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解毒薬、そう簡単には問屋は卸さないようです(6)

 光を纏い、蒼穹を悠然と舞うように飛ぶグリフォンの群れ。

 陣形の名前はわからないけれど、下から見上げればきっと、“逆V”の文字ならぬ、“A”の文字。

 そして私は今、レグルス様やトゥレイス殿下たちが乗るグリフォンと並列する形で、“A”でいうなら丁度横棒のど真ん中に位置しながら飛んでいる。

 陣形を何も知らないド素人でもわかる、完全に護衛対象、もしくは護送対象が収まるポジションだ。

 それでも両間隔はグリフォンの翼の分とさらに1メートル程の距離があるため、特段窮屈に感じることはない。

 ゴウゴウと耳の奥で唸る風。 

 けれど、砂埃が舞わないだけ地上よりもずっと視界は良好で、頬を打ってはするりと解けて流れていく空気が、ひんやりとしていてとても清々しい。

 そして何より私が驚いたのは、レグルス様のお姉様――――デネボラ様に背後から支えられる形で騎乗するグリフォンの安定感が、想像以上にいいことだ。

 巧く気流に乗っているためか、離陸時に数度羽ばたいただけで、今はまるで氷上を滑って行くかのように、翼を広げたまま帆翔状態を保っている。

 もちろん、時折風に煽られはするけれど、必死にしがみついていなければ真っ逆さまに堕ちてしまうといったこともない。

 まさしく快適な空の旅。

 

 しかしそんな中、私の背後から聞こえてくる声は――――――――


「ユフィちゃん!本当に本当にごめんなさい!随分と気を悪くしたでしょう?あぁ、ほんとなんて言って謝ったらいいか…………」

「い、いえ、デネボラ樣。悪いのは、決してデネボラ樣ではございませんし、気も悪くなどしておりません。だからもうそんなに謝らないでくださいませ」

 そう、デネボラ様の謝罪だ。

 それこそここが地上なら、平身低頭土下座する勢いでの――――――

 そのため、全然平気ですと首を何度も横に振る。

 まぁ正直な話をすれば、気を悪くすることはなくとも、ちょっと……いや、かなり凹んでしまったのだけど……

 でもそれは、口にした通りデネボラ様のせいではない。

 というか、そもそもデネボラ様はまったくもって悪くない。

 悪いのは――――そう、皆を驚かせることになった諸悪の根源ともいうべきモノは、私の免許皆伝、国宝級の隠密スキルなのだから。

 それも無自覚にうっかり発動してしまうほどの………………


 

 かれこれ今から五分前、デネボラ様は意気揚々と宣言された。

 レグルス様の“伝心”を受け、私たちの抱える事情を汲み、グリフォンでデオテラ神聖国との国境線にある砦へ、盛大かつ物々しく送ってくれると。

 そんなデネボラ様の決断に感謝の言葉を述べ、レグルス様は真っ先に私へと振り返ると、『さぁ、ユフィちゃんは姉上のグリフォンへ』と、さも当然のように促した。

 おそらく、同性であるデネボラ様のグリフォンがいいだろうという紳士らしい配慮からだったのだろう。

 けれど、ここで思わぬ衝撃が走る。

 それは主に辺境伯領側に……………


『なっ⁉』

『えっ⁉』

『嘘ッ⁉』

『ッ〜〜〜⁉』

 

 何度も、何度も、それ以上したら瞼の皮が捲れてしまいますよ、とこちらが心配になるほど手の甲で目をコシコシと擦り、瞬きを繰り返す辺境伯領御一行樣。

 その様子を、レグルス様筆頭に、憐れむような目で見つめながら、こまかみやら眉間やらを指で揉みほぐし、『ってか、ここもバッチリ圏内かよ……』『あの状態でまだ平常運転とは……まったくもって恐れ入る』『執念深ッ!』という呆れとも戦慄とも取れる声が、漏れ聞こえてくる。

