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解毒薬を求めてデオテラ神聖国へ行ってきます(9)

 再び始まったお茶会ならぬ作戦会議。

 座リ直した場所は先程と皆同じ(シャムの席は、シャムの希望で私のすぐ斜め後ろに設けられた)。

 しかし、やる気というか、積極性というか、先程とは雲泥の差だ。

 特に末席に座るトゥレイス殿下の。

 何なら、アリオト主催で行われていたお茶会の進行係を、自ら進んで買って出たかのように意欲的である。

 あれほど無表情で、まるで置物の如く我関せずとばかりに座っていたというのに、人間変われば変わるものである。

 本人曰く、これが地らしいけれど、その劇的ビフォーアフターにこちらの気持ちやら、思考やらがのほうが正直追いつかない。

 なんせ、永久凍土の融解。

 その衝撃たるや計り知れない。

 といっても、その格好が寝着であることは相変わらずだけれども。


「それでは、まずは物理的な距離の問題からどうにかしようか。隣国といっても、王都から片道一週間の道のりだ。馬を飛ばしても四日ないし五日はかかる。それを往復となると、それでは到底間に合わないだろう?しかし貴国には、転移魔法陣があると噂で聞いたことがある。それを使うことはできないだろうか」

 トゥレイス殿下から早速なされた問題提起。

 それに対して、デウザビット王国側の面々はう~ん……と唸り声を漏らした。

 そして、転移魔法陣の無断…………いや、一応許可は取っているので(その許可の取り方に問題しかないのだけど)、こじつけ強行使用前科二犯であるお父様が徐ろに口を開く。

「その噂の出処が気になるところではございますが、まぁ今は問わないことにしましょう。確かにこの王城には転移魔法陣があります。しかしここにある転移魔法陣を使ったとしても、デオテラ神聖国に一番近い転移先は北の公爵領です。そこからデオテラ神聖国ま片道五日の距離。単騎で飛ばしても二日ないし三日。正直、帰路はそれで構わないでしょうが、第二王子であるトゥレイス殿下が帰国するあたってそれはさすがに不味いでしょう。留学中の一時帰国にしろ、それなりの体裁を整えて帰国をしていただかなければ、かえって怪しまれる恐れがあります」

 そしてそれに賛同するのは現王の右腕であり、シェアトのお父様、東の公爵だ。

「その通りです。トゥレイス殿下の護衛騎士殿にも、ご一緒していただく流れになるのは仕方がないこととして、我々としては殿下の帰国の真の目的を護衛騎士殿に話すのは正直憚られます。できるたけ内密に事を運びたいというのが本音です。そのためには、ご帰国に際してのご尤もな理由が必要となってくるわけですが…………」

 確かにその通りだ。

 まかり間違っても、宝物庫にある解毒薬をこっそり頂戴するための一時帰国です――――――とは、口が裂けても言えない。

 トゥレイス殿下付きの護衛騎士がどれだけ信用に足る人物だったとしてもだ。

 そんな東の公爵の意見に対し、トゥレイス殿下もまた頷いた。

「あの者は、人としては悪い者ではないが、デオテラ神聖国がつけた…………いや、正確に言えば、兄上が私を見張るためにつけた者だ。私が命じられた通り、“神の娘”の生まれ変わりを探しているかどうか確認するためのな。当然、帰国に際してはそれなりの理由が必要となる。だが、それに関しては私が考えがあるから心配しなくていい。こういったことは慣れている」

 

