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解毒薬、そう簡単には問屋は卸さないようです(3)

 からくり魔道具――――――


 以前、アリオトがロー様の店へ転移するため、依頼品に見せかけ預けたモノ。

 そして、アリオトに“真紋”を付けられ、シロの屋敷の一室に監禁された私を救い出すため、お兄様が利用したモノ。

 でも、それは………………

「アリオト……ちょっと待って。それを転移に使うつもりなの?でもその中には確か………」

「その通りだよ、ユフィ。これは、箱の中を予め自身の影と繋げた闇で満たして、転移先の出口として使う魔道具だ。“魔の者”専用といってもいいかな。ま、極々稀に……本当にムカつくほど非常に稀に闇属性の魔力を持ち合わせた人間が使えたみたいだけどね」

 そう説明しながら嫌な記憶を思い出したのか、アリオトはむっと口を尖らせ、あからさまに不貞腐れた顔となる。

 うん、わざわざ確認するまでもなく、そのムカつくほど非常に稀なる闇属性を持つ人間とは、お兄様のことだ。

 あの時、からくり魔道具から現れたお兄様に、アリオトはそれはもうこてんぱんという言葉がピッタリなほどボロボロにやられ、一時的に己の影へ逃げ込む羽目になってしまった。

 しかもそれだけに留まらず、さらにその影からも容赦なく引き摺り出され、より一層こてんぱんにやられてしまったわけだけど。

 確かにあれは、アリオトにとっては屈辱的ともいえる嫌な記憶に違いない。

 しかし今は、そのことはさておき―――――

「まさか箱ごと運んでやるから、俺らに箱の中の闇に沈んでおけと?っていうか、それはからくり魔道具で、中からしか開かない出口専用だろ?言うなれば一方通行だ。俺たちはアリオトみたいに自身の影と闇―――――“晦冥海”と繋がることなんてできないぞ」

「先程も言ったが、繫がれたとしても、“晦冥海”に沈めば私たちの魔力は根こそぎ奪われる。それではたとえ身体は無事に転移できたとしても、戦力としてはまったく役に立たない」

 レグルス様の後にトゥレイス殿下までもが呆れたように続き、二人揃ってジト目となる。

 私の横に立つアカもまたアリオトでは話にならないとばかりに、お目付け役であるシロを睨みつけた。

「おい、ニクス。貴重な時間を費やしてまでローの店で作っていた魔道具が、まさかコレだとは言わないよな。もしコレなら、そもそも作るまでもない。元からあったんだからな。気分転換に若干模様を変えてみただけとか抜かしやがったら、今すぐ灰にするぞ」

 何を?とは聞けない。

 炎狼であるアカなら、その気になれば魔道具以外も余裕で灰にできてしまうからだ。

 ただその場合、その対象が大人しく灰にされることはないので、大惨事となってしまうのは必至なのだけれど。

 そして案の定、その大人しく灰にはならないであろう対象者二人が、即座に口を開く。もちろん反論のために。

 但し、その反論のポイントは何故か微妙にズレており………………

「誰がアリオトの傍についていたと思っているのです。この私がそんな無意味なことさせるわけないでしょう。それに誰が誰を灰にするですって?それこそ聞き捨てなりませんね」

「ほ〜んと、このボクも随分と嘗められたものだよねぇ。いくらなんでも炎狼如きにあっさり灰にされるほど、ボクも落ちぶれちゃいないんだけどさ。なんならここで試してみる?」

 いやいやいや、今は灰にできるかできないかではなくてですね…………

「あぁ?ご希望ならば灰も残さず燃やし尽くしてやるが?」

「ほぉ、これはまた大きく出たものですね。態度だけでなく、叩く大口も無駄に大きいとはなんとも嘆かわしい」

「ボクと雪豹を敵に回して、無事にいられると思っているなら、炎狼の頭の中こそ灰でいっぱいなんじゃないの〜」

 いやいやいやいや、そこ!“魔の者”と守護獣でタッグを組むのはおかしいですから!

