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挿話【Side:アリオト】不完全なボクが、不完全なままで思うこと

 光もなく、色もなく、濃淡もなく、ただのっぺりと真っ黒に塗り潰された闇が、身体の中を埋め尽くすだけの存在――――――――


 それがボクだ。


 だからこそ、何を見ても感情は何色にも染まることはなく、思考は常に真っ黒な我欲だけに埋もれていた。

 そう、心など何処を探してもその輪郭すら見えたこともない。

 ただ闇を抱えただけの人の形を模したモノ。

 それ故に、人間達が“人非らざる者”との意を込め、ボクたちのことを“魔の者”と呼ぶのも、まぁぶっちゃけ、だよねぇ〜と、容易に頷けた。

 ちなみに、ボク達自身は自分達のことを、“闇の眷属”と呼ぶけれど、正直ボクとしてはどちらでも構わない。というか、そんな呼び名に関心の欠片もない。

 “闇の眷属”の長子――――――フィラウティアはどうやら違うらしいけれど。



 この世界はそもそも、混沌より生まれし光の神によって創造されたモノ―――――らしい。

 “らしい”などという曖昧な表現は敢えて使ってはみたものの、ほぼ断定に近い“らしい”ではある。

 もちろん、直接光の神自身にボクが聞いたわけでもないし、誰かに教えられたわけでもない。ただボクがこの世界に吐き出された時に、既に備わっていた知識というか、認識というか、当然のようにこの世界を渡り歩くために手にしていたガイドブックのようなモノだ。

 そしてそのガイドブックには、この世界のおすすめスポットというべき三十六ヶ所ものとある場所がしっかりと記されていた。

 光の神が、うっかり自身の影を地上に落としてしまった正確な場所が。

 この世界で最も闇が深く、“魔”を増幅させる最も適した場所として。

 しかし、光の神だって馬鹿じゃない。

 自分のうっかりミスをフォローするため、そこにはおすすめスポットの守り人ともいえる三十六人もの“神の良識”と呼ばれる人間を一人ずつ存在させた。

 これ以上闇が深まることなく、広がることなく、良識という名の善良なる光でもって、闇を浄化するためにだ。

 にもかかわらず、その守り人たちは自分がそのような存在であることなど知る由もなく、ただの普通の貧しき人間として慎ましやかに生活し、命尽きるその日まで当たり前のようにそこに住んでいるだけ(のつもり)というのだから、なんともお間抜けで呑気な話だ。

 けれど、()()()()()()という事実こそが重要らしく、そのことによってボク達“闇の眷属”の目をも眩ませているというのだから、ある意味ほんと質が悪い。

 それこそ、おすすめの観光スポットに行きながら、そこに絶対いるはずの名物おじさんを一向に見つけられず、トボトボと肩を落として帰ってくるようなものだ。

 ま、こちらとしては見つけ次第…………いや、世界を破滅という闇に引きずり落とすためには、それぞれの場所に散らばる三十六人に対し、ほぼ同時に永遠のサヨナラを告げなければならないのだから、そう安々とは見つからないのも至極当然の話といえば、話なんだけど。

 もし仮に、万が一でもそのようなことができてしまえば、この世界は呆気ないほど容易く光なき闇へと沈むことになる。

  


 狂気、憎悪、破壊という名のもとに――――――――


 でも、それこそがボクの存在意義でもある。

 世界を闇へ導くことがボクの生まれし理由。

 闇の神――――――人間達が言うところの魔王が、この世界に己が我欲を与えてまで、人の形をまんま模倣したボク達を吐き出した真なる目的だ。


 ――――――なのにだ。

 