 さっぱり意味がわからない。

 しかしこの時の私に、それを問い質すだけの精神的余裕もなければ、深く考えているだけの思考力の欠片もなかった。

 なんせ、今の今まで誰の目にも映ることなく、その存在にも気づかれていなかったにもかかわらず、突如としてその存在感のなさゆえに、逆に注目されてしまうという矛盾極まりない状態に陥ってしまったのだから。

 唯一トゥレイス殿下だけが、ふむ……と顎に手を置き、考え込むようにして私と辺境伯領御一行様を交互に見つめると、『なるほどそういうことか……だからあの時も…………』などと、なにやら独り言ちつつ絶賛納得中となっている。

 察するに、私が学園の廊下で、うっかりトゥレイス殿下の落とし物を拾ってしまった時のことを思い出しているのだろう。

 確かにあの時のトゥレイス殿下と護衛騎士様もまた、驚愕に目を剥いていた。当時のトゥレイス殿下の表情筋は仮死状態だったにもかかわらず…………


 うん…………

 昨日のことのように思い出せるわね。


 隠密スキルと言えば、聞こえは多少…………いや、幾分…………微妙に?いいかもしれないけれど、実際のところはただただ存在が希薄すぎて、私から声をかけるまで、私の存在など一切目にも入っていなかったのだ。


 はい……そうなんです。

 これは地味な私が前世から引き継いだ免許皆伝、国宝級の隠密スキルなんです。

 今回は、レグルス様とデネボラ様の会話の邪魔になってはいけないと、少し控え目に立っていたことが(あだ)となったようで、ほんと、なんか、色々と、すみません…………

  

 最近は、レグルス様たちが気を遣ってくれているからか、私の存在感が皆無となることはなかったのだけれど、やはり初対面の人達相手には、ゼロといって差し支えないほどに存在感を掻き消す隠密スキルが勝手に発動してしまうらしい。

 これまた前世から引き継ぐ元来人見知りという性格が災いして。


 あぁ……居た堪れなさ過ぎて、穴があったら今すぐ入りたい…………


 しかしここで突然穴に入れば、それこそ存在感どころの騒ぎではなくなるので、赤面をぶら下げながら、辺境伯領御一行様から寄せられる奇異の目に必死で堪える。

 もちろんデネボラ様も例外ではなく、散々目を擦った後で、どうにも消えない…………というか、レグルス様の一言で突如として存在が露となった私に、驚愕で目を見開きながら、『ユ、ユフィちゃんって⁉えぇ、嘘!いつの間に?さっきからいたぁ?嘘でしょおぉぉぉッ!』と、次期辺境伯夫人としてはどうかと思うほどの動揺と心情を駄々漏れさせていた。


 いや、ほんと……申し訳ございません………


 そんなデネボラ様に、レグルス様はまた“伝心”で何かを伝えたらしく、そのおかげか、それともそのせいか、驚き一色だったお姉様の瞳に憐憫の情にも見える色合いが入り混じり始めた。そして最終的には、不憫な子を見るような目で私を見つめ、『セイリオス………なんてことを………』と、何故かお兄様の名とともに小さく首を横に振られ、ため息を吐かれてしまった。

 なんとも解せない。

 とはいえ、やはりそれを追及するだけの時間的猶予もない。

 そこで、取り敢えず出発となり、今に至るわけだけど、グリフォンに騎乗してからずっと謝罪一辺倒だったはずの風向きが、何やら少し変わり始めているようで――――――



「あぁ……こんな可愛くて綺麗な女の子が目の前にいたというのに、全然目に入らなかったなんて、なんだかずっと損してた気分だわ。それもあの“神の娘”の生まれ変わりよ。子供の頃から絵本で見ていた()()よ!この期待を裏切らない純粋無垢な可愛さといったらもう………駄目だわ。完璧すぎるわ。身体なんてすっごく柔らかくて抱き心地も最高だし、髪もサラサラでいい匂いもするし、あ〜んな小憎たらしい弟でなく、わたくしにもユフィちゃんみたいな妹が欲しかったわ。そりゃあ、セイリオスだってシスコンになるわけよね。まぁ、ちょっと度が過ぎているけど。しっかしあの仏頂面で、超絶シスコンだなんて、目茶苦茶笑えるわね」

