イヌイヌ族と出会う
「たしかこのあたりだったよな」
それから歩き続けること30分近く。
ルーデウス村の外壁があるあたりに到着する。
だが。
「あれ?」
目の前に見えてきた景色はまったく見覚えのないものだった。
高くそびえ立っていた壁はどこにも見当たらず荒れ果てた廃墟がそこに広がっている。
(おかしいな。こんな廃墟なんてあったっけ?)
あの夜はスライムの集団に追い回されてずいぶんとめちゃくちゃに走りまわったから気づかなかったのかもな。
道を間違えたんだろう。
そう思って引き続き森の中を歩きはじめるも、やっぱり村を取り囲むあの外壁を見つけることはできなかった。
あの夜、走りまわったって言ってもせいぜい5分くらいのことだ。
村から『叢雲の修練場』までそこまで離れていたわけじゃない。
これだけ歩きまわってあの外壁が見つからないってのはぜったいおかしいぞ。
(まさか村が消えてなくなるわけもないし)
夢でも見てたのか、俺は。
そんな不安に駆られてポケットの中に手をつっこむ。
そこにはきちんと金のメダルが入っていた。
いや夢なんかじゃない。
(一週間前のあの夜。俺はたしかに村を追放されたんだ)
金のメダルを握り締めてその場でしばらく立ち尽くしていると。
「?」
なにか叫び声のようなものが遠くから聞えてくることに気づく。
それはモンスターの雄叫びのように聞えた。
同時に炸裂音も小さく響いてくる。
ひょっとしたら誰かがモンスターと戦っているのかもしれない。
気になって俺は音がする方へ歩みを進めた。
◇◇◇
近くの茂みに隠れてドンパチと音がする方へ目を向ける。
するとそこにはスパイダーモンクの大群に囲まれている犬の集団の姿があった。
(あれはイヌイヌ族だ)
すげぇ!
人族以外の種族をはじめて見たぞ!
俺は興奮気味に戦うイヌイヌ族の姿を茂みから覗き見た。
イヌイヌ族はその名のとおり野生の犬を先祖に持つ種族だ。
背丈は人族よりもひと回りほど小さい。
戦闘面での能力もあまり高くないんだけど、戦いからは決して逃げ出さないっていう誇り高い一面を持つことで知られていたりする。
(でも、なんで俺そんなこと知ってるんだ?)
村の誰から聞いたんだっけ?
過去について思い出そうとするとまた記憶にモヤがかかったようになる。
まあいい。
今はこっちの方が気になる。
スパイダーモンクの大群と戦うイヌイヌ族は全員が兵服を着ていて、首元に赤色のスカーフを巻いていた。
その中で軍帽をかぶったイヌイヌ族の男が声を張り上げる。
「全兵に告ぐワン! 尻尾を高く上げて果敢に立ち向かうんだワン! イヌイヌ族の誇りを今こそ示すときなんだワン!」
軍帽をかぶったイヌイヌ族が槍を高くかかげると皆は「ワオーン!」と声を揃えた。
なるほど。
これが集団戦ってやつか。
感心しながら応援して見ているも、イヌイヌ族が徐々に劣勢に立たされていくことに気づく。
軍帽をかぶったイヌイヌ族の指揮のもと集団は連携して攻撃を繰り返してるけど、敵の動きが速すぎてまともにヒットしてなかった。
はっきり言ってすべて後手にまわってしまっている。
(マズいな。イヌイヌ族の身体能力じゃあの素早さにはついていけないぞ)
スパイダーモンクは素早い動きで相手をかく乱して毒糸で攻撃を仕掛けてくるのが特徴のモンスターだ。
敵は反撃のタイミングを見計らっているように動いていた。
たぶん一斉に毒糸で攻撃を仕掛けて一気に決着をつけるつもりなんだろう。
なにか手を打たない限りこのままだとイヌイヌ族は全滅する可能性がある。
どうにかしないと。
さすがに放っておけない。
(でも俺はモンスターが倒せないし。かと言って俺が身代りになって逃がそうとしても誇り高いイヌイヌ族のことだから逃げようとしないだろうし)
うーん、なにか手はないのか。
そこで俺はパッと閃く。
(そうか。べつに俺がモンスターを倒す必要はないんだ)
〈補助魔法〉をかけてイヌイヌ族のサポートをしてやればいい。
そうすれば現状を変えられるかもしれない。
〈補助魔法〉の中には味方の能力を大きく上昇させるものがあるのを俺は知っていた。
「ステータスオープン」
小声で微精霊に呼びかけると光のウィンドウが目の前に立ち上がる。
とりあえず即戦力になりそうな効果を優先して習得しよう。
そう思って俺は〈補助魔法〉の一覧をスクロールしていく。
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《超熱血XX》
消費MP 15
必要SP 250
[効果]
味方全体の攻撃力を1.5倍上昇させる。
《特異点》
消費MP 35
必要SP 400
[効果]
味方全体の素早さと回避率を大幅に上昇させる。
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このふたつなんかいいんじゃないか?
ついでにもうひとつ役に立ちそうな〈補助魔法〉を追加する。
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《二重詠唱》
消費MP ―
必要SP 500
[効果]
ふたつの魔法を同時に詠唱することができる。
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それぞれの項目をタップするとすぐに実行画面が表示された。
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現在、あなたが所有しているスキルポイントは【 ∞ 】です。
【 250 】を消費して《超熱血XX》を習得しますか?(Y/N)
現在、あなたが所有しているスキルポイントは【 ∞ 】です。
【 400 】を消費して《特異点》を習得しますか?(Y/N)
現在、あなたが所有しているスキルポイントは【 ∞ 】です。
【 500 】を消費して《二重詠唱》を習得しますか?(Y/N)
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すべて〝YES〟を選択すると「魔法を習得しました」というアナウンスが流れた。
(あとはこいつをさりげなく使えば)
茂みからそっと立ち上がると。
俺はイヌイヌ族の集団に目がけてふたつの魔法を素早く詠唱する。
「古の炎にて生きたる燐光、天かける咆哮を燃え上がらせよ――《超熱血XX》」
「疾風を極めし煌々の流転者よ、双翼で大地を幕引き汝を選べ――《特異点》」
シュルピーーン!
その瞬間、イヌイヌ族の体は淡い光に包まれた。
「なんワウ!?」
「体から力がみなぎってくるキャン!」
「ガルルゥ~~!」
それを見て軍帽をかぶったイヌイヌ族の男が槍を高くかかげる。
「よく分からないけどこれで勝てそうだワン! 全兵、吾輩のあとに続いて突撃だワン!」
「「「ワオーンッ!!」」」
それからパワーアップしたイヌイヌ族は見違えるような力でスパイダーモンクの大群を蹴散らすのだった。