 慣れている――――――――


 その言葉に凝縮されてしまったトゥレイス殿下のデオテラ神聖国での立場や、扱われ方、生き様が透けて見えたような気がして、無性に胸が痛くなる。

 烏滸がましいけれど、トゥレイス殿下もまた、心から笑えるようにしてあげたいと思ってしまう。

 でも――――――――と、私は内心で首を横に振った。

 私は“神の娘”の生まれ変わりかもしれないけれど、所詮公爵令嬢だ。他国の問題に首を突っ込めるような立場ではない。

 それに今、最も優先させるべきことは、お兄様とスハイル殿下のことであって、トゥレイス殿下のことやデオテラ神聖国のお家事情ではない。

 元々お兄様のように、器用にできていない私だ。それ以外の事を考える時間的余裕も精神的余裕もない。

 むしろ、下手な同情は失礼だと、自分を戒めるように唇を噛み締める。


 それにきっと――――――


 なんとなく正解だと思われるモノを、回らない頭で自分なりに引っ張り出す。

 それは勘と言えるようなモノではあるけれど、私はそれに付き従うことに決めた。

 あとはそれを口にするタイミングなのだけれど…………

 丁度そこに、東の公爵の声が耳に届く。 

「…………わかりました。それにつきましてはトゥレイス殿下にお任せしましょう。隣国であり、かつては同じ国であったデオテラ神聖国ですが、千年近く国交がありませんでしたからね。我々にとっては、どれだけ近くとも見知らぬ他国でしかありません。一度訪問させて頂いたスハイル殿下なら事情を察することもできましょうが、今はそれも叶いませんし……ここはトゥレイス殿下に直接渡り合ってもらうしかありません」

 そう東の公爵が慎重に言葉を選びつつ答えると、トゥレイス殿下はあっさりと頷いた。そして忽ち話を戻す。

「私が帰国する理由はそれなりのモノを用意するとして、問題は先程も言ったように物理的問題、移動にかかる時間だ。転移魔法陣を使ったとしても、間に合わないのなら正直打つ手はないぞ」

 そう言いながら、トゥレイス殿下の視線は何故かアリオトへと流れていく。

 その後を追うように、私たちの視線も自然とアリオトへと流れれば、アリオトは人懐っこい笑みを浮かべながら頬杖をついていた。

「あれれ?どうして皆してボクを見るのかな?まさか、ボクに期待しちゃってるとか?確かにボクは優秀だし?影を使って転移はできるけどね。でも残念ながら、ボク自身の影を落とした場所、もしくは繋げておいた場所にしか転移できないよ。あぁ、知ってる人はもう知っているとは思うけどさ」 

 アリオトの口から出てくる言葉はどう聞いても否定の言葉。にもかかわらず、そこにはそこはかとなく希望の音色が混じっているように思えるのは、私たちの勝手な期待が生んだ幻聴なのだろうか。

 そこで、わずかな希望に縋るようにアリオトの顔を見つめ続ければ、人懐っこい笑みに別の笑みがじわりじわりと滲んでいく。

「まったく、君たちはボクのこと信用しすぎじゃないかな?っていうか、こき使う気満々って感じ?でも、いいよ。仕方ないから今はユフィのために手を貸してあげる。元々そのつもりだったし、デオテラ神聖国にも、ボクの影と繋がる場所は一応あるからね」

 勿体振った口調でそう話したアリオトの顔には悪戯な笑み。

 本当に素直じゃない。いや、ある意味“魔の者”として、自分の本能に忠実で、素直すぎるというべきか。

 けれど、今の私たちにとっては頼もしき存在だ。これまた現金なことに。

「だったら、北の公爵領までは王城の転移魔法陣を使うこととして、そこを拠点に、アリオトの影による転移でデオテラ神聖国に入ることにしよう。その際にトゥレイス殿下の護衛騎士殿には“言霊”と“忘却”をかける。本当は“幻惑”をかければ手っ取り早いのだが、今の私にはもうその能力はないからな。東と北の公爵、それで構わないか?」

 そう話を纏め上げたのは南の公爵であるお父様だ。

 それに対し、北の公爵が口を開いた。もちろんそこに愛息であるレグルス様さえ絡まなければ、至って優秀な公爵の一人として。

「構わない。いくらでもうちの領地を拠点として使ってくれ。しかしそうなると、デオテラ神聖国に行くメンバーは、トゥレイス殿下と護衛騎士殿は当然として、現“言霊”と“忘却”の能力者であるシェアトとサルガスは決まりだな。そしてうちの領地を拠点とするなら、私かレグルスかのどちらかが行くべきだろう」

「だったら、俺が行きます!」

 北の公爵の言葉に被せるように、レグルス様が間髪入れず立候補する。それに対して、「レグルスぅ!」と叫び、北の公爵はキラキラと目を輝かせながらその場に立ち上がった。そして何故かテーブルという障害物があるにもかかわらず、レグルス様に抱擁を求めるように両手を広げたけれど、隣に座るお父様がそれを一撃で阻止した。というか、沈めた。

 魔法でもなく、「座れ」と命じるのでもなく、鳩尾に拳を入れるという物理的な方法で。

 一瞬で、下腹を押さえながら席に座り直した…………というより、崩れ落ちた北の公爵――――――自分の父親を呆れた目で見つつ、レグルス様が続ける。

「今回は俺の“読心”の能力も必要となってくるでしょう。トゥレイス殿下の話によれば、鍵を管理しているのは第一王子殿下です。つまり、第一王子殿下に鍵の所在を確認しなければなりませんが、快く教えてくれるとはとても思えません。だとしたら、“読む”しかない」