「おう、やるかぁ?」

「駄犬の吠え面など見たくもありませんが、躾は大事ですからね」

「負け犬の遠吠えなんてボクも聞きたくはないけどさ、馬鹿犬の躾なら仕方がないよね」

 いやいやいやいやいや、だから………………


「「「「「んなことはどうでもいいから、さっさと魔道具の説明しろ(して)(するにゃ)!」」」」」


 それはもうこれ以上なく私たち人間同士とウサギ型魔獣の心が、びったりと重なった瞬間だった。

 ―――いやはや転移の前に、おかげさまで。



「あぁ…………で、この魔道具だけど、もちろんボクが使っていたモノではない。その証拠にこれはからくりになってないし、箱の中からしか開かない出口専用でもないしね。それにこの中に満たしてあるモノはボクの“晦冥海”でなくて、雪豹の“眩光雪(げんこうせつ)”だよ」

「シロの“眩光雪”…………?」

 思わずといった体で呟いた私に、シロの銀の瞳はやんわりと笑みを含ませながら、綺麗に弧を描いた。

「えぇ、簡単にいうならばこの中を私の光魔法で満たしています。もちろん雪の冷たさなど一切感じませんから、安心してお入りくださいね」

「お入りください……って、言われても……」

 私の視線はシロとアリオトと、そして箱の間を何度も往復してしまう。

 シロを信用していないわけではない。もちろん守護獣として絶対的信頼をおいている。

 それにその箱を得意げに手にしてるアリオトに対してだって、今は私たちを裏切ることはないだろうという楽観的とも言える信頼はある。その言動に多少の胡散臭さはあったとしてもだ。

 それでも、シロの言葉の意味を推し量りつつ、四巡ほど視線を往復させて、私は途方に暮れたように眉を下げた。

 お入りくださいと笑顔で示される箱は十二センチほどの立方体。考えるまでもなく、物理的に人間一人が入れる大きさではない。

 いや、実際アリオトはこの箱のからくり版を己の転移道具として使っていたのだから問題はないはずよ……………と、柔軟な思考が働くけれど、でもあれは自分の影と箱の中の“晦冥海”を繋いでいたのであって、そもそも箱を開けて直接入ったわけではないわ……………と、現実的な思考がすぐに上書きしてしまう。

 それに出る時だって、これはお兄様が使った時に見ただけだけど、まず先に開いた箱から“晦冥海”がドロリと漏れ出てきて、その“晦冥海”からお兄様の身体が浮き上がってきた。つまり、箱から直接お兄様自身が窮屈そうに出てきたわけではない。

 そんな私の困惑が伝播したからなのか、それとも考えることは皆同じだったからなのか、トゥレイス殿下やレグルス様たちもまた、アリオトの掌にちょこんと載る箱をどこか胡乱げに見つめている。

 中にあるものがいくら安心できるものであったとしても、そこに入れなければ何の意味もない。

 幻獣であるシャムなら問題なく入れるかもしれないけれど、私たちが自分の足のサイズよりも小さな箱に入るためにはまず、自身を魔法で小さくする必要がある。アカにしたって仔炎狼ならともなく、掌サイズはさすがに無理があるだろう。もしできるとしたら、それはそれで私のモフ欲が箱に突入するよりも前に、限界突破してしまうのだけれど。

 というか、いくら魔法ありきの世界とはいえ、前世の未来型ロボットの便利道具よろしく、小さくなれる魔法がおいそれとあるとも思えない。

 しかし、ここは時間もないことだし………と、シロとアリオトを信じて、当たって砕けろな精神で箱に突入するしかないと腹を括る。いや、当たって砕けろなどと考えている時点で、シロとアリオトには失礼極まりない話だとは思うけれど、如何せん、突入すべき箱が身体に見合ったサイズには見えない以上、こればっかりは致し方ない。

