表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/68

半神への道

『……覚悟ができた者だけ残ったようだな。では話すとしよう。どうして魔族に関するこんな事実が残っていたのかといえば答えは簡単だ。このころまでは人族は魔族と密接に関わっていたからだ』


 それはある程度予測してた答えだった。

 魔族の近くにいなけりゃこんな事実把握できなかったはずだしな。


『いや……正確に言えば少し違うか。人族全体が魔族と密接に関わっていたわけではないのだよ。一部の限られた人族が魔族と密接に関わっていたのだ。そして、この一部の限られた人族というのが……我が先祖たちのことなのだ』


 その父さんの言葉を聞いて、隣りの母さんがつらそうに目を細める。

 

「……そんな……。我が国が魔族と密接に関わってたなんて……」


 声を震わせるヤッザン。

 ほかの三人にも明らかに動揺の色が見てとれた。 


「ひとまず続きを聞いてみよう」


 俺が促すとみんなは静かに頷く。



『……先ほど亜人族(デミヒューマン)が分裂して人族と魔族が誕生したと話したな? だが、その割合は半々ではなかったのだ』


 父さんが言うにはその割合は人族の方が圧倒的に多かったんだという。

 魔族はごく限られた存在だったらしい。


 当時の人族最大の権力者――つまりエアリアル帝国の皇族たちの間では〝魔族は自分たちの闇の部分が具現化して出現したものであってはならない存在〟と認識されていたようだ。


 だから、ほかの人族やそのほかの種族に存在を知られないようにと魔族はエアリアル帝国の中で長らく隠され続けることになる。


 半神に関する伝承がエアリアル帝国の中だけに残されていたのは、もともと人族が半神の血を引いてるって理由もあるけど。

 いちばんの理由は、異種族に魔族の存在を隠すためだったってことらしい。


 半神の存在が広く伝わってしまえば、人族と魔族は表裏一体の存在だってバレてしまうわけだから分からなくもないけど。


(これを帝国はずっと隠してきたんだ)


 俺たちはさらにエアリアル帝国の暗部を耳にすることになる。



『魔族が人族と同じように特殊な異能を所有してるというのは当時から分かっていたようだ。もちろん、それが自分たちにとって脅威となる可能性があるということも把握していたはず。けれど、先祖たちは魔族を全滅させるようなことはしなかった。もとは同じ種族から誕生したという同族意識の感情がそうさせていたのかもしれぬ』


 そんな感じで。

 魔族は表舞台の歴史に登場することなく、長い間エアリアル帝国の中に囚われ続けてきた。


 でも徐々に異変が起きはじめる。


 さっきも聞いたとおり、魔族の中で力をつける者たちが現れはじめたんだ。

 つまり、魔王が誕生してしまったってわけか。


 結果的に魔族を生かし続けてきたエアリアル帝国の行いは裏目に出ることになる。


『ここからはさっき話したとおりだ。魔王たちは同胞をモンスターに変えて帝国を抜け出すと、世界各地を襲いはじめた』


 『死の大暴乱(デスエスケープ)』は一時的に乗り切るも、その数百年後には力をつけた大魔帝ニズゼルファが誕生し、今日のような世界ができ上がってしまう。


『つまるところこのような世界にしてしまった元凶は人族……いや、狭義の意味で言えば我がエアリアル帝国の責任なのだよ』



 ここまでの話を聞いて。

 みんなはこれまでにないくらい悲痛な表情を浮かべていた。


 これまで認識していた歴史と真実が大きく異なってたわけだから当然だ。


 歴代のエアリアル皇帝はこれらの事実を隠ぺいし、時が経つにつれてこのことを知るのは皇族だけになってしまったっていうのが真相のようだ。


(そうか。だからあのときジャイオーンは祖国がどうとか言ってたのか)


 エアリアル帝国で生まれ育ったわけだから、魔族がこの地のことをそんな風に認識してても不思議じゃない。


 もちろん祖国と言っても魔族にとっていい意味とは限らない。 

 自分たちを囲っていた人族に対して相当な恨みを持ってたはずだ。


 モンスターがダンジョンに封印され、『悠久の凪』と呼ばれる時代が長く続いてもその影でしっかりと力を蓄えてたわけだしな。

 その執念が今の世界を作り出したんだ。



『ルーデウス。本来ならばこの話はお前が成人を迎えた段階で話すべきだった。そうすれば、お前がニズゼルファに敗れるなんてこともなかったのかもしれない。だが、今さらそれを嘆いたところで仕方がない。未来のお前は勇者としてふたたびこの地へ戻って来たのだ。そのことを余は喜びたいと思う』

