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まさかこんなところで乙女ゲーム開始?しかもやっぱり私が悪役令嬢のようです⁉(7)

 ぷりぷりと怒りながら私の目の前にふわりと現れたのは、成人男性ほどの身長がある大きなウサギ。

 もこもことした灰色の毛に、くるりと真ん丸い真っ赤な目と愛くるしい垂れ耳。そしてその背中には、大きな身体に不釣り合いなほどに小さな羽。しかも、野ウサギのようにピョンピョンと跳ねるのでもなく、テクテクと完全なる二足歩行。

 ウサギでありながら、決してウサギではない不思議に溢れた存在であり、こんな敵陣ど真ん中にありながら、私たちに癒しと微笑ましさを提供してくれる稀なる存在だ。

 そう、私にとってはウサギの妖精、もしくは精霊、なんなら前世のいうところのゆるキャラ、とあるテーマパークのネズミ的な位置づけとなっている。

 しかし、その正体はいくら可愛いかろうと、どれだけ癒されようとも立派な魔獣。

 それも、希少なる幻獣。

 但し、滅多にお目にかかれない伝説級の魔獣という意味ではなく(伝説級かはともかく、希少という意味も多分に含まれているとは思うけれど)、実際に実体を幻にできるスキル的な意味での幻獣である。

 そして、我が学園の保健室の使役獣でもあり、お兄様(正確に言うと、現在、お兄様の中にある千年前の王子の魂が、お兄様の前に入っていたという先代の学園長先生)の従魔でもある。

 そんなウサギ型魔獣―――――シャムは、登場直後のお約束である毛づくろいを両手で行いながら、両足ではしっかりと地団駄を踏むという器用さを見せつつ、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかの如く文句を連ねている。

 もちろんその見た目を裏切る猫語で。

「ずっとずっとずっとシャム一人で心細くて怖かったにゃ!もうこの城は、完全にフィラウティアのモノになってしまってるにゃ!フィラウティアの“魅了”のせいで、まともな人間は誰一人としていにゃいにゃ!でもシャムは、セイリオスとユフィのために、どんなにゃに怖くても泣くのを我慢して孤軍奮闘してたにゃ!にゃのに、やっと来たと思ったら、ユフィ以外はシャムに気付いていたくせに、皆して無視してたにゃ!酷いにゃ!悲しいにゃ!反抗期ににゃるにゃ!」

 真っ赤な丸い目に涙を溜め、垂れた耳をブンブン振り回しての必死な訴え――――――というか、怒涛の文句。

 そこまで勢いよく耳をブン回せば、せっかくの毛づくろいも、ただの徒労だ。

 でも――――――――――

 うんうん、それは悪かったね。怖かったのに、よく一人?いや、一匹?で頑張ったね。っていうか、反抗期になっちゃうんだ。うん、それはそれで絶対に可愛いと思うな。むしろ逆効果になるかもしれないよ。ねぇ、抱きしめてもいい?モフモフしていい?

 シャムの怒りに比例するように跳ね上がっていく私の癒され度合い。

 だって可愛いんだもの。

 モフモフは正義で最強なんだもの。

 そもそもモフモフ依存症で、シャムと別れてからずっと禁断症状発症中だったんだもの。

 そうこれは、れっきとした病気なんだもの(開き直り)。

 だから、顔から締まりという締まりがなくなり、公爵令嬢として(それ以前に年頃の乙女として)、人前でそれはどうなんだというレベルで顔が緩みまくっていたとしても、シャムのこの可愛さの前では仕方がないことなのよ!(再び開き直り)

 ――――――とまぁ、シャムしてみれば打てども打てども(怒りをぶつけにぶつけようとも)響かない(反省しない。むしろ和んでいる)ことに、苛立ちが募るだろうけれど、ここはもう目の前の相手はモフモフ依存症の末期患者で救いようがないのだと、早々に諦めてほしい。

