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皇女と神聖騎士隊

 俺が四人を連れてやって来たのは広場の外れにある宿屋だった。

 来客用の建物だから今は中に誰もいない。


 みんなを食堂に案内すると長テーブルの前に座ってもらう。 


「ワッハハ! ここならまわりを気にせず話すことができそうですなぁ!」

「それで話っていうのはなんなんだ?」

「それはね、お兄さまっ……」


 ブロンド髪の女の子がテーブルから身を乗り出す。

 それをポニーテールの女の子が手で制した。


「ウェルミィさま。ここはわたしがお話いたします」

「えぇっ~! マキマ、そうやってお兄さまにいいところ見せようとしてるんじゃないのぉー?」

「まぁまぁ。こういった理路整然とした説明はマキマ嬢がいちばん上手いのじゃから」

「それってうちはアホって言ってるようなものじゃん!?」 


 まだ言ってるのか、この子は。

 ぶーぶーと騒ぐ女の子を小太りなじいさんがなんとかなだめようとする。


 この子の話を聞いてると頭が痛くなってくるなぁ。

 読めすぎる思考が逆にこわい。


「あのさ悪いんだけど。俺もきちんと説明を聞きたいかな」

「えぇっ!? お兄さままでそんなこと言っちゃうのぉ~!?」

「だってとてもナイーブな内容なんだろ?」

「それは……そうなんだけど」

「兄上さまもこうおっしゃっておる。ここはマキマ嬢にお任せするのじゃ」

「うぐぅ……。みんなしてあんまりだよぉ……」


 ブロンド髪の女の子がすねてしまうも。

 特にそれを気にする様子もなく、ポニーテールの女の子は話を続ける。


「ティムさん。これからお話する内容にはショッキングなものも含まれております。心の準備はよろしいですか?」

「おう……」


 少しだけ緊張しながら頷く。

 

「分かりました。ではお話させていただきたいと思いますが……その前に。わたくしどもの自己紹介をさせてください。まずは自分から」


 そこで彼女はポニーテールを揺らしながら姿勢を正す。


「わたしはエアリアル帝国神聖騎士隊隊長のマキマと申します」

「神聖騎士隊?」

「はい。主に皇族の方々の護衛を務めておりました。それでそこの体格のいい男はヤッザン。彼もわたしと同じ騎士隊の者で長い間副隊長を務めてもらっております」

「ワッハハ! はじめましてと言った方がよろしいですかな? 神聖騎士隊副隊長のヤッザンです!」


 大男のおっさん――改めヤッザンは胸に拳を当てて敬礼する。

 

「次にご紹介するのは老師のブライさまです。ブライさまはもともとエアリアル帝国の指南番として活躍されておられました」

「よろしくじゃ。ティム殿」

「ああ」

「マキマっ~! なんでうちの紹介がいちばん最後なの~!?」

「流れ的に最後にご紹介した方が分かりやすいと思いまして」

「もういいって! 自分で説明するからぁ~!」

「はい。申し訳ありません」


 ぷりぷりと怒ったかと思えばぱっと笑顔を輝かせる。

 くるくると表情が変わって忙しいやつだ。


「お兄さまっ! ほんとお逢いしたかったんだからねっ~!」

「それは十分伝わってる。んであんたの名前は……」

「ウェルミィだよ! うちの名前聞いてなにか思い出さない?」


 さっきからその名前は聞いてたし、これといって聞き覚えのある名前でもなかった。

 それを正直に伝えるとウェルミィは分かりやすく落ち込む。


「……やっぱり、そうなんだ……」

「なんかよく分からんがすまんな」

「ううん。今のお兄さまは記憶を失ってるんだし……しょうがないよ」


 また記憶がどうこう言ってるのか。

 ぜったいに人違いだと思うんだけど、彼女たちが口を揃えて言ってるのは気がかりだった。


「こちらのウェルミィさまはエアリアル帝国の皇女さまであられます」

「は……? 皇女?」

「うんっ♪ そーだよ!」


 マキマの言葉にウェルミィはなんでもなさそうに頷く。

 さらっとすごいこと言ってないか?


 まわりの接し方からして高貴な身分なんだろうって思ってたけど。

 

(まさか皇女だったなんて……)



 そのとき。

 ザワザワとした感覚が胸の中から込み上げてきた。


(……待て。さっきからウェルミィは俺のことをお兄さまとか呼んでるよな? てことはまさか……)


 その予想は続くマキマの言葉によって確定する。


「もうお気づきかと思いますが、あなたさまはウェルミィさまの兄上であり、エアリアル帝国の皇子さまなのです」

「!」


 一瞬、時間が止まったような感覚になる。

 

 エアリアル帝国の皇子?

 いったいなにを言ってるんだ?


