勇者奥義で魔王を倒す
「スキル操作! 【全能再現】!」
マキマのときと同じように俺の体は黄金色の輝きに包まれていく。
「な、なんだっ……!?」
極意を発動する寸前でジャイオーンは焦った表情を浮かべた。
対して俺はというと。
自分の中に新たな力が目覚めるのを実感する。
よし。
この力があれば魔王と戦えるぞ!
「……てめぇ。いったいなにしたか知らねぇーが出し抜けると思うんじゃねぇーぞ! 極意――【プラチナグッドスピード】!」
同時に俺も同じセリフを口にした。
「極意――【プラチナグッドスピード】!」
ズドゥゴゴゴゴゴゴーーーンッ!!
その刹那。
俺はジャイオーンの攻撃を見事に回避する。
『なにぃぃぃ!? 【プラチナグッドスピード】だとぉぉぉっ……!?』
次はこっちの番だ。
『ぐぉッ!?』
相手の首を掴むと夜空を加速していく。
一瞬を何万分の一に刻んだ時間の中で。
光にも迫る勢いで旋回しながら、俺とジャイオーンは一進一退の攻防を続けた。
『バカなぁぁ! オレサマのこのスピードに追いつくだとぉぉぉ!? あり得ねぇええぞおおぉぉッ!!』
お互いにすばやさのステータスは∞だ。
だからどっちも追いつくことができない。
俺が相手の隙を突けたのも最初の一回だけだった。
(でもチャンスはぜったい巡ってくるはず)
50倍あるオーラ値の差も今は関係ない。
魔族の弱点が極意である以上、互角に……いや、それ以上に戦えるっていう確信があった。
そのとき。
ジャイオーンがぴたりと動きを止める。
「……ハッ……! てめぇらがさっきからコソコソしてたのはこういうことだったのか。オレサマの極意をコピーしたんだな」
「ああ」
「勇者さまは極意をコピーできるってかぁ? ハハハッ! 見上げたもんだぜ! ニズゼルファさまがてめぇを警戒してた理由がようやく分かった気がするぞ!」
「そいつは光栄だな」
「チッ……平然としやがって。どういう芸当でオレサマの極意をコピーしたか知らねぇが、てめぇごときにスピードで負けるわけにはいかねぇ……。それだけはぜったいに譲れねぇーんだよ!」
地上のある一点に魔王は拳を向ける。
そこにはみんなの姿があった。
(人質ってわけか)
「今動けばそいつらをひとり残らず全員ぶち殺す!」
「けど、そんなことして背中を見せれば俺にやられるぞ。あんたには分かってるはずだ。たとえ圧倒的なAPの差があっても極意が使える俺の前ではほとんど意味をなさないって」
「たとえそうだとしてもだ。てめぇがオレサマのそんな行動を許すわけがないよなぁ~? 大切なお仲間だもんなぁー?」
「……」
どうやらジャイオーンはこっちの感情を読んだ上で挑発してきたようだ。
「極意をコピーできるってんならなおさら生かしておけねぇ。てめぇの存在を消さない限りニズゼルファさまのところへは戻れねぇーんだよ!」
すると。
魔王は静かに息を吐き出して拳にぐっと力を込める。
「まさかこの力をオレサマが使う日が来るとはな。だがオレサマが速さで負けるわけにはいかねぇ……! 誰もオレサマのスピードには追いつけねぇんだよ!」
また全身に闇のオーラをまといはじめ、おぞましいほどの圧が相手からかかってくる。
「分かってるぜ。てめぇがオレサマの極意をコピーできたのはよぉ。そこの女のおかげなんだろぉ~? ヒャッハハ! だったら女さえ消しちまえば二度も同じ手は使えねぇーはずだ! そうだろがオイッ!」
「!」
「フィナーレといこうじゃねーか! ここからがオレサマの本気だ! もう誰もオレサマを止められねぇーー! EX極意――【超速再生】!!」
そう叫んだ瞬間。
地面から無数の触手が伸びてきてジャイオーンの巨大な体躯にまとわりつく。
「ヒャッハハ! この力はよ! 物体の中に宿った精霊粒子を超加速させて生まれ変わらせるつー優れもんなわけよぉ! こいつでオレサマは光をも越えるスピードを手に入れられるってわけだ! その目に絶望を焼きつけて消え去りやがれぇぇーー……ッ!?」
瞬時、敵の背後にまわり込んで手を触れた。
「スキル操作! 【全能再現】!」
俺の体はふたたび黄金色の光に包まれる。
問題なくふたつ目の極意をコピーできたようだな。
「ふ、ふ……ふざけるなッ!! そう何度もオレサマの極意をコピーできるわけがねぇえだろッ!?」
「いや。悪いがそれができるみたいだ」
「なッ……」
「というわけでこっちもやらせてもらうぞ。EX極意――【超速再生】!」
無数の触手が俺の体にもまとわりつく。
(すごいなこりゃ)
胸の奥が一気に熱くたぎってくるのが分かる。
とんでもない力が手に入ったっていう予感があった。
「くっそがあぁぁぁッ……!! 極意――【プラチナグッドスピード】!!」
触手を引き千切りながらジャイオーンが叫ぶと俺もそれを真似する。
「極意――【プラチナグッドスピード】!」
ズドゥドゥドゥゴルルルルルーーーッ!!!