「確かに、レグルスの言う通りだ。ならば、レグルスの参加は必然だな。しかしこうなると、我が国の現能力者がほぼ全員となるのだが………」

 眉間に皺を寄せ顎を擦り擦り、東の公爵が“光結晶”の中のお兄様を見やりながら、苦渋を滲ませた。

 やむを得ないと理解しつつも、現王の右腕としては非常に頭の痛い話だと思う。そんな顔になるのも無理はない。

 スハイル殿下とお兄様を守り、尚且つ、消えた解毒薬の行方を追うには、現能力者不在では何とも心許ない。たとえそこに旧能力者であるお父様たちが残っていようともだ。

 しかしここで、予想外にもシャムが口を挟む。

「スハイルはわからにゃいけど、“光結晶”の中にいるセイリオスの守りは完璧にゃ!だから、“魔の者”が来たって今のセイリオスならこれ以上害されることはにゃいにゃ!問題は時間だけにゃ!それにセイリオスはいざとなったらシャムが守るにゃ!」

 そういえばお兄様も言っていた。“光結晶”の守りは鉄壁だと。

 だからこそ、魔力のほぼ枯渇している私に、“光結晶”だけは使えるようにとお兄様は教えてくれたのだろう。おまじないと称して、毎日転移魔法陣まで刻み込んで。

 今頃それがこんな形で骨身に沁みて理解できるなんて…………と、項垂れる。

 しかし、今はそんな感傷に浸ってる場合ではないと、聞こえてきたアリオトの声に顔を上げた。

「ダメだよ、ウサギ。お前はデオテラ遠征組だ」

「なんでにゃ!嫌だにゃ!シャムはセイリオスの傍から離れにゃいにゃ!」

 ブンブンと長い耳を自分の頬に打ち付ける勢いで、頭を横に振るシャム。斜め前に座る私にもその耳は容赦なく襲ってきて、私のハーフアップされた長い髪にペシペシと当たる。もちろん痛くも痒くもないけれど、髪はシャムの耳に弄ばれ奔放に乱れていく。

 とはいえ、モフモフ依存症の私にとしては、この駄々っ子のような拒絶もただただ可愛いだけだし、主であるお兄様の傍から離れたくないシャムの気持ちも痛いほどわかる。

 何ならこのまま抱き締めて、ヨシヨシと慰めてあげたい。

 決して私はこんなところでモフりたいわけではないのよ。これは可哀想なシャムを思ってのことなのよ。

 ――――――などと言い訳じみたことを考えつつ、わなわなとシャムへと手が伸びていく。

 しかし、私の手がシャムに届く前に、容赦ない声と手がシャムの動きを止めた。

「こら、ユフィに当たってる」

「え、えええ炎狼、痛いにゃ!指圧凄すぎだにゃ!シャムの頭が割れてしまうにゃ!」

「だったら、耳を振り回すな。ユフィが怪我をしたらどうするんだ」

「ユフィが怪我するのは嫌にゃ!でもセイリオスから離れるのも嫌にゃ!」

 私は大丈夫よ。っていうか、これくらいで怪我なんてしないわよ……と、言いかけて私の口はパタリと止まった。

 なぜならアカに左手で頭を鷲掴みされたシャムが、今度は大きな真っ赤な瞳をうるうるさせて、懇願するようにこちらを見つめてきたからだ。

 この瞳に勝てるわけがない。

 もしそんな人がこの世にいるなら今すぐ連れてきてほしい。

 なんてことを、内心で悶えながら考えていると、その強者はあっさりと現れた。

「ウサギ、それ以上駄々をこねると、消すよ」

「嫌にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」

 アリオトの容赦ない台詞に、シャムはすかさず頭を横に振ろうとするけれど、アカが頭を鷲掴んでいるせいでそれもできず、拒絶の声を張り上げながら、涙をポロポロと零す。

 おかげで私の庇護欲やら、モフ欲やらの限界突破待ったなしだ。

「シャ、シャム、泣かないで。アカも、いい加減手を離してあげて。私は大丈夫だから。ねっ。それよりアリオト、どうしてもシャムを連れて行かなきゃ駄目なの?」

 オロオロとしながら、アカに手を離すように告げ、アリオトに確認すべく声をかけると、アリオトからため息混じりに返される。

「ウサギが主を助けたいと思っているなら、尚更だね。そのウサギは魔獣の中でも希少な幻獣だ。姿も消せるし、壁だろうが、結界だろうが、難なくすり抜けられる。どう考えても今回の件に適任だし、本来ならウサギ一匹で十分事足りるんだよ。デオテラ神聖国とやらにある宝物庫にだって鍵なしで入れるしね。でもさ、後でバレた時が大変だろ?ウサギの首一つ差し出すだけで済むんならいいけどさ」

