閉ざされた洞窟
翌朝。
ルーク軍曹と数人の辺境調査団が領主館の前までやって来る。
「ティムさま。おはようございます」
「おはよう」
「族長から話を聞きました。本当に同行していただいてもよろしいのでしょうか?」
「もちろん。こうして館の中にこもってるよりも外を歩いてまわった方が気持ちもいいし」
「ありがとうございます。道中のモンスターは我々辺境調査団が倒して進みますのでご安心ください」
ルーク軍曹がそう言うとまわりの仲間たちもしっかりと頷く。
なんというか蒼狼王族に進化したことでとても頼もしいな。
とはいえ、ずっと任せっきりなのも気になる。
「本当にいいのか?」
「ティムさまがそんなことをお気になさらないでください。与えていただいたレベルのおかげで皆以前よりも格段にパワーアップすることができました。森の奥地まで調査は完了済みなのでモンスターの情報はすべて把握しております」
「そうか。だったらよろしく頼むよ」
俺は無詠唱で〈補助魔法〉を一気に詠み上げる。
「《超熱血XX》、《特異点》、《ドガッツ大番長》、《最高学府》、《トルクチューンカイザー》、《クエアボルツ・ビヨンド》、《ギラギラバリアーマ》、《大いなる獣への衝動》、《ぶっとび剛腕》」
ドゥルルルルビィィーーン!!
その瞬間、ルーク軍曹たちの体は巨大な光によって包まれた。
これだけバフを唱えておけば苦労しなくて済むはずだ。
「な、なんと……! これはすごいっ!」
「ティムさま! 全身から溢れんばかりの力が漲ってきます!」
「さすがは支配者さま! これだけの〈補助魔法〉を一気に詠み上げられるとは……」
「まさに神がかり的な偉業だ!」
みんなはザワザワと騒ぎはじめる。
(まさか俺がスライムに攻撃も当てられないとは思ってないんだろうなぁ)
まあ俺にできることと言えばこれくらいなわけで。
自分にできることでみんなに貢献すればいっか。
それから俺たちは街でひととおり準備を済ませてしまうとオーガ族が暮らす岩場の洞窟へ向けて出発した。
◇◇◇
街の外へ足を踏み入れるのはほとんど一週間ぶりのことだった。
と言ってもなにか苦労があるわけじゃない。
辺境調査団のみんなの後ろについて進めばいいわけだし。
ルーク軍曹の言葉どおり皆は見違えるように強くなっていた。
デボンの森にはそこまで強いモンスターは棲息してないってこともあってほとんどの敵が瞬殺だった。
日が暮れる前にはデボンの森を抜け、あっという間に岩場の洞窟へと到着してしまう。
「ティムさま。オーガ族の集落が見えてきました」
「あの洞窟か?」
「はい。本来ならばあそこの見張り台に数名のオーガ族が立っているはずなんです」
ルーク軍曹が指さす方へ目を向けるとたしかにそこには見張り台が見えた。
台の上はがらんとしている。
いくらオーガ族が強いからといって見張りを立てないってのは考えづらいよな。
現状周囲にはモンスターはいないようだけどいつ大群に襲われるか分からない状況なんだ。
オーガ族になにかあったっていうのは本当みたいだな。
「もう少し近づいて確認してみよう」
「了解です」
俺の合図とともに平地を進むとみんなで洞窟の入口へと向かう。
◇◇◇
洞窟の入口までやって来るとそこは大きな門によって固く閉ざされていた。
「中に入れないな。前からこんな感じなのか?」
「いえ。以前はこの門は広く開け放たれていました」
「そっか」
集落では首領のガンフーっていう女のオーガ族が一族をまとめ上げているようだ。
困ったな、これじゃ話をすることもできないぞ。
ひとまず俺は門を叩いてみることに。
ドンドン、ドンドン。
「おーい。誰かいないかー。ここを開けてくれー」
ドンドン、ドンドン。
「べつに怪しい者じゃないぞー。あんたらの首領に話があるんだー」
それから何度か門を叩くもあたりはシーンとしたままだった。
「本当にこの中にオーガ族は住んでいるの?」
「間違いありません。吾輩も何度かここは訪ねたことがありますから」
ここを放棄してどこかへ移り住んだ可能性もあるけど、だとしても門を閉ざして行く必要はない気がする。
「ティムさま。今度は吾輩が声をかけてみます」
「分かった。交代しよう」
次にルーク軍曹が門を叩きながら声を上げる。
すると、しばらくして門の中からこもった女の声が聞えてきた。
本当にいたんだ。
『……その声、イヌイヌ族のルーク軍曹ですか?』
「ひょっとしてズーポさん?」
どうやら中の相手と知り合いだったみたいだ。
そこでルーク軍曹は首領に話があってここまでやって来た旨を伝える。
また自分たちは今はイヌイヌ族ではなく、種族進化を果たして蒼狼王族となったということも相手に伝えた。
『種族進化……なるほど。そんなことがあったんですね』
「はい。すべてティムさまのおかげなんです。ティムさまは人族なんですけど我が一族の支配者をやっていただいておりまして。今日は一緒に来てくださっているんですよ」
「紹介に預かったティムだ。首領と話がしたいんだけどなんとかならないかな?」
『支配者さまが直接!?』
俺が声をかけると門の相手は緊張したような声を上げる。
だが、すぐ事務的な口調が返ってきた。
『首領には決してなにがあっても門を開けることがないようにと言われております。わざわざお越しいただいて申し訳ないのですが、たとえ支配者さまであっても門を開けることはできません』
「ズーポさん、これは貴女たち種族の存続に関わる重要なことなんです。なんとかガンフーさんと話をさせてもらえないですか?」
『どのような理由であれ門番の務めとしてやはりここを開けるわけにはいきません。お引き取りください』
それでもなお粘ろうとするルーク軍曹に俺は声をかける。
「ここは一旦引き下がろう。これ以上なにか言っても答えは同じだ」
「……っ、分かりました」
俺はほかの仲間たちにも声をかけていちど岩場前の平地へ戻ることにした。