 自分が魔獣でありながら可愛すぎるのが罪なのだと。

 しかしそうは言っても、この場でその病を発症中なのは私だけで、皆は至って普通だ。

 むしろ、シャムの文句を虫の羽音とばかりに聞き流しているか、呆れかえっているようにすら見える。

 いやいや、今はそれよりもだ(落ち着け、私)。

 もっと聞き捨てならないようなことを言われたような…………

「あの…………トゥレイス殿下だけではなく、レグルス様たちもずっと前からシャムが傍にいたことに気付いておられたのですか?」

 うん。トゥレイス殿下があのように声をかけたということは、間違いなくシャムの存在に気付いていたんだと思う。そしてたぶん守護獣であるアカやシロも。

 正直それに対して、アカやシロはともかく、トゥレイス殿下の感知能力も中々すごいなぁ…………と、内心で感心しきりとなっていたのに、シャムによればまさかまさか私以外の全員が気付いていたなんて…………って、本当に?シャムの思い込み(被害妄想)ではなく?

 ーーーーーーという、半信半疑(自分の鈍感さへの諦め)が拭えず、おずおずとそう口に出して尋ねてみれば、まるで息を合わせたかように皆から同時に頷かれた。

 それはもう疑いようのないほどはっきりと。

「い、いつから?」

「ん~~跳ね橋を渡ってすぐかな」

 その時のことを思い出すように宙を見つめながら答えるレグルス様に、私は木箱に座りながらも前のめりになる。

「そんなに早い段階で?」

「皆もそれくらいじゃないかなぁ」

「えぇ、私もその辺りでしたね」

「オレもだな」

「あぁ、私もです」

「その後はずっと我々の傍にいたね。さすがに危険を察知してか、謁見の間には入って来ませんでしたけど」

 レグルス様の答えに、これまたそれぞれに同様の答えが返ってくる。しかも、シャムの訴え通り、本当にずっと傍にいたらしい(謁見の間以外は)。

 思わず「皆様、見えていたんですか?」と聞けば、「見えてはいないけど、ある一部分だけ妙に空気がうるさかったというか、落ち着きがなかったというか、そんな感じかな?」と、苦笑される。

 それって…………

 もはや皆の感知能力が凄すぎるのか、それともただ単に幻化しているシャムのアピール度が半端なかっただけなのか、判断がつかない。

 まぁ、あぁなるほど〜……と、納得できてしまう自分はいるにはいるけれども(「シャムはうるさくにゃいにゃ!落ち着いてていい子にゃ!」と、垂れ耳を鞭のように振り回して怒っているシャムに、そういうところッ!と、内心で突っ込んでしまう自分もしっかりいたりする)。 

 それでも、どちらにせよ、私が鈍感であることだけは間違いないわけで…………

 

 私、ダメダメが過ぎる…………


 リアルにガックリと項垂れた。 

 現在、自分史上最大の魔力量(でも世間では底辺)の効果も、なんなら野生の勘的察知能力やら、モフモフ依存症の禁断症状的感知能力の欠片もなく、一人まったく気付けなかった自分の鈍さ加減に。

 しかし今は呑気に落ち込んでいる暇はなく―――――――― 

 

「それで、解毒薬はあったのか?」

 ぷんぷんという文字が、周りに浮かんで見えるほど未だ可愛らしく怒っている(拗ねている)シャムに一切構うことなく(なんならどんより落ち込んでいる私にも構うことなく)、アカが切り込んだ。

 お兄様を彷彿とさせる完全なる塩対応。どうやらお兄様のシャムへの対応を見て学んだらしい。いや、回りくどいことが嫌いなアカの性格もあるのだろうけれど。

 そんなアカにジトリと視線を向けて「セイリオスと一緒で、シャムの扱いが雑過ぎるにゃ!」と、これまたご丁寧に一つ文句を告げてから、シャムが簡潔に告げた。

「解毒薬はあったにゃ!でもやっぱりシャムには無理だったにゃ!以上にゃ!」

 あぁ………………………………………うん。

 やっぱりそうだよねぇ。

 いくらシャムが幻獣でも、そう簡単には手に入れられないよねぇ。

 うん。ちゃんとわかってた。

 でも、何かの間違い?手違い?で、都合よくあっさり手に入れられてないかなぁ…………って、ちょっと確認してみただけ。

 ――――――という、理解と納得と、ついでに諦念にも似た脱力感が私たちを襲う。

 実際、こうなることははじめからわかっていた。シャム一人?一匹?で簡単にどうこうできるとは誰も思ってなどいなかったし、元々シャムには幻獣として一足先に、解毒薬の場所と城内の様子を偵察に来てもらっていたようなものなのだから。

