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ドワーフ族は心を入れ替える

 ドワタンたちがどうして自由市国ルーデウスへとやって来たのかが判明した。

 まず聞いて驚いたのは三人が集落から追放されたって話。


 集落から追い出された……つまり俺と同じってことだ。


 そこでドワタンはキングに許してもらうためにオーブを献上することを考えた。

 それが盗みを働こうとした理由だったようだ。


「やはりドワーフキングのご子息でしたか」

「まさか名前を覚えられてたとは思わなかったで。あれけっこう前のことやで? あんたに目つけられたんが運の尽きやったわ」

「族長として覚えなければならないことは多いので。記憶力はもともといい方なのです」


 一方でガンフーとルーク軍曹は納得がいかないようだ。


「とんでもない奴です。自分たちが集落へ戻るために我々のオーブを盗もうなどと」

「ティムさま。やっぱりこんな方たちに力をお貸しするのはやめた方がいいのではないでしょうか?」

「なんでやねん! そーゆう約束やったやないか!」

「だいたい集落から追放されるなど元来の性格に問題がある。そんな風に偉そうに言える立場なのか?」


 ふたりはそう突っぱねるけど俺にはドワタンの気持ちが理解できた。


「まあまあ。ガンフーもルーク軍曹もいったん落ち着こう」

「……なんや。あんたワイの気持ちが分かるんか?」

「だって故郷から追い出されるのってやっぱりつらいよ」

「実際に体験したような言い方やな」


 一瞬迷った。

 本当のことを口にするかどうか。


 けどすぐに思い直す。


(そうだよな。言って恥ずかしいことじゃない)


 これまで俺はみんなに自分が村から追放されたって話をしてこなかった。

 それは単に言う必要がなかったからでべつに隠していたからじゃない。


 今がみんなに知ってもらういい機会なんだ。

 心の中で覚悟を決めると俺はドワタンの言葉に頷く。


「実際に体験したからさ」

「は? なんやて?」

「俺も村から追放されたんだよ」

「えっ」


 ドワタン以上に幹部のみんなが大きく驚く。


「主さまがルーデウス村を探しているのは存じ上げておりましたが……」

「まさか……そんな経緯があったなんて」


 ガンフーもルーク軍曹も戸惑いを隠せない様子だ。

 霧丸も似たような反応をしている。


「だからドワタンたちの気持ちが分かるんだ。俺もわけが分からないうちに村を追い出されたからさ」

「なんと! オイラたち盟主さんとまったく同じ境遇ッスよ~!」

「うちらもなんでアニキが山から追い出されたのかよく分かってないんですよぉー」

「……」


 ドワ助とドワ太が共感を示すもドワタンは黙り込んでしまう。

 

 もちろん俺としては本心からの言葉だった。

 もし俺がドワタンと同じ立場だったらなんとかして父親の許しを得ようとしただろうし。


「しかし主さま。この者たちは我々のオーブを盗もうとしたのです。その結果どんな事態を引き起こすか承知の上で」

「ティムさまと境遇は似てるのかもしれないですけど……。やはり許される行為とは吾輩には思えません」

「うん。オーブを盗もうとした行動は間違ってるって俺も思うよ」


 キングの許しを得るにももっとべつの選択があったはずだ。


「でも。きちんと反省するっていうなら俺は三人の力になりたい。大切なのは間違いを反省して正しい道を進むことだって思うんだ。ドワタンたちがそうするなら俺は手を差し伸べるよ」


 依然としてドワタンは俯いたままだ。

 その姿には葛藤が見えた。


 たしかに自分の間違いを認めることはとても難しい。

 それは自身を否定することでもあるからだ。


 プライドだってあるだろうし、仲間がいる前ではなおさら難しいのかもしれない。


 だけど俺は信じていた。


 ドワタンは本当は悪いやつなんかじゃないって。


(だって本当の悪人なら盗んだオーブをぜったい自分のために使うはずだ)


 種族のオーブがふたつもあれば相当な力が手に入る。

 ぶっちゃけ自分の集落をひとりで壊滅できてしまうほどの力が手に入るかもしれないんだ。


 オーブを盗むって選択は正しいとは言えないけど、それを自分のために使わず一族のために持ち帰ろうとしたって点はドワタンが本物の悪人じゃないっていう証拠だと言える。


(だいじょうぶ。きっと言葉は届くはず)


 そんな俺の想いが通じたのか。

 ドワタンは静かに口を開いた。



「……そんなこと言うなんて、あんた。ほんまお人好しのアホや」

「え?」

「けどそのアホはワイは嫌いやないで」


 ドワ太とドワ助がお互いに顔を見合わせる。

 たぶんドワタンがこれまで見せたことのない表情をしてるんだろう。

 

「ワイは勘違いしてたのかもしれへんわ。人族はみんな最低のクズやって。ドワーフ族は長い間ずっーと騙されてきたわけやし。だから、あんたのそのお人好しも演技でまわりを騙してるだけに違いない思ってたわ。けど今の言葉聞いて分かったわ。あんたには裏がない。あんたは純粋に自分の想いを伝えようとしてるってそれが分かったんや」

「ドワタン……」

「それが理解できたとたん、自分がコソコソとあれこれ出し抜こう思ってたのがアホらしくなってきたわ。姑息に騙そうとしてるのはむしろこっちやないかって。思えばワイはずっとそんな風にして生きてきた気がするわ。自分が楽しよう楽しようって……そんな考えばっかやった。お前らもすまんかったな」