「シャムの首は誰にも渡さにゃいにゃ!」

 そうすかさず噛みついたシャムに、「ウサギ、うるさい」と、うんざりしたように文句を垂れて、アリオトが続ける。

「それに今回の一件には、フィラウティアが暗躍している。そうなるとさすがにウサギ一匹じゃ罠を張られた時どうしようもないだろう?だからボクたちが()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 えっ?そうにゃの?

 という顔となったシャムに、「シャム、騙されては駄目よ」と、言いかけて、私は卑怯にもその台詞を呑み込んだ。

 ここは心を鬼にしてでも、是非ともシャムにはデオテラ遠征組に加わってもらいたい。

 お兄様とずっと一緒にいたいというシャムの気持ちはわかるけれども、解毒薬を手に入れられなければ、それこそその想いも叶わなくなる。

 それに――――――――

「シャム、私もデオテラ神聖国に行くつもりよ。だからシャムが一緒に行ってくれると心強いわ」

 そう告げてニッコリと笑えば、シャムの顔にはわかりやすく喜色が広がった。けれど、それ以外のあらゆる方向から、反対の声が一斉に立ち上がる。

「ユーフィリナ嬢、それは駄目だ!危険すぎる!」

「シェアトの言う通りだ!君こそセイリオス殿の傍にいるべきだ!」

「そうだよ、ユフィちゃん。君に何かあったら、俺たちがセイリオスに殺されちゃうからね。たぶん呪ってでも」

「ユーフィリナ、お前の父親としてそれは許可できない。ここは皆に任せておきなさい」

「ユフィ、諦めろ」

「貴女は私たちと一緒にお留守番です」

 最終的にアカやシロにまで止められて、多数決ならばこの時点で私は完全に居残り組決定だ。

 しかし私は、はじめから行くつもりでいた。皆の話を聞きながら、名乗りを上げるタイミングを見計らっていただけで、私の中では既に決定事項だった。

 まぁ、そのタイミングを思いっきり見誤った気はしないでもないけれど。

 だとしてもだ。私はずっと何かに追い立てられるかのように、デオテラ神聖国に行かなければいけないという気持ちに駆られていた。

 それはある種の使命感、もしくは、絶対的な予感といえるもので、行かなければ絶対に後悔すると、私の直感が告げていた。

 それに――――――と、先程導き出した私なりの正解の答え合わせをすべく、反対の声を上げなかったトゥレイス殿下へと話を振る。

「でも、トゥレイス殿下は私の存在を帰国理由にしようと考えていらっしゃいますよね」

 それは“読心”の能力がなくてもわかること。

 そもそもデオテラ神聖国は“神の娘”の生まれ変わりを探し出すために、トゥレイス殿下をデウザビット王国に留学させた。

 つまり、私を見つけた時点で、トゥレイス殿下の目的は達成されたことになり、それは帰国理由に大いになり得るのだ。

 それも、立派な凱旋帰国だと言ってもいい。

 おそらく…………いや、十中八九トゥレイス殿下はそれを理由に帰国するつもりだったはずだ。

 敢えてそれを口にしなかったのは、忽ちお父様たちの反対に遭うと踏んだからだろう。

 そうでしょ?とばかりに、シロの向こう側に腰掛けるトゥレイス殿下を、前のめりとなって覗き見れば、トゥレイス殿下は人並みに動くようになった表情筋で、困り顔となった。

「ユーフィリナ嬢、君の言う通りだ。私はそれを理由に一時帰国するつもりだった。“神の娘”の生まれ変わりと思しき少女が見つかったと言ってね。しかし、君を連れて行こうとまでは思っていなかったよ。下手に連れ帰って、国を砂地にはしたくないし、ようやく見つけた大事な君を、兄上には絶対に見せたくないからね」