 そもそもあの奇妙なお茶会でも、アリオトが言っていた。

 

『それに今回の一件には、フィラウティアが暗躍している。そうなるとさすがにウサギ一匹じゃ罠を張られた時どうしようもないだろう?だからボクたちが()()()()()()()()()()()()()んだよ』


 まぁ、アリオトが敢えてこんな言い方をしたのは、従魔としてお兄様の傍を離れたがらなかったシャムを、無理矢理デオテラ神聖国遠征組に引き入れるための方便でもあったのだけれど、あながち全部が嘘だとも言い切れない。

 本来、幻となれるシャムは物理的な障害も、魔法による強力な結界も難なく通り抜けることができる。

 実際に以前、アカがアリオトの策略で呪いにかかり、王都で暴走した折にも、お兄様の呼び声に応えて(盛大に文句を垂れつつも)守護獣であるアカの炎の結界を通り抜けて来てくれた。

 学園からアリオトに連れ去られ、シロの屋敷に閉じ込められた時も、これまた然りだ(文句についても、これまた然り)。

 つまり、幻獣であるシャムであれば、誰憚ることなく城に侵入し、こっそり解毒薬を手に入れることも十分に可能だった。

 そう、ここが普通に守りが堅い人間の城であったならば。

 しかし、今やこの城はフィラウティアの“魅了”によって完全に掌握されている。

 それも、暗躍などという控え目で可愛げのある隠れた存在などではなく、御本人様堂々の登場による、大盤振る舞いな“魅了”のかけ具合で。

 あに図らんや、シャムを巻き込むべく吐かれたあの時のアリオトの言葉が、嘘から出たまこと、瓢箪から駒――――となってしまったというわけだ。

 まぁ、前世の記憶持ちの私からすれば、アリオトがぶっ立てたフラグを律儀にしっかりと回収しただけのような気もしないでもないのだけれど。


 う〜ん、これがお約束の展開ってやつね…………

 

 なんて感想はともかく、私たちは元よりシャムのために()()()()ついてきたわけではなく、なんならシャムを言い包めてついてきてもらった側ではあるし、万事想定通りといえば、その通りだ。

 だから、至って問題はない。

 ほ〜んの少し期待していただけで、別にショックでもなんでもない。うん、大丈夫。大丈夫ったら大丈夫。もしかしたら、解毒薬を持ってこのままデウザビット王国に帰れちゃったりする?な〜んて嬉しい誤算が、シャムの愛くるしさと一緒にチラリと顔を覗かせたような気がしたのも、もちろん私たちが勝手に生み出した夢幻だ。いや、ちょっとした現実逃避とでも言うべきか。

 だって、ねぇ〜……

 謁見の間でのあれやこれやとか、無人の城内とか、あまりに現実から乖離しすぎて、悪夢寄りだったんだもの。

 悪夢なら今すぐ醒めてほしいし、現実なら逃げ出したくもなるわ(遠い目)

 でも、シャムのおかげで、フィラウティアによってささくれ立った心も十分に癒された(たぶん私限定で)。

 よし、時間もないことだし、さっさと現実に戻ろう。というか、がっぷり四つで受け止めよう。

 

 ――――――ということで、改めて現状把握と作戦会議へと移行した。



「あと一日と四時間ちょっとか…………謁見の間で思いの外時間を食ったな。まぁ……まだ時間的余裕はあるっちゃあるけど、現状を思えばそう楽観的にもなれないな」

 そうぼやくように呟いたのは、レグルス様。

 制服の胸ポケットに入れていた懐中時計を取り出し、さしあたって一番直視すべき現実からさらりと口にした。

 確かに、余裕があると言えばあるけれど、帰る時間も考えればそこまでたっぷりあるとも思えない。あの電気ドリル式魔道具を使うにしても。

 それに、それでなくとも高難度だった解毒薬入手ミッションが、フィラウティアの登場で難易度天井越えの99.9999999999%不可能ミッションにまで跳ね上がってしまった。

 もしこれが本当にただの乙女ゲームだけの話だったなら――――――

 

 今すぐメンテに入って常識ある乙女ゲームに戻してください!


