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そのころマキマたちは

(はぁ、はぁ……。ルーデウスさま……)


 マキマは今ブライとともに大通りを走っていた。


 あのあと。


 ウェルミィを酒場の地下室へと運び終えるとヤッザンを守役としてその場に残し、ふたりは戦況を確認するためいちどもとの場所へ戻ることにしたのだ。


(だいじょうぶ……。ルーデウスさまが魔王に負けるはずがない)



「あそこを見るんじゃ!」


 突然、ブライが声を上げる。

 目を向ければそこにはモンスターの大群に囲まれた集団の姿があった。


「アニキ~っ! どうすればいいんですかぁー!」

「次から次へと湧いて出てくるッス~!?」

「とにかくなんとかするんや!」

「霧丸殿。これではきりがないぞ」

「まさかここまでモンスターが入り込んでいるとは……」


 取り囲まれていたのはドワタンたち三人とガンフー、霧丸だった。


 それを見てブライは両手を前に構える。


「マキマ嬢! 助太刀するのじゃ!」

「はい!」


 〈攻撃魔法〉をブライが唱えるとそのあとに続いてマキマが〈剣技〉を繰り出す。


「虚空を曲げし罪深き天界の審判、葬礼たる裁きを喰らい尽くせ――《終焉の使者(ダークネスデスロール)》」

「ここでわたしが止めてみせます! 《不死鳥チェンジラッシュ》!」



 バヂィバヂィバヂィーーーン!!


 ズッバシュギギギーーーンッ!!



 ふたりの攻撃が見事に炸裂し、周囲のモンスターははじけ飛ぶように四方へ放り出された。




 ◇◇◇




「ふはぁ~助かったでぇ……。人族のくせにワイら助けるなんてあんたら見直したわ……」

「はぁ……命拾いしましたぁ……」

「オイラ死ぬかと思ったッスよぉ……」


 ドワタン、ドワ太、ドワ助はその場でへたりと座り込む。

 一方で霧丸はマキマとブライに頭を下げた。

 

「本当に助かりました。あなたたちは先ほど入口にいらした方たちですね」

「礼には及ばんのじゃ。それと自己紹介がまだじゃったな。ワシの名はブライじゃ。こちらはエアリアル帝国の神聖騎士隊隊長のマキマ嬢じゃ」

「神聖騎士隊……どうりで強いわけだ。命拾いしたぞ。オーガ族を代表して礼を言おう」


 ガンフーが差し出してきた手をマキマは握り返す。


「あなたは……ひょっとしてガンフーさんですか?」

「? なぜ我の名前を知っている?」

「フォッフォッ、そなただけではないのじゃ。お主らは自由市国ルーデウスの幹部じゃな? だとすれば皆の名前は分かるでのう~」

「はい。ルーデウ……ティムさまから皆さんのお名前は聞いてたんです」

「そういうことでしたか」


 霧丸が納得したように呟いた。


「それで。どうしてこんな場所に残っておったのじゃ?」

「我々は仲間を外へ逃がすために誘導していたのだ」

「街の東側では、ルーク軍曹と辺境調査団の者たちが同じように誘導に当たっています。西側は某たちが担当していたというわけです」


 ガンフーと霧丸がそう説明したあとでドワタンが口を挟む。

 