 覚悟は決まった。あとは入るだけ。

 でもこの場合、てくてくと歩いて近づき「失礼します」と頭を突っ込めばいいのか、勢いをつけたまま飛び込むようにして入ればいいのか、これまた悩む。

 固めた決意とは裏腹に、どうにも二の足を踏んでいる私たちを見て、アリオトは「あぁ~~~~」と指で頬を掻いた。そして「これは口で説明するより見てもらった方が早いな」と言い残し、箱を手にしたままずぶずぶと自分の影に沈んでいく。

「ちょっ………アリオト、待って!一体どこへ……」

 しかしそれもほんの五秒ほどのこと。

 驚きと焦燥で開けた口を閉じる前に、アリオトが床に残していった自身の影から浮上してきた。しかも、箱を持つ反対側の手で、トゥレイス殿下の護衛騎士の腕をしっかりと掴んでいる。

 なるほど。トゥレイス殿下同様、以前アリオトの影に沈んだことがあるのだろう。

 運悪くアリオトとの繋がりを持ってしまったがゆえに、別室で休んでいたところをあっさりと連れて来られたトゥレイス殿下の護衛騎士は、拉致同然の状況にもかかわらず未だ眠ったままだった。

 それというのも…………

「ねぇ、“言霊”の能力者くん。『眠れ』って“言霊”を解除してくれるかな?その代わりに今度は箱の前に立って、箱の上部に手を置くように“言霊”で命じてくれる?」 

 アリオトの頼みを受け、シェアトは怪訝な表情をしながらも、一先ず「()()()」と、“言霊”をかけた。直後、目を覚ました護衛騎士は、暗い灰みのエバーグリーンの瞳を薄っすらと開け、ぼんやりとする意識を覚醒させるようにセピア色の癖毛にさらに寝癖を絡ませながら二度三度と頭を横に振った。でもすぐに、自分の腕が誰かに掴まれていることに気づき、その手を辿るようにして視線を上げる。そしてその先で、自分を見下ろすアリオトと目が合い、ギョッと目を瞠った。けれど、次の瞬間――――――


「“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 新たに発せられた“言霊”に、護衛騎士は急にアリオトから興味を失ったかように目を逸らすと、そのままふらりと立ち上がった。と同時にアリオトから解かれた腕。

 自由を得た護衛騎士は、自分が守るべき対象であるトゥレイス殿下に目もくれず、ただアリオトの手の上に鎮座する箱だけを一心に見つめ、ふらふらと身体を左右に振らしながらアリオトの前に立った。そして身体が、腕が、箱の引力に抗えないとばかりに、箱の上に手を載せた。それをアリオトの隣で黙して見つめていたシロが、突然短い詠唱を口にする。


「吹き込め!光雪華(こうせっか)‼」


 紡がれた詠唱とともと舞い上がる風吹。

 その風吹は、キラキラと淡い光を放ちながら護衛騎士の悲鳴を押し潰したかのような呻き声と一緒に、そのがっしりした体躯までも瞬く間に呑み込んだ。

 ぐるぐると雪を纏う激しい廻風が巻き起こす扇風に、はらはらと食堂内に雪華が舞う。

 眼前の猛烈な廻風さえなければ、それは幻想的な光景にも思えただろう。しかしその雪華の中、唖然呆然と立ち竦む私たちの前で、ギュンギュンと音を立てて渦を巻く廻風は、護衛騎士の手が置かれていた箱上部へと、まるで電気ドリルのように突き刺さっていく。

 それは幻想には程遠い光景。

 なんなら、戦慄さえ覚える光景だ。

 そして強引に箱の中へと押し入った廻風は、ふわりと舞う雪華だけを残して、護衛騎士ごと消えた。


「……………………」 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」  

 

 えぇっ………と、もしかしなくても………

 これを私たちにやってのけろとおっしゃる?


「勘弁するにゃぁぁぁぁぁぁ―――――ッ‼」


 うん、シャムに一票だ。

 いや、シャムは幻獣だから、そこは問題ないのでは?