 ――――――と、乙女ゲーム制作サイドに物申しているところだ。

 ちなみに、“やってる乙女ゲームが無理ゲーの域を超えすぎてる件”などと、書き込みする気もない超面倒くさがりの小心者なので、あくまでも負け犬の遠吠え的に宙に向かって叫ぶだけだけど。

 しかし、この世界が乙女ゲームの世界であろうとなかろうと、今の私たちにとっては紛うことなき現実で、負け犬の遠吠え的に叫んだところで何も変わらない。なんならどこかに書き込みを入れたところで世間でバズることもない。

 というか、そもそもフィラウティアはこの世界のバグなので、そこはこの世界の製作者ならぬ創造主神様に出張って頂いて、是非ともご対応いただきたいところだ。

 しかしその肝心な神様も、生憎絶賛行方不明状態な上に、おそらく居たところで、理の外だとかなんとか言い訳がましく言い出すことは目に見えている。

 それこそ、『やってあげたいのは山々なんだけどねぇ……気持ちはホントあるだけどねぇ……いやぁ、残念だなぁ。相手が“魔の者”じゃなきゃ、なんとかできるんだけどねぇ……ホントごめんねぇ……うん、だから自分たちで頑張ろうか。陰ながら応援してるよ』と、神様のくせに他力本願なことをめっちゃいい笑顔で、親指立てて言ってくるのがリアルに想像できる。腹立つほどにわかる。何故だ!

 とどのつまり、制限時間付きの自力。

 楽観的どころか、絶望的としか思えない。

 とはいえ…………いや、何度も言うようだけれども、神様が見放すほどにどれほど絶望的で、クリア不可能な無理ゲー(クソゲー)であったとしても、こちとら諦める気など毛頭ない。

 それは私以外の皆も同じで――――――

「―――で、その一日と約四時間程の間に、どんなに無理だろうと俺たちは是が非でも解毒薬を手に入れて、スハイルとセイリオスの口の中に放り込まなきゃいけないわけだけど――――シャム、どうして幻獣であるお前が、目の前に解毒薬がありながら手に入れられなかったのか。ちょっと諦めるのが早すぎたんじゃないか、とか?もっと他に方法があったんじゃないか、とか?先ずはしっかり反省しようか。それから、そうなった理由について詳しく説明してもらおうかな」

「うん……わかったにゃ…………って!なんでシャムの反省会になってるにゃ!うっかり反省しそうになったにゃ!」

 一瞬、しゅんと萎れるように一層垂れて見えたシャムの垂れ耳が、今度はバネでも入ったかのようにビョコンッと立ち上がった。

 完全なるノリツッコミ。

 しかし、そのノリツッコミもあっさりとスルーされ、より詳細を求めた尋問……もとい、確認が始まる。

「そうか。反省すべき点がないほど頑張ったにもかかわらず、幻獣であるウサギが手に入れられないほどの結界やら仕掛けやらが、解毒薬の周りには施されていたってことか」

「そうだにゃ!炎狼の言う通りにゃ!シャムは反省する必要がにゃいくらい頑張ったにゃ!でも、褒められるくらいすごくすごく頑張ったけど、厄介な結界と仕掛けがあってどうにもできなかったにゃ!だからまずは皆でシャムを褒めて労うにゃ!」

 鼻息荒くそう告げたシャムに、やれやれとばかりにため息を吐いて、今度はシロが口を開く。

「シャム、人間の世界の躾方法として、“褒めて伸ばす”というものがあるそうですが、それは相手を選びます。そしてシャム、貴方はその対象外です。ですから、褒められるのは諦めて、さっさと結界と仕掛けについて話しなさい」

「雪豹がセイリオス並みに冷たいにゃ!いや、雪豹だから冷たいのは合ってるにゃ!でもシャムは、褒められて伸びるタイプのウサギにゃ!対象外じゃにゃいにゃ!だから皆で優しく褒め……」

「「「「シャムッ!(ウサギッ!)」」」」

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜(怒涛の地団駄)……………………わかったにゃ……話すにゃ……」

