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ヒロインの登場です!どうやらヒロインはお兄様を攻略対象にしたようです!(11)

「国王陛下が“魅了”にかかっている…………っていうの?」


 私は、なけなしの記憶を総動員しながら、“魅了”について知っている限りの知識を浚いながら聞いた。

 それでも、人の心を惹きつけて、夢中にさせてしまうという、“魅了”という言葉が持つ以上の知識は出てこない。

 そもそもこの世界において、神が人間に対し魔力以外に与えた特別な能力は、王家と東西南北の公爵家が引き継いできた、“先見”、“言霊”、“忘却”、“幻惑”、“読心”とされている。

 “魅了”というチートな能力など、存在しないはずなのだ。

 それがどうして………………と、私は確認するようにシロを一心に見つめる。

 そんな私の視線を受けて、シロは暫しの逡巡の間を置き、「間違いないはずです」と、頷いた。

「一体誰が…………」

 そう声を漏らしながら、ふと脳裏に過ったのは、恰幅のいい紳士と、フィリアに瓜二つだという天使のように愛らしいご令嬢。

 まさか………と、内心で首を振るけれど、一度芽吹いた疑心は、私の心に深く根づき始めていた。

 そして、さらに深く思考の海へと沈んでいく。


 ――――そう、今はまだ、私の憶測の域を出ないとしても、おそらく彼女こそがこの世界のヒロインで間違いない。

 この世界に、この世界の人々に愛し愛され、彼女が望む運命の人と幸せになることを約束された存在である。

 だからこそ、そんな彼女をやっかみ、この私が悪役令嬢となる。

 実際に彼女をこの目にして、さらには彼女のお兄様に向ける視線や、私の知らない間に結ばれた二人の過去からの絆を思うと、確かに悪役令嬢になってしまう心境はわかる気がする。

 けれど、悪役令嬢である私がヒロインを陥れるために、チートな能力を使うならまだしも、どうしてヒロインがそんなことを?という疑問が先に立つ。

 そしてあることに気がついた。いや、今更ながらに思い出した。

 これは悪役令嬢もののファンタジー小説によくある展開だと。

 改めて言うのもなんだけれど、この世界が、“魔法学園で恋と魔法とエトセトラ”という乙女ゲームの世界であることは、既に理解している。しかし、大学の食堂で知人でしかない“江野実加子”から一方的に聞かされただけで(主に悪役令嬢のユーフィリナに関する愚痴とか)、自分ではほとんどやったことない乙女ゲームだった。

 しかも、“魔の者”というゲーム上には存在しなかった(話に聞くこともなかった)バグのせいで、本来のゲームのシナリオとは大きくかけ離れてしまっている。

 悪役令嬢である私が“神の娘”の生まれ変わりなんて、その最たるものだろう。

 けれどファンタジー小説では、時にヒロインもまた転生者で、これまた同じ転生者で断罪を回避しようとする悪役令嬢を、策を巡らし罠に嵌める――――――といったことが往々にしてあるのも事実だ。

 しかしその場合は大概、悪役令嬢はヒーローの溺愛を受けて、最終的にヒロインの悪事を暴き、ハッピーエンドを迎えるのが鉄板中の鉄板で、所謂、典型的なざまぁモノとなる場合が多い。

 だったらこの状況は………とまで考えた私の脳裡に、ある突飛な思考が駆け抜けていく。

 

 もしかしてこの世界って、乙女ゲームの二次小説の世界とか言わないわよね…………


 いやいいや、さすがにそれは…………と、自分の閃きに再び内心で首を振りながら、でもやっぱり…………と思い直す。

 前世の私の唯一の趣味は、ファンタジー小説を片っ端から読むことだった。

 実際、このような展開の悪役令嬢モノを読んだことも…………目茶苦茶ある。

 もちろん私の読んだモノには、“神の娘”なんてものは出てこなかったけれど。

 それに、ファンタジー小説と名のつくものならすべてを網羅する勢いで読み漁っていた私も、さすがに乙女ゲームの二次小説までは読んだことはなかった。ドラマや映画、またはアニメの二次小説は呼んだことはあるけれど。

 もちろんこの乙女ゲームの二次小説が存在していたかどうかは定かではない。

 けれど、間違いなく存在していただろうと思う。

 何故なら前世の世界は、たとえどんなにマニアックなものだろうと、それを愛するファンがいれば、必ず二次モノが生まれ落ちる場所だからだ。

 つまり、何の因果か…………いや誰の悪戯かは知らないけれど(十中八九あのお軽い感じの神様のせいだとは踏んでいるけれど)、私が悪役令嬢として転生したこの乙女ゲームの二次小説も存在したに違いない。