 最後の方は妙に拗ねたような口調となっていたけれど、どうやらトゥレイス殿下は、女性にだらしない第一王子殿下から私を守ってくれるつもりだったらしい。

 もちろん、国の砂地化も。 

 けれど、手ぶらで帰るよりも、証拠を引っ提げて帰国したほうが断然いいはずだと食い下がってみる。

「こういう事は論より証拠。実際に本人を連れて行った方が説得力が増すはずです。といっても、魔力は枯渇寸前で、“神の娘”としての能力も、具体的には何一つわからないので、何かをしてみせろと言われても、そこは困ってしまうのですが………で、でも、見た目も地味で冱えない公爵令嬢ですし、それこそ傍に立っていても気づかれないほどに存在感も薄いですから、第一王子殿下だって見向きもしませんよ!」

 自信満々に懸念事項の一つをきっぱりはっきり否定してみせれば、何故か重すぎるため息を息もピッタリに全員同時で吐かれた。それもシャムにまで。

 これこそ息が合うと言うのかもしれないけれど、私としてはまったくもって解せない。

 しかし、ここで引く気は毛頭ない。

 だから今度は、自分の必要性について説いてみる。

「そ、それに、“言霊”や“忘却”や“読心”が必要となるように、私の“神の娘”の生まれ変わりとしての能力も、必要になると思うんです。なんとなくですが、そんな気がするんです。ですから、私も行きます。必ず無事にここへ帰ってきます。だからお父様、そして東と北の公爵様も、どうか私にデオテラ神聖国へ行く許可をくださいませ」

 私はその場で立ち上がり、深々と頭を下げた。

 けれど、お父様たちはただただ唸るばかりで、何も返してくれない。

 やはり行かせたくはないという気持ちが勝るのだろう。

 先程吐き出されたため息と心痛による沈黙が重なって、より一層重くなる空気。

 

 やはり言うタイミングを間違えたかもしれない………

 

 そんな後悔をするも、今更口に出したモノは呑み込めない。

 さて、どうやって説得しよう……と、立ち上がったまま一人思い倦ねていると、ここで思わぬ援軍がその重すぎる空気を蹴散らした。

「いいんじゃない?ユフィも連れていけば」

「アリオト!無責任なことを言うな!」

 レグルス様の怒声にも、アリオトは怯むことなく飄々と続ける。 

「いやいや、“読心”の能力者なら、ユフィの気持ちは嫌っていうほどわかってるでしょ?にもかかわらず、お留守番してろって言うほうが酷くない?」

「ッ!」

 痛いところを突かれたからか、レグルス様が忌ま忌ましそうにアリオトを睨みつけながらも口を噤む。

 その隙とばかりに、アリオトはさらに言葉を並び立てた。

「それにさ、さっきも言ったけど、相手はあの面倒くさいフィラウティアだ。ボクがユフィに一時的にとはいえ、すべての闇を消されたように、フィラウティアにとってもユフィは天敵なんだよ。だからこそ、躍起になって殺そうとする。考え得る限りの絶望に突き落とした後でね。つまりユフィは、フィラウティアの標的でもあると同時に、フィラウティアにとっての脅威でもあるってことなんだよ。だいたいさ、動ける現能力者は全員デオテラ遠征組だし、ユフィが行くとなれば守護獣二匹もくっ付いて来るだろう?どう考えても、ここにいるより安全だね」

 アリオトの意見は至極尤もに思われた。

 正直、私の味方が“魔の者”であるアリオトであることに、なんとも複雑な心境となるけれど、そのアリオトのおかげで幾分か追い風となった気がする。

 とはいえ、依然として平行線。

 どうにも心配が先に立つようで、決断を渋るように、皆して口を閉ざしてしまう。

 そんな私たちをやれやれと見やって、アリオトは呆れたように肩を竦めてみせた。

「別にさ、今すぐ結論を出さなくてもいいんじゃないの?それなりに準備の時間もいることだしさ。ってことで魔道具師くん、仕事だよ。早速魔道具を作ってくれないかな。箱を二つ。大急ぎでね」

「……なっ……注文って…………いや、えっと…………箱?それも二つ?」


 不意をつくように為された注文。

 ロー様は驚愕と困惑で目を瞠り、私たちはただただ唖然とする。

 

 そんな私たちを前に置いて、アリオトは愉快そうに一人目を細めた。

 

 

 

  


 

 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


遅くなりました。

というか、最近不定期投稿ですみません。

でもとにかく投稿です。


さて、今回はただただ作戦会議でした。

次回は、デオテラ神聖国へ向けて出発………の前に、あることをユフィが試します。




恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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