『ええ……そうね』

 

 父さんはそっと母さんの手を握りしめた。


『ここまで話を聞いたわけだからもう理解していることだろう。お前に知っておいてほしいのは、エアリアル帝国には魔族の愚行を止めなければならない責任があるということだ。この時代にお前が〈勇者〉の祝福を受けたのもきっとなにか意味があるはずなのだ。もう一度、お前にすべてを託すことになるのは大変忍びないのだが……使命を果たせる者がほかにいないのもまた事実。だから余は話そう。大魔帝ニズゼルファを倒すことができる真実の方法を』


 真実の方法?

 父さんの言葉にはどこか確信のようなものがあった。

 

 みんなと一緒に固唾を飲んで続きに耳を澄ませる。



『ニズゼルファの野望はおそらく……自らが神に等しい存在――邪神となることだ。しかしまだ猶予はあると余は考えておる』


 魔族の寿命は人族やほかの種族の10倍以上あるらしく、それゆえに成長のスピードも緩やかなのだという。

 そう考えれば、たしかに時間は残されてるのかもしれないけど。


(でもこれから本格的に世界を掌握しようとしてるって……ジャイオーンは言ってたよな?)


 それにニズゼルファがもうすぐ完全体となるとも言っていた。


 この記録は今から5年前のものだ。

 現状、あまり時間は残されていないのかもしれない。



『神に近づこうとしている相手にどう対抗すればいいのか。答えは単純だ。こちらも神に等しい存在となればいい』


「神に等しい存在じゃと……?」

「ひょっとすると、先ほどの半神のことを言ってるのではないでしょうか?」


 マキマのそんな読みは当たってたようだ。


 そのあとすぐ。

 ニズゼルファを倒すには半神へと進化すればいいと、父さんははっきり宣言する。



『いきなり半神に進化すればいいと言われてルーデウスも驚いていることだろう。だが理論的にはそこまで難しいことではないのだよ』


 その条件はこうだ。

 悪しき力に支配された魔族以外のオーブをすべて集め、種族の(キング・オブ・)支配者(オーバーロード)となること。


 そうすれば、半神へと究極進化できるらしい。


『これは半神の血を引く人族にしかできないことだ。そして、勇者であるお前がそのいちばん近い場所にいる』


 半神は神の分身でありこの世界において無敵の存在だ。

 たしかにこの方法ならニズゼルファも倒すことができるかもしれない。


『ニズゼルファを倒すにはそれしか方法がないと余には分かっておった。だが、お前が成人を迎えたあの日。勇者として祝福を受けるのを見てそのようなまわりくどい方法を取らなくても、お前なら倒してくれるのではないかと考えてしまった』


 どこか後悔するように呟く。

 でも、父さんの気持ちは俺にはよく分かった。


(すべてのオーブを集めるって口にするのは簡単だけどその道のりは決して楽じゃないよな)


 人族を恨む種族だっているわけだし、軋轢がある中で協力を得るのは相当難しいはずだ。

 父さんはそれがよく分かってたんだろう。


『先ほどお前がニズゼルファに敗れたのは余の責任だと言ったのはこのためだ。成人を迎えた段階で今話した真実をお前にすべて伝えていたら……結果は変わっていたのかもしれん』

『あなたもういいわ。ルーデウスならあなたの想いをきっと分かってくれるはずです』

『……そうだな』

『それにルーデウスはとても強い子だから。かならず大魔帝の野望を撃ち砕いてくれるはずです』


 父さんは母さんの手をぎゅっと強く握ると最後にこう口にした。


『真実を知った上でどう判断するかお前に任せたいと言ったが……訂正させてくれ。もちろん余にこんなことを言う資格はないのは分かっておる。だが今いちどお願いさせてほしい。ルーデウス、どうかニズゼルファを倒して世界を救ってくれ』

『それだけがわたくしたちの願いです。ウェルミィのこともどうかよろしくお願いしますね』


「お父さまっ! お母さまぁっ……!」


 別れを悟ったのか、ウェルミィは震えた声でウィンドウに駆け寄る。


『頼んだぞ。ルーデウス』


 父さんと母さんが優しい微笑みを浮かべたところで。

 その記録は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