【プラチナグッドスピード】の威力
(いったいどうすればいい?)
不敵に笑うジャイオーンに目を向けながら考える。
いや、まだ望みは残されている。
勝つことはできないのかもしれないけど、HPが∞である以上こっちが負けることはないんだ。
死ぬほど痛い思いはするかもしれない。
でも。
この場で俺にできることはまだ残されてる。
(みんなのために時間を稼ごう)
ここで俺がジャイオーンを食い止めておけばそれだけ仲間たちが助かる可能性が上がる。
模範行動どおり全員逃げのびてくれるはずだ。
残された問題はウェルミィをどう救うかだった。
そんなことを考えるも。
「あとよ。勘違いしないように言っておいてやるが、HPが∞でも関係ねぇぞ? てめぇの存在そのものを消し飛ばせばそれでジ・エンドだからなぁ」
「なに?」
「でき損ないの人族でもよく考えりゃ分かることだろぉ~? 肉体が木っ端みじんに吹き飛んだあとでどう戦うってんだぁ? 腕が無けりゃ剣を振ることもできねぇーだろが! ハハハッ!」
たしかにこいつの言うとおりだ。
HPが∞だとしてもそれはこの肉体を維持できた状態での話。
(存在自体を消されたらいくらステータスが∞でも意味はない)
それが分かると次第に恐怖心が芽生えてくる。
この暴力的な強さがあったからこそ魔族はほかの種族を圧倒し、世界を掌握することができたんだ。
「おいおい。んなことでビビるのはまだ早いぜぇ? これまではてめぇのレベルに合わせて攻撃してたんだからよぉ~」
「っ」
「ぶっ殺したときの爽快感が格段と跳ね上がるからもっとそんな顔してくれぇ! この圧倒的な絶望を前にちびるなよぉ~! ヒャッハハ!」
どこか優越感に浸るジャイオーンを見て俺はいつかのルーク軍曹の言葉を思い出した。
(そうだ。魔族は極意が使えるんだ)
たしかスキルと違ってほとんどが攻撃に特化したものなんだよな?
瞬く間に街を火の海に変えたんだ。
敵の自信がハッタリじゃないってことはすぐに分かった。
「さぁーてと。てめぇは期待はずれだったわけだし。そろそろぶっ殺しておくかぁー。ニズゼルファさまがこんなゴミ屑相手になに気にしてたのか分からねえ。まぁ暇つぶし程度にはなかったからよしとするかぁ~。あとで残った雑魚どもを一匹残らずぶっ殺せば少しは楽しめるだろうしな」
「待て。勝負するなら仲間には手出ししないって話だったじゃないか」
「ハァ? オレサマがんなもんで満足できると思ってんのかぁ~? そういうことはよ。歯ごたえを見せてから言えよ!」
「約束が違うぞ」
魔王は瞬時に移動するとぐしゃりと俺の髪を掴む。
「おい。なんか勘違いしてねぇーか? てめぇはオレサマのおもちゃなんだよ。おもちゃはおもちゃらしく遊び終わったらゴミとなれや!」
「ぅぐ!?」
暗黒の波動が腹部に直撃する。
俺はその場で崩れると剣を落として地面に両手をつけた。
「どうだ。HPが∞ってのもなかなかつらいだろぉ~? そうなんだよ。まったく死ねないんだよ! こーいうのは拷問するのに持ってこいなんだがなぁ。あいにくオレサマはんな趣味はねぇー。九極の連中にはそういう物好きもいるからよ。てめぇは運がよかったぜ。きちんとオレサマにぶっ殺されるんだからな!」
「ッ……」
むりやり俺の首を掴むとジャイオーンはそのまま夜空へと浮上する。
「盛大におっぱじめるぞ! まずはその目に絶望を焼きつけろや! 速さですべてを粉々にぶち壊すオレサマの極意を!」
漆黒の両翼を折りたたむと、魔王の全身は闇のオーラに包まれていく。
「極意――【プラチナグッドスピード】!」
そう言葉を発した瞬間。
(!)