 今のボクときたらほんと何してるんだろ………………

 と、フィラウティアが待つ王城へ向かう馬車の中でふと思う。



 千年前、ボクが“神の娘”をこの目に初めて捉えた時、彼女の瞳は、心は、既にある王子に奪われていた。

 光を纏いし白銀の髪を風に靡かせ、蒼い空を映し取ったかのような瞳に、第二王子と呼ばれ、人間達に尊ばれていた男だけを一心に映し、そして心底愛していた。

 それは傍から見ても、無邪気であり、健気であり、ひたすら真っすぐに一途だった。

 いや実際は、よく王子にからかわれ、白磁の頬を真っ赤に染めながら目一杯膨らませてることが多かったような気が……しないでもないのだが………うん、まぁそこはいい。

 でも、純粋培養の“神の娘”の心は既に一人の男への愛で埋め尽くされていることは、心の形すら知らないボクにも嫌というほどにわかった。

 正直、“神の鏡”として、“神の良心”として、それはどうかと思うほどに。

 だからかもしれない。

 ボクはその当時の“神の娘”に興味が持てなかった。

 いや、違うな。

 正確に言うならば、食指を動かす気にはなれなかった。

 本来ならば、彼女の心を絶望で満たし、この世界の破滅を望ませた上で殺してしまわなければならないというのに。

 人間の男を普通の人間の女のように愛するその姿に、むしろ不快さや憎悪すら覚えていたような気がする。


 何処が特別な人間だ。

 その瞳に映すべきモノはそんな塵芥同然の人間如きではないはずだ。


 お前が心を染め、奪われ、ただ一心に見つめるべき存在はむしろ――――――――

 

 我ながらほんと理解不能だった。 

 といっても、そんな気が漠然としただけで、明白でもない。

 なんせボクには心がないから、自分の気持ちを推し量るなんて無駄な作業を今までしたことがない。そのため、妙にモヤモヤするこの不快感が一体何なのか、その正体を知る術も持ち合わせてはいなかった。

 そしてなにより、ボクの行動原理ともいえる快楽と好奇の食指を動かすには、その不快感は十分過ぎる程の抑止となった。

 そりゃそうだろう。

 何よりも面白いことを好み、快楽を求めるボクが、なんでよりにもよって眉を顰めたくなるような不快さの中に、わざわざ飛び込んでいかなければいけないのか。

 この世に存在する理由が、たとえ“神の娘”を殺すことだと言われようとも、自分の我欲にどこまでも従順なボクは願い下げだった。

 はっきり言って、興醒めしていた。

 王子に恋する“神の娘”の姿に。 

 だから、フィラウティアに譲った。

 人間達にとって“死に至る憎むべき大罪”とも呼ばれるありとあらゆる醜き“欲”を闇の神によって与えられた長子、フィラウティアに。

 事実、その王子にフィラウティアは目をつけていた。

 光の神にどこまで贔屓されたんだというくらいに見目麗しく、それでいて男性的な精悍さがあり、いつでも清廉でむしろ潔癖のきらいさえあるデオテラ王国の第二王子。

 紫銀の髪に、アメジストの瞳。

 その存在自体が、希少な宝玉や貴石のような王子。


 そう、まるでユフィの現守護者であるあの男のような………………

 

 そんな王子を、あの色欲魔のフィラウティアが狙わないわけがない。

 遅かれ早かれ、そうなったんだと思う。

 しかし、フィラウティアの予想よりも王子の魔力量が多く、また自身に鉄壁な魔法結界を張っていたため、思いの外時間がかかっているようだった。

 それ以外の王城の者たちはすっかりフィラウティアの掌中にあったというのに。

 それでも、真綿でじわじわと首を締めるかのように王子の心はフィラウティアの“魅了”に侵され続け、やがて王子の影はフィラウティアと完全に繋がった。

 “神の娘”を愛していると言いながら…………いや、実際そうだと自身でも疑わうことなく信じながら、フィラウティアによって完全に心を蝕まれてしまった王子。

 それはどこからどう見ても――――――

  

 哀れな傀儡。

 

