世界の秘密、その答え
三人から事情を詳しく聞いたじいさんは俺を探すためにある特殊な力を使ったのだという。
「ひょっとしてさっき言ってた【写天三眼】ってスキルのことか?」
「さすがはルーデウスさまじゃな。そのとおりじゃ」
「【写天三眼】は〈老師〉の固有スキルなんです」
「『不透明な事実を見通すことができる』っていうほんと優れたスキルなんだよぉー!」
マキマとウェルミィが説明を加えてくれる。
なるほど。
不透明な事実を見通すことができる、か。
(聞いただけでもかなりぶっ壊れたスキルだってことが分かる)
まぁ〈老師〉なんてジョブはほんの一握りしかなれないわけだし当然だな。
「じゃが見通せる事実には限りがあるのじゃ」
ただなんでも把握できるってわけじゃないらしい。
俺の行方を知ることができたのも運がよかったからって話だ。
じいさんはそこである事実に辿り着く。
それは俺がある村人に転生させられて同じ一日を何度も繰り返してるっていう衝撃的な事実だった。
「過去の記憶もニズゼルファによって消されてるようじゃった。先ほどは言い淀んでおったが、昔の記憶はいっさい思い出せないのではないかのう?」
「ああ。そのとおりだよ」
「やはり……そうじゃったか」
ブライのじいさんいわく、俺は記憶を消されただけじゃなくて書き換えもされてしまったようなのだ。
歴史について覚えてない箇所があったり、勇者さま一行が魔王を倒すために旅してるって誤認してた理由はこれか。
これらすべて。
大魔帝の呪いだってところまでじいさんは把握した。
が。
「ルーデウスさまがどこに囚われてるのかまでは分からなかったのじゃ」
「でも、お兄さまが生きてるって分かっただけで飛び跳ねるほどうれしかったよ~! たとえ転生して姿が変わってもお兄さまはお兄さまだもんっ!」
「ですな! それが判明した日は皆で豪勢な宴を開いたくらいですしなぁ!」
「けどさ。どこに囚われてるか分からなかったのに、どうしてランドマン大陸に俺がいるって分かったんだ?」
四人がここまでやって来たってことはどこかでその情報を掴んだはずだ。
それに答えるようにマキマが口を開く。
「そのときに役に立ったのがウェルミィさまのスキルなんです。先ほどブライさまが【聖祈祷の歌】にはもうひとつ大きな役割があるっておっしゃってましたよね? ブライさまには分かったのです。このスキルを使えばルーデウスさまに声を届けられると」
「結果ルーデウスさまに気づきを与え、大魔帝の呪いを打ち破ることができるのではないかと考えたのじゃ」
【聖祈祷の歌】を使っても俺が囚われてる場所の特定まではできなかったぽいけど。
でもじいさんの言うとおり、ループを断ち切るきっかけを作ることはできたようだ。
(だからさっきトリガーとか言ったのか)
これらもぜんぶ【写天三眼】でじいさんが調べたことらしい。
まったく便利なスキルもあったもんだ。
けど。
俺に声を届けることができるって分かっても問題がひとつあった。
それは、当時のウェルミィはまだ成人を迎えてないってことだった。
つまり〈皇女〉の固有スキルを覚醒させてないわけだから【聖祈祷の歌】はまだ使えなかったわけだ。
だから。
この可能性はすぐ試すことができなくて、イチかバチかの賭けのような部分があったみたいだな。
「これでルーデウスさまの呪いを打ち破ることができなければ、わたしたちにはもうあとがありませんでした」
マキマがそう言うように。
みんなどこか悶々とした思いを抱えたままウェルミィが成人を迎える日を待ったらしい。
そのあとウェルミィが無事に〈皇女〉として司祭さまから祝福を受けたのは、ブライのじいさんとの再会から1年後のことだったようだ。
「ウェルミィさまにはルーデウスさまに気づきを与えるような歌を毎日届けていただきました」
「毎日? どれくらいの間【聖祈祷の歌】を使ったんだ?」
「う~ん、どーだろう? 半年くらいは歌声を届けたんじゃないかなぁ~?」
「は……半年っ?」
「フォッフォッ、姫さまは一日の大半をルーデウスさまへの呼びかけに費やしておったのう~。まさに兄妹愛がなせる御業じゃな」
「えへへ~♪ お兄さまを助けるためだもんっ! ぜんぜん苦じゃなかったよー」
「マジか」
ぺろっと舌を出してウェルミィが笑う。
あの日の夜。
俺が歌声に気づくことができたのは本当に奇跡だったのかもしれない。
毎日数えきれないくらいこの道を通ってるような気がするってあのときは思ったけど、その理由も今なら分かる。
(5年もの間ずっと俺は同じ一日を繰り返してたんだ)
実際に何千回も。
民家のおばさんに農作物を届けて外壁沿いのあの道を通ってたんだろうな。
ひょっとすると、あのときこめかみに感じた鈍い衝撃はループを抜け出すための合図だったのかもしれない。
何千回も同じ一日を繰り返してきた幾多の俺からのサインってわけだ。
なんにせよ。
ウェルミィの歌声がニズゼルファの呪いを打ち破るきっかけとなったのは間違いない。
「でもそんな半年も歌を届けて伝わらなかったんなら、無駄なんじゃないかって不安に思わなかったのか?」
「そんなこと思うわけないじゃん~? うち、お兄さまのこと100%信じてたし!」
あっけらかんと口にするウェルミィを見て思った。
(そうか。こいつの実直なまでの強い想いがループを断ち切るきっかけになったんだ)
なんとなく頭の弱い子って思ってたけど。
実は芯のとても強い子なのかもな。
ウェルミィに対する見方も少しだけ変わった。
「あーけど、心苦しく感じてた点はあったよ? 歌の内容には制約があったから。もっと分かりやすく伝えられたらよかったんだけどさ」
「制約?」
「うん。『幻の村に囚われて同じ一日を繰り返してる』って直接お兄さまに伝えちゃいけなかったんだよ。そうだったよねブライ爺?」
「そのとおりじゃ。ルーデウスさまご自身の気づきによって呪いを打ち破る必要があったのじゃ」
そうしなければ永遠に幻の村に囚われ続けることになる。
そんな風に【写天三眼】は告げていたようだ。
「制約がある中でウェルミィさまはご自身の務めをよく果たされておりました! 本当にすごいですぞ!」
「ううん。うちなんかぜんぜんすごくないんだって。すごいのはお兄さまだよ! お兄さまだからこそ大魔帝の呪いを断ち切ることができたんだし!」
「いや、ヤッザンのおっさんの言うとおりだ。お前はほんとすごいぞ」
「ふぇっ!? お、お兄さまっ……?」
いつもヨルにやってたようにウェルミィの艶やかな髪を撫でてやる。
「ぅっ……ひゃあぁっ~~!?」
俺がなでなでするとウェルミィは頭から湯気を出しながら顔を真っ赤にした。
こうしているとなんだか懐かしい気持ちになってくる。
今のウェルミィはどことなくヨルと似ていた。
「フォッフォッ、姫さまよかったのう~。これぞまさに兄妹愛じゃ」
「ぬおおぉぉっ! 自分は今猛烈に感動しておりますぞ! 念願だったルーデウスさまからのスキンシップ! なんと仲睦まじい光景でしょうか、ワッハハ!」
「ウェルミィさま。鼻血でてます」
マキマにハンカチで鼻をふきふきされてるウェルミィはなんかぼーっとして夢心地だ。
それからウェルミィが落ち着くまでには暫しの時間が必要だった。