 まるで理解が追いつかない。


「ちょっとタイム! あんたらやっぱ勘違いしてるって。俺はこの国の盟主になる前はルーデウス村で暮らしていて、皇子なんかであるはずが……」

「なるほど、ルーデウス村ですか。自由市国ルーデウスという名はそこから付けられたわけですね」

「……っ、そうだけど。それがなんだよ?」


 マキマは隣りに座るじいさんの方を見る。

 

「うむ……。おそらく無意識のうちに自分の名前を村の名にしてしまったんじゃろうな」

「なに?」


 自分の名前を村の名にしてしまった?

 さっきからなにを言ってるんだ、この四人は……。


「うちもお兄さまの名前だーいすき♪ とっても綺麗な響きしてるからそうしちゃうのも頷けるな~」

「ワッハハ! 自分もそのお名前に憧れがありますぞ!」


 よく分からないことで盛り上がるふたりを横目に見ながらマキマは俺に視線を戻す。

 

「そのルーデウスという名前は以前のあなたさまのお名前なんです」

「以前の……俺の名前っ?」

「はい」


 俺の目を見てマキマはしっかりと頷く。

 

 いやいやいやっ!

 どういうことだよ!? 


(なんだよ以前って……)


 さっきから言われている内容の意味がまるで分からない。

 思わず俺は反論してしまう。

 

「さすがに無理ないか? 俺はエアリアル帝国の皇子でもともとルーデウスって名前だったって? あり得ないよ。だって俺は生まれてからずっと村で暮らしてきたわけだし」

「ではお訊ねします。昔の記憶はちゃんとありますか?」

「そりゃ当然――」

 

 そう言いかけたところで言葉が詰まる。


 この前からずっとそうだ。

 過去を思い出そうとするとなぜか記憶にモヤがかかったようになる。


(どうして……なんで思い出せないんだ?)


 俺はルーデウス村で生まれ育ったはず。

 なのに過去の記憶はいっさい思い出すことができなかった。


「お兄さま?」

「……」

「マキマっ、なんかお兄さまの様子がヘンだよ!?」

「いや……だいじょうぶだから」


 そのとき。

 顔を寄せてきたウェルミィの皇女服がふと目に入る。


(!)


 それを見て俺はハッとした。

 なぜなら、その胸元には小さく薔薇の紋章が描かれていたからだ。


 すぐさまポケットからあるものを取り出す。

 

(……やっぱり。このメダルの模様と同じだ)


 俺の手には以前ヨルから受け取った金のメダルが握られていた。


 そこに描かれている模様とウェルミィの皇女服に描かれた紋章はまったく同じデザインをしている。

 これはいったいどういうことだ?



 閃きはまだ止まらない。


(そうか。あの国旗とダンジョンの結界にあった紋章と同じなんだ)


 いつか見たフラッシュバックの光景。

 隠しダンジョンの前にあった結界の模様。


 そんな断片的な記憶が甦ってくる。

 

 そして。


 これらのことが示すのはひとつの事実だ。


(つまり……この薔薇の模様はエアリアル帝国の紋章ってことだ)


 点と点が線で繋がるような感覚があった。


 このメダルが村の森に落ちてたってことは、ルーデウス村はエアリアル帝国の中にあったってことか?


 そんなことを考えながら金のメダルに目を落としていると。


「あっ! それって皇家のメダルじゃない!?」

「皇家のメダル?」


 ウェルミィが手元を覗くようにして声を上げる。

 その表情には驚きが含まれていた。


「転生したとき、持ちものはすべて失ったはずだよねっ?」


 転生?

 またわけの分からない言葉が聞えてきたぞ。


「ウェルミィさま。順を追ってご説明しないと余計兄上さまに混乱を与えるだけかと思います」

「うっ。たしかに……」


 しゅんとするウェルミィはいったん置いておくとして。

 

「転生って……今そう言ったよな?」

「姫さまにそう言われたら気になって当然じゃな」

「ワッハハ! まあぜんぶ話すわけですから! ウェルミィさまも落ち込まないでくださいな!」

「そーいう言い方が微妙に傷つくんだよぉ~! アホみたいでっ!」


 騒がしい一団に目を向けつつもマキマは改めて姿勢を正す。

 

「ここからお話する内容はかなり信じられない話になるかと思います。ですがティムさん――いえ、エアリアル帝国の第一皇子であられるルーデウスさまには知っていただかなければなりません。よろしいでしょうか?」

「もうすでにとんでもない話を聞いてるんだ。今さらどんな内容でも驚かないよ」

「それを聞いて安心しました。ルーデウスさまにはご自身の記憶を取り戻していただきたいですから」


 また記憶のことか。


 口を挟もうとしたがやめることにした。

 ぜんぶ話を聞いてから判断しても遅くはない。



 このあと。

 マキマの宣言どおり俺は信じられない話を耳にすることになる。


 それはこんな言葉からはじまった。


「なぜなら……あなたさまは世界を救う勇者であられるからです」

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