 などと言って、私を背後からひしと抱きしめながら(安定感抜群のグリフォンとはいえ、念には念を入れて落ちないようにだと思う。それ以上の意味はない。さっきからずっと私の頭を頬でスリスリしているけれど、多分……きっと……他意はない…………はず?)、本当にケタケタと笑い始めたデネボラ様に、いいように風に弄ばれる髪を左手で押さえ込みながら、私はへにょりと眉を下げる。

 うん、否定はできない。

 お兄様はそれはもう、私のためなら犯罪さえ厭わないほどの超絶シスコンの残念すぎる公爵令息なのだから。

 ただ、可愛いという定義がお兄様といい、デネボラ様といい、若干世間様のソレよりズレている気はしないでもないけれど、そこは個人差ということで、サラリと受け流すことにする。

 しかし、ここまで笑えるくらいにお兄様と旧知の仲だったのかしら?と、ほんの少し胸にモヤッとするものを抱えながら、風に疑問を乗せてみた。

「あの……デネボラ様はお兄様のことを昔からよくご存知だったのでしょうか?」

 そのまま風に流されてもおかしくはないほど、どこか頼りなげに為された問いかけ。

 しかし、私の身体を囲い込みながら手綱を握るデネボラ様の耳にはしっかり届いたようで、忽ちデネボラ様は笑いを呑み込んだ。

 そして苦笑を滲ませた声が返ってくる。

「よくご存知ってほどでもないわよ。レグルスの友人ってことで、何度か夜会で挨拶した程度かしら。ただね、礼儀正しくはあるんだけど、必要以上に話しかけてくるなオーラをこれでもか!ってくらい全身から放っていたわね。会う度に毎回、毎回」

「お兄様ったら、なんて失礼なことを………」

「ほ〜んと失礼な話よね。でもわからないでもないのよ。男性でありながらあれほど美しくて、公爵令息で、王国で一、ニを争うくらいの魔力持ちなんだもの。どんなご令嬢だって放っておくわけがないわ。でもね、あそこまでのオーラを出されたら、どんなに肝の据わったご令嬢だって、さすがに近づけやしないわよ。それでもまだわたくしの場合は、レグルスの実姉ということもあって、他のご令嬢よりかは口を利いてくれたほうかしら。当時は非公認とはいえ、一応国王陛下の婚約者候補でもあったから、あっさり無害認定されていたのね」

「それは……なんか……その……お兄様がすみません……」

 私が謝ることではないけれど、もはや謝罪の言葉しか出てこない。

 そして居た堪れなさでさらに小さくなった私の頭に、やはり気のせいでも何でもなく、デネボラ様がスリスリを頬を擦り付けながら口を開く。

「いいのよ。ユフィちゃんに謝ってもらうようなことでもないしね。それにね、わたくしが言いたかったのは、あの超絶シスコン男のセイリオスは、あの頃からユフィちゃんしか見ていなかったってことよ。それを今更こんな形で、改めて思い知らされるなんて夢にも思わなかったわ」

 “こんな形で”というのが、具体的に何を指すのかよくわからなかったけれど、お兄様がシスコン男であることは自他共に認めるところなので、その点については小さく肩を竦めることで認めておく。

 すると今度は、呆れよりも感心の()を多く含んだ声が寄せられた。

「でも、ユフィちゃんも相当なブラコンよね。セイリオスのために危険も顧みず、解毒薬を求めてデオテラ神聖国へ乗り込もうっていうんだから。“神の娘”の生まれ変わりとはいえ、ユフィちゃんは公爵令嬢だし、見るからに蝶よ花よと、大事に大事に箱の中で育てられていそうなのに、無駄に行動力がありすぎっていうか、実はとんでもなくじゃじゃ馬なのね」

