ドワーフ族は騙したい
(はぁ、もう五の鐘か)
俺は自室の椅子にもたれながら夕陽で染まる街を窓から眺めて伸びをする。
自由市国ルーデウスが誕生してからというものの俺はますますやることがなくなってしまった。
というのもすべてほかの仲間たちが動いてくれるからだ。
街の区画整備は霧丸が担当し、ガンフーが部下たちを使って実際に動く。
モンスター退治はオーガ族の加わった新生辺境調査団がルーク軍曹指揮のもとで行っていた。
が、それらは現状あまり上手くいってない。
区画整備が上手くいっていない原因ははっきりしている。
資材が圧倒的に不足してるんだ。
今は壊れた資材を使いながらなんとかだましだましにやってもらってるけど。
蒼狼王族もオーガ族も建築に関して専門的な知識を持ってるわけじゃないから。
ぶっちゃけかなり苦戦しているようだ。
それとモンスター退治に必要な武器や防具も人数分間に合ってなかった。
以前よりも深淵のモンスターが街を襲う回数が増えてルーク軍曹たちはその退治に追われてるわけだけど、そのたびに新たな武器や防具を調達する必要があったりする。
安いものほど壊れやすいし、蒼狼王族もオーガ族も魔族の襲撃によっていい武器と防具はほとんど失ってしまっていた。
本来これらを解決するのが盟主である俺の務めなわけだが。
(う~ん。ぜんぜん思いつかん)
実は今日一日部屋にこもってずっと解決策を考えてたんだけど、まったくいいアイデアは浮かばなかった。
途中から霧丸に助けを求めて呼ぶような始末だ。
まあもともと俺は村人にすぎなかったわけだし。
自分で言うのもなんだがそもそものポテンシャルはかなり低い。
一国の主になれるくらいの能力を本当に持っているなら『天恵の儀式』でものすごいジョブを言い渡されていたはずだし。
みんなにはこんな盟主でほんと申し訳ないって気持ちでいっぱいだ。
どこかのタイミングで今の地位を誰かに譲るべきかもしれない。
そんなことを考えていると。
コンコン。
「失礼いたします。支配者さま」
ノックの合図とともに門番を任せているズーポが大部屋に入ってくる。
「どうした?」
「実は今支配者さまに用があるというドワーフ族の行商人たちが街の広場まで来ておりまして」
「ドワーフ族?」
「なんでも我が国の話を耳にしてやって来たということで。いちど盟主である支配者さまに挨拶ができればと彼らは申しております」
その報告を聞いて隣りに座る霧丸が首を傾げる。
「おかしいですね。ドワーフ族は警戒心が強くて山から滅多に下りてこないはずなのですが」
なんか前にそんなこと言ってたな。
ズーポも霧丸の言葉に同意する。
「そうなんですよ。異種族と交流を持とうとしないドワーフ族が山から下りてくるのは非常に稀なんです」
「でもそれだけ気になったんじゃないか? 複数の種族が暮らす土地ってのはかなり珍しいんだろ?」
「それはたしかにそうなのですが」
まだ霧丸はなにか引っかかってる様子だ。
(同じランドマン大陸で暮らしてるわけだし。興味本位で覗きに来たりすることだってあるよな)
俺が気になるのはもっとべつの箇所にあった。
「盟主を人族の男が務めているって分かってるのかな?」
ドワーフ族ははじめて会う種族だ。
相手が人族に対してどんな感情を抱いてるのかは気になるところだった。
が、ズーポはあっさりと答える。
「はい。人族の支配者さまが盟主をやられているということもご存じなようです」
「そうなのか?」
「微精霊を通じてドワーフ族にはティムさまが盟主をやられるという話は伝わっているはずです。なので行商人たちがこの件を知っていてもおかしくはないかと」
霧丸がそう言うんだからそうなんだろう。
俺は納得して頷く。
「そっか。分かってるならいいんだ」
それを承知の上でやって来たってことは少なくとも敵意は持たれてないんだろうし。
となればわざわざ来てもらったわけだし、ここは顔を出すのが礼儀だな。
「それで支配者さま。いかがいたしましょうか?」
「うん。会ってみようと思う」
「本当によろしいのですか……?」
「霧丸、そんな警戒する必要はないと思うぞ」
「……分かりました。ティムさまがそうおっしゃるのでしたら」
「では自分がご案内したいと思います」
こうしてズーポについて行く形で俺たちは街の広場へと向かった。
◇◇◇
ドワタンたちは街の広場からそこに広がる光景を眺めていた。
「アニキすごいッスね~! これまで山にこもって暮らしてきたからとても新鮮ッス!」
「ここが自由市国ルーデウスですかぁ! 街は広いし空気も美味しいっ!」
「アホか。んなとこただエアリアル帝国の跡地を使ってるだけやろ。人族の暮らしてきた土地を再利用するとかほんま情けない話やで」
騒ぐ子分たちに向けてドワタンは冷たく言い放った。
「けどイヌイヌ族なんか本当に種族進化を果たしたんですねぇ。体なんかとんでもなく大きくなってましたよー」
「前は貧相な体つきだったのにチビはうちらだけじゃないッスか! 種族進化うらやましいッス~!」
「フン。あんなもんただ図体だけでかくなっただけや。脳みそなんかはそのままやで。蒼狼王族なんて大それた名を名乗っても所詮はイヌイヌ族。知能も低いままや。その証拠にワイらのことなんの疑いもなく入れたやろ?」
「それって優しいって言うんじゃないッスか~?」
「ドワ助、お前はほんまアホやな! こういうのはただの脳なしって言うんや! こんな場所脳なしどもの集まりや。盟主ってのがどんなアホ面してるか今から楽しみやで!」
それからしばらくすると広場にティムと霧丸、ズーポが姿を見せる。
「待たせたな。あんたたちかドワーフ族の行商人ってのは」
(こいつが盟主かいな? 見るからにひ弱そうやで。こんなん大した男やないわ)
心の中でほくそ笑むとドワタンは態度を急変させてティムに頭を下げる。
ドワ太とドワ助も慌てながらそれに倣った。
「ええ、行商人長のドワタン言いますさかい。今回部下と一緒にお伺いさせていただきました。あなたはこの国の盟主さまでよろしかったでしょうか?」
「盟主のティム・ベルリだ。わざわざ来てくれてありがとう。歓迎するよ」
ティムから差し出された手をドワタンは仰々しく握り返す。
「こちらこそお目にかかれて光栄です。ヘヘッ。まさか盟主さまがお越しくださるとはワイらはほんま運がいい!」
「そこまで言ってもらえると素直に嬉しいかな」
「いえいえ~! 一国の盟主さまにお会いする機会なんて滅多にないですわ。ほんま感謝いたしますっ!」
いやらしく手を揉むドワタンの姿を見て子分たちは素直に感心する。
(アニキすごい身の変わりようッス~!)
(さすが騙すことに関しては右に出る者はいないですね!)
(アホっ! 少し黙っとけや!)
ドワタンが子分ふたりを小突いているとティムたちの方で不思議そうな声が上がった。