「んでまぁ。ワイらが最後まで残って街を見まわってたんやけど……さっき見たとおりや。モンスターの大群に囲まれてしまったんや」

「数も多いしどうしようって困ってたんッスよ!」

「だから本当に助かりましたぁ~!」

「なるほどのぅ」


 頷くブライに代わって今度はマキマが訊ねた。


「街の皆さんは無事に逃げることができたんでしょうか?」

「うむ。西側の居住区に住んでいる者たちは全員退避させることができたぞ」

「ルーク軍曹のことです。東側の皆も上手く外へ逃がしてくれていることでしょう」


 蒼狼王族(サファイアウルフズ)も、オーガ族も、刀鎧始祖族(エルダードワーフ)も。

 種族進化を果たしているため、そのあたりの生存能力は折り紙付きだ。


 マキマは街の皆が全員生きのびてくれていることをひそかに祈った。


「んで。あんたらはどうしてこんなとこにおんねん?」

「わたしたちは魔王と戦ってるティムさまのところへ向かってたんです」

「そういうことじゃ。先を急がねばならんのでのぅ。そなたたちは気をつけて外へ退避するんじゃ」


 そう言ってこの場をあとにしようとするふたりだったが。


「ちょ、ちょっと待ちぃーや! 今なんて言ったんや!?」

「魔王とか……聞えた気がしましたけど……」

「オイラたちの聞き間違いッスかね?」


 騒ぐドワタンたちとは対照的になにかを理解したように霧丸は口にする。


「やはりこれは魔王の仕業でしたか」

「それで主さまは無事なのか?」


 ガンフーに問われてマキマは首を横に振る。


「……分かりません。ですがティムさまが負けるはずがありません。かならず魔王を倒してくださいます」

「そうじゃな。それを確認するためにもワシらは向かわなければならんのじゃ」


 ブライが言いかけたそのときだった。



 ズドゥゴゴゴゴゴゴーーーンッ!!



 突如、鼓膜をぶち破るような爆音があたりに鳴り響く。


 かと思えば次の刹那。

 瞬く間に居住区が破壊され、火の海と化す光景が目に飛び込んでくる。

 

(まさか魔王!?)


 マキマはとっさに剣を引き抜く。


 が。

 そんなもので太刀打ちできないのは明白だった。


 街のあちこちで爆音が鳴り響き、同時にものすごい勢いで火柱が上がりはじめる。

 

 まるで地獄を切り取ったかのような光景が目の前では繰り広げられていた。

 

 その牙はこの場にいる者たちにも向かい……。


「【空間の封殺(ヴァニティースペース)】!」


 ブライがとっさに唱えると皆の足元に魔法陣が出現する。

 攻撃を防ぐ防御壁だ。


 これによりマキマたちは間一髪のところで攻撃を防ぐことに成功するのだった。



「なにが起こったんや!?」

「ひとまず助かりましたぁ……」

「アニキっ~! オイラたち生きてるッスよぉ~!」 


 尻もちをつきながら混乱するドワタン、ドワ太、ドワ助の三人。

 彼ら同様、霧丸とガンフーもなにが起こったのか分からないといった表情を浮かべる。


「ブライさま……助かりました。本当にありがとうございます」

「うむ。なんとかギリギリのところで間に合ってよかったのじゃ」


 マキマだけはブライがとっさの判断で皆を救ったということを理解していた。


「ブライ殿、これは……あなたの力なのか?」

「ワシのEXスキルじゃ」


 驚きながら訊ねてくるガンフーに対してブライは説明する。

 

「この【空間の封殺(ヴァニティースペース)】の効果が生きてるうちはあらゆる攻撃から身を守ることができるのじゃ」

「なんという……すごい能力だ」

「それだけじゃないんです。ブライさまがこの【空間の封殺(ヴァニティースペース)】を使用してる間は時間の流れも止めることができるんです」

「えぇっ!? 時間の流れも止められちゃうんッスか!?」

「アニキっ! やっぱ人族のスキルってとんでもないですよぉ~!」

「せやな。まだ全員を認めたわけやないけど、こんな力をワイらのため使うなんて人族の中には気持ちのええやつもおるってよう分かったで」

「しかし。これだけのスキルを扱えるとは……ブライさんはいったい何者なんでしょうか?」


 不思議そうに口にする霧丸の言葉にマキマが返答する。


「ブライさまはもともとエアリアル帝国の指南番をやられていて陛下の家庭教師でもあったんです」

「それは……すごい」

「しっかしエアリアル帝国の生き残りちゅー話はほんまやったんやなぁ」

「? ティムさまからなにも聞かされていないんですか?」


 マキマがそう訊ねるとガンフーが首を横に振る。


「あのあと主さまは領主館(バロンコート)へと戻られたが、そなたらについてはなにも話さなかったのでな」

「そうだったんですか」

「ティムはんのことやからなんか考えがあって話さんかったんやろ思ってたわ。ひょっとして……さっきあんたらが言ってた魔王ってのと関係あるんか? このめちゃくちゃな攻撃はそいつが引き起こしてるんやろ?」


 真剣な表情で訊ねてくるドワタン。

 

 それもそのはずだ。

 こんなわけの分からない状況に置かれて不安で仕方ないのだろう。

 

 それは彼だけじゃなくほかの皆にしても同じようだった。


「ブライさま……」

「うむ。状況が状況じゃ。この場にいる全員にもワシらの事情を知っておいてもらった方がいいかもしれん。魔王がここまでやって来た理由と密に関わっておるからのぅ」

「そうですね」


 こうしてブライは自分たちがどうしてランドマン大陸までやって来たのか、その理由を皆に説明することになった。

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