 ただの傍観者に過ぎなかったボクにはそう見えた。

 それにしても…………だ。

 闇の神はとんでもない能力をフィラウティアに与えたものだと思う。

 “闇の眷属”の長子であるフィラウティアだけが持つ特殊能力――――“魅了”。

 それは感情も、大事な人へ想いも、記憶も、自我さえも失わせ、人間の心を死ぬまで弄び続ける下劣極まりない能力だ。

 しかも、フィラウティアが死のうが消えようが解けないときている。

 まったく能力者であるフィラウティアの性格の悪さがまんまその効力に作用したかのような、救いようのない質の悪さだ。

 しかし今までボクは、フィラウティアに“魅了”をかけられ、“魔物落ち”した人間たちの魂を飽きるほどに見てきたけれど、そのことを哀れに思ったことは一度としてなかった。

 むしろ、ボクの方が先に見つけていれば、もっともっと気持ちよく闇に落として上げたのに…………という嘲りにも似た冷めた感想だけがいつだってそこにあった。

 まぁ、感情など元より欠落しているボクに、可哀想だと思え!という方が無理難題なんだけど。

 だから千年前、“神の娘”に対しても、いつものように傍観を決め込むことができた。

 できたはずだった。

 事実、ユフィたちに語って聞かせた通り傍観していたし、一切手を出すことはしなかった。

 本能では狩るべき対象だとわかってはいても、どうにも動く気にはなれなかったのだから。

 でも、フィラウティアに譲った後もずっと正体不明の不快さは何かの凝りのようにボクの身体の中にはあった。

 まるで小さすぎて抜くことができない棘のように。

 だから、“神の娘”が“魔物落ち”した王子の魂を助けるため、最期の力を振り絞って能力を使った時――――――瞬間、この世界に優しくも強烈な光があまねく降り注いだ時――――――そのせいで、この世界から闇が消えてしまうと思われたまさにその時――――――


 ボクは影法師を使って覗き見ながら別の場所で一人、空を見上げていた。

 多分、ボクがあんなふうに空を見上げたのは、アレが最初で最後だったと思う。

 悲壮感はない。

 恐怖もない。

 ただ真っ黒な闇に埋め尽くされたボクへと差し込む光に、心地い温かささえ感じていた。

 そして呑気に考えていたことは――――――――

 

 フィラウティアの奴、しくじったな…………

 アハハ……ざまぁみろだ。


 まぁ、ボクの存在を消す元凶がフィラウティアのしくじりだと思うと正直業腹ものだけど……でも、この光は悪くない。むしろ上等だ。


 うん………

 この光は………………羨望に値する…………


 

 あぁ……もしも……もしも…………だ。

 

 “神の娘”が――――――

 彼女とまた同じ存在が――――

 この世界に生まれ落ちた暁には、今度はボクがボク自身の闇でたっぷりと満たしてあげよう。

 闇と光は惹かれ合うもの。

 それを身を持って経験した以上、もう君をフィラウティアに譲る気はない。

 だから覚悟しておいて。


 今度はボクが丁重に、君の相手をしてあげるから。

 

 ほとんど自己防衛本能で影の中に逃げ込みつつ、息も絶え絶えにそう天に向かって宣い、ほくそ笑んだ。


 そしてあの日あの時、深い深い闇へと身を沈めて、ボク達“闇の眷属”は人知れず暫しの眠りについた。

 光も届かない底なしの闇の中で、また彼女に――――あの光に――――出逢える日を夢見ながら。

 

 まさかそこから千年もの間、焦がれ続けることになろうとは、ましてや、ようやく出逢えた彼女にこんな不完全な身体にされてしまうとは夢にも思わなかったけれど――――――ね。




「で、君はいつまで俺達の馬車に乗ってるつもりかな?アリオトの影法師くん」

 らしくなく、物思いに耽っていれば、“読心”の能力者に声をかけられた。

 ま、ボクがこんなふうに人間の前で無防備加減も甚だしく考え事をするようになったのも、やっぱり彼女――――――ユフィのせいなんだろうな、と苦笑する。

 もちろん真っ黒な影でしかない影法師なので、どんな類の笑顔もすべて、ニヘラ〜と口を裂いて笑ってるようにしかならないのだが。

 しかし、今はその欠点とも言える極端すぎる表情を利点に変えて、愉快げに返してやる。

「おやおや、それはお言葉だねぇ~せっかくボクのおかげで、向こうの馬車の話し声をこっそり盗み聞きできたというのに、そこは感謝こそすれじゃないの〜?」

「いやいやちょっと待て!何だ、そのやたらと人聞きの悪い状況は!っていうか、盗み聞きどころか、こっちの声が筒抜けだったたせいで、向こうにバレバレだったから!全然こっそり盗めてもなければ、潜んでもなかったから!」