 実弟にじゃじゃ馬認定されている元公爵令嬢のデネボラ様に、よりにもよってとんでないじゃじゃ馬だと認定されてしまった。

 思わずがっくりと項垂れる。

 しかし……と、擡げる頭で自分の行動を顧みたものの、自分でも呆れるくらいあっさりと、左様でございますと認めるしかなかった。

 何犯かはさておき、それなりに前科もある。

 そして私の抱えるお兄様への想いもまた、傍から見れば過剰なブラコンにしか見えないのだろう。

 事実、たとえお兄様の中に、千年前の王子の魂が入っているからといって、この私が“神の娘”フィリアの魂を持つ生まれ変わりだからといって、私たちがお父様とお母様の子供である以上、この身体に流れる血は決して赤の他人だとは言えないのだから…………

 

 千年も待ち焦がれた王子にとって――――

 王子を愛し続けたフィリアにとって――――

 そして私にとって――――

 

 この邂逅がどんなに悲劇でしかなくとも。


 我ながらなんとも不毛な想いを自覚してしまったものだとは思うけれど、報われないからといってお兄様を助けたい気持ちに差異が生じるわけでもない。

 ただ大事だから、ただただ大好きだから、助けたいのだ。

 何が何でも、是が非でも、たとえこの命を投げ売ってでも。

 だから、僅かに感じる虚しさには気づかないふりで、殊更明るい声を出す。

「大好きなお兄様を助けるためなら、グリフォンにだって乗りますし、デオテラ神聖国にも乗り込みますわ。私もデネボラ様と同じく、じゃじゃ馬上等ですから!ふふふ」

 最後に笑いは、決して不敵なものではなく、単なる照れ隠しだ。 

 だいたい一体何の宣言だという話だけれど(じゃじゃ馬上等宣言)、これが今の私の嘘偽りのない気持ちなのだから仕方がない。

 必要とあらば、あの例の魔道具の箱にもう一度入ることだってやぶさかではない。

 ま、できる限り最終手段でお願いしたいところではあるけれど。

 そんな私の決意が伝わったのか、不意にデネボラ様が無言になる。

 どうしたのかしら?と後ろの気配をうかがいながら首を傾げた瞬間、今度は息を吹き返したかのように、ぎゅ~〜〜〜っと力一杯抱きしめられた。

 冗談を抜きにしてちょっと苦しい。

「デ、デネボラ様、どうし…………」

「なんて健気でいい子なんでしょう!あの仏頂面のセイリオスには、もったいないくらいのいい子だわ!えぇ、えぇ、ユフィちゃんの気持ちはよくわかってよ!だから、このわたくしが全面的に協力いたします!いざという時は、このグリフォンでデオテラ神聖国に乗り込んでも、ユフィちゃんを助け出すわ!だから安心して行って来なさい!」

 ちょっと国際問題になりかねない台詞はあったけれど、デネボラ様の気持ちが素直に嬉しくて、私の顔も自然と綻んでしまう。

 ただ――――――

「デネボラ様、ありがとうございます。とても心強いです」

 というかその前に、力強すぎです。

 もちろん空気の読める私はそんなことを口に出したりはしない。

 ここは堪える一択だ。

 しかし、デネボラ様に謎のスイッチが入ってしまったらしく――――

「もう何?本当に何なの?この可愛らしさは!あぁ〜ん、このままウチの子にして、食べちゃいたいくらいだわ!」

 

 はい…………?

 食べる?

 えぇっと、これはどういう状況なのでしょう?

 そして何?

