解毒薬を求めてデオテラ神聖国へ行ってきます(6)
「と、とにかく今はアリオトの相手をしている場合じゃにゃいにゃ!そんなことより今は毒の話にゃ!セイリオスを噛んだ毒蜘蛛を調べたら、王家が“先見”の儀式の時に使う毒と同じだったにゃ!」
再び地団太を踏みながら、ワタワタと報告を始めたシャムの言葉に、皆一瞬、時を止めたかように固まった。
耳で聞いた言葉の意味を理解できても、なかなか巧く呑み込めないといった感じだ。
一人他国の人間であるトゥレイス殿下も、無表情のまま考え込んでいる。
しかしその中で、アリオトが「やっぱりね」と呟き、それに答えるようにアカが「最悪だな」と天を仰ぐと、シロもまた「よりもよってですか」と項垂れた。
今この場でしっかりと状況把握ができているのは“魔の者”と守護獣二人と、魔獣であるシャムだけで、人間組は綺麗に置いてきぼりを喰らっている有様だ。
そこに人間組代表として、「ちょっと待って!」とレグルス様が思わずといった体で立ち上がった。それにすかさず「レグルス落ち着け!」と声をかけたのは、北の公爵――――レグルス樣のお父様だ。
レグルス様はその声にすぐさま振り返ると、北の公爵に向かって遠慮もなく言い放つ。
「俺は落ち着いています!こんなお茶会紛いなことをしておいて、今更慌てるも何もないでしょう!しかし、今の内容は聞き捨てなりません!シャムの言葉が事実ならば、儀式で使われる毒が、セイリオスを噛んだ蜘蛛に仕込まれていたということになります!そしてその毒は門外不出であるにもかかわらず、現在解毒薬ともに行方不明です!つまり、セイリオスの解毒薬もまた、敵の手中にある可能性が高いということになります!俺はシャムを信じていますが、確認は必要です!」
北の公爵はレグルス樣の勢いに一瞬目を瞠ったけれど、何故か怒り出すでもなく、むしろ眩しいものを見るようにうっとりと目を細めた。とういか、涙ぐんだ。いや、一瞬で泣き出し、鼻水まで垂らしている。そして、ぐしぐしと泣き濡れながら、嗚咽混じりに告げてくる。
「レ、レグルスが…………うちの息子が……いつの間にここまで立派に…………屋敷ではどこか冷めた感じで、私の相手さえろくにしてくれないというのに…………あぁ、父は嬉しいぞ。今すぐ抱きしめてもいいか?」
「父上!こんな時にその構いたがりを出してこないでください!っていうか、永遠に封印する方向でお願いします!」
「そんな……永遠は無理だよ。うちの息子が、こんなに可愛いくて、誇らしくて、仕方ないのに」
「ち・ち・う・え。永遠に封印してください!直ちに!」
「うぅ…わかったよ。暫くは状況が状況だし、あくまでも期間限定でそうしておくよ。それにしても……うちのレグルスは照れ屋さんだなぁ。ま、そこも私にとっては、可愛いところなんだけどね」
まさかまさかの北の公爵のデレデレキャラに、私たち息子娘世代は呆けたように見つめ、お父様たち同年代はそれはそれはどんよりとしたため息を吐いた。
どうやらお父様たちにとって、この北の公爵のデレデレの溺愛パパキャラは周知の事実だったらしい。
その重すぎるため息から察するに、持病の発動…………いや、この場面での通常運転に頭痛がするといった感じかもしれない。
ちなみに、北の公爵の容姿はレグルス樣と同じチャコールグレーの髪にペリドットの瞳を持ち、背もすらっと高く、見目も非常に整っており、とても若々しく見える。
ただレグルス樣がどこか少年ぽさが残る顔立ちであるに対し、北の公爵は感情の起伏が少ないクールな紳士といった感じなのだけど、その印象も今やガタガタと音を立てて崩壊した。
もはや跡形もない。
人は見かけによらないという典型的な例だと、この目に、記憶に、しっかりと刻むことにする。
人生如何なる場も学び舎だ。
そんな私たちに向かって、「うちの父が大変失礼した」と、これまたお兄様たちに空気を読まないと定評のあるレグルス樣が、即座に空気を読んで謝罪の言葉を口にした。というか、一々読むまでもなかったのかもしれない。
仄かにレグルス様の顔が赤く見えるのは、羞恥半分、苛立ち半分といったところだろうか。
そんなレグルス樣を眺めて、またもや北の公爵が感極まったように口を開きかけたけれど、そこは隣に座っていたお父様が押さえつけた。一睨みでもなく、魔法でもなく、手で口を押さえるという物理的な方法で。
それを尻目にレグルス樣が一度首を横に振ってから続ける。
「お見苦しいところを、お見せいたしました。それで早速、話を戻しますが、もしシャムの話が真実ならば、王家だけに伝わる毒だろうと、その毒が如何なるものなのか知る必要があります。具体的にその毒がどのような毒で、二人の身体はどれだけ持つのか。解毒薬はすぐに作れるのか。スハイル…………いえ、スハイル殿下とセイリオスの命がかかっているのです!王家だけの秘密だろうが、父上たちにも即時情報の開示を求めます!」
いつもどこか飄々としているレグルス樣にしては珍しく、随分な熱量でそこまで一気に捲し立てた。
それに答えたのは、現在“王の右腕”である東の公爵――――シェアトのお父様である。
「確かに、レグルスの言う通りだと思う。今は知っている情報はすべて詳らかにするべきだ。しかし残念ながら、毒と解毒薬については宰相である私たちもよく知らないのだよ。ただ“先見”の能力者を試すための毒であり、もし顕現した“先見”の能力者が本物であるならば、たとえその毒を口にしたとしても三日間という儀式を堪え切り、決して死ぬことはない――――――と、そう聞かされているだけだ」
東の公爵の言葉に、お父様も、口を塞がれたままの北の公爵も頷いた。
しかしそこには、根本的な謎がある。
「だったら、その毒は誰が作っているというのですか?代々の“先見”の能力者がそれを飲んできたのだとしたら、毒と解毒薬は確実に減っていくはずです!」
レグルス様の言う通りだった。
飲めば減る。湧き水でもない限り勝手に増えることはない。自然の摂理である。
なのに、お父様たちは首を横に振った。
「確かに飲めば減る。だが、次の“先見”の能力者が顕現するまでの間に、二つの小瓶は毒と解毒薬で自ずと満たされるのだ。実際に私と北の公爵は現国王陛下の“先見”の能力の顕現の際に、“王の両腕”としてその儀式に立ち会っている。その時にも小瓶は毒と解毒薬で満たされていた。もちろん儀式の前に毒を作らせたなんて報告も聞いていなければ、“王の両腕”としてそんな指示を出したこともない。そして、私の記憶が正しければ、現国王陛下の儀式では小瓶の約半分の毒が使われた。東の公爵、今回の儀式の際にも、小瓶の中の毒を確かめたと思うが、小瓶の中はしっかりと満たされていたのだろう?」
そうレグルス様の問いかけに答え、さらには東の公爵に念押しするように確認したのはお父様だ。
東の公爵はその確認を受け、再び口を開く。
「あぁ、西の公爵と共に確かめた。小瓶の中は存分に満たされていたよ。そして我々もまた、毒に対して指示を与えたことは一度もない。というより、我々の認識ではそういうものだと思っていたんだ。毒と解毒薬は新たな“先見”の能力者が顕現する時期に合わせて、自然と満ちるものなのだと。だから、毒と解毒薬はそこにあって然るべきもので、毒を作らせるとか、解毒薬を用意するとか、考えたこともなかった。我々の能力と同じく、王家に伝わるこの毒と解毒薬もまた、神が姿を消す前に与えたものだろうと、そう思っていたからな」
なるほど…………と、数多ある疑問の内、ようやくその一つが腑に落ちる。
それは、ここへ連れてきてくれた時に、レグルス様が泣きそうな顔で教えてくれたことだ。
『―――――過去、“先見”を見たと嘘を吐いて次期国王になろうとした者がいたそうだ。だから、何があっても覆ることがない“先見”で見た己の未来の死を証明するために、“先見”の能力を顕現させた者は、儀式の間で王家に伝わる猛毒を飲むようになった。もちろん致死量のだよ。そして三日三晩もがき苦しみながらも生き抜くことで、己が見た“先見”は真実であり、正当なる次期後継者であることを示すんだ』
おそらく神は邪な者が出てくることを見越して、王家に“先見”の能力を与えると同時に、予め特別な毒と解毒薬入りの小瓶もまた渡していたのだろう。
当初は、こんな儀式などなかったのかもしれない。けれど、時が巡るに連れて欲深き人間が現れ、正当なる“先見”の能力者を見極めるために、この毒が使われるようになったのかもしれない。そして――――――
「今やすっかり毒を飲むことが儀式化して、毒を飲むという異常さや、毒と解毒薬が勝手に増えるなんていう非常識さに、誰も疑問さえ持たなくなっていたと…………」
ある意味、人間って浅ましくて、滑稽で、恐ろしいよね――――――と、“魔の者”であるアリオトに痛いところを的確に突かれて、誰もが反論できずに唇を噛みしめた。
そんな私たちに頓着することなく、アリオトはシャムに尋ねる。
「で、ウサギはなんで、その男の毒が儀式で使われる毒だと断定できたわけ?」
シャムはいつの間にか地団駄は止めており、その場で胸を張るように答えた。
「毒の効能を調べてみたら、すべての魔力を奪い、神経を侵す毒だとわかったにゃ」
「魔力を奪う?」
サルガス様の独り言のような問いかけを、シャムは大きな垂れ耳でしっかりと拾い取っていたらしく、「そうだにゃ」と頷いた。
「魔力を多く持つ人間は、自分自身に自然と魔力結界を張っている状態になってるにゃ。特にセイリオスは、それを自分の意思で完璧に制御しているから、どんな攻撃や毒に対しても、ある程度は対処できるにゃ。でもこの毒は、一切の魔力を先に奪うことで完全な無防備状態にしてしまうにゃ。セイリオスはそれに気づいて、すべての魔力が奪われる寸前に“光結晶”を発動して、無防備化してしまう自分を守ったにゃ。そしてこれは、王家の人間にも同じことが言えるにゃ。王家の人間は一般の人間よりも多くの魔力を持ってるから、普通の毒は効きにくいにゃ。だから、儀式にはこの毒が必要だったにゃ。そしてシャムは、如何なる毒だろうとそのサンプルを全部持ってるにゃ!それと照合したから間違いないにゃ!」
「へぇ………すごいね。でもその毒ってさ、王家だけに伝わる門外不出の毒じゃなかったけ?それをどうしてウサギが持っているのかな?」
アリオトから意地悪な笑みを向けられて、シャムは自分の失言に気づいたらしい。
折角止まっていた地団駄を再開しながら、必死に言い募ってくる。
「シャムは盗んでにゃいにゃ!シグマが持っていたにゃ!昔、王家お抱えの呪術師だった頃に、王家から何かの褒美として、少し分けてもらったって言ってたにゃ!」
シグマ…………?
はて?誰だろう…………
しかも毒が褒美って………
聞き覚えのない名前が出てきて首を傾げていると、お父様が「そういえばそうだったな…………」と、一人納得したように低く唸った。
もちろん私に、ここで聞かないという選択肢などない。
「お父様……ご存知の方ですか?」
すぐさまそう尋ねてみれば、お父様は酷く困ったような顔を私に向けた。そして躊躇いがちに口を開く。
「……シグマ殿とは、数代前の学園の学園長だった方の名前だ。そして、シャムの主だった方でもある……」
「そ、それって…………」
ここでもまたある疑問がストンと腑に落ちてきた。
それは皆同じだったようで、シェアトが驚愕を隠しきれないままに声を漏らす。
「そうか…………王子の魂はセイリオス殿の中に宿る前に、シャムの主である学園長の中にあったのか…………それで今も尚、セイリオス殿とシャムの従魔は契約は継続中なのだな。従魔契約は己の魔力………つまり、光の神より与えられし“光”を、魔獣に与えることで成立する。魔力の拠り所は神が与えし命――――すなわち魂の中にある器だと言われている。だから…………」
それはもう独り言の域を超えた、殊更丁寧なシェアトの説明に、お父様が「そうだ」と認めた。さらにその上で、捕捉するように付け加えてくる。
「ついでに言えば、シャムの話にあった王家お抱えの呪術師もまた同様だ。過去最強と謳われ、王城の転移魔法陣を確立させたあの呪術師もな」
王城の転移魔法陣って…………お父様が前科二犯の?
あぁ……だからお兄様は、転移魔法陣をいとも簡単に…………
点と点が一本の線となった瞬間だった。
それでも疑問がないわけではない。でも、今それをここで聞いていいのかもわからない。
お父様がお兄様のことをどう思っているのかわからないからこそ、それを聞くのが怖い。
もし、息子の皮を被った何か――――などと思っているのだとしたら…………
私はお父様を見つめて、へにょりと眉を下げた。
するとお父様もまた形のいい眉尻を下げて、見つめ返してくる。
その表情がお兄様ととても似ていて、不意に泣きそうになってしまう。
しかし、お父様もまた北の公爵に負けず劣らず子煩悩で、親馬鹿ならぬ馬鹿親なため、私の顔を見ただけで、簡単に私の気持ちを推し量れてしまったのだろう。
泣き顔とも笑い顔ともなりきれない、少し情けない顔で口を開く。
「セイリオスは………私の息子の魂を持っていたセイリオスは、ユーフィリナを産んで体調を崩していたアルゲティのために、領地内の森に花を摘みに行ったのだ。母の癒やしになればとそう思ったらしい…………」
お父様の言葉に、レグルス様たちが目を瞠った。しかし、誰一人としてその瞳に心痛の色を滲ませたまま何も告げず、そっと目を伏せた。
その様子に小さな違和感を感じたけれど、私の意識はお父様に向けられていて、この時の私はそれをさらりと流した。
その間にも、お父様の話は続く。
「だがセイリオスは、そのタイミングで“幻惑”の能力を顕現させてしまった。まだ三歳だったにもかかわらずだ。その暴走でセイリオス自身が己の“幻惑”に囚われ、森の奥にある崖に気づかず、落ちた…………」
私は行ったことがないけれど、領地の森にある崖は、とても高くて危険だと話に聞いたことはある。
当時、三歳だったお兄様が助かるとはとても思えない。案の定………………
「セイリオスは瀕死の状態だったらしい。いや、生きていること自体が奇跡だったとも聞く。でも生きていたからこそ、王子の魂はセイリオスの魂と己の魂を融合させたのだ。ある契約を交わした上で…………」
王子の魂であるソレは、今にも死んでしまいそうなセイリオスの魂に問いかけた。
何か望みはないかと。
もし望みがあるならば必ずそれを叶えるから、己の魂と融合させてほしいと。
そうすれば、セイリオスの肉体は助かるからと。
そしてセイリオスの魂は願った。
「家族を全力で守って、笑顔にしてくれたら、それでいい…………セイリオスは……あの子はそう告げたそうだ。そして王子の魂はその願いを聞き入れ、セイリオスの魂と融合し、まだ三歳だったセイリオスの肉体に宿った。私はその日、森から戻ってきた……王子の魂を宿したセイリオス自身に聞いた。信じられなかった。だが、セイリオスの中に宿った溢れんばかりの強大な魔力を肌で感じ、信じざるを得なかった。それでもだ。そんな……こと…………私にとっては今更だろう……?息子でないわけがない……あの“光結晶”の中のセイリオスは……間違いなく私の大事な息子なのだよ。ユーフィリナが……ユフィが…………私にとってかけがえのない娘であるように…………」
「お父様ッ……」
私は淑女としての行儀もすべて放り出して立ち上がると、そのままお父様の元へと駆けた。その瞬間、同じくその場で立ち上がったお父様が私を受け止め、しっかりと抱きしめてくれる。
「ユーフィリナも、セイリオスも、私の大事な子供だ。それはこの先何があろうと一生変わらない。二人とも心から愛しているよ。だから心配しなくていい。このままみすみすセイリオスを死なせたりなど絶対にしない……」
ただただ涙が溢れて、お父様の優しい声と力強い言葉に、私はうんうんと頷くだけだった。
そんな私の背後から近づいてくる足音と、聞こえてきた微かに緊張を纏った声。
「南の公爵の……言う通りだよ…………」
その声に、お父様の腕の中で振り返れば、レグルス様と目が合い、ゆるりと目を細められた。
切なそうに、辛そうに、でも大丈夫だと微笑むように。
「ユフィちゃん、心配しないで。君を連れてきた俺がこんなことを言うのはなんだけど、君が“神の娘”だろうと、君だけにこの状況を背負わせる気はないからね」
「レグルス樣…………」
「確かにアリオトの話には正直驚いた。今も若干混乱はしてる。でもさ、南の公爵の仰る通り今更なんだよ。セイリオスの中の魂がどこぞの王子のモノだろうが、数代前の学園長だったとか、王家お抱えの最強の呪術師だったとか関係なく、俺にとってセイリオスはセイリオスなんだから。やたら綺麗な顔しているくせに、いつも仏頂面でさ、俺たち以外とはほとんど誰とも話さないくせに、実は妙に情が厚かったり、ユフィちゃんのことになると、犯罪行為も厭わない病的なシスコンでさ、つい最近まで、冗談を抜きにしてユフィちゃんに会わせてもらえなかったんだよ………俺たち」
そこまで告げて、少し遠い目となったレグルス樣は、すぐに息を吐くようにいつもの親しみある笑みを漏らした。
そして続ける。
「でもさ、これだけは事を起こす前に、ちゃんとユフィちゃんに伝えておかなきゃって思ったんだよ。その中身が…………魂が、千年前の王子だろうが、俺たちは何も変わらない。ただあの痛いすぎるシスコンの理由がわかって、逆にスッキリしたくらいだってね」
そう言って苦笑するレグルス樣に、私もまた苦笑で返す。
「だから、ここで俺に任せとけ!って言えたら凄く格好いいんだけどさ、自分の力の程度は自分が一番わかってるからね、気休めでもそんな嘘は吐けないよ。ほ〜んと格好悪くて自分でも嫌になるけどさ、ここはこの場に集った皆でなんとかしようか。“忘却”と“言霊”の現能力者であるサルガスとシェアトは当然のこととして……」
「「当たり前です!」」
間髪入れず、見事に声を揃えて、同時に立ち上がったサルガス樣とシェアトは、真っ直ぐと私を見つめて力強く頷いた。
それにニッと口角を上げて、レグルス様はアカとシロへと視線をやる。
「守護獣殿たちは言うまでもなく、参戦する気満々だろうし…………」
「確かに言われるまでもないな」
「当然のことです」
澄まし顔でそう答えた守護獣二人に、私の顔に自然と綻ぶ。
気を良くしたように頷いたレグルス様は、そのままロー様に視線をスライドさせた。
「ロー殿も魔道具師として協力してくれるよね」
「も、も、もちろんです!他でもないスハイル殿下とセイリオス様のためなら、私にできることがあるなら何でもさせていただきます!」
「それはなんとも心強い。アリオトもそう思わない?」
レグルス様にそう話を振られた形のアリオトは、テーブルに頬杖をつきながら怪訝そうに問い返す。
「なんでボクには、同意を求めてくるわけ?ここはさ、『どうか協力してください。お願いします』って、頭を下げてくるところなんじゃないの?」
アリオトの物言いにレグルス様は小さく吹き出してから、返した。
「いやいや、そんなお茶会の主催者席に座っておいてよく言うよ。俺はアリオトを全面的に信じてるわけじゃないけどさ、ユフィちゃんを守りたいと思っている気持ちだけは、本当だってわかるからね。だから今は、共闘ってやつ?よろしく頼むよ」
アリオトはフンと鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。けれどそれが、照れ隠しなのは誰の目にも明らかだった。
素直じゃないアリオトに、レグルス様はまた笑って、今度はシャムへと視線の矛先を変える。
「シャム、お前のご主人様は必ず助けるから、今は俺たちに協力してほしい」
するとシャムは、ブンッと長い耳が千切れんばかりの勢いで、首を縦に振った。
そして、真っ赤な大きな瞳をうるうるとさせながら告げてくる。
「シャムは……シャムは……セイリオスが好きなモノも、信じてるモノも、守りたいモノも、全部が大事だにゃ!だからここにいる全員を…………んにゃ、全員を大事とはさすがに言えにゃいけど、ユフィのことはものすご〜く大好きで、大事だにゃ!だから、シャムはユフィのためなら、にゃんでもするにゃ!」
「シャム!」
私はお父様の腕を抜け出し、今度はシャムのモコモコの身体に抱きついた。
シャムもまたちゃんと私を抱き留めてくれる。
その柔らかさに、温もりに、このシャムもまたお兄様にとって大事な従魔であり、守りたいモノであることを改めて自覚する。
私はそのふわふわモコモコの身体に顔を埋めながら、お兄様の代わりにシャムのことは私が守るわ―――――――と、固く心に決めた。
そんな私たちを眺めて、レグルス樣の視線は、お父様に代わっていつの間にか東の公爵に口を塞がれている北の公爵を、まるで見なかったものとして素通りし、お茶会の末席に腰を掛けるトゥレイス殿下へとたどり着く。
そして、相変わらず表情筋が死んだままのトゥレイス殿下に対し、レグルス様はニコニコと表情豊かに話しかけた。
「トゥレイス殿下も、当然ご協力いただけますよね。あぁ……それとも協力ではなく、先日の借りを返すでももちろんいいですよ」
親しみさえ感じる表情で吐かれた台詞は、酷く挑戦的で、ある意味猛毒。
それをこの場で、それも他国の第二王子相手にしゃあしゃあと言って退けるレグルス様は、やはりお兄様の友人なのだと改めて思った。
こんにちは。星澄です☆
たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪
スマホが突然壊れました。
そのせいで投稿ができませんでした……はい、言い訳です。
本当に遅れてスミマセン。
最近ずっとここが謝罪の場になっているような……
そんなこんなで、遅ればせながらのだ投稿です。
シャムの登場に、一番癒やされたのはたぶん私。
でも内容はまだまだ癒やしには遠いですね。
さて次回は、ユフィ動きます。たぶん………
恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。
何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。
どうぞよろしくお願いいたします☆
星澄