 ボクの向かいに座る“読心”の能力者が、頭が痛いとばかりに物申してくる。

 さらにはボクの隣りに座る“言霊”の能力者までもが、大きなため息を吐きながら続けた。

「確かに、向こうの馬車と情報共有ができたことに関しては大いに役に立ったし、もちろん感謝もしているが、こちらの声も向こうに聞こえてしまうなら最初から教えておいてくれ」

「シェアトの言う通りだな。まぁ、実際は驚愕の声やら、呟き程度のものしか我々は口にしていなかったはずだが…………って、まさか今のこの声も聞こえてッ⁉」

 “読心”の能力者の横で、それはもう見本のような生真面目な顔で“忘却”の能力者が口を開いたが、最後まで言い切る前に咄嗟に自分の口を手で塞いだ。

 と同時に、生真面目さしかなかった顔に羞恥が滲む。

 その変容に、内心で馬鹿めと舌を出し、時間もないことからさっさと話をこの先へと誘っていく。

「残念ながらもう聞こえてないよ。知っての通り、あっちの馬車にいたボクの本体は、既に雪豹の影に身を沈めてしまったからね」

「だったら、なんで影法師のお前がいつまでもここに残っているんだよ」

 “読心”の能力者からの予想を裏切らない返しに、ボクは満面の笑みを形作った。

「ん~~〜〜それはほら、目的地のお城はもうそこだし?ボクは一応君たちの協力者だし?だから、お節介がすぎる最終確認と、面倒見良すぎの有り難〜い忠告……かな?」

 自分で言っててなんだけど、ほんとらしくもない台詞に、これは天変地異の前触れかと自分で自分を茶化したくなってくる。

 けれど、そう思ったのは何もボクだけではないようで、目の前の彼らもまた皆一様に口をポッカリと開けて、啞然とボクを見つめていた。

 うん、これはなかなか笑える。

 といっても、笑い出す前から影法師のボクは既に愉悦感たっぷりの笑い顔のため、新たに生じたその笑いは賢明にも内心に留めておく。

 理由はもちろん、今は笑っている時間がないからだ。

「で、先ずは確認だけれど、事態は変わった。フィラウティアがいる時点で、もうただの解毒薬を手に入れるだけのミッションじゃない。君たち……それをわかってて、本当にこのまま飛び込んじゃうつもりなのかな?フィラウティアが用意した罠のど真ん中にさ」

 ボク自身は単なる確認であって、馬鹿にしたつもりもなかったのだけれど、影法師の顔は………まぁ、言わずもがななため、三人はすぐさま噛みついてきた。

「ここまで来て、行かない選択肢などあるわけないだろ!」

「ユーフィリナ嬢と守護獣殿たちだけで、行かせるわけにはいかない!フィラウティアがいるなら尚の事だ!」

「愚問だな」

 これまた予想通り過ぎて面白味の欠片もない返答に、思わず肩を窄めてみせる。

 以前のボクならば、フィラウティアの気配を感じた時点で、間違いなく回れ右をしていた。


 そう、以前のボクならば――――――


 しかし彼らは違うらしい。

 うん、なんとも勇敢なことだ。

「それはそれは潔いことで。でもさぁ、ちゃんとわかってる?城に入ったら、見目のいい君たちは忽ちフィラウティアの格好の獲物だ。学園とやらでは、ユフィが雪豹の屋敷で放った聖なる光の残滓のおかげで、運良く“魅了”にかからなかったかもしれないけれど、今度は絶対に逃げられないよ。君たちがいくら鉄壁の魔法結界を張ろうともね。それこそ千年前の王子みたく〜?」

