なるほどな……これはなかなか手強そうだ…………」
一人で呟き、一人で納得しているらしいシェアト。
その内容についてはほとんど聞こえないせいもあり、意味不明。
でも、ほんの少し私の悪口が含まれていたような気がするのは、単なる被害妄想なのかしら?それとも自意識過剰?
私はむむっと眉を寄せて、やっぱりコテンと首を傾げた。