 とも思わなくないけれど、ここは私たちの代弁者として、清き一票を投じておく。

 とはいえ、今は迷う時間さえ惜しい。それにシロとアリオトの得意げな表情から、今のこれは大成功だったということが察するまでもなくわかる。

 つまり、やるしかないわけで………………

 でも精神衛生上、念のために聞いておく。

「あの…………今の護衛騎士様は五体満足で箱の中へ?」

 するとシロは少し拗ねた口調となった。

「当然です。私はユフィの守護獣ですよ。たとえ髪の毛一本たりともユフィを傷つけるようなモノを、アリオトにも、ローにも、この私が作らせるわけがありません」

 いやいやいや、アリオトよりも、ロー様よりも、シロの魔法がよっぽど危険に見えたのだけれど………という言葉は賢明にも呑み込んでおく。

 しかしそこで、ようやくすべてが腑に落ちたとばかりにアカが口を開いた。

「そういうことか。ローがシャウラのために作った魔力吸収の魔道具と、アリオトの転移のためのからくり魔道具の仕組みをまんま使ったんだな。つまり、箱に触れた人間の魔力を吸収するだけだったモノを、触れた人間丸ごと吸収できるように改造したと…………」

「おやおや、駄犬は卒業して、ようやく狼になれたようですね。まぁ、相変わらず頭に馬鹿は付きますが」

「あぁ?」

「いやいや、これでも褒めているんですよ。考え方も仕組みも合っています。たださすがにあの短時間で、人間丸ごとを瑕疵なく箱に吸収できるようにするには無理がありました。そこで私の“光雪華”を使い、肉体を一時的に光と雪の結晶に替えて、“眩光雪”で満たした箱の中に閉じ込めることにしたのです。そういえばシャムは、途中でセイリオスが気になると言って帰ってしまったので、肝心なところを見ていませんでしたね」

 シロの言葉に、「うにゃぁぁぁぁ、大事なとこ見逃したにゃん!」と、シャムが垂れ耳を両手で引っ張りながら悔しがり、シロは何故か満足そうな顔となった。

「ちなみに、私の“光雪華”は光魔法と水魔法の融合なので人間の身体にも優しく、さらに“眩光雪”は純然たる光魔法なので、魔力回復も担っております。アリオトが影転移でこの箱ごとお運びした後は、五体満足、魔力回復完了済で私が責任を持って箱から出して差し上げますから、どうぞ大船に乗った気でいてください。もちろんローで何度も試してみたので、万が一の失敗もございません」


 あれを何度も…………

 ロー様……なんて不憫な………………


 しかしここで私たちがロー様のまさしく身体を張った献身に応えなれば、ロー様が報われない。

 そう、私たちの気持ちはまた一つとなった。

 ロー様の死……もとい、偲ばれる苦労を決して無駄にはしないと。

 

 けれどここにきて、また新たな難問が立ち塞がる――――――


「ユフィちゃん、お手をどうぞ」

「ユフィ、オレの手を握れ」

「ユーフィリナ嬢、どうか私の手を」

「いえ、ユーフィリナ嬢、ここは私の手を」

「ユーフィリナ嬢、私が貴女を導きましょう」

「んにゃ!ユフィのことはシャムが守るにゃ!」

 

 矢継ぎ早に差し出された紳士たちの手と、ウサギの真ん丸な手というか前足。

 なにこれ……と、箱に入る前に気が遠のきそうになる。


 もちろん公爵令嬢としては、あって然るべき光景。

 しかし、前世の記憶がある私にとっては、人間国宝級の隠密スキル発動で、今すぐ逃げ出したくなる光景だ。

 モフ欲全開にしていいなら、間違いなく一択なのだけれど………


 この難問を前に、私は再びへにょりと眉を下げた。

こんにちは

星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


さて今回はひたすら魔道具のお話でした。

もちろんこの魔道具、今後も出てくる予定です。

そりゃせっかく作ったんですからね。

ロー様の涙ぐましい尽力もあって……

まぁどこでどんなふうに出てくるかは、またのお楽しみでございます。


ということで次回は、

デオテラ神聖国に突入です!



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。



新しい作品も細々と連載中です。

どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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