 彼らもまたそれなりの魔力を有してはいるが、千年前の王子には至らない。

 まぁ、今の世界で人間の身でありながら、完全にフィラウティアの“魅了”を防ぎ切れるのは、ユフィの現守護者であるあの男くらいなものだろう。

 その男も今は毒を盛られ、“光結晶”で我が身を守るだけで精一杯みたいだけど。

 なんてことを思いながら能力者達を見やれば、完全に伏せ目がちとなり、ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうなほどの食いしばり方で、固く口を閉ざしていた。

 どうやら正しい自己評価と理解度はあるようだ。

 でも念には念を入れて、さらに追い討ちをかけておく。

「言っておくけど、ただ“魅了”にかけられて、フィラウティアに美味しく頂かれるだけじゃないからね。ユフィを絶望へと導く道具にされるんだよ。それがどんな方法かは一々言わなくてもわかるよねぇ~?命をかけても守りたい好きな女の前で、殺してやりたいくらい憎い女と…………想像しただけでも吐き気がしちゃうよねぇ。それでも行くの?ユフィを守るどころか、むしろ敵の手に落ちた君たちのせいで闇へ突き落とすことになるのに?」

 顔面蒼白による完全沈黙。

 下手にしたら思考も停止状態に陥っているのかもしれない。

 あらら、ここで戦意喪失なら仕方ないなぁ~と、ユフィのため、彼らのためにボクの影を使ってデウザビット王国への強制送還を考え始めていると、“言霊”の能力者が口を小さく戦慄かせながらもなんとか声を絞り出した。

「確かにアリオトの言う通り私達は“魅了”にかかるかもしれない。だが、一つだけ聞かせて欲しい。前にも話したがあの舞踏会の夜、私の“言霊”はフィラウティア………………いや、侯爵令嬢グラティア嬢として現れたフィラウティアには効いていないようだった。しかしフィラウティアの“魅了”は我々に効くと言う…………それにだ。以前、アリオトにも私の“言霊”は効いていた。何も“魔の者”だから効かないというわけではないとしたら、これは一体どういうことなんだ?」

「……言えてるな。それにあの時のフィラウティアは侯爵令嬢に扮するために、ただ姿を変えていただけじゃない。守護獣殿たちの話からも、完全にその気配は人間そのものとなっていた。となると、強力な闇属性の魔力で“言霊”を打ち消したわけではないはずだ。そんなことをすればすぐに“魔の者”だとバレるからね」

「えぇ…………アリオトの一件を考えても辻褄が合いません…………」

 至極当然とも言える疑問。

 でも、この疑問が口から出るということは、彼らはただ恐怖に震えるだけでなく、まだ冷静な判断力がありそうだ。

 だったら…………と、一先ずご希望の種明かしだけはしておく。

「先ずフィラウティアの気配が人間そのものだった件だけど、おそらくボクと同じ影法師を使ったんだと思うよ。感知魔法でも感知されない何処かに、自分の闇の魔力を預けた影法師を隠していただけの簡単なトリックさ。影法師ならいざという時、簡単に本体に戻すことができるからね」

 そう答えながらも、一時“忘却”の能力によって、戻るべき本体の存在を忘れたことを思い出す。といっても、後から聞いた話だけで、今も尚その時のことは丸っと思い出せないのだが…………

 うん、この話はムカつくだけだからさっさと流してしまおうと、次なる答えへと舵を切る。

「そしてフィラウティアに君たちの能力が効かないって話だけど、君たちの能力はさ、血によって継承するもんだよね?」

 周知の事実を確認され、当然のように首を縦に振る三人。

 それに満足したように目を細めつつ、ボクはある推測を口にした。

「ボクにはそんな能力は備わってないからね、確実なことは言えないよ。でも、血で受け継がれるというのなら、その能力は長い月日の中で、血が混じり合う度に徐々に薄れていっている可能性がある。しかしフィラウティアは違う。その能力を与えられた始祖ともいうべき存在だ。だからさ、単純な話……君たちがその能力で敵うはずがないんだよ。多分ね」