 そこでドワタンは仲間のふたりに深々と頭を下げる。


「やめてくださいよぉ~アニキっ!」

「そんなアニキ見たくないッスー!」

「いや……ほんますまんかった。許してくれや……。ドワーフ族ってのはそんな卑しい種族やない。もっと誇り高い種族のはずや。ワイは父上の息子で本来なら道を示さなあかん立場にいるってのに……。そんな風にずっと考えてきた自分がごっつ恥ずかしいわ」


 頭をゆっくり上げるとドワタンは俺に向き直った。


「あんたのおかげで目が覚めた気分や。ほんま感謝してる。ドワーフ族の誇りを思い出すことができた。人族がしてきた仕打ちはまだ許せへんけど……でも。あんたみたいなやつもおるんやってそれが分かってほんまうれしい」

「こっちもうれしいよ。分かってくれるって信じてたからさ」

「はは……あんた、どこまでもお人好しや。ワイはあんたに攻撃するよう命令してたんやで? そんなワイのこと信じてたんか?」

「うん。みんなは悪いやつじゃないって分かってたし」

「悪いやつじゃないって分かってた……か。こーゆうクサい台詞をさらっと言えるのがなんともあんたらしいで」


 ふっと笑みがこぼれる。

 それは俺がはじめて見るドワタンの笑顔だった。


「もう助けはいらへんで。もう一度きちんと父上に謝ろう思うわ。これまでの自分の振舞いも含めてぜーんぶ謝ろう思うで」

「そっか。上手くいくことを願ってるよ」

「ヘヘッ、あんたにそう言ってもらえるとなんか力が出てくるわ。それと……」


 突然床にひざをつけるとドワタンは深く土下座する。


「この場にいる全員にも謝りたい思う。ほんますまんかった! あんたらの大切なオーブを盗もうとしたとか……とんでもないことや。いろいろと迷惑かけてしもうた。このとおりや! ほんま堪忍な」

「……いや……」

「吾輩たちは……べつに……」


 ガンフーもルーク軍曹もドワタンの変わりように勢いを削がれてしまったみたいだ。

 俺の目から見てもドワタンはほんの少しの間に一気に大人になってしまったように映った。


「こちらこそ最初から疑うような真似をして反省しております。ドワタン殿、顔をお上げください」

「霧丸の言うとおりだ。気持ちはみんなにしっかりと伝わったはず。だから土下座なんてやめてくれ」

「……ティムはん……」


 俺が手を差し出すとドワタンはゆっくりと掴む。

  

「ほんまありがとう……。あんたには感謝してもしきれへんわ……」



 そして。

 仲間たちと一緒に改めて深々とお辞儀すると三人は集会の間から出て行こうとする。

 

 それを見て俺は思わず声をかけていた。


「ドワタン。ちょっといいか」

「? なんや?」

「実はひとつ頼みごとをしようと思ってたんだ」

「頼みごと? 改まってどうしたんや」

「武器や防具をさ。ドワーフ族から買えないかって思って」

「!」


 その言葉にドワタンたちは大きく驚く。


「それに住居用の資材があればそれもまとめて購入したい。いちど見てもらったから分かると思うけどまだ街の開発が途中でさ。オーガ族も全員が移り住めてない状況なんだ」

「そりゃ、集落に戻れば資材なんていくらでもあるんやけど……」

「うん。だから買えないかって思って」


 ドワーフ族には行商人としての顔がある。


 もともとたくさんの商材を所有していることは知ってたし、ランドマン大陸へ移り住む際もきっと多くの商材を持ち出してきたって俺は予想していた。

 

 だからこれは思いつきで言ったんじゃない。

 ドワーフ族が街の広場まで来てるってズーポの言葉を聞いたときから考えてたことだった。


 そのとき。

 霧丸がそばに来て耳打ちしてくる。


「よろしいのでしょうか? そのようなものを揃えるとなるとものすごい大金が必要となります。ドワーフ族の商材は質はとてもいいのですが高価なことで有名です」

「ぜんぶ承知の上だ。それとお金の心配ならしなくていいぞ? むしろ持て余してるくらいだからさ」

「っ、そうなのですか?」

「だからどうかな? それをドワーフキングへの手土産にするってのは」


 一歩ドワタンのもとへ歩み寄ると俺はそう続けた。


「アニキっ! やったじゃないッスか! 夢のような提案ッスよ~!」

「キングもぜったい喜びますよぉー! 一族も潤ってアニキも手柄が立てられて万々歳ですよ!」


 喜ぶふたりとは対照的にドワタンの顔に笑顔はない。

 神妙な表情で訊ねてくる。 


「……ワイたちのためにそんな提案したんやないか?」

「違うよ。もとから武器と防具、資材がなくて困ってたんだ。そこにちょうどドワタンたちがやって来た。ドワーフ族の集落へ伺う手間が省けてこっちこそ助かったくらいなんだ」

「……あんた。どこまでもお人好しや……」


 その瞳にはきらりと小さな涙が浮かんでいた。

 

「こんな人族おったんやな……。ワイほんまに勘違いしてたわ。この恩は一生忘れまへん……」

「アニキが泣いてるッス~!?」

「えぇっ!? 泣き顔はじめて見ましたよぉ~!」

「う、うるさいわ……!」



 そんなドワタンたちの姿を少し離れたところでガンフーとルーク軍曹が見守っていた。

 俺はふたりのもとへ近寄る。


「これでもまだあの三人が悪人だって思うかな」

「……いえ、あの涙は本物かと」

「そうですね。こんな一瞬のうちに心を入れ替えさせてしまうなんて……さすがはティムさまです!」

「俺はなにもしてないよ。ドワタンはもともと気持ちのいいやつだったって、それだけのことさ」


 ガンフーもルーク軍曹もまわりの仲間たちも。


 目に涙を浮かべながら笑い合うドワタンたちの姿をどこか微笑ましそうに眺めていた。

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