 このデジャブ感…………


 固まる私。

 そんな私に鼻息荒く、全力で頬擦りするデネボラ様。

 さすがにこれ以上は危険だと判断したのか、レグルス様が並列するグリフォンの上から必死に叫んでくる。

「姉上!ユフィちゃんを襲わないでください!ってか、食べようとかしない!そこ!今すぐ離れて!」

「嫌よ!ユフィちゃんはわたくしのモノよ!」

「間違っても姉上のモノではありませんし、セイリオスに殺されますよ!まったく、次期辺境伯夫人が何やってるんですか!」

「うるさいわね!可愛いものを愛でて何が悪いの!」

「愛で方に問題があると言っているんです!いいから、ユフィちゃんから離れて!」

 姉と弟の紛うことなき空中戦。

 それを並列する別のグリフォンから呆れたように眺めていたアカたちが、好き勝手に口を開き始める。

「あぁ………この光景。オレには既視感しかないんだが…………」

「シャウラが……いる。第二のシャウラがそこにいる…………いや、それよりもシャウラといい、デネボラ様といい、なんですぐにユーフィリナ孃を食べたがるのだ?」

「デネボラ様!ユーフィリナ嬢から離れてください!いや、その前にちゃんと前を見て!手綱もしっかり持って!あぁ〜こうなったらいっそ“言霊”を使うか!」

「ねぇ雪豹……人間って人間食べちゃうんだね。いやはや初めて知ったけど、殺し合いだけでなく、共食いまでするなんて、なんとも野蛮な種族だよねぇ」

「…………基本、食べませんから」

「うぅ〜ん、やっぱり食べちゃう!」

「姉上ッ!!」


 澄み切った蒼穹の中、突き進むグリフォンの群れ。

 無駄口を叩けるほどに快適な?空の旅だった。


 多分………………………………



 ちなみに私たちは、国境の砦に向かうために、只今絶賛遠回りをしている。

 当初私達がアリオトの影転移によって辿り着いた場所は、国境線となっている岩壁に沿って進めば、目指す砦まで残り約五〇〇メートルの地点だった(アリオト談)。

 そしてそんな五〇〇メートル程の距離など、グリフォンの飛翔スピードからすればあってないような距離であり、誰もが一瞬で砦に行けると信じていた。

 しかし、デネボラ様曰く――――――――


『できるだけ怪しまれずに入国したいのなら、密入国者みたいに岩壁沿いに行くのではなく、正規ルートから堂々と砦に向かうべきだわ。確かに多少時間的ロスはあるけれど、無駄に警戒されたり、下手な勘繰りをされるよりかはいいはずよ。可能な限り不穏な芽は摘み取ることにしましょう』


 早い話、急がば回れ――――ということらしい。

 そんなわけで急遽大きく迂回し、正規ルートへと軌道修正することになった私たちは、少しばかり快適で愉快な?空の旅を楽しむこととなった。

 そしてその道すがら、執務中に文字通りグリフォンに乗って飛んできたらしい現辺境伯と次期辺境伯御一行様に遭遇し、再びレグルス様が“伝心”で事情説明をしたところ、『えっ?本当にいいの?』と、こちらが聞き返したくなるほどの二つ返事で私たちの陣形に加わった。

 新たに加わった辺境伯御一行様の数は総勢二十二人。

 陣形“A”の文字に、“逆V”が重なる大所帯。

 最初に盛大かつ物々しくとお願いしたのはこちらだけれど、何もここまで仰々しくして欲しいとは頼んでいない。

 これでは怪しまれる前に、恐れられるレベルだ。

 いや、それよりも危惧すべき点は、この大群……というより大軍をなして飛んでくるグリフォンを見た砦の者たちが、血迷った者たちが攻め込んできたと一気に臨戦態勢になる可能性があるということである。

 なんせ、合流した現辺境伯と次期辺境伯の容貌が、なんとも野性味溢れるというか、線が細い王都の貴族たちに比べて、とても雄雄しくて逞しい。

 短く切り揃えられたアッシュグレーの髪も、ニカッと笑う度に覗く、浅黒い肌によく映える白い歯も、清潔感を感じる前に、威圧感を感じる。

 まさしく百戦錬磨の猛者そのもの。

 そこに、緊急事態を見越して身につけてきたと思われる、重厚感たっぷりの装具と、腰に佩いた立派な長剣やら、手綱を握る手とは逆の手にしっかり収まっている長槍やらも相まって、はっきり言って怖い。