 敢えて“多分”と最後に付けてみたけれど、十中八九正確だと思われる。

 そして彼らもまたそう思ったのか、先程以上に落ち込んだようだった。

 ま、仕方がないよね。

 どう転んでも、自分たちでは到底フィラウティアには敵わないとわかってしまったんだから。

 そう、現実はちゃんと見るべきだ。

 自分たちは、フィラウティアに唯一対抗できる(と思われる)“聖なる光”を持つ守護獣たちとは違って、ユフィを絶望へと突き落とす道具に成り果てるのがオチなんだと。

 

 でも……………………

 

 と、ユフィの言葉が脳裏を巡る。

 

『――――――もしも……もしもよ。あなたが少しでも同胞であるフィラウティアと敵対することに不安や苛立ち、心苦しさを感じるなら、シロの影にではなくて、本当に姿を消してしまっても構わないわ。そしてそのままフィラウティアの味方についてもいいのよ。私達としてはとても悲しいことだけれど…………でも、あなたの中でせっかく目生え始めた感情を摘んでしまうよりかはずっといい』 

 

 まったくあの鈍感娘ときたら、ほんと嫌になる。

 一体誰のせいでこんな不完全なことになっていると思ってんだ。

 このボクの中に芽生えた名前さえ見つからない感情を、ボクは持て余しているというのに、できることならさっさと摘んで放り投げてしまいたいくらいなのに、どうにもこうにも、その名前を知るまではと後生大事に抱え込んでしまう。

 あぁ、ボクは間違いなく苛立っている。

 それに不安だって感じていると思う。

 でもそれはフィラウティアに対してじゃない。

 ユフィがフィラウティアに苦しめられる姿を見るのが嫌で、泣いてしまうのも、怪我をするのも嫌で、ましてや殺されるなんて言語道断なことで、それを考えるだけで息もできなくなりそうなんだ。


 だから………………

 だから………………ボクは………………


 ユフィがボクに聞いてくれたように、彼らにも聞くことにしよう。

 今、彼らの前にある三つの選択肢を並べた上で。


「というわけで、君たちがフィラウティアに勝てる要素は、残念ながら一欠片もない。でもボクは優しいからね。君たちに選択肢を三つあげよう。まず一つ目、このままボクの影転移を使って君たちだけで、デウザビット王国へ帰るか。それとも二つ目、自分たちだけでは帰れないと、“言霊”と“忘却”を使ってユフィに解毒薬の入手を諦めさせるか。もちろんその場合も影転移でお送りするよ。ただ、そうなれば君たちは大事な王弟や友人だけでなく、ユフィの心をも失うことになるけどね。あっ、ちなみに人数が増えればあの魔道具師が作った例の箱を使うことになるから、そこだけは悪しからず〜」

 誰かの喉が鳴る。

 その理由は、決して例の箱を使うからではないだろう。

「そして三つ目、フィラウティアの“魅了”にかからない、もしくは逃れる術を手に入れるか。もちろんその場合は――――――」

 驚愕と動揺の中、身体を小刻みに震わせながら見開かれて行く三対の目。

 うん、その顔はなかなかに愉快だ。

 

 そう、まったく手がないわけではない。

 フィラウティアの“魅了”から逃れる術はある。 

 けれど、それは……………………



 甘く美味しい話には、いつだってそれ相応の犠牲がつきもので――――――――



「さぁ、時間もないことだし、君たちの決断をお聞かせ願おうかな?」

 

こんにちは

星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪



毎度のことながら、大変長らくお待たせしましたぁ(土下座)

次回から短く切ってと言いつつ、しかも次は入城!とか言いながら、アリオトSideを一気に書いちゃいました。いや、さすがに二つに切るほどでもないかなぁ〜と。


すみません……



ということでお話ですが、アリオトの心中といったところでしょうか。

やはりここはさせて通れませんでした。

千年前のアリオトと、ユフィと出逢ったことによるアリオトの変化。

感じ取ってもらえると嬉しいです。


次回は本当に本当に入城しますよ〜



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



ではでは

どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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