俺たちは光の速さすらも越えて追走劇を開始する。
仲間の目には一瞬のうちに消えてしまったように見えたに違いない。
想像するのも困難な極小の時間の中。
俺たちの攻防は目まぐるしく変わった。
(ダメだな。やっぱり追いつけないぞ)
まあ、お互いが同じタイミングで同じ極意を使って駆けまわってるんだから当然なんだけど。
ジャイオーンとしても所有者の意地があるだろう。
俺に背後を取らせようとしない。
かといってこんな状況で〈剣技〉を使ったとしても、APの差があるからふつうの攻撃はまったく通じない。
(なにかひとつ出し抜く方法があれば)
追走を続けながらそんなことを考えていると、ふと背中に背負った紋章剣に目がいく。
(待てよ。さっきの【超速再生】でこいつも同じ力を得たんじゃ……)
物体の中に宿った精霊粒子を生まれ変わらせるって言葉が本当だとすれば。
同じように触手に触れられた紋章剣にもなにかしら変化が起こってる可能性があった。
さりげなく柄を少し持ち上げて剣身を確認してみる。
(やっぱりだ)
あれだけボロボロだった紋章剣は今神聖な輝きを放っていた。
【超速再生】で生まれ変わったってことはこの剣には極意の力が宿ってるってことじゃないか?
かなり強引な考えだけど試してみる価値はある。
(それに紋章剣が復活したってことは勇者専用の奥義も使えるはず……。行けるかもしれないぞ)
相手の気が逸れていつみんなに矛先が向くか分からないんだ。
こんなスピードで地上に突入すれば、街は一瞬のうちに壊滅するに違いない。
こいつで戦いを終わらせる!
両手を挙げると俺はそのまま上空で停止した。
「……ハッ、降参ってわけか! どうやらオレサマの速さについて来るのに限界だったようだな! 所詮はコピー。んなもんでオレサマのスピードに敵うはずがねぇんだよ!」
「そうだな。あんたの速さには追いつくことはできないよ」
「ヒャッハハ! ようやく認めやがったぜ! てめぇなんぞオレサマに勝てるわけがねぇーんだよ! 今消し飛ばしてやるから待ってろッ!」
「いや……。存在を消されるのはジャイオーン。あんたの方だ」
「んだと?」
背中のホルダーから紋章剣を引き抜く。
シュルピィーーン!
すると、夜空に神聖な煌めきが舞い上がった。
「……っ、な、なんだぁ……?」
腕で目を塞ぎながらジャイオーンは俺に視線を向ける。
「……その剣は……まさかッ!?」
さっきまでは剣身がボロボロだったから気づかなかったのかもしれない。
驚きつつ魔王はこう口にする。
「勇者のつるぎ……!?」
「勇者のつるぎ? 魔族の間ではそんな風に呼ばれてるんだな。そうだよ。こいつは大魔帝ニズゼルファとの戦いで使った剣だ」
「……ハ、ハハハッ! んなもんあったところでどうしたってんだ! ニズゼルファさまの前に敗れた出来損ないの武器じゃねぇーかッ!」
明らかに動揺が見てとれる。
ニズゼルファと戦ったこの剣の存在をジャイオーンは恐れているんだ。
「極意を使えねぇーてめぇなんぞゴミ屑以下ってことを忘れたわけじゃねーよなぁオイ! 【プラチナグッドスピード】でもオレサマに追いつけねぇ! つーことはよ。てめぇに勝ち目はねぇーってことだろがッ!!」
そうだ。
もっと挑発に乗ってこい。
俺は相手が我を忘れて油断する一瞬の隙を待っていた。
奥義を放ったところで避けられたら元も子もない。
(チャンスは一回きりだ。警戒心のない最初しかない)
「スピードでオレサマに勝てねぇーって分かったんなら素直に殺されろッ! んな剣でどうにかなると思ってんじゃねぇーぞ!!」
真っ黒な両翼を大きく広げながらジャイオーンがにじり寄ってくる。
柄を握る手に緊張が走った。
失敗は許されない。
「オラッ! どうした! ビビってなにも言えなくなったのかぁ? なぁオイッ!!」
そう叫んで魔王が《メテオストライク》を繰り出そうとしたそのとき。
(今だ)
とっさに紋章剣をうしろに構えると剣身は蒼銀の光に包まれた。
異様なオーラに相手も気づいたようだが。
(もう遅いっ!)
その刹那。
俺はジャイオーン目がけて紋章剣を素早く振り抜いた。
「滾る血潮! その身に刻み! 美しく消え去れ! これが勇者奥義――《究極フルパワー・超弩級紋章斬り》!!」
「なにぃぃぃ!? ッ、ぐあああああああぁぁぁぁ~~~~!?!?!?」
炸裂した蒼光の衝撃波が魔王の巨大な体躯を真っ二つに斬り裂く。
絶叫を上げたままジャイオーンは闇の彼方へと消え去った。
「やったぞ……」
振り抜いた紋章剣をゆっくりと下ろす。
その瞬間。
ついに魔王を倒したっていう実感が胸の底から湧き起こってきた。