 デネボラ様と並べば、まさに美女と野獣二匹。

 このお二人が、『砦の対応はすべて我々にお任せください。あっさり通れるようにしてみせますので』と、臨戦態勢にしか見えない形相で、陣形の先頭を勇んで往くものだから、『な、なるべく穏便な形でお願いします』と、思わず声をかけてしまいたくなったのは致し方ないことだと思う。

 

 砦を目指してから約十五分。

 多くの魔獣が潜んでいるという森を眼下にして、辺境伯領最北端にある集落上空に入った。

 簡素な小屋と、小さな畑が点在しており、お世辞にも豊かそうには見えない集落。

 けれど土地面積だけでいえば、比較的大きな集落で、日を背負ったグリフォンたちの影が撫でるようにして集落を横断していく。

 その光景を目に焼き付けながら、遊覧飛行のガイドよろしく、懇切丁寧なデネボラ様の説明に耳を傾ける。

「ここはね、国境の砦を守る戦士たちが住む集落なのよ。だからなんとなく殺風景で、味も素っ気もないでしょ。家畜だっていないし……でもねそれには理由があるのよ。実はね、私たちが乗っているこのグリフォンたちは、皆ここで生まれて育てられた子たちなの。ほら、あの一角、岩と石だけで作った小山のようなものがたくさんあるでしょ?あれがグリフォンの巣よ。国境を守る辺境伯領だけが特別に、国王陛下からグリフォンの繁殖を許されているの」

 といっても、グリフォンはれっきとした魔獣だ。だから従魔にしない限り人につくことはない。

 そのため、繁殖と言いながらも、実際のところは集落の一角に小山を作り、グリフォンの寝床として開放しているだけで、積極的に繁殖させたり、飼育したりしているわけではない。

 あくまでもグリフォンの帰巣本能を利用した自然繁殖らしい。

 ただこの集落で生まれたグリフォンたちは、家畜がいれば襲って食料にしてしまうそうだけれど、人間を襲うことはないのだという。

 その理由について、色んな仮説があるらしいけれど、その中でも最も有力なものが、人間は捕食対象でも脅威でもないという刷り込みが、この集落で育った親から子へしっかり為されているからだそうだ。

 そして、まだヒナのうちに辺境伯領所属の騎士と対面し、相性のいい者がいれば、そのまま従魔になる――――――という流れらしい。

 つまり、今この陣形を作っている者たちは、グリフォンと従魔契約を果たした(グリフォンに)選ばれし精鋭部隊。

 その中にデネボラ様もちゃっかり名を連ねているのだから、さすがである。


 そんな集落とグリフォンのプチ情報をツアーガイド……もとい、次期辺境伯夫人に教えてもらいながら、その集落を超えていくと、再び草木一つない岩ばかりの荒野が広がる。

 その荒野を突っ切るように、集落から続く一本の道。

 そう、この道こそがデオテラ神聖国へと入国するための正規ルートだ。


 そしてその道の先にあるものは、まるで岩壁に同化するように築かれた堅牢な要塞――――――


「デネボラ様、あれが……砦ですか?」

「そうよ。あれこそがデオテラ神聖国からデウザビット王国を守る国境の砦――――――


 カステッルム・スクートゥムデイよ」


 



  

 

 

こんにちは

星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


深夜の投稿失礼します。

ほんと遅くなりすみません。

特に今回は時間がかかりましたね。

というか、結構な加筆修正をしちゃいました。


その結果――――――――

デオテラ神聖国に入る入る詐欺、今回もやってしまいました。

でもようやく砦に到着。

あとは入るだけ。

ちゃっちゃと入って、ちゃっちゃと戻ってきましょう。



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



ではでは

どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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