 そんなこんなで、シャムが語ったところによると―――――――


「なるほど。闇魔法による攻撃系結界と、重力感知の魔法陣ですか……それは確かに厄介ですね」

「だから言ったにゃ!今からでも全然遅くにゃいにゃ!シャムを目一杯褒め称えるにゃ!」

「“攻撃は最大の防御なり”ってことか。それでウサギ、どんな闇の攻撃魔法を食らったんだ?」

「違うにゃ、炎狼!質問はまずシャムを褒めてからするにゃ!シャムは幻獣だから、攻撃魔法は受けなかったにゃ。だからシャムは生きてるにゃ。やっぱり偉いにゃ!ちゃんと褒めるにゃ!」

「そうか。やはり幻獣だから結界の影響は受けないのだな…………だとしたら、シャムは何故その結界が攻撃系のモノだとわかったんだ?」

「ダメにゃ!生徒会長までシャムを褒め忘れているにゃ!シャムは優秀で敏感だから、結界を通ったら毛がビリッてするにゃ。しかも、セイリオスから訓練だと言われて、今までたくさんの結界の通り抜けをさせられたから、それがどんな属性魔法で、どんな効力があるのかわかるようになったにゃ。そうだにゃ!思い出したにゃ!セイリオスのせいで何度も毛がなくなりそうになったにゃ!シャム、可哀想にゃ!ここは思いっきり慰めて、頑張ったと皆で褒めるにゃ!」


 お兄様、シャムになんてことを…………

 そして皆様、お兄様直伝なのかは存じませんが、さっきからシャムへの対応があまりに塩すぎます…………

  

 まさに鬼レベルの塩対応に、さすがと言うべきか、それとも「ここは一先ず私が代表して褒めておきましょうか?いえ、褒めさせてください!(モフモフ抱っこ付きで)」と、立候補するべきか、状況が状況だけに実に悩ましい。

 しかしここまでくると、シャムからの『褒めて』一点張りの猛攻撃も物ともせず、完全スルーで質問だけを重ねていくアカやシロ、そして新たに参戦したサルガス様に、感心を通り越してスタンディングオベーションでブラボーと拍手喝采を送ってしまいそうだ。

 もちろん律儀に塩対応への文句を告げてから、ちゃんと質問の答えを返しているシャムに対しても。

 しかしだ。

 お互いに一歩も譲らない甘味要求と塩投入の攻防戦はさておくとしても、結界の影響を受けることなく(毛はビリッてなるけれど)、その結界の種類がわかるなんて、シャムの能力は素直に凄いと思う。

 それを、情け容赦無用のスパルタ教育で育て上げたお兄様もまた……

 事実――――――――

 

「それで、どんな属性の攻撃系結界だったのかな?」

「レグルス、シャムへの褒め言葉が抜け落ちているにゃ!闇魔法の攻撃系結界にゃ。通った者の影を奪うとんでもにゃい結界にゃ!」

「「なッ!!」」

 シャムの言葉に、息を呑んだのはアカとシロ。

 私も含めて、その他のメンバーはただただ大きな疑問符を顔いっぱいに貼り付けて、首を傾げているだけだ。

 ろくな結界でないことはわかる。

 影を奪われて、何もないはずがない。

 けれど、己の影を奪われて、次にどのような変化が我が身に起こるのか、それがさっぱりわからない。

 そのため、それぞれが自分の足元に落ちる影を見つめながら、もう一度じっくりと咀嚼するように、疑問を口にしていく。

「通った者の…………」

「影を奪う結界……って………」

「もし、自分の影が消えたとしたら……誰かに奪われてしまったとしたら…………」


「奪われた人は一体………どうなってしまうのかしら?」


 小さな明かり取りの窓からの光を受け、当然のように足元に落ちる自身の影に問いかけてみる。

 しかし、その答えが返ってくることも、浮かび上がってくることもない。

 影は当然のように我が身に寄り添い、沈黙を守ったままそこに佇むだけだ。

 けれど――――

 その答えは、俯く私の頭上から降ってきた。

「…………光があり、影が落ちるのは自然の摂理であり、光の神が創りしこの世界の理でもあります。それ故に、その理を覆され、影を奪われた者は、この世界においての異物――――つまり、光によって落とす影がない以上、たとえどんなに(かそ)けき光であったとしても………………」

 躊躇するように言い淀んだシロ。

 が、それも刹那。

  


「この世界の光の前に―――――――


 ―――――影を奪われた者は霞と消えます」

 

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