俺の体はジャイオーンとともに一瞬のうちにして消失する。
ズドゥゴゴゴゴゴゴーーーンッ!!
次の刹那。
広場の建物がものすごい爆音を立てながら崩壊し、あたりはたちまち炎に包まれた。
この間、瞬きをするくらい一瞬の出来ごとだった。
(いったいこれは……どういうことだ?)
なにが起こったのかさっぱり分からない。
ただ首を掴まれたままふわりと体が消えるような感覚だけは理解することができた。
「ハハハッ、どうだぁ? オレサマのスピードを実際に体感してみてよぉ! これが冥界旅団最強と謳われるオレサマの速さよ!」
「……は、速さ?」
「まぁてめぇの目にはオレサマの動きはぜったいに捉えられねぇーんだがな! まだまだいくぜ!」
「!」
ふたたび闇のオーラを放つとジャイオーンは俺を宙に放り投げて極意を口にする。
「極意――【プラチナグッドスピード】!」
そのとき。
これまで体感したことのない強烈な痛みと衝撃が襲いかかった。
悲鳴を上げる間もなく俺は魔王に翻弄されていく。
『オラオラッ! んなもんじゃ足りねぇーぞ! 速さってのは、加速して加速して加速しまくってからぶっ放つもんだ!!』
ズドゥゴゴゴゴゴゴーーーンッ!!
光に迫るほどの勢いで旋回しながら相手は俺を引き吊り回した。
ジャイオーンが駆け抜けたあと、建物は爆音を立てながら一気に吹き飛ぶ。
どうやらこれが街が火の海と化した原因らしい。
体をズタボロに弄ばれながら俺はあっという間に生死の淵に立たされる。
HPが∞じゃなかったら間違いなく即死してたところだ。
瞬きも許されないほどのほんの一瞬のうちに数えきれないほどの攻撃を受けて、俺の意識は朦朧としていく。
いったい自分が今どういう状況にあるのか。
それすらも分からなくなっていく。
呼吸してるのか、してないのか。
体は宙に浮いてるのか、いないのか。
ジャイオーンの速さに晒され、すべての感覚は無と化していた。
ひとつだけたしかなことは。
万物を超越した異次元のスピードによって、自分の存在そのものが街もろとも消し飛ばされようとしてるってことだった。
「ハハハッ! オレサマのスピードにだいぶ堪えたみてぇーだなぁ?」
「……」
「チッ、気絶しやがったか。てめぇにはもうちょっと絶望を味わってもらわねぇーとならねぇってのによ……ったく。ニズゼルファさまの手を煩わせたんだから当然だよなぁオイ! 《人体修復Ⅰ》!」
シュピーーン!
「――ッ、ぐはっ……! っ、はぁ……はぁッ……」
「辛いかぁ? そうだよなぁー? オレサマのこのスピードを体感すりゃどんな野郎でも全身から血を吹き出しておだ仏なんだからよぉ。まあてめぇはよく耐えてる方かもしれねぇーな。その点は素直に遊び甲斐があるって褒めてやるぜ」
「……はぁ、はぁ……っ、はぁ……っ……」
「おいおい? また意識失ってもらっちゃ困るなぁ? てめぇにはオレサマの速さをもっと体感してほしいわけよ。なぁオラ!」
「ぐは!?」
「ヒャッハハ! こりゃ傑作だぜぇ~! 世界を救う勇者さまってのがこんな血みどろの顔じゃな? こりゃお仲間には見せられねぇーわ! ハハハッ!」
「……っ…………」
「また気絶しちまったか。そろそろ限界ぽいな。はぁー分かったよ。てめぇのその絶望に満ちた情けないツラも最後に拝めたわけだし。そろそろ楽にしてやるよ。これで本当に終わりだな。勇者さまよぉ~?」