 だとしたら、事はより一層混沌としてくる。

 まず前提として、そういうものはそのゲームにどっぷり嵌まった人間が、そのゲーム愛ゆえに読むものであって、ゲームをほぼしていない…………なんなら、考えるのも面倒だからとヒロインにトマト・ケチャップなる名前をつけるような、ゲーム愛など微塵もない人間が読んだりはしない。

 おそらく、いや絶対に、無関心な私に対して、せっせとこのゲームについて語り続けた“江野実加子”は読んでいるだろうけれど。

 とはいえ、二次小説まで読んでいる人間は、このゲームの攻略者でも少数のはずだ。ゲームを純粋に愉しむだけの人間と、ゲームを通してさらなる独自の想像を広げていく人間と、それらを認め二次モノを愉しむ人間とに分かれるのだから。

 ただ、問題は独自の想像というもので、人間の想像力は、時に神をも凌駕するほどに侮りがたく、オリジナルストーリーから綺麗に逸脱したとんでもストーリーを創ったりする。

 ヒロインがとっくに死んでいなかったり、ヒーローがとんでもない悪党だったり、誰それ?という見知らぬキャラが原作のオリジナルキャラに囲まれて主役を張っていたりと、本当に自由だ(まぁ、それを投稿するにあたって、ある一定のモラルは求められているようだけれど)。

 とどのつもり、ここが乙女ゲームの二次小説の世界だとするならば、私が悪役令嬢らしかならぬ“神の娘”の生まれ変わりであったとしても、ヒロインが“魅了”なんていうチートな能力を使い、国王陛下を魅了して私を陥れたとしても、なんならお兄様を手に入れるだけでは飽き足らず、世界征服を目論んだとしても、なんら不思議でもない―――――――

 

 駄目だわ。考えれば考えるほどカオスだわ………………

 

 本当に頭が痛い。物理的にも、精神的にも頭が痛い。

 ただ、何の救いにもならないけれど、アカの一件以降、私はこの世界をゲームありきで考えることをやめている。

 だからある意味、如何なる展開になろうとも、それに対応できるようにはなってきている…………と信じたい。

 どんと来い!とまでは、度胸が据わっているわけではないけれど、それなりに耐性もあるつもりだ。

 でも、まさか二次モノって…………いや、私の勝手な推測でしかないけれど、よりにもよって二次モノって…………

 この先、蛇が出るか鬼が出るか、はたまた死神が出るか、まったくわからない状況に、このまま箱入り令嬢として引き籠ってしまいたい衝動にかられていると、「ユフィ、大丈夫ですか?ご気分が悪いなら、話は後にしましょうか?」と、シロが心配そうに聞いていくる。

 どうやら思考は目まぐるしく回っていたものの、私の身体は完全にフリーズしていたらしい。

 そのせいで、シロだけでなくロー様も、そしてさらにはアリオトまでもが、応接に座る私の周りに立ち、怪訝というより、不安げに瞳を揺らしている。

 しかし、ロー様はわかるとしても、アリオトのこの態度は少し意外だった。

 本人は無自覚かもしれないけれど、これはアリオトが見せた心配という感情に他ならず、アリオトの心に、闇ではない何かが芽生え始めた証に感じられたからだ。

 そのため、「大丈夫よ。ごめんなさい」と、しおらしく口にしながらも、私の顔は申し訳なさと嬉しさで綯交ぜとなっており、しかも嬉しさの方が若干勝っていたために、頬が僅かに綻んでしまった。

 それを目敏く見つけたアリオトは、忽ち目を眇め、睨むようにして私を見つめてくる。

「ちょっと、何?人形みたいに固まっていると思えば、やたら嬉しそうな顔をして。ボクたちを困らせて愉しんでいるの?もしそうなら、それってボクたち“魔の者”のような所業だよ?」

