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彼は今日も、平成に思いを馳せる。

作者: なぎさ翔

夕暮れも近い4時頃、都内の大学では小太りの男が教鞭を取っていた。

題目は「自動車業界と会社の取引」。誰もが知る有名企業の意外な一面をつらつらと話す。


見慣れた景色と変わらぬ授業を受ける。少し強めに聞いた空調の音が講義の合間を縫い、さわやかな風を届ける。じめじめとした熱いジャングルの近代的なオアシスの中に、SNSをかじるもう一人の男が居た。


彼は勤勉家である。何事にも励む男だ。ゲームやマンガに励む者は多いが、それを勉学にも当てはめられる男はそう居ない。


昨今、彼の関心は専ら経営学に傾いていた。寝食を忘れて励む彼である。朝5冊の本を借り、翌朝には返却する。それの輪廻にハマっていた。


今、彼に経営学を教える教師は、戦艦が好きな男だ。「自動車メーカは戦前飛行機を作っていたんだ」。得意げに語る。男の太い理由も彼にとっての関心事であったのはつい3週間も前のことだったろうか。遠い昔のことのように感じる。


彼は常日頃、僕に語った「先生の話は役に立つ。面白い。」と。だが彼は今、SNSばかりを読む。


僕は疑った。あれほど勉学に励む彼とは思えないほど、男の話を聞かない。まるで同じ人間である確証を得る事が出来ず、授業は終わりの時を迎えようとした。


僕は意を決し、彼に尋ねた。「君は今、何に熱中しているんだい?」。


僕は彼の答えを耳ではなく目から得た。


"平成"である。彼はもとから単に一つのことにハマっていたと知った瞬間でもあった。

勉学も、ゲームもマンガも、教師も、経営学も、それらに日々を徹し、日々を過ごすことも、すべて彼が平成時代に行っていたすべてであった。


しかし、耳の答えは異なった。「僕は、今SNSに熱中しているのさ」。


私は知った。彼は今、自らの好むものを知りえぬほどに、初めて"ハマっている"のだと。

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