 “魔の者”自身に“魔の者”のような所業だと言わしめるほど、酷く心配させてしまったのかと反省しつつ、一応言い訳をだけはしておく。

「本当にごめんなさい。でも違うのよ。皆に心配されたことを喜んだとかではないの。アリオトもそんな顔ができるんだなぁ…………ってちょっと意外に思っただけで…………」

「さ、さっきから何?ボクが困り顔になるとそんなに嬉しいの?やっぱり君は“神の娘”ではなくて、“魔の者”かもね」

「アリオト!ユフィに失礼ですよ!」

「失礼なのは、ボクの顔を見て笑ったユフィの方だよ!」

 真っ赤な顔をぶら下げならシロのしっ責に噛みついたアリオトは、鼻息は荒くフンッとそっぽを向いてしまった。

 確かにこれは私がいけなかったとさらに深く反省しつつ、「シロもロー様もアリオトも、心配させてごめんなさい。少し考え事をしていただけなの。本当に申し訳なかったわ」と、もう一度言葉を重ねる。それからアリオトの赤くなった横顔を見つめながら眉を下げた瞬間、急にある言葉が押し迫るようにして蘇った。


『“神の娘”を名乗っているが、もうその正体は“先見”で見て知れている。そう、我ら人間の敵“魔の者”だ―――――――彼の者には、この場で天の鉄槌を!』

 

 そう、これは国王陛下が私に言い放った言葉。

 あの瞬間、私は“神の娘”の生まれ変わり認定から、“魔の者”認定されてしまったということだ。

 その真偽はどうであれ。

 そのことを思い出し、そのまま声に乗せる。

「国王陛下はあの時、私を“魔の者”だと仰られて、断罪しようとされたわ。それは……“魅了”のせいということ?それとも…………」

 

 私はこれまた自覚なく“魔の者”なのだろうか――――――


 と、最後の言葉を呑み込み、自分でも痛いほどの苦笑となった。

 その私の言葉に、当然あの場にいなかったロー様はただただ驚きで目を瞠ったけれど、残りの二人は違った。

 それも、シロよりも先にアリオトが全否定してくる。

「ユフィが“魔の者”だって?それこそほんと何の冗談だよ。本物の“魔の者”であるボクがそんなことを言っても、可愛げのある冗談で済まされるけれど、人間が言うと全然笑えないね。だいたいユフィにそんなことを言ったのは、人間でいうところの王様だろ?笑い話にもならないことを口にするなんて、愚かにもほどがあるよ」

 一国の王相手に、不敬極まりない台詞を口にするアリオトを横目で見ながら、シロもまたその後に続く。

「貴方の言葉をそのまま認める気もないですし、たとえ本家本元が口にしようがまったくもって可愛げもあったものではないですが、国王のふざけた言動は確かに笑い話の種にもなりませんね。ただただ業腹ものです。しかし、あれは“魅了”による所業ですから、憐れでもありますがね」

 私の顔色を用心深く見つめて、一応は大丈夫だと判断したらしいシロは、やや前に乗り出していた身体を戻し、優雅な手つきでティーカップをソーサーごと持ちあげた。それからアリオトとロー様に向って「貴方がたもいい加減にお座りなさい。それではユフィが落ち着けませんよ」と窘める。

 将来、シロの養子となることが決まっているロー様は、さすが元伯爵家令息といった品ある所作で、音一つ立てることなく長椅子の端に座った。それとは対照的に、品の欠片もなくドカッと音を立てて、ロー様の反対側に腰を落としたアリオトは、見せつけるかのように長い足を組んだ。

 その態度にやれやれと疲れたように息を吐いてから、シロは強引に話を引き戻す。

「しかし、これは非常に厄介なことになりました。今の国王の様子を見る限り“魅了”に違いないと確信はしていますが、証拠は何もありません。そもそも本人は“魅了”にかかっていることすら気づいていませんからね。それに、“魅了”は“言霊”のように行動を縛るものではなく、対象者の心を惑わせ、縛るものです。つまり、国王の心が“魅了”をかけた者の思惑に染まり、国王自身がユフィを“魔の者”だと信じ込んだ上に、断罪することを強く望んでいるということです。早い話、能力者自ら“魅了”を解除するか、国王を殺すより手の打ちようがありません」

 シロの話に、私の中に疑問が湧いた。

 国王陛下を殺すなどという恐ろしいことを考えたくもないし、そんな方法を選択するつもりもないけれど、浮上した疑問をそのままにはできず、シロへとぶつけてみる。

「能力者が死んでも、“魅了”は解けないの?」

「解けませんね」

 それはシロには珍しく一刀両断な返答だった。

 シロは押し隠しているつもりかもしれないけれど、言葉の端々に嫌悪の音が入り混じっており、本当なら口にもしたくないといった雰囲気を全身から醸し出している。

 それでも私の顔にはどうして?という疑問が色濃く残っていたのだろう。シロはささくれ立った心を宥めるように紅茶を口に含んでから、たっぷりの間を取り、口を開いた。

「答えは簡単です。たとえ能力者が死んだとしても、“魅了”された者の心が解放されることはありません。それどころか崇拝者を失ったことで、むしろそのろくでもない意志まで引き継がれてしまうのです。より強固な“魅了”となって…………といっても、私もそうなった者を、まだ実際にこの目で見たことはありませんが………」

 うん、これは確かにシロが嫌悪するほどに質が悪いわね。

 と、最後に取って付けられたかのような台詞に、違和感を覚えながら思う。

 しかしだからこそ、この世界の神もこの“魅了”という能力を人間に与えなかったのかもしれない。いや、そう認識している。

 けれど、私が知らないだけで、神はその能力を人間に与えていた可能性も十分にある。

 そして私の疑問はふりだしに戻った。

 こんな例外中の例外であるチートな能力を、一体誰が持っているのかという疑問に。

 脳裏にチラつくのはやはりあのご令嬢の顔。

 でももしそうなら、やはりこの世界はヒロインが悪役令嬢を陥れるべく暗躍する乙女ゲームの二次小説の世界かもしれない。

 

 でもそうなると、完全に私のヒロイン引き立て役令嬢案もご破算だわ。

 だって、彼女は私にとって紛うことなき敵となるのだから。


 なんてことを考えながら、シロを真っすぐに見つめた。そして、改めて口を開く。

「シロ、神は“魅了”という能力を人間に与えていたのかしら?」

 何といってもシロは、神が特別に創造した聖獣であり、“神の娘”の守護獣である雪豹だ。

 知らないはずがないという私の考えは間違っていなかったらしく、シロは銀色の瞳に冷静さと冷徹さを薄氷のように纏わせ、凛として告げた。

「そんなもの与えるはずがありません。さすがにあのルークスも、そこまて考えなしの無節操ではありませんよ」

 えっと…………ちょっと神様相手に毒舌すぎやしません?

 というか、コレ、神様の話でいいんですよね。

 いや、一度異空間で話をしたことはありますから、なんとなくわかりますけど、シロといい、アカといい、ちょっと神様に対する印象があんまりなような………………

 などと思いはすれども、今は首を縦に振る。そして、だったら………とさらに疑問を投げかける。

「だとしたら、どうして“魅了”なんて能力を持つ者が現れたかしら。それもその者は私に敵意を抱いている…………」


 ねぇ、それは一体誰だと思う?


 最後の言葉は口にできなかった。

 口にしようとすると、何故だか全身に鳥肌が立った。

 それはまるで、私の中にあるというフィリアの魂が絶望と恐怖に怖気立っているかのような感覚だった。

 けれど、それは察するに余りある感覚で――――――


 そう、フィリアの魂は知っているのね。

 その敵を…………………

 その能力の継承者を………………

 

 これが能力というのならば、お兄様たちの能力のように、それは血によって引き継がれてきたものだろう。

 しかし私は、“魅了”なんて能力が存在したことすら知らなかった。

 だからこそ、知らなければならない。

 自分の戦うべき相手が誰なのか。

 たとえそれがこの世界のヒロインであろうとも。


 けれど、その答えは予想外のところからやって来た。

 ちゃっかりと紅茶を楽しんでいたアリオトが、カチャンとわざとらしく音を立てながらティーカップをテーブルに戻し、私たちの目を一瞬で自分へと引き付けた。

 そして緩慢なほどゆっくりと長椅子の背もたれにその身を預けて、鷹揚と足を組み替えると、美しき相貌に艷やかな微笑を湛えた。

 それから、ゆるりと一本指を立てる。


「この世界に“魅了”の能力を持つ者は後にも先にも唯一人。それは――――――――

 

 

 ――――闇の眷属の長子、フィラウティアだけだ」



 

こんにちは。星澄です☆ 

たくさんの作品の中から、この作品にお目を留めていただきありがとうございます♪


今回はただただ“魅了”についてでしたね

あれ?色々大変なことになる予定だったのに、

おかしい。

日付が変わってることもおかしい。


次回こそは、急展開とこの章の終わりの予感です。



恥ずかしながら誤字脱字は見つけ次第、すぐに修正いたします。

何卒ご容赦のほど………。:゜(;´∩`;)゜:。


どうぞよろしくお願いいたします